限界突破の最適解と、最強の矛
土煙が晴れた第1演習場の中央。
膝をつく第一部隊隊長・ソウマの周囲には、気絶したエリート隊員たちが転がっていた。
「……あり得ない。一度発動したスキルのクールダウンを、味方を犠牲にして強制リセットするだと……? そんな非効率でシステムを無視した挙動、データには……」
ソウマは血の滲む唇を噛み締めながら、ゆっくりと立ち上がった。
彼のデバイスがひび割れながらも光を放ち、分厚い多重防御結界が彼を包み込む。
「まだだ! 私の魔力が続く限り、この『絶対防御陣』は破れない! たとえお前たちが盤面をひっくり返したとしても、私一人を落とせなければこの模擬戦は……!」
「往生際が悪いぞ、エリート」
ソウマの叫びを遮るように、リンが巨大なエネルギーの大剣を肩に担ぎながら歩み寄る。
「私の前衛も、狙撃手も、もう弾切れだ。……だが、露払いは完璧にこなしてくれた。あとは私が、お前のその硬い殻をブチ割るだけだ」
「やれるものならやってみろ、欠陥品が! お前の『過剰励起』は確かに規格外の火力だが、その分、自身の精神を焼き切る自爆技だ! 私の結界を破るほどの出力を出せば、お前自身の精神が先に崩壊する!」
ソウマの指摘は、かつてのリンであれば絶対的な事実だった。
だが、今の彼女の背後には、適性率0%の『バグ』がいる。
俺は戦術コンソールを叩き、リンの精神デバイスへと静かに接続した。
『——同調開始。出力の最適化を実行する』
俺の声がリンの脳内に響く。
瞬間、リンの中で暴走しようとしていた荒々しいエネルギーの渦に、俺の『空っぽの精神』が介入した。
熱も、怒りも、恐怖もない。完全なゼロの空間。
リンが抱えるトラウマや過剰なエネルギーの暴走を、俺のノイズのない精神がすべて綺麗に整流し、無駄な負荷を1ミリ単位で削ぎ落としていく。
「リン、敵の結界の構造を解析した。右下45度、魔力装甲の繋ぎ目。そこ一点にだけ、出力を120%で叩き込め。反動の制御は俺がすべて引き受ける」
「……了解だ、私の専属計算機」
リンが静かに大剣を構えた。
これまでのように、周囲を無差別に破壊するような荒狂うエネルギーではない。極限まで圧縮され、研ぎ澄まされた、美しくも恐ろしい純白の光刃。
「——『過剰励起』」
リンが踏み込む。
その速度は風を置き去りにし、一瞬でソウマの目の前へと到達した。
「なっ……出力のロスが、ゼロだと……!?」
ソウマが驚愕に見開いた目の前で、リンの大剣が振り下ろされる。
「——消し飛べ!!」
『ガァァァァァァァァンッ!!!!』
俺の指定した座標——結界の最も脆い一点に、リンの全エネルギーが一点集中で撃ち込まれた。
ガラスが砕け散るような甲高い音と共に、ソウマが絶対の自信を持っていた多重防御結界が、紙屑のように粉砕される。
「あ、ああ……」
結界を破られたソウマの首筋に、リンの大剣の切先がピタリと止められていた。
あと数センチ踏み込んでいれば、彼の命はなかっただろう。
『……リーダー機の沈黙を確認。勝者、カイト訓練生率いる第十三部隊!』
演習場に、無機質な合成音声が響き渡った。
その瞬間、後方で隠れていたシオンやメイたちが歓声を上げ、倒れているナギの背中を叩いて喜んでいる。
「……私の、負けだ」
ソウマはその場にへたり込み、信じられないものを見る目で俺とリンを見上げた。
「定石を無視した『異端編成』……まさか、ここまで完璧なシナジーを生み出すとはな」
「お前の定石も悪くなかったよ」
俺はソウマに歩み寄り、手を差し出した。
「だが、盤面の変数をすべて計算できるなら、欠陥品の寄せ集めでも最強になれる。それだけのことだ」
ソウマは少し躊躇った後、小さく息を吐いて俺の手を握った。
◆ ◇ ◆
その日の夜。
模擬戦の勝利で基地が少しだけ湧き上がる中、俺のデバイスに一件の異常なログが残されていた。
『——警告。被検体リンの深層心理において、未知のデータ領域との接触を検知』
俺は眉をひそめ、すぐにリンの個室へと向かった。
扉を開けると、リンはベッドの上で丸くなり、荒い息を吐きながら冷や汗を流していた。
「リン! どうした、精神負荷の反動か!?」
「……違う、ちがう……カイト……」
リンは怯えたように俺の服の袖を掴むと、震える声で呟いた。
「夢を、見たんだ。……真っ白な部屋で、過去に精神を壊した防衛軍の仲間たちが……エクリプス(化け物)に、作り変えられていく夢を……」
それは、ただの悪夢ではない。
『ソウル・レゾナンス』のシステム深部に隠された、軍の残酷な真実の欠片。
俺たちの『異端編成』が牙を剥くべき本当の敵が、その暗闇の中で静かに蠢き始めていた。




