管理者エラーとテンプレ編成を妄信するエリート
「君の出力を最適化する、ただの計算機さ」
通信を切断した瞬間、俺の目の前にある戦術コンソールの画面に、見たこともない文字列が走った。
『Error:未定義の管理者権限による強制介入を検知』
『該当ログの隠蔽プロセスを実行……完了しました』
数秒の明滅の後、画面は通常のエラー画面へと偽装された。
軍の厳重なセキュリティに守られた『ソウル・レゾナンス』のシステム。そこに適性率0%の俺のデバイスが干渉した事実が、システム自身の手によって隠蔽されたのだ。
どうやら俺の「適性ゼロ」という特性は、単なる無能力ではなく、システムそのものを内側から欺くバグ(仕様外の権限)らしい。
「……面倒なことにならないといいが」
俺が息を吐いた直後、コンソールから作戦会議室への出頭命令が鳴り響いた。
◆ ◇ ◆
「——あり得ない。適性0%の無能力者が、あのリンの『過剰励起』に干渉して出力を制御しただと?」
防衛軍基地、作戦会議室。
冷徹な声で俺の戦闘報告書をテーブルに放り投げたのは、第一部隊の隊長であるソウマだった。
防衛軍トップの成績を誇り、常に完璧な戦術指揮を執るとされるエリート中のエリートだ。
「軍の基本編成は『7枠』だ。前衛で攻撃を受け止め、中衛で火力を出し、後衛が盤面を管理する。過去の膨大な戦闘データから導き出された最も『期待値』の高いテンプレ編成。それが現在の絶対的な最適解だ」
ソウマは眼鏡を押し上げ、見下すように俺を睨みつけた。
「リンのような自爆覚悟のピーキーな性能は、この7枠のシナジー(相乗効果)を根底から破壊する欠陥品だ。ましてや、能力すらない君がそれを制御したなど、システムの一時的なエラーか、単なる偶然の産物に過ぎない」
彼の言うことは、ある意味で正しい。
確率論とデータに裏打ちされた編成は、どんな状況でも安定した戦果を出せる。
「テンプレ編成の期待値、か。確かに机上の空論としては美しいですね」
俺は表情を変えずに答えた。
「だが、実際の戦場には風速、地形の起伏、そして何より人間の『感情のブレ』というノイズがある。定石通りに組まれた7枠は、予期せぬ変数が介入した瞬間、途端に機能不全に陥る。俺はリンの出力が暴走するプロセスから、無駄なエネルギーの『重複』を削ぎ落とし、生存率0.1%の勝ち筋を通しただけです」
俺の言葉に、ソウマの眉間に深いシワが寄った。
計算外のイレギュラーを何よりも嫌う彼にとって、俺の存在は目障りな異物でしかないのだろう。
「……口だけなら何とでも言えるな。ならば、証明してみせろ」
ソウマはコンソールを操作し、一枚の対戦表を巨大モニターに映し出した。
「来週、部隊間の戦術連携を測るための模擬戦が行われる。君の言う『変数の最適化』とやらが本物なら、君自身で7枠の部隊を構築し、私の率いる第一部隊に勝ってみせろ」
「もし俺が負けたら?」
「君は基地から追放。リンは再び、システム隔離区画での監視対象に戻る」
その時だった。
「勝手に私の扱いを決めるな」
重い電子音と共に会議室の扉が開き、不機嫌そうな銀髪の少女——リンが入ってきた。
先ほどまで暴走状態の限界ギリギリにいたというのに、いつものような精神的な疲弊が全く見えない。
彼女は俺の隣に立つと、鋭い視線でソウマを睨みつけた。
「……こいつ(カイト)の指示は、悪くなかった。少なくとも、私をただの『壊れた兵器』扱いするお前らよりはマシだ」
リンが俺の背中を押すように言い放つ。
絶対的な孤高を貫いていた彼女の言葉に、ソウマだけでなく、同席していた教官たちも驚きに目を見開いた。
「いいでしょう。その条件、受けます」
俺は静かに宣言し、会議室を後にした。
ソウマの言う通り、まともな編成では彼のエリート部隊には絶対に勝てない。
だが、彼らが切り捨てた「欠陥品」たち——システムから弾かれた落ちこぼれたちの尖った能力をかき集めれば話は別だ。
能力の重複を徹底的に排除し、局地的なシナジーのみを追求する。
誰にも予測できない、最狂の異端部隊を組み上げてやる。




