【四十二話 アクマの森の仔〜暁〜⑱】
別タイ:カオスな色々
メルリヌスがギャン泣きした同時刻───西側。
魅了の魔術に掛かっていた被害者たちの動きが止まり、糸が切れた人形の様にバタバタと倒れていった。
状況を見て、西側の防衛をしていたガウェイン達は、直ぐにウーサー達がメルリヌスを下したと察し、剣を鞘に納めた。
一応念には念を入れ、妻のラグネルとイグレインに被害者達の状態を診て貰い、もう魅了の魔術で暴れないから大丈夫だと、二人の人ならざる者に太鼓判を押されたので、ガウェインはラグネルとイグレインを連れ一旦ここから離れることにした。
離れるその前に、
「皆のもの暴走は収まった。我等はこのままウーサー様たちの下へ行くので、後の処理は任せた」
「「「「「はっ!」」」」」
倒れた被害者達の介抱をする様にと、夢魔と魔術師達に告げ、その場をあとにした。
向かう先は兄の寝所。
東側を守っている二人の王達は、イグレインがもう先に向かっていると言ったので、ガウェイン達も急いでそちらへと向かった。
そして、
「殿下、ウーサー様!ご無事ですか!?」
「ウーサーちゃーん、兄ちゃーん、大丈夫〜?」
ノックもせず部屋に入ってしまうのは無礼だったが、彼等の安否が最優先だった為、勢いよく扉を開け兄の部屋へと入るガウェイン達。
そして、最初に目にした光景は───
「ゔに゛ゅぅぅぅ〜〜〜〜〜.....」
「すぅ...すぅ...」
「うふっ...ふふふふっ...!」
「───!────っっっ!!」
「..........」
上から、木箱に真っ青な顔を埋めリバースしているウーサー。
そのウーサーの膝の上で泣き腫らして真っ赤になった顔を乗せて眠るメルリヌス。
爆笑してしまわないように、小刻みに震える身体を壁に寄せ耐える二人の王。
最後に死んだ魚の目で、今だリバースに苦しむ弟の背中を擦る兄。
正に混沌な光景がそこにあった...。
「これは、一体?」
「あらあら、まあまあ」
あまりの混沌っぷりに、流石のガウェインも状況が分からず立ち尽くしてしまう。
その後ろではイグレインが興味深そうにガウェインの背後から顔を出し、覗き込んでいた。
そんな二人の前に混沌な光景を目の前にしても冷静に動く人物が一人、ボケっとしている二人にサクサクと指示をした。
「何をしているのアナタ。早くウーサー様を救護室へ、イグレイン様もそこで眠っている【アクマ】の仔を『白の塔』へ転移させて下さい」
一纏めにした真紅の薔薇宝石の髪をなびかせ、二人の前に出て来た美女───ガウェインの妻ラグネルが、ウーサーの膝の上で眠るメルリヌスをそっと抱き抱え、イグレインに託す。
次に今だ吐き続けるウーサーに嫌な顔一つせず「失礼します」と一言言い、同じように抱き上げ、突っ立ったままのガウェインに渡した。
「何があったかは妾が聞きます。貴方達はウーサー様達をそれぞれ言った場所に連れて行って下さいませ。
特にイグレイン様はその【アクマ】の仔の魔力を一時的に封じて置いて、その仔の目の触れない場所で見張ってて下さいまし」
「あ、ああ。頼んだぞ、ラグネル」
「ラグネルちゃん、後でお話聞かせてね〜!」
キビキビ行動する妻に押されながらも、ガウェインは言われた通りウーサーを抱えて救護室へと向かった。
イグレインの方もラグネルの言葉に素直に頷き、腕の中で眠るメルリヌスを起こさないようササッと転移魔術で跳んで行った。
そして、部屋に残されたのは、ラグネルと笑いすぎて腹筋崩壊呼吸困難になりかけている大の大人二人と、青を通り越し、白く染まった顔の疲労困憊した兄の四人。
まだ混沌の色が若干残った空間に意も返さず、笑い死にかけている二人の王を無視して、ラグネルはベッドに座り込む兄を気遣いながら事情を聞き出し始めた。
「殿下、ご無事で何よりです。
そして、お疲れの所申し訳ございませぬが、ここで何があったのか話しては頂けませんか?」
「.....済まないが、正直、俺にもよく分からないがそれでもいいか...?」
「はい」
ぐったりした様子で兄は知っている限りの事を語った。
◆◇◆ ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
万全ではないが、出来うる限り対メルリヌスに向けて準備し、部屋で待ち構えたことから始まる。
折角準備した守りも全て無効化され、特にあの“護符”が燃やされてしまったことにショックを受け、油断してしまったその隙にメルリヌスの術にかかってしまった事。
