【四十三話 アクマの森の仔〜暁〜⑲】
別タイ:青く透明な樹の下で①
“メルリヌスギャン泣き事件”から数日過ぎた頃には、王が出したマーリンとメルリヌスの処刑を免れる条件はクリアされ、二人は晴れて国内を無条件...までとは言えないが、自由に歩ける様になった。
新たな国民が増え、また城内が騒がしくなったが、特にあの事件以上の問題は起きてはいない。
少し変わったところと言えば、マーリンとメルリヌスが正式にエムリスの魔術の弟子になった事だ。
二人は元からセンスが良かったので、どんどん魔術の知識を吸収していった。
エムリス曰く、このままいけばいずれ自分を超える大魔術師になるに違いないと、「これで安心して儂も引退できますの〜」と嬉しそうに言っていた。
そんな日々の中、三月目の満月の夜。
メルリヌスはウーサーに中庭に来るようにと言われ、渋々ながら言われた通り中庭に来た。
「こんばんは、メルリヌスくん。わざわざ来てくださいましてありがとうございます」
そこには既にウーサーがいて、メルリヌスの姿を見ると笑って片手を上げて軽く挨拶をした。
「...来たけど、一体何の用?」
ブスくれた顔で嫌そうに言うメルリヌスを見てもウーサーは咎める様子もなく、ただニコニコと笑いながらある物を取り出した。
「今夜メルリヌスくんを呼んだのは、これについて話そうと思ったからです」
「それって...」
ウーサーが手にしていたものは、メルリヌスがもう何度も世話になった物で、今や彼の主食となったとも過言ではない、例の透明な青い樹花の枝だった。
「私が今いる内に、この枝の元である樹がある場所を教えておこうと思いまして呼びました」
「え?(いなくなる?)それどういう」
「事?」と言う前に、ウーサーがメルリヌスに枝を手渡し、中庭の奥にある森の方へ行ってしまった。
「あ、ちょっと!」
先に行ってしまったウーサーをメルリヌスは慌てて追いかけた。
ウーサーに追いつき隣に並ぶとメルリヌスは、
「ねえ、ちょっといなくなるってどういう意味?
それにこの枝の本体が中庭にあったなんて初耳なんだけど!?」
少し早口で問いただすと、ウーサーはのんびりと問いに答える。
「言葉通りの意味ですよ。詳しくは私の『庭』でその枝の事を含めてお話しします」
「『庭』?」
...また謎が増えた。
これ以上問えば、謎がまた増えるだけだと判断したメルリヌスは口を閉じ、黙ってウーサーについて行く事にした。
中庭から森へ入り、暫く歩いて進んだ先に月明かりに照らされ、キラキラと光る小さな泉が姿を現した。
泉を見てメルリヌスは少し驚く。
実は、何度かウーサーに怒られ追いかけられた時や、気まぐれに森に入った時は、こんな泉は一度も見かけた事がなかったからだ。
呆けているメルリヌスを余所に、ウーサーはどんどん泉の方へと真っ直ぐ進んで行き、なんとそのまま泉に入ってしまったのだ。
「えっ!?」
今度は声に出して驚いてしまったメルリヌスを気にも止めず、ザブザブと泉の中を進むウーサー。
そして、丁度水が腰の辺りまで浸かった所で立ち止まって振り返り、立ち尽くすメルリヌスに向かって手を差し出した。
「さぁ、こちらへ。『庭』はこの下にあります」
「泉の下...ああ、なるほどね(あの精霊が関わってるんだ)」
ウーサーの言葉にメルリヌスは大体察した。
湖の精霊イグレイン。
水の事なら大体彼女がウーサーに贈り物として、あの泉を提供したに違いない。
『白い塔』の森にある湖の中に彼女の居住する大きな館を構えていると言うのを聞いて、湖の精霊が送った泉の中にも『庭』とやらがあると言う事にも納得がいった。
因みにイグレインの事は、事件を起こして何日かした後、エムリスにウーサーはあの元【アヴァロン】の女王である湖の精霊と契約していると聞いた。
“元”とはいえ【アヴァロン】の女王と聞いて始めメルリヌスとマーリンは、息が止まるくらいの戦慄が襲いパニックになりかけた。
だが、ウーサーが二人を落ち着かせる為、色々と心のケアを含め湖の精霊は二人を害した者ではない事、彼女も二人と同じ様に【アヴァロン】にいたしかも、実の夫と娘達に心と身体を傷つけられた末、追放されたと聞かされてから、少しずつまだ対面はできないが、彼女を受け入れられるようになった。
『庭』の謎が少し分かったメルリヌスは、戸惑うことなく泉に入り、ウーサーの所まで着くと差し出された手を取る。
その刹那、足に感じていた柔らかい土の感触が無くなり、代わりに硬い石の感触が足へと伝わった。
メルリヌスはそれが何かもう分かってはいたが、何となしに足下を見る。
「やっぱり階段か...」
二人の足下には、透明な水晶のような階段が螺旋を描きながら奥底へと続いていた。
「はい。この下に『庭』と樹花があります」
そう言いながら、ウーサーが先導して階段を折り始める。
メルリヌスもウーサーの手を離さないよう段差を注意しながら降りてついて行った。
当たり前だが、泉の中に入っても精霊の加護のおかげで、普通に呼吸が出来た。
「泉もそうだけど、『庭』もあの精霊が灰色頭にくれたの?」
ただ降りるだけで会話が無かったことに飽きたのか、メルリヌスはなんとなく聞いてみた。
「いえ、この泉と『庭』は全部【ナマモノ】さんに用意してもらったもので、その枝の本体である樹花だけは、私が『場所』で持って来られた数少ないモノの一つなんですよ」
「は?」
予想外の答えに一瞬メルリヌスの思考が止まってしまったが、直ぐに我に返り、慌てた様子で泉の魔力を探った。
結果、泉の魔力は湖の精霊のモノではなく、現世、幻想の住人が創った空間で感じたモノとも違う、純度がとても高い魔力だった。
メルリヌスがこの魔力に気付かなかったのは、あまりにも世界に馴染みすぎていたからだった。
ここまで馴染みきったものは、言われて真剣に探らないと分からない。それ程までの強い魔力だった。
メルリヌスは思わず、
「.....【ナマモノ】って本当に何者なのさ...?」
と聞いてしまった。
「【ナマモノ】さんは【ナマモノ】さんですよ?」
「はぁ...またそれ」
「?」
分かってはいたが、答えになってない答えを返され、メルリヌスは深い溜息を吐く。
もう追求するのを諦め、メルリヌスは黙ってウーサーについて行く事を決めたのだった...。
いつまでつづくか分からないおまけ
今回短いです!
〜生贄竜と【ナマモノ】の会話〜
【ナマモノ】
「生贄竜く〜ん、“これ”も向こうに持ってきてくれない?」
生贄竜
「“これ”ですか?何に使うのですか?」
【ナマモノ】
「これはーアレしてコレして───」
生贄竜
「なるほど、分かりました。ですが、いいのですか?持って行っちゃって?」
【ナマモノ】
「OKOK大丈夫!私がちゃんと調整しとくから何の問題もないよ!」
生贄竜
「了解しました。では───」
終わり




