【一話 蒼灰の誕生】
サブタイ:伝説は始まっていた…(間抜けな方向で)
8/25 修正・追加
【材料】を揃え【生贄竜】を向こう側に組込む為の準備を着々と、でも慎重に進める。
【私】が選んだ男女に少しずつ時間を掛けて【中】に均一に流し入れ丁寧に馴染ませながら混ぜていく…。
なにせ彼等に流し混ぜているモノが全て『宇宙』等に属さない存在・物質・力、と言うか『宇宙』等が活動する為の【力】の根源本体の一部を唯の人間の【中】に入れてるんだから本当に注意を払って作業しているんだからね。
向こうからしたらそんでもなくヤバい劇物になるのは当然の事で、そんなモノを適当に扱って組み込むの失敗なんてしたら、あの男女どころかその『宇宙』『星』『世界』がパーンってなっちゃう。
それじゃこの計画を立てた意味がなくなるし、何より【私】が【生贄竜】に一生恨まれる。
本当に気の抜けない(けどおしゃべりする)マジで緊張とストレスマッハな作業だったけど、なんやかんやで【生贄竜】を無事に向こうへ組み込ませる事に成功した。
作業の後片付けをした後、【私】も向こうに行き特別に創った『夢』の中で合流をしたのだけれど……そこで【私】達はとんでもない壁にぶち当たってしまう事になる。
◆◇◆ ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
その国はまだ人間と幻想の住人達が共存している国だった。
名は『ブリテン』。【生贄竜】が殺す【アヴァロン】に最も近しい現世の国で、【私】が罰を与える為に彼を送り込んだ『星』の一部だ。
そんな『ブリテン』の現状は正に混沌としたものだった。
【アヴァロンの門】が開かれる度に放出される毒と呪いが混じった瘴気で護りの薄い村や内部の国の民は気が狂い身体が変質し化け物となり民を襲う。
更に瘴気は『ブリテン』を支配する為に進撃してくる何も知らない他国からの侵略者にも牙を向け、同じ様に化け物となり各国を襲撃していった。
一方、【アヴァロン】の瘴気に耐えられる護りを持つ国は内部・外部からの敵の攻撃をなんとか防いでいた。
連日のように起こる激しい闘いの果て、嘗ての美しい『ブリテン』の面影は殆無く、今は血と死臭で穢れ、怨嗟と絶望が渦巻く暗黒の闇に飲まれた醜い国へと変貌していた……。
肝心の【生贄竜】が人間に生まれた所は勿論、護りが強固で無事で一応安全な国だった。
『─────』と言う『ブリテン』の中でも一番小さい国で……って、ああそうか。ごめんね。この国の名前は当事者以外だとただの音にしか聞こえないんだった。これも【封印措置】の影響だから諦めて。
それじゃ、話を戻そう。彼を産んだのがその国を治める王族夫婦だった。
王が治める国は他の国と比べ、自然と神秘の加護が強くあり、現世に残った幻想の住人達も多く住み着いていた。
その王は見識が広く、何より人を見る目も同盟国の王ヴォーティガンの次に優れていた。
だから冷静に今の『ブリテン』の状態と状況を把握し、『─────』全土に浄化の結界を張り、【アヴァロン】の瘴気が入ってこないようにした。
戦も敵国が攻めてくる以外はほぼ防御に徹し、国の護りを固めていたから小国であったにも関わらず、一番安全でまともな国でいられたのさ。
そんな偉大な王様なんだけど、こんな事できる人間が普通で平凡な思考回路と感性を持ったまともな人間な訳ない。この男、なかなかアクが強い上、結構鬼畜でえげつない腹黒狸な王様だった……。
◆◇◆ ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
『─────』国の夜の空は雨が上がったにも関わらず、月と星の明かりすら通さぬ分厚い灰黒の雲に覆われていた。
不吉な空の下にある『─────』国の王城の内部の一つ、質素ではあるが綺麗に整えられた王室全体が一つのランプの明かりで照らし映し出されていた。
明かりの光源である火は魔術から作られたものなので、普通の火より強い光を発せられるのだ。
そして、ランプの灯りに照らされた室内には二つの人影があった。
立派な椅子に座り三つの羊皮紙の束の山が並べられた机に肘を置く、おそらく背が高いであろう男の影。彼こそこの国の王であり人間に生まれた【生贄竜】の父だった。
もう一つの影はかなり小柄で机より背が低く王から見ても顔が机の板に隠れて見えない。代わりに見える頭に被った大きなとんがり帽子をゆらゆらと揺らさせる者は、この国の宮廷魔術師兼王の相談役の半魔の魔術師の老人だ。
「それで、エムリス?まだ私の二番目の息子は眠っているのか?」
「はいですな。それはもういつも通り深く眠り、いつも通り奇妙な発作を起こしては生死の境を彷徨っては生還するの繰り返しをしておりますのぉ」
「ほう…」
いつもと変わらない報告に王は心底つまらなそうな顔を隠しもせず、エムリスから視線を外し窓の方に緑柱石色の目を移す。
