領域制圧と、スキルの合成(コンパイル)
首都・第4セクター。
巨大な電波塔がそびえ立つこの商業区画は、すでに二体目の原初によってネットワーク拠点へと作り変えられようとしていた。
『——警告。これより先は原初第弐号の制圧領域である。旧人類の侵入を許可しない』
電波塔の頂上——地上200メートルの高みから、機械的な警告音声が街中に響き渡る。
直後、上空から雨霰と降り注いできたのは、無数の魔力砲弾だった。
「うっ!? なんだこの弾幕!」
トーヤが慌ててビルの陰に飛び込む。
「塔の頂上からの超長距離狙撃による迎撃陣地ね。近づくことすら許さない気みたいだわ」
前衛のメイがシールドを構えながら舌打ちした。
「第零部隊の狙撃手だった個体か。たった一人で、一個大隊クラスの砲兵隊と同じ火力を出しやがる」
俺は戦術コンソールの盤面を見上げ、電波塔の頂上を睨みつけた。
敵は200メートル上空。あそこまで登り切らなければ、敵の中枢コアは破壊できない。だが、この弾幕の中を強行突破するのは、いくらリンの身体能力でも不可能だ。
「カイト。どうする?」
背中を預け合うように壁に張り付きながら、リンが大剣を握り直す。
「定石通りなら、地下ルートから数日かけて潜入するか、同等の火力で塔ごとへし折るかだ。……だが、俺たちはどちらも選ばない」
俺は自身の左腕——最新デバイスが埋め込まれた腕から、光ファイバーに似た魔力線を数本引き出した。
「これより、俺の適性率0%を中継地点とした局所通信を構築する。全員、デバイスのプロテクトを解除しろ」
「了解!」
俺の左腕から伸びたケーブルが、リン、シオン、トーヤのデバイスへと直接接続される。
バチッ! という火花と共に、4人の精神と演算領域が繋がった。
俺の脳内に、シオンの研ぎ澄まされた視覚、トーヤの魔力波形、そしてリンの熱い鼓動が同時に流れ込んでくる。鼻の奥がツンと痛み、一筋の血が流れるが、それすらも些細なノイズだ。
「スキルの合成を行う。……トーヤ、シオン! タイミングは俺のパルスに合わせろ!」
「……了解。射線、クリア」
シオンが身の丈ほどある対物狙撃銃を構え、上空から迫る無数の砲弾へと銃口を向ける。
「おうっ! やってやるぜ!」
トーヤが魔力ガントレットを打ち鳴らす。
「いくぞ。シオンの遅延発火に、トーヤの絶対停滞を上乗せする」
俺の演算が二人のスキルをシステムの外側で強制的に結合させた、その瞬間。
「——撃てェッ!!」
シオンの狙撃銃が火を噴いた。
放たれた極大の弾丸は、上空から降り注ぐ魔力砲弾のド真ん中に直撃する。
だが、爆発は起きない。
弾丸が着弾した瞬間、空中にトーヤの青白い結界がドーム状に展開され、爆発のエネルギーごと、その空間の時間を完全に『凍結』させたのだ。
「すげえ……空中に、見えない足場ができやがった!」
トーヤが自分の両手を見て歓声を上げる。
「——ナギ! シオンのクールダウンを強制スキップしろ!」
「はいはい、ブラック労働の極みね! 時間超越!」
ナギのサポートを受け、シオンが空中の砲弾に向かって次々と狙撃を繰り返す。
空中に、青白い結界のブロックが斜め上に向かって次々と形成されていく。
それはまるで、電波塔の頂上へと続く『透明な階段』だった。
「リン!! 道は作った!」
俺がケーブル越しに叫ぶより早く、銀色の閃光が弾けていた。
「ああ。すべて見えているぞ、相棒!!」
俺の脳内の演算が、局所通信を通じて直接リンの神経へとダウンロードされている。
どこに足場が形成され、何秒で崩壊するか。言葉を交わす必要すらない。
リンが跳躍し、空中に固定された爆炎を蹴り上げる。
敵の砲弾が次々とリンを狙うが、彼女が踏み込もうとする座標には、必ずコンマ数秒前にシオンの狙撃が着弾し、新たな足場兼、絶対防御の結界が形成された。
『——理解不能。旧人類のスキル拡張。物理法則の逸脱』
塔の頂上にいる第弐の原初が、信じられないものを見るように砲撃のピッチを上げる。
だが、遅い。
俺とリンの同期戦術、そして仲間たちのスキルの合成が織りなす極限の連携は、すでに敵の演算を完全に凌駕していた。
「——そこだぁぁぁッ!!」
最後の結界を蹴り砕き、リンが地上200メートルの電波塔の頂上へと到達する。
驚愕に目を見開く第弐の原初の白装甲ごと、極限共鳴による過剰励起が横一文字に薙ぎ払った。
『ギガァァァァァァッ!!』
両断された中枢コアが砕け散り、空を覆っていた魔力砲弾の雨が、嘘のようにピタリと止んだ。
「……はぁっ、はぁっ……。第弐の原初、撃破完了だ」
ケーブル越しに、リンの荒い息遣いと、確かな勝利の熱が伝わってくる。
「ああ。見事な跳躍だったぞ」
俺はケーブルの接続を解除し、ドッと押し寄せる疲労と頭痛に顔をしかめながらも、不敵な笑みを浮かべた。
個の力では絶対に勝てない圧倒的な暴力を、仲間たちとの連携でハッキングし、粉砕する。
これこそが、俺たち異端編成の真価だ。
「よし……これで、残る原初は10体。次のネットワーク拠点を潰しに行くぞ」
血を拭う俺の言葉に、仲間たちは誰一人疲労を見せることなく、力強く頷いた。
反逆者たちによる首都の奪還戦は、最高速度で加速していく。




