外れ値の共鳴と、『異端編成(ディセンタービルド)』
第一部隊隊長・ソウマとの模擬戦が決まった翌日。
俺は基地の端にある、薄暗い第十三訓練場に足を運んでいた。
「……で、なんでお前までついて来てるんだ?」
背後を振り返ると、銀髪の少女——リンが、腕を組みながら不機嫌そうな顔で立っていた。彼女は昨日の一件以来、なぜか俺の行動に露骨について回るようになっている。
「勘違いするな。お前が勝手に負けたら、私がまた隔離施設に戻されるから監視しているだけだ」
「そうか。まあ、お前の火力が編成の要になるのは事実だからな。いてくれた方が都合がいい」
俺が端末の画面に視線を戻すと、リンは少しだけ目を丸くした後、隣を歩き始めた。
「ソウマとの模擬戦、ルールは『7人編成(7枠)』だ。私たちを含めてあと5人、メンバーを集めなきゃいけない。……アテはあるのか? 第一部隊は、全員が適性率80%越えのエリートだぞ」
「ソウマの部隊は、過去の膨大な戦闘データから導き出された『最も期待値の高い定石』だ。前衛が壁を作り、中衛が削り、後衛がカバーする。どの角度から攻めても崩れない、完璧なバランス型と言える」
俺は端末に表示された、基地の全訓練生データをスクロールした。
「まともにやり合えば、俺たちの勝率は0%だ」
「……お前、勝算があって喧嘩を売ったんじゃないのか?」
「ああ。定石には、定石を破壊するための特効薬がある」
俺はスクロールする指を止め、ある一人の訓練生のデータを開いた。
「俺が組むのは、ソウマのテンプレを根底から粉砕する——『異端編成』だ」
「ディセンタービルド……?」
「システムから弾かれた『外れ値』たちを集める。能力のバランスなんて一切考えない。ただ一つの状況下においてのみ、致死量のシナジー(相乗効果)を発揮するバグ編成さ」
俺たちが歩みを止めた先。
第十三訓練場のターゲットレンジでは、一人の小柄な少女が、身の丈ほどある長大な狙撃銃型の『ソウル・レゾナンス』を構えていた。
青白い髪を無造作に結んだ彼女の名前は、シオン。適性ランク判定は最低の『E』。
「……あいつ、何をしてるんだ?」
リンが怪訝そうな声を上げる。
シオンは空中に浮遊する高速移動のターゲットドローンに対し、引き金を引いた。
——しかし、銃口からは何も出ない。
「不発……?」
「いや、見てろ」
俺が時間をカウントする。
1秒、2秒、3秒……。
『ズドォォォォンッ!!』
引き金を引いてからちょうど3.5秒後。空中の何もない空間で突如として極大のエネルギー弾が炸裂した。
しかし、ドローンはすでにそこを通り過ぎており、弾は虚しく訓練場の壁を焦がしただけだった。
「私の特性は『遅延発火』……」
シオンが暗い目で銃を下ろし、こちらに気づいて自嘲気味に笑った。
「引き金を引いてから、着弾するまでに必ず3.5秒のラグが発生するの。いくら威力が大きくても、高速で動くエクリプス相手じゃ絶対に当たらない。……笑いに来たんでしょ、無能力者さん」
「確かに、通常の編成じゃ致命的な欠陥スキルだな。味方のカバーにも使えないし、前衛が3.5秒も敵を足止めするのは不可能だ」
俺の容赦ない評価に、シオンは唇を噛み締め、リンが「おい」と俺の脇腹を小突く。
だが、俺は構わずシオンの隣に立ち、彼女の視線の先——不規則に飛び回るドローンを見据えた。
「だが、俺の計算の中では話が別だ。3.5秒のラグは、遅延じゃない」
俺は戦術コンソールを開き、風速、ドローンのAIの回避パターン、そして地形の反射率を瞬時に数値化した。
ドローンの機動軌跡が、俺の脳内で数式に変換されていく。
「——それは、確定した未来の座標だ」
俺はシオンに告げた。
「シオン、俺の指示した座標に向けて引き金を引け」
「……は? でもあそこには何もない——」
「いいから引け。俺の最適解を信じろ」
俺の静かだが絶対的な響きを持つ声に、シオンは無意識に銃を構えた。
「仰角45度、右へ12。……今だ、撃て!」
シオンが引き金を引く。当然、銃口からは何も出ない。
1秒。ドローンは全く逆の方向へ飛んでいく。
2秒。ドローンが壁の障害物に反応し、急激にターンする。
3秒。ドローンが風の抵抗を受け、高度をわずかに下げる。
そして、3.5秒。
『ドガァァァァァンッ!!』
ドローンが「自ら突っ込む」ような形で、何もない空間に出現したエネルギー弾と完全に激突し、粉々に吹き飛んだ。
「え……?」
「なっ……」
シオンとリンが、同時に息を呑む。
「着弾点から逆算して、敵の行動を誘導すればいいだけだ。お前の『遅延』は、敵の回避行動を無力化する絶対的なトラップになる」
俺はシオンに向かって手を差し出した。
「お前の欠陥、俺の部隊で有効活用してやる。来い、シオン」
呆然としていたシオンの瞳に、少しずつ光が灯っていく。
これが、ソウマの完璧な定石を崩壊させるための、最初の『外れ値』を手に入れた瞬間だった。




