絶対停止の欠陥盾と、死地を繋ぐ線
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「これで『7つの枠』のうち、俺とリン、シオンの3枠が埋まったな」
薄暗い基地の廊下を歩きながら、俺は戦術コンソールに新たなデータを打ち込んだ。
俺の背後には、腕を組んで歩くリンと、巨大な狙撃銃を抱えておずおずとついてくるシオンの姿がある。
「なあカイト。次は『前衛』を探すんだろ? さっきから最低ランクのデータばかり漁ってるみたいだが、いくらなんでも前衛が貧弱だと、私の攻撃前に部隊が崩壊するぞ」
リンが怪訝そうな顔で俺の端末を覗き込んでくる。
ソウマの第一部隊のような定石編成では、前衛が敵の攻撃を耐え、その間に中衛・後衛が火力を出すのが基本だ。
「いいや、純粋な『盾役』は採用しない。ソウマの部隊の火力を正面から受け止められる落ちこぼれなんて存在しないからな。俺が求めているのは、防御力じゃない。『盤面を強制的に止める力』だ」
俺たちが足を止めたのは、廃棄機材が積まれた旧式の屋内訓練場だった。
そこに、大柄だがひどく猫背な少年が一人、コンテナの上に座り込んでいた。
名前はトーヤ。彼もまた、シオンと同じく適性ランク『E』の落ちこぼれだ。
「……何の用だよ。俺を第一部隊との模擬戦に巻き込む気なら、帰ってくれ。俺の能力は『味方殺し』だ。リン以上に部隊を壊滅させる自信があるぜ」
トーヤは俺たちを見るなり、自嘲気味に鼻で笑った。
彼の特性は『絶対停滞』。
発動した瞬間、自身を中心とした半径15メートル以内のあらゆる事象——敵味方の動き、スキルの発動、果ては放たれた銃弾の軌道すらも『強制的に停止』させるという規格外の結界を張る。
これだけ聞けば無敵の防御スキルに思えるが、彼が最低評価を受けているのには致命的な理由があった。
「味方も自分も動けなくなる結界、か。確かに最悪だな」
俺は彼のデータを読み上げながら言った。
「結界を張っている間は無敵でも、自分自身も一歩も動けない。おまけに味方まで巻き込んで停止させる。結界の持続時間が終わった瞬間、目の前にいる敵から無防備な状態でタコ殴りにされるわけだ。まさに自滅用の棺桶だな」
「……分かってるなら放っておいてくれ。誰と組んでも、足手まといになるだけだ」
「通常の編成ならな」
俺はコンソールを閉じ、トーヤの目の前に立った。
「トーヤ。お前のスキルは『防御』じゃない。敵を特定の座標に縫い留めるための『固定具』だ」
「はあ? だから、固定したところで味方も動けねえんだから攻撃できねえだろうが」
「——シオン、前に出ろ。さっきの座標計算、もう一度やるぞ」
俺の指示に、シオンがビクッと肩を揺らしながらも、長大な狙撃銃を構えた。
「トーヤ、お前は今から3秒後、全力で『絶対停滞』を展開しろ。——シオンは、今すぐだ。トーヤの頭上3メートルの空間に向けて引き金を引け!」
「えっ……でも、トーヤ君に当たっちゃう……!」
「俺の計算を信じろ。撃て!」
『ズガァァンッ!』
シオンが引き金を引いた。しかし彼女の特性『遅延発火』により、銃口からは何も出ない。着弾するのは3.5秒後だ。
「トーヤ、展開しろ!」
「くそっ、何が起きても知らねえぞ!」
トーヤが両手を地面に叩きつけた瞬間、彼を中心にドーム状の青白い結界がドーム状に展開された。
空調の風も、舞い散る埃も、すべてがその空間内だけピタリと停止する。
俺の脳内で、戦場の時間がフレーム単位で分割され、カウントダウンが進んでいく。
1秒。
2秒。
3秒。
「トーヤ、結界を解除して後ろへ飛べ!!」
「——ッ!」
トーヤが結界を解いた瞬間、停滞していた空気が一気に動き出す。
そして、シオンが引き金を引いてからちょうど『3.5秒』。
『ドガァァァァァンッ!!!』
トーヤが先ほどまで座っていた空間の頭上——あらかじめ指定されていた座標で、シオンの極大エネルギー弾が炸裂した。
凄まじい爆風が吹き荒れ、訓練場のコンテナが粉々に消し飛ぶ。
「……な、なんだよ、今の……」
尻餅をついたトーヤが、信じられないものを見るように目を見開いた。
「シオンの『遅延発火』と、お前の『絶対停滞』のシナジーだ」
俺は淡々と種明かしをした。
「お前が敵を足止めしている間に、外側から攻撃を撃ち込もうとするから防がれる。だが、シオンの弾は『3.5秒後にその座標に突如出現する』。お前が結界を張る前にシオンが発火プロセスを済ませ、結界が解けた0.5秒後に着弾するように時間を調整したんだ」
「……欠陥スキル同士を組み合わせて、絶対に回避不可能な範囲爆撃を作ったってのか?」
「そうだ。お前はただの棺桶じゃない。俺の『異端編成』において、敵を逃さないための最強の罠だ」
俺が手を差し出すと、トーヤは震える手でそれを強く握り返した。
これで、盤面を支配する盾、必中の狙撃手、そしてすべてを殲滅する最強の矛が揃った。
「さて、残りの3枠。どんどんバグを集めていくぞ」
俺の言葉に、リンがどこか楽しげな笑みを浮かべていた。




