300秒のカウントダウンと、防衛戦(ディフェンス)の幕開け
防衛軍総司令部、セントラルタワーの足元に位置する『中央通信ターミナル』。
国家の全魔力通信とネットワークを束ねるこの心臓部は、無数の防壁とエリート部隊によって守られていた。
だが、俺たちの『不可視の陣』の前に、デジタルな防壁は意味を成さない。
「……第3ゲート、通過。これで最深部のメインコンソール室だ」
俺の『適性率0%(バグ・ゼロ)』によるハッキングと、リクの『広域探知』が織りなす完璧な偽装網。監視カメラも、高感度の魔力センサーも、俺たち『異端編成』の歩みを一切捉えることはできなかった。
音もなく電子ロックを解除し、巨大なサーバールームへと足を踏み入れる。
部屋の中央には、青白い光を放つ巨大なメインコンソールが鎮座していた。
「よし、到着だ。全員、防衛ラインを構築しろ」
俺は素早くコンソールに物理接続し、ポケットから軍の『真実』が収められた物理ドライブを取り出した。
「ここから先は時間との勝負だ。俺がこのドライブのデータを外部ネットワークに一斉送信し始めた瞬間、膨大なデータトラフィックが発生し、軍のシステムに確実に検知される。当然、俺たちのステルスも解除され、警報が鳴り響く」
俺はコンソールのキーボードに指を置き、仲間たちを振り返った。
「送信完了まで、ピッタリ300秒(5分間)。その間、俺はハッキングとデータ転送にかかりきりになり、身動きが取れなくなる。……俺の命を、お前たちに預ける」
「へっ、今更だろ。カイトは黙ってキーボードを叩いてな」
トーヤが最新型の魔力ガントレット同士を打ち合わせ、獰猛に笑う。
「ここを通るエリート気取りは、全員アタシが引きつけてやるわよ!」
新調したシールドを構え、メイが入り口の正面——最も被弾率の高い位置に陣取った。
「……射線、確保。誰一人、ここへは通さない」
シオンは部屋の最後列、高いサーバーラックの上に陣取り、巨大な対物狙撃銃のスコープを覗き込んでいる。傍らには、強制リセットの役割を担うナギが待機していた。
そして、俺のすぐ隣。
リンが、最新型のエネルギーコアを組み込んだ大剣を静かに構えた。
「300秒だろうが3000秒だろうが、私たちが守り切る。……やれ、カイト」
リンの力強い声に背中を押され、俺はリターンキーを力強く叩き込んだ。
『——警告。不正なデータ転送を検知。ファイアウォール・レベル5、突破されました』
無機質なシステム音声と共に、部屋の照明が真っ赤なレッドアラートへと切り替わる。
同時に、俺たちの姿を隠していた『不可視の陣』が解除され、中央通信ターミナル全体にけたたましい警報音が鳴り響いた。
「カウントダウン、開始だ!」
俺の叫びと共に、コンソールのモニターに『05:00』の数字が点灯する。
『侵入者発見!! 第十三部隊だ! メインコンソール室を制圧されているぞ!』
『第一、第二中隊、直ちに突入しろ! 相手はたかが7人、数で押し潰せ!!』
部屋の外から、怒号と重武装の足音が津波のように押し寄せてくる。
数十人のエリート部隊が、一斉にメインコンソール室の入り口へ殺到した。
「来たわね……! あんたたちの相手はアタシよ!!」
入り口に立つメイが、『強制標的』を最大出力で展開する。
「なっ……身体が勝手に……!?」
「くそっ、あの盾持ちの女を先に狙え!」
殺到したエリート部隊の銃口が、彼らの意思に反して一斉にメイへと向けられた。
無数の魔力弾が降り注ぐが、最新型のシールドとメイの立ち回り(カイト)によって、致命傷には至らない。
「敵の足が止まったぜ! そらよッ!!」
「テスト一発目! 『絶対停滞』!!」
メイが敵を一点に集めたその直後、トーヤが地面を叩きつける。
発動のタイムラグを極限まで削った青白い結界が展開され、入り口に密集していたエリート兵たちの時間が、空間ごとピタリと停止した。
「シオン、まとめて吹き飛ばせ!!」
「——『遅延発火』」
シオンが引き金を引いた。
対物狙撃銃から放たれた極大のエネルギー弾が、3.5秒の計算された虚空の座標で炸裂する。
最新装備によって威力の跳ね上がった爆炎が、入り口で硬直していたエリート部隊を吹き飛ばし、悲鳴と共に瓦礫の山へと変えた。
「よし! 第一波、完全制圧!」
トーヤが快哉を叫ぶ。コンソールの時計は『04:30』。残り4分半だ。
だが——俺の背筋に、計算外の悪寒が走った。
「待て、トーヤ! 結界を解くな!!」
俺が警告を発した瞬間だった。
爆炎と土煙を切り裂き、ただ一人——漆黒のロングコートを翻した男が、トーヤの結界を『強引に斬り裂いて』飛び出してきたのだ。
「なっ!? 俺の結界が、物理的に斬られた……!?」
トーヤが驚愕に目を見開く。
「デジタルな罠に頼り切った、浅薄な連携だな」
眼帯をつけた隻眼の男——特務処刑隊隊長、カグラ。
彼は手にした漆黒の軍刀を振るい、メイの『ヘイト』を完全に無視して、一直線にトーヤの首筋へと肉薄した。
「トーヤッ!!」
『ガキィィィィィンッ!!!!』
間一髪。
凄まじい金属音が鳴り響き、カグラの軍刀を、リンの純白の大剣が真正面から受け止めていた。
「……ほう。この俺の剣速に反応するとは。ただの欠陥品ではないようだな」
カグラが隻眼を細め、冷たく笑う。
「悪いが、ここは通行止めだ。軍の飼い犬が」
リンが『過剰励起』の光を放ちながら、獰猛に笑い返す。
『残り、04:00』
システムに頼らない完全なアナログの追撃者と、最強の矛。
300秒の防衛戦は、予測不能の死闘へと突入した。