「我が妻も変わらず、か……」
王の視線の先の外は深く黒い夜闇に覆われ殆ど城の輪郭が見えない。なのに一つだけ形と色がはっきりと分かる建物、白く美しい塔がある。今その塔の中に愛しい妻と二番目の息子がいるのだ。
王の妻は原因不明の奇病があると発覚してから三年間、ずっと付きっきりで看病している。
二番目の息子の奇病。生まれてからずっと目を覚まさず、おまけに全身から血を吹き出しその激痛からか泣き声も発せず痙攣を起こし生死の境を彷徨うという恐ろしい発作を起こす病だった。
故に何重にも結界を張った塔に隔離しそれからずっと外にも城の中にも入れていない。
二番目の息子の身体を調べたエムリスが言うには、これは病ではなく【呪い】ではないかと結論づけた。
しかし、今の『ブリテン』は【呪い】という言葉に敏感でそれを聞いた民は混乱し騒ぎかねないので、二番目の息子は奇病を患ったと公表している。ついでに発作は心臓の発作という事にしている。
それともう一つ、これは公表していいない事だが二番目の息子の右手には小さな黒錆色の鉄なのか鉱石なのか解らない四角い塊が握りしめられていた。これもエムリスに調べさせたが結果は、
「眠りの方は【呪い】の気配がしないので違いますな。何か心に負荷がかかって起きる事が出来ないのではないかと…。血を流す奇病の方はこちらは間違いなく【呪い】でしょう。しかし、これは【アヴァロン】からのモノではなく、もっと別の…何か大きな存在が掛けた【呪い】なのではないかと和紙は結論致しましたのじゃ」
「ふむ……その何か大きな存在とはエムリス、お前でも解らんのか?」
「深く探ろうとすると途中で巨大な見えない壁に阻まれ、これ以上探るのは無理だと諦めたんですじゃ。あれは超えてはいけない壁だと本能で悟りましたわい。ただ、少しだけ収穫はありましたぞ。この【呪い】は第二王子のみに掛けられたモノであって眠りの病同様、他者に伝染する事はありませぬ」
「ほほぅ」
と、今度は興味深そうに王は面白みを含んだ声を漏らす。
まるで新しいおもちゃを見つけた子供の様な嬉しそうな表情をする王に、若干呆れながらも話を続ける。
「あと第二王子が持っていた例の物体じゃが、あれは植物・石・宝石・鉱石等などどれにも該当せんかった。それどころか、この世界に存在するのかも怪しいわい」
「そういえば、報告にはその例の物体はまた少し大きくなったとあったな」
「はい。どうやらアレは第二王子の成長に合わせて大きくなっている模様ですな。それと、これも【アヴァロン】から排出された呪物ではないと結果が出ましたが、それは今の結果であって今後どうなるかは引き続き調べ、監視する必要がありますがのぅ…と、言うことで第二王子の報告は以上ですじゃ」
エムリスの報告を聞き終えた王はいつの間にか、顔を俯かせて小刻みに肩を震わせていたかと思うと、
バァンッ!!
思いっきり大きな掌を机に叩きつけた後、何度もバンバンと机を叩いた。数度叩くと急にガバっと顔を天井に向け大声で笑い出したのだ。
「ハハハハハッ!!数百年生きてきた宮廷魔術師でも解らないとはっ!流石我が息子!生まれて早々やらかしてくれるわっ!これは先が面白くなりそうだ。なぁ?エムリス」
「はぁ〜〜〜……」
怒るどころか本気で楽しそうに大笑いする王にエムリスは呆れとうんざりを混ぜた深い溜め息を吐いて、
「全っっっく、これっぽっちも、面白くはありませんぞ!儂は第二王子の診察と調査を始めてからロクに寝れておらんのです!見て下さいですじゃ!この目の下の黒い隈をっ!!」
「眉毛が長すぎて全然見えん」
「むきーっ!とにかくっ!今は一番解決できそうな眠りの方をどうするかを優先的に動いておる最中ですじゃ!」
「やれやれ…二番目の息子は本当に寝るのが好きだな」
「(いや、別に好きで眠ってる訳じゃないじゃろ、あれ)しかし、三年以上は流石に寝過ぎかと思われますぞ。それに加えあの発作ですからの。本当に早く解決せんと儂の身体が持たんわい」
「確かに老体のお前にこれ以上酷使して、拗ねて逃げられたりでもしたらお前の弟子に悪いしな。私もそろそろ二番目の息子が死にかける様を見るのも飽きてきた。それに……」
「(この鬼畜王、自分の息子が死にかけてる姿見て面白がっとんたのか!?)それに?」
先程まで、笑っていた王の表情が一変。真顔になる。
「我が妻成分が枯渇して色々限界だ。早急に二番目の息子には起きて貰わねば…。先ず試しに塔の窓から放り投げてみるか」
「何阿呆な事言っとんじゃお主は?」
頭おかしな事と物騒なことを宣う王にエムリスも真顔でツッコミを入れた。
「そんな事をしてみなされ、王妃様が大変お怒りになられますぞ。そんでもって、儂にまでとばっちりが来てしまうじゃろうが」
いや、明らかに怒られるというレベルではないだろう。王妃は優しく子供思いの母だから、そんな事したら怒り狂って剣でぶっ刺されるか、禁忌の呪法を使用して呪殺でもしかねないレベルよ?
