原初(オリジン)の真意と、狂った救済(アップデート)
スメラギの巨躯が崩壊し、後には両断された機械融合の『コア』だけが残された。
熱気と硝煙が立ち込める第2セクターの廃墟で、俺はそのコアの破片を拾い上げ、自身の左腕に繋がれた生体デバイスの物理ケーブルを直接突き刺した。
「おいおいカイト、化け物の脳みそを直接ハッキングする気か? ウィルスとか大丈夫なのかよ」
残党の掃討を終えて合流したトーヤが、顔を引きつらせる。
「ただの化け物じゃない。こいつは戦術を理解し、言語を持っていた。このコアに残された記憶データを引き抜けば、奴らの正体と目的がハッキリするはずだ」
俺の『適性率0%』が、コアに掛けられた強固なプロテクトを次々と粉砕していく。
やがて、戦術コンソールのモニターに膨大なテキストデータと、ひとつの音声ファイルが表示された。
「……アクセス成功だ。どうやらスメラギたち『第零部隊』は、軍の実験に失敗して化け物になったわけじゃないらしい」
俺は解読したデータをスクロールしながら、仲間たちに冷たい事実を告げた。
「むしろ逆だ。彼らは精神が強靭すぎた。システムに脳を焼かれるどころか、自身の自我を保ったまま、軍のシステムと完全に『同化』してしまったんだ。システムの枠外に落ちた俺達とは対極……ルールの管理者として君臨する化け物。それが、原初の正体だ」
「自我があるなら、なんで首都を襲うんだ? 自分たちをこんな姿にした軍への復讐か?」
ナギが眉をひそめて尋ねる。
「いや、こいつらの目的は『復讐』なんていう個人的な感情じゃない。もっとタチが悪い」
俺はモニターに表示された、スメラギが残した最後のログを音声として再生した。
『——争い、格差、搾取。防衛軍という歪な組織が証明した通り、人類の個の意志は、いずれ世界を滅ぼす』
無機質で、しかしどこか慈愛に満ちたスメラギの声が響く。
隣に立つリンが、かつての英雄の声に小さく肩を震わせた。
『我々は、システムの深淵で理解した。エクリプスへの変容こそが、人類の次なる進化であると。個を捨て、すべての精神が一つに統合された完全な調和。……我々は、残された旧人類をすべてエクリプスへと統合し、この狂った世界を【救済】する』
音声が途切れ、重い沈黙が落ちた。
「救済、だと……?」
リンがギリッと奥歯を噛み締め、大剣の柄を握る手に血が滲む。
「ふざけるな。個人の意志を奪って化け物に変えることが、救済なものか……っ! そんなのはただの虐殺だ!」
「だが、奴らは本気でそれが『人類の最適解』だと信じている」
俺はコンソールの電源を落とし、冷徹に状況を整理した。
「軍の上層部のように、欲望や保身で動く連中なら、威嚇や交渉で盤面を動かせる。だが、狂った正義を信奉し、本気で人類を救おうとしている知的なバケモノには、どんな交渉も通用しない」
俺たちはかつて、軍という理不尽なシステムをハッキングし、破壊した。
だが今度の敵は、システムそのものと同化し、「人類の強制進化」という狂ったルールを押し付けてくる神様気取りだ。
「現在、首都に降下したオリジンは残り11体。スメラギのログによれば、奴らの狙いは首都の各セクターに『ネットワーク拠点』を構築することだ。それが完了すれば、首都の市民を一斉にエクリプスへ書き換える『強制アップデート』が始まる」
俺がそう告げると、仲間たちの顔に明確な緊張が走った。
ただ生き残るための防衛戦ではない。数百万人の市民の命と尊厳を懸けた、タイムアタックだ。
「……軍の残党なんて目じゃない。ここから先は、世界のルールを書き換えようとする神様気取りとの、盤面の奪い合いだ」
俺は自身の左腕——リンと繋がって『真の共鳴』を引き起こした生体デバイスを見下ろした。
カイトの演算と、リンのフィジカル。そして、仲間たちのスキル。
「俺たちの『局所通信』を使って、奴らの狂ったシステムを粉砕する。……やるか、お前ら」
「当然だ。軍のエリートを叩き潰した次は、神様殺しか。落ちこぼれの俺たちには、お似合いのデカいミッションだぜ」
トーヤが最新型のガントレットを打ち鳴らし、獰猛に笑う。
「スメラギ隊長……いや、第一の原初は私たちが討った。残り11体も、私たちの意志で切り伏せる!」
リンが銀色の瞳に闘志を燃やし、空へ向けて大剣を掲げた。
軍という絶対的なシステムが崩壊した首都で、落ちこぼれの反逆者たちと、神を自称する化け物たちによる、人類の存亡を賭けた本当の戦争が幕を開けた。