窮地に立たされ危うくメルリヌスに(性的に)喰われる寸前、何故かクローゼットの中からウーサーが這い出てきて、ベッドの方まで幽霊宜しくな感じでやって来るのを見て恐怖で術が解けた事。
ウーサーがとうとうメルリヌスの真後ろまで来て、彼の肩を掴み顔を上げた所で兄の意識は途絶えてしまった所で話は一旦終わる。
そして、何か騒がしい声で気が付き、目覚めた兄が目にしたものは───
「ビェェェェエェェン!!!」
「...ゔっ゛ぷ..........」
顔を真っ赤にしてギャン泣きする半裸のメルリヌスと反対に真っ青な顔で彼の頭を撫でながらリバースするのを耐える弟の異様な光景だった...。
自分が気絶している間、何が起こったのか全く分からなかった。
分からなかったが、取り敢えず兄は急いで近くにあったゴミ箱を取ってきて、今にもリバースしそうなウーサーに手渡したのだった。
手渡した直後、ウーサーはゴミ箱の中に盛大にリバースした...。
◆◇◆ ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
「───と、言う訳だ。メルリヌスは途中で泣き疲れたのか、眠っていた...」
「そうですか...お疲れ様でした、殿下」
今だ死んだ目をして語る兄にラグネルは、一言労いの言葉をかけたと同時にふとある一つの疑問が思い浮かび、兄に聞いてみた。
「殿下、ウーサー様のことですが、いつお連れしてクローゼットの中にお入れになったのですか?」
「いや、俺はウーサーを連れ出してなどいない。ましてやクローゼットの中にも入れてはいない。
誰かが連れ出して中に入れたか、又は考えづらいがウーサー自身が中に入ったか「あぁ、ウーサーちゃんを連れ出してクローゼットの中に入れたの私よ」は?」
兄の言葉に被せるように会話に入ってきたのは、先程までわら石にかけていたヴォーティガーンだった。
笑い涙を拭いながら自供する叔父は、更に衝撃的な真実を暴露する。
「予想通りだったけど、ウーサーちゃんの“護符”って純粋な目的...例えばその種族によっての生命維持、生活に関わる事柄に関しては余り効かないのよ。
今回のメルリヌスちゃんのは純粋に空腹を満たす為の行動だったから尚更ね。
だから、もし“護符”が効かなかった時の保険として、作った張本人でお世話係のウーサーちゃんを仕込んどいたの。結果は───ふふふ...っ大成功だったわね!」
と、また笑い出してしまったヴォーティガーンを呆れた目で見るラグネルだったが、背後で怒りの気配を感じ取り、心の中で「ああ〜」と頭を抱えてしまった。
「..........」
黙って最後まで叔父の話を聞いていた兄は、枕の下に手を入れ、もしもの為にと隠していた短剣を取り出して、ゆらりと立ち上がり、
「またアンタかあああああ!!!!」
空気が大きく揺れる程の怒声を発しながら、ヴォーティガーンに斬り掛かった。
「あら、まだ稽古がしたりないのね、兄ちゃんったら」
と、ヴォーティガーンは笑うのを止め、兄の怒りの剣を難なく鞘が入ったままの剣で受け止めた。
そしてそのまま剣の撃ち合いが始まってしまう。
それを見たラグネルは慌てて、
「殿下!落ち着いて下さい!!相手は叔父とは言え、他国の王なのですよ!
王よ!お二人をお止め下さい!王よ!!」
兄を諌めながら、王に二人を止めるように言い振り返ったのだが...、
「..........」
ラグネルの目に映ったのは、笑い過ぎピクピクと身体を痙攣させ床に倒れ伏す王の姿だった...。
いつまでつづくか分からないおまけ
〜事件後のウーサーとヴォーティガーンの会話〜
ヴォーティガーン
「今回も良いものを見せてもらったわ。名残惜しいけど、私もそろそろ国へ戻るわ」
ウーサー
「オネェさんのせいで暫く甘い物食べられなくなりました。もう二度と無理矢理飲ませないで下さいね!」
ヴォーティガーン
「ふふふ、そうならない様にあの子達の手綱をしっかり握っておく事ね。
それよりもウーサーちゃん、また面白そうな事があったら今度はちゃんと呼んで頂戴ね♪」
ウーサー
「オネェさんの「面白い」と言うものが私にはよく分からないので、約束は出来ませんよ」
ヴォーティガーン
「ふふ、生きてたらまた会いましょう。じゃあね♪」
黒い馬に乗って走り去る。
ウーサー
「...うーん、本当に読めない方ですね」