その前に自分の息子起こすのに数十メートルの高さから落とすって、いくら幻想が息づいている世界でもやっちゃいかんでしょうが。
「確かに怒られるのは物凄く嫌だが、多分大丈夫だろう。何度も奇病で死にかけている子だ。
等から落としたぐらいでは死なんさ。…..……………多分」
「多分を二回言っとる時点で説得力が全く無いですぞ」
「私の勘だがこの子は私と同じ…否、それ以上の面白い事をやらかしてくれる子になると思うのだ。
という訳で二番目の息子の教育係も任せたぞ」
「止めてくだされ。王の勘は嫌でも当たるのですぞ。王以上にブッ飛んだ子など教育する隙もなくトラブルを持ってくる事間違いないではないか。それを止める儂の身が絶対に持たんじゃろうが、それ……」
長い時を国の宮廷魔術師として過ごし王の教育係として生きたエムリスは、死んだ目で遠くを見ながら言った。
「ハハハハハッ!万年サボり魔問題ジジィが何弱音を吐くような事を言うか!それにこれは決定事項だ。拒否は許さぬ」
「マジか〜……」
「しかし、先程も言ったが本当に私も我慢の限界だし、何も変わらぬ現状にも飽きた───
───塔からは止めて、近くの暴れ川にでも流して叩き起こしてやろうか。勿論、我が妻には内緒でな?」
◆◇◆ ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
───一方その頃、全存在外の二人(?)は【はじめからいたもの】が用意した白い夢の空間にいて王とエムリスのやり取りを視ていた。
「………【生贄竜】君、聞いたね?彼は本気だ。本気で君を暴れ川に流すよ。アイツ、ガチの有言実行タイプでドS(妻以外)だもん。
清々しい笑顔で川にポイ捨てする。選別した時から視ている私が言うんだから、間違いない」
元の姿から体調60cmの白いマシュマロボディの糸目ツルッパゲ丸頭の変なマスコットキャラみたいな生物にメタモルフォーゼした【はじめからいたもの】改め【ナマモノ(呼び方長いからこれで呼んでね☆)】は青褪めた顔で言う。
ちょこんと正座した【ナマモノ】の膝下には、黄色の柄と鮮やかな赤い鎚───現代ではピコピコハンマーと呼ぶ子供のおもちゃが何故か置かれていた。
「川流しは絶対に阻止したい。私達が頑張って苦労してこの世界に組み込んだのに、せっかく創った身体をこんなトラブルでボロボロにさせられるなんて流石に嫌すぎる。
最初の一年は様子見で、二年目は色々試行錯誤して【生贄竜】君が自力で身体を覚醒させる様に手伝った。でも三年目に突入してタイムリミットは来てしまった。もうこれは駄目だと判断したから、最終手段を決行する。…………ごめんね【生贄竜】君」
そう言うと【ナマモノ】は立ち上がり、置いていたピコピコハンマーを指があるのか無いのか分からない手で掴み振り下ろす構えを取る。
赤いプラスチックの鎚が狙いを定める先には、灰色の髪とキレイな蒼い夜空の瞳の幼い少年が諦めの表情で正座していた。
「いいんですよ、【ナマモノ】さん。【アヴァロン】だけを殺す為に創った身体に大きな損傷を、私事のせいで与えてはいけません。とう言うか私がちゃんと起きる事が出来なかったのが原因なのですから……」
力無く笑う【生贄竜】。その顔には相当頑張ったのか疲労の色が濃く出ていた。
話の内容はまぁ、真剣かつ深刻なものなんだけど、【ナマモノ】の見た目とピコピコハンマーの存在で全てが台無しになっている。
一応言っておくけど、本当に彼等は巫山戯てコントをしている訳ではない。
私達の会話の内容からしてもう解っていると思うけど、ちゃんとした理由と原因があるので説明しよう。
まず私を含む『宇宙』『星』『世界』に属さないモノ達は眠りは必要ない。と言うか、そんな概念はない。
だから、今『世界』の現実にいて器の人間の身体の【中】にいる【生贄竜】はどうやって眠っている身体を起こすのか解らないのだ。
