開戦、定石を穿つ異端の布陣
四面をコンクリートの壁に囲まれた第1演習場。
その中央に立つ俺たちの前に、第一部隊の隊長であるソウマがゆっくりと歩み寄ってきた。
「……これが、君が選んだ7人か。見事に落ちこぼれと問題児ばかりを集めたものだな」
ソウマは眼鏡の奥の冷たい瞳で、俺の背後に控えるメンバーを一瞥した。
彼の背後には、適性率80%超えを誇る第一部隊のエリートたちが、微塵の隙もない美しい三角形の陣形(メタ編成)を組んで控えている。前衛が鉄壁の壁を作り、中衛が隙を伺い、後衛が全体の魔力を支える。誰が見ても「完璧な定石」だった。
「バランスの良い綺麗な編成だ。教科書通りで素晴らしいと思いますよ」
俺が淡々と返すと、ソウマは鼻で笑った。
「机上の空論で固めた『バグ編成』が、我が第一部隊の堅実なデータと定石にどこまで耐えられるか、見せてもらおう。——演習開始!」
審判の合図と共に、演習場のホログラムシミュレーターが起動した。
模擬戦のルールは、双方のリーダー(俺とソウマ)に付与されたコア端末を破壊するか、戦闘不能者を過半数出した方が負けとなる殲滅戦だ。
「——リク、視界の状況は?」
戦闘開始と同時に、俺はワイヤレスで後方に控えるリクへ連絡を入れた。
安全なコンテナの陰で、一歩も動かずに情報処理に特化しているリクから、瞬時に全方位のデータが俺の端末へと流れ込んでくる。
『全敵機の位置、完全に捉えたよ! ソウマの部隊は前衛3人、中衛3人、後衛にソウマ自身の布陣だ。……すごい、半径5キロ以内のすべての足音が手に取るように分かる……!』
「いいぞ。そのまま全座標を共有しろ」
リクの『広域探知』によって生み出された完全な視界。
ソウマたちは「俺たちがどこから奇襲をかけてくるか」を警戒して慎重に進軍しているが、その動きは俺の脳内ですでに完全に丸見えだった。
「予想通りの初動だ。奴らは中央の広い通路を通って、正面から押しつぶすつもりでいる」
俺は前方のメンバーに指示を飛ばした。
「メイ、行くぞ。敵の警戒網の真ん中へ飛び込め」
「……任せて!」
メイが飛び出した。彼女の特性『強制標的』が発動する。
瞬間、中央通路を慎重に進んでいた第一部隊のエリートたちの意識が、一斉にメイという一人の少女へ強制的に引き剥がされた。
「なんだあの動きは!? 囮か……いや、全員の攻撃衝動が彼女に引っ張られる……!」
第一部隊の前衛が動揺の声を上げる。美しい定石の陣形が、メイの存在によって無理やり一箇所へ歪められた。
「見事なヘイト誘導だな。だが、一人の囮を囲み撃ちにするだけで、我が部隊の陣形が崩れるとでも思ったか!」
ソウマの冷静な指示が飛び、第一部隊の前衛が素早くメイを包囲しようと動き出す。定石通りの、完璧なカバーリングだった。
——だが、それこそがソウマの敗因だった。
「メイを囲むために、敵の足並みが綺麗に1か所にまとまった」
俺は冷徹に呟き、次の指示を出す。
「——トーヤ、今だ。敵の真ん中で『絶対停滞』を展開しろ」
「っ、任せな!」
メイを追って密集した第一部隊のど真ん中で、トーヤが地面に両手を叩きつけた。
瞬間、青白いドーム状の結界が展開され、一瞬にしてソウマの前衛と中衛を含む数名の動きが、空間ごと完全にピタリと停止した。
「なっ……!? 体が動かない……魔力の流れまで……止まっただと!?」
エリートたちが目を見開いて硬直する。
そして、その頭上。あらかじめ俺の計算とシオンの『遅延発火』によって定められていた虚空の座標に、恐るべきエネルギーの塊が顕現しようとしていた。
「——シオン、発火プロセス完了のタイミング。敵の退路を完全に塞げ」
「……言われなくても!」
シオンが引き金を引いてから計算された3.5秒の終着点。
トーヤの結界が解ける直前のコンマ数秒に合わせ、演習場を揺るがす極大の範囲爆撃が、第一部隊の頭上から降り注いだ。
完璧な定石を崩す、『異端編成』の第一波が、エリートたちの牙城を強烈に穿ち抜いたのだった。




