開かれたパンドラの箱と、隔離施設への出撃
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【第二章】からは、いよいよ本物の化け物『エクリプス』との実戦編に突入します。
リンが不可解な悪夢——いや、システム深部の『記憶』に接続してから数日が経過した。
深夜の自室。俺は端末のブルーライトに照らされながら、リンの精神デバイスから抽出した異常ログの解析を続けていた。
「……見事なプロテクトだ。防衛軍のメインフレームどころか、システムの根幹領域にまで、分厚い壁が仕込まれている」
俺は自身の特性である『適性率0%(バグ・ゼロ)』の管理者権限をフル稼働させ、軍の暗号化されたデータ層を一枚ずつ剥がしていく。
あの夜、リンは『精神を壊した人間が、エクリプス(化け物)に作り変えられる』というビジョンを見た。それがただの幻覚でないことは、この異常に強固なデータ隠蔽が証明している。
「カイト、まだやっているのか」
電子音と共に扉が開き、リンが入ってきた。手には缶コーヒーが二つ。彼女の顔色は悪くない。俺が継続的に精神のノイズを取り除いているおかげで、『過剰励起』の暴走は完全に抑え込まれていた。
「寝付きが悪いのか」
「お前のタイピング音がうるさい。……それより、何か分かったのか?」
俺はリンからコーヒーを受け取り、モニターに表示された断片的なデータ群を指差した。
「軍の上層部は、俺たち訓練生に何か致命的な事実を隠している。この隠蔽領域には『プロジェクト・エクリプス』というインデックスが付いていた。奴らは化け物と戦っているんじゃない。化け物を『管理』しているんだ」
「管理、だと……? 私たちは人類を守るために戦っているはずだぞ。もしそれが本当なら、軍そのものが……」
「ああ。この『ソウル・レゾナンス』というシステム自体が、狂気の産物かもしれない」
俺が最後のプロテクトに演算を掛けようとした、その瞬間だった。
『——警告。不正なアクセスを検知。対象端末:第十三部隊・指揮官機』
端末の画面が真っ赤なアラートに染まり、強烈な電子音が部屋に鳴り響いた。
軍の監視システム(ウォッチャー)に引っかかった。通常なら即座に憲兵が飛んでくる事態だ。
しかし、次に画面に表示されたのは、懲罰の通達ではなく『緊急出撃命令』だった。
「……出撃命令? こんな深夜に?」
リンが怪訝な顔をする。
「指定ポイントは『旧市街・第4セクター』。廃棄されたはずの軍の旧地下施設だ。……なるほど、そういうことか」
俺はレッドアラートの光の中で、冷たく笑った。
「軍は俺がシステムの深淵に触れたことを察知した。だが、表沙汰にして俺たちを処分すれば、第一部隊を倒したばかりの『異端編成』が消されたと騒ぎになる。だから——」
「実戦という名目で危険地帯に放り込み、『事故死』に見せかけて口を封じる気か」
リンの銀色の瞳に、剣呑な光が宿る。
「その通りだ。だが、好都合でもある。俺がネットワークからハッキングしきれなかった物理サーバーが、その旧地下施設にあるはずだ。軍が葬り去った真実を、直接引きずり出してやる」
俺は端末をシャットダウンし、立ち上がった。
「全員を起こせ。実戦の時間だ」
◆ ◇ ◆
一時間後。
夜の闇に包まれた旧市街・第4セクターの入り口に、俺たち『異端編成』の7人が降り立った。
巨大なすり鉢状の地下施設へ続くゲートには、赤い警告灯だけが不気味に点滅している。
「う、うわぁ……マジで実戦なのかよ。俺のスキルで化け物の動き、本当に止められるのかな……」
トーヤが冷や汗を流しながら、コンクリートの破片を蹴り飛ばした。
「泣き言を言わないの。アンタが日和ったら、囮になる私が真っ先に死ぬんだからね!」
メイが強気に言い放つが、その足も微かに震えている。
「座標計算、いつでもいける……」
シオンは無表情を装いながら、長大な狙撃銃を抱きしめるように構えていた。
無理もない。模擬戦のホログラムとは違う、本物の死の気配がこの空間には充満していた。
俺は後方の装甲車両に引きこもっているリクとナギに通信を繋ぐ。
「リク、マップの状況は?」
『っ……展開中! 『広域探知』……完了。カイト、これ、マズいよ……!』
通信越しに、リクの悲鳴のような声が響いた。
直後、俺のデバイスに転送された視界データを見て、俺は小さく舌打ちをした。
「……なるほど。口封じの『事故死』にしては、随分と豪勢な葬式を用意してくれたな」
「カイト、敵の数は!?」
巨大な大剣を構えたリン——俺たちの最強の矛が叫ぶ。
「地下施設の最深部、サーバー区画を埋め尽くすようにエクリプスが密集している。その数——おおよそ『300』だ」
その報告に、全員の息が止まった。
ベテランの正規部隊でさえ、一度に相手にするのは数十体が限界とされる化け物の群れ。それが、真実を隠す防壁として配置されている。
「さあ、計算の時間だ。真実を暴くためなら、これくらいの変数は許容範囲だ」