最初それを聞いた『世界』の営みに慣れていた【ナマモノ】はすっかりそれを失念して思わず頭を抱えてしまった。
「そう言えば、私も君達も【アレ等】もあっちでは眠ったこと無かったわぁ〜…」
【生贄竜】も態と捕まって根源供給機になった後も、【アレ等】から供給のラインとその操作諸々の権限を気付かれずに全部奪って、調整する様になってからもずーーーーーーーっと眠ってなかったわ。
それでも私はつい、
「【生贄竜】君、いくらあっちに属さない存在だとしても、よく今まで普通にこっちに命供給したり、【アレ等】殺してたりしてたよね。全然疲れなかったの?」
「“つかれ”って何ですか?」
「…………ヤベェ、コノリュウハヤクナントカシナイト…………!」
それから【ナマモノ】は【生贄竜】に疲労・睡眠・休息についてとその大切さを、それはもうみっちり・ねっちょり叩き込んだのでした。
みっちり・ねっちょり教えたかいあって、なんとかその事を理解してくれた。
でも、いざ起きる事を実行しようとしても中々上手くはいかず…。二人であれとこれとで試してはみたけど、全部惨敗…。もう走行している間に現実では三年経って、今、正に父王が自分の息子を暴れ川に放り投げようと結構する準備を進めていましたとさ!
で、もう本当に時間がないんで最後の手段として、どんな存在でも強制的に夢の世界から覚醒させられるこのピコピコハンマーで【生贄竜】の頭を殴って起こす事に決まった!
「さぁ!遠慮はいりません!思いっきりやっちゃって下さいっ!!」
「おっしゃあぁ!一撃でキメてやんよぉ!!逝ってらっしゃい【ウーサー】君!頑張ってねぇーーーーー!!!」
「え?今何か「いってらっしゃい」に妙な響きが───」
「どおおおおおおおぉぉぉぉりゃああああああぁぁぁぁ!!!!」
ピッコーーーーーーーーンッ☆
ピコピコハンマー特有の可愛らしくも間抜けな音が白い夢の空間に虚しく響く…。
今、夢の空間にはピコピコハンマーを振り下ろした姿勢の【ナマモノ】の姿だけ。
赤い鎚の先には誰もいなかった…。
【ナマモノ】は構えを解き、顔を上げると祈るように、
「血濡れた残酷な旅の中でも、ほんの少しでも【ウーサー】君の記憶に良いものが残りますように……」
シリアスな場面の筈なのに【ナマモノ】の姿とピコピコハンマーのせいで全てが台無しだ…………。
◆◇◆ ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
「あ、起きた」
暗澹たる曇り空の下、真上の分厚い雲よりも少し白みのある灰色の髪の小さな幼子と、突然ぱちりと目を開けた抱いていた我が子を見て驚いた表情をする黄金の髪の男が立っていた。
男───王は深い緑柱石色の瞳を嬉しそうに、でも少し残念さを含ませながら細めて我が子を見た。
蒼い夜空の瞳を大きく開き己をガン見する息子の頭を無骨な手で撫でながら、
「おそよう、私の二番目の子【ウーサー】。あと私が二歩進んでいたら一時の別れになっていたが、その前に起きてくれてヨカッタ、ヨカッタ」
カラカラと胡散臭く笑う王が立つ位置から二歩先には川。
ただし、唯の川ではない。数日前から連続で降った雨により水嵩が増し濁った水が轟々と激しい音を立て流れる暴れ川だった……。
いつまで続くかわからないおまけ〜会話のみ〜
ウーサー&【ナマモノ】:「ギ、ギリギリセーフッ(です)!」
【ナマモノ】:「いくら川の先で部下の騎士を救出様に配置してるからって、あんな激しい川に流したら助けられる前に身体がミンチになっとるわっ!まぁ、ウーサー君だったらすぐ再生するし、死なないけどさぁ」
ウーサー:「そうですけど、痛いのは痛いですよ」
【ナマモノ】:「痛いので思い出したんだけど、君に引っ付いている【呪い】ソレどうするの?」
ウーサー:「喰べさせずにこのままにしておきますよ。いざとなった時の“保険”になりますからね」




