アナログの死神と、コンマ数秒の攻防
『ガァァァァンッ!!』
メインコンソール室に、鼓膜を破るような激しい金属音が響き渡った。
純白の光を放つリンの大剣と、カグラの漆黒の軍刀が交差し、凄まじい火花が散る。
「くっ……重い……!」
リンが歯を食いしばる。最新型のエネルギーコアで『過剰励起』の出力を120%にまで引き上げているリンと、片手で軍刀を振るうカグラの筋力が、完全に拮抗していた。
「素晴らしい出力だ。システムによる身体強化の限界値を超えているな。だが——」
カグラの隻眼が、冷酷に細められる。
「剣の軌道が素直すぎる。システムに『補正』された剣術など、百手先まで読めるわ」
カグラの軍刀が滑るように軌道を変え、リンの大剣の力を『受け流し』ながら、彼女のがら空きの脇腹へと吸い込まれた。
「リン、左へ0.3秒だけステップを踏め!!」
俺はキーボードを叩きながら、リンの脳内に直接指示を飛ばす。
「シィッ!」
俺の計算を信じ、リンが条件反射で身体をずらす。
カグラの刃がリンの制服を掠め、布地を浅く裂いただけで空を切った。
「ほう……?」
カグラがわずかに眉を動かした。
俺は額に冷や汗を浮かべながら、戦術モニターの数値を睨みつけていた。
(……なんてデタラメな動きだ。トーヤの『絶対停滞』の結界を、魔力ではなく純粋な『物理的剣速』だけでこじ開けてきやがった)
カグラの戦い方は、俺たちや他のエリート部隊が依存している『ソウル・レゾナンス』のシステムロジックから完全に逸脱していた。
スキルの硬直も、クールダウンの概念も存在しない。純粋な肉体の反射神経と、数え切れないほどの修羅場を潜り抜けてきた『勘』だけで、すべての攻撃を最適化している。
まさに、システムの枠外にいる「アナログの死神」だった。
『残り、03:30』
「カイト! カグラの後ろから、エリート部隊の増援が次々と入ってくるわよ!」
入り口でシールドを構えるメイが悲鳴を上げる。
カグラが結界を破ったことで、後続の兵士たちが雪崩を打ってメインコンソール室へと突入してきていた。
「雑兵は定石通りに動く! メイ、トーヤ、シオン、ナギ! お前たちだけで入り口を制圧し続けろ!」
「言われなくても! 『強制標的』!!」
メイが敵のヘイトを一点に集め、トーヤが結界で足を止め、シオンが『遅延発火』の爆撃で吹き飛ばし、ナギが『時間超越』でクールダウンを消し飛ばす。
『異端編成』の凶悪なループ戦術が、エリート部隊の波を次々と粉砕していく。
「見事な連携だ。だが、盤面の要が完全に無防備だぞ」
カグラは背後の部下たちが吹き飛ばされるのを気にも留めず、リンの剣撃を軽々と捌きながら、俺のいるメインコンソールへと肉薄してきた。
「させるかよッ!!」
リンが全身の魔力を暴走させ、カグラの背中へ向けて跳躍する。
だが、それはカグラの『罠』だった。
「その大振りのタイミング……待っていたぞ」
カグラが振り返りざまに、隠し持っていた魔力式の手榴弾をリンの目の前へ放り投げた。
「しまっ——」
空中にいるリンには、回避する術がない。
「シオン!!」
俺の怒鳴り声に反応し、後方のサーバーラックの上にいたシオンが、引き金を引いた。
放たれた対物狙撃銃の弾丸が、空中の手榴弾に直撃し、リンの眼前で爆発を相殺する。
「……チッ、優秀な狙撃手だ。だが、これで目障りな矛の体勢は崩れた!」
爆風を突き抜け、カグラの漆黒の刃が、ついにコンソールで身動きが取れない俺の首筋へと振り下ろされた。
『残り、02:00』
「カイトッ!!」
体勢を崩したリンが、絶望の叫びを上げる。
死の刃が迫るコンマ数秒の世界。
だが、俺の目は一切の恐怖を映さず、カグラの軌道を完璧に計算していた。
俺はタイピングしていた両手をキーボードから離し、一切の躊躇なく、カグラの刃に向けて『素手』の左腕を突き出した。
「なっ——」
カグラの隻眼が見開かれる。
『ザシュッ!!』
肉を断つ嫌な音が響き、俺の左腕が深く切り裂かれ、鮮血がコンソールに飛び散った。
だが、切断には至らない。骨の寸前で、俺は左腕の筋肉を硬直させ、カグラの刃を『肉で挟み込んで』完全にロックしたのだ。
「貴様……己の腕を犠牲にして、俺の剣を止めたのか……!?」
「言ったはずだ。勝利条件を満たすためなら、多少の変数は許容範囲だと」
俺は血まみれの左腕でカグラの軍刀を固定したまま、残った右手だけでコンソールのキーボードを叩き、リンの精神デバイスの制限を完全に解除した。
「リン!! 敵の回避ルートはゼロだ! 叩き斬れ!!」
「——あああぁぁぁぁぁッ!!」
着地と同時に地面を砕き、リンが特大の跳躍を見せる。
刀を固定され、即座に回避行動が取れないカグラに向けて、最強の矛による渾身の一撃が振り下ろされた。
『残り、01:00』
データ転送完了まで、あと60秒。
軍の処刑人との死闘は、最終局面へと突入する。




