火力が足りない
グールの知能は低い。
ただ、猪突猛進に人を襲う、そんなイメージがあった。
それが完全に覆ってしまう。
喉の奥から無理やり絞り出した奇声のような音が鳴り響くと、周囲の喧騒が静まり返ったような気がした。
咄嗟に宗田は前に飛び出して、グールの大きな目玉に剣を突き入れる。
それで、頭の中をかき回し、脳の電気信号が乱れると故障した機械のように手をばたつかせて崩れ落ちた。
どさっと言う音が消えるとより深く静かな空気が、宗田と親子を包む。
だけど、ねっとりとなにかに見られている気配が、絡みついて不適に笑うように死んだグールの傍から足が離れてくれなかった。
そして次の瞬間――
「――ここにいるの〜」
どこからともなく聞こえた声に、宗田が反応すると校庭に目を向ける。
「嘘……だろ……」
数え切れないほどの白い怪物達の大群が、闇を引き裂くようにこっちに迫っていた。
手を足のように使って体を前に押しやり、体を加速させる。
獣の大軍となったグール達の赤い瞳が異様な光を放ち、宗田達を射抜く。
「――逃げろっ!」
背後の親子に向かって宗田が言い放つ。
「でも……あなたは……」
「俺は、大丈夫。その子をしっかり守ってやってくれ」
宗田は倒れたグールの瞳から剣を引き抜くと、軽く振るう。
刃にこびりついた血液がびちゃりと地面に叩きつけられた。
もう少しで、グールの大群が到達してしまう。
少しでも奴らの戦力を削ぎ落としておきたい。
まもなく死ぬ。この数は無理だ。
ただ、頭だけは妙に冴えていた。
これを全て一人で殺せたら――彼女の隣に立つことはできるのだろうか。
死の恐怖よりも、今の自分がどこまで戦えるのか、そんなことを考えてしまう。
そして、唯の隣に立ちたい。
ただ、それだけが宗田の震えそうになる心を押さえつけていた。
「――イメージは……炎弾。バースト……」
いつものフレーズを紡ぐと、三つの球体が宗田の周囲に出現する。
ゆらりと揺れる赤い光が、宗田の熱くなった心をさらに加熱する。
ゆっくりと瞳を閉じて、深呼吸を一つ。
次に目を開けたと同時に、吐き出すように魔法の弾丸を撃ち出した。
「――いぎっ!」
グールの頭の中心を貫いて後ろに転がる。
後続の数体がそれを避けきれず転倒して、わずかに群れの間に隙間ができた。
しかし、それは一瞬の出来事。あっと言う間にそれは埋め尽くされてなかったことにされてしまう。
「まだだ!」
淡々と迫りくるグールの群れに魔法を放ち、少しずつ数を減らしていく。
このままもっと数を減らして……そう思ったが。
「……ここまで……か」
魔法だけでなんとかできるかもしれないと思ったが、それは幻想だった。
気づけば目前に、あと数歩でこっちに到達する。
宗田はボロボロの剣を強く握って、正眼に構えた。
魔法で創り出した、ただの鋼の剣。
その刃先は欠けていつ折れてもおかしくない。
グールの強靭な硬さの皮膚は、鋼より固くこの剣では致命傷すら与えることができない。
それでも、奴らの攻撃をいなすことくらいには使えるだろうと、「頼むぞ」と祈りを込める。
「はぁ……」
静かなかけ声と共に宗田はグールの群れに飛び込んだ。
地面を強く踏みしめて、膝を突き立てると四つん這いのグールの顔面に一撃。
肉に膝が沈んで鈍い感触が宗田の膝から駆け抜ける。
体勢を崩したグールが地に伏せると、そのかかと落としを脳天に食らわせて、頭蓋を砕く。
剥き出しとなった脳がひくひくと脈をうち、それを感情のない瞳で一瞥すると、その中に剣を突き入れる。
「まずは……一体」
休む間もなく前方から三体のグールが突進してくる。
「撃て」
その一言で、宗田の周囲を飛んでいた火の玉から弾丸が射出されると、吸い込まれるように額のど真ん中を撃ち抜いた。
顔中の穴から煙が上がり、脳を焼き切るとぐるりと瞳が裏返ってそのまま地に伏せる。
だけど、奴らは怯えることなく宗田目がけて何度も攻撃をしかけてきた。
それを剣を使って防いで打撃を加える。
バランスを崩したところに、渾身の一撃を叩き込む。
そうやって何体もグールを屠るが、数の暴力にジリジリと後ろに押される。
「火力……火力が足りない――もっと寄越せよ!」
どうやっても唯のように一撃で仕留められず、苛立ちが口からでた。
「だったら――これはどうだ」
拳に魔法を纏うイメージをする。
――イメージは杭。
――それはいかなる鋼鉄も破壊する。
「くらぇっ!」
左手の拳が触れると同時に、魔力が解放されるのをイメージすると、
――ドンッ
小さい爆発が起きたかのような重たい衝撃音の後に、肩にまでじんわりとした痺れが伝わってきた。
「これなら……」
顔の中心にできた大きな穴。
自分になにが起きたか理解できていないように、グールの体の時が止まる。
そして、それに気づいた時、地面にひれ伏すように崩れ落ちた。
「は……ははっ。ははははっ」
それを見て宗田から笑いが溢れた。
「……楽しい」
唯が戦いながら楽しそうに笑う理由が少しだけ分かった気がした。
自分の手を何度も握っては開いてを繰り返し、次の獲物へと視線を滑らせる。
早くこいつらを蹴散らして、唯を探さないと。
ようやく、彼女と並んで戦うことができるかもしれない。
アップデート人類
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