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司令部の混乱と、アナログの追撃者

防衛軍総司令部、セントラルタワー最上層・作戦会議室。

巨大な円卓を囲む軍の上層部たちは、次々と報告される信じがたい事態に顔を青ざめさせていた。


「第3セクターの総合補給基地が略奪されただと!? しかも、最新鋭の魔力デバイスと武器弾薬だけがピンポイントで抜かれているだと!?」

恰幅の良い将官が、ホログラムモニターを叩き割らんばかりの勢いで怒鳴り散らした。


「は、はい! しかし、監視カメラの映像にも、魔力感知センサーのログにも、侵入者の姿は一切記録されておらず……警備にあたっていたエリート兵5名も、無傷のまま気絶させられておりまして……」


報告するオペレーターの声が震えている。

完全な密室空間での略奪。しかも、それを成し遂げたのは、昨日地下施設でエクリプスの群れと共に圧殺されたはずの『第十三部隊』の仕業である可能性が高い。


「馬鹿な! 適性率の低い落ちこぼれの寄せ集めが、我が軍の最新セキュリティを無傷で突破できるはずがない!」

「ですが、実際に最新装備は消えています! このままでは軍の威信が——」


『——無能共が。システムが吐き出す数字(データ)しか見えないから、そんな簡単なことにも気づかない』


会議室の扉が開き、冷ややかな声が響いた。

現れたのは、軍服の上に漆黒のロングコートを羽織った男だった。片目には旧時代的な眼帯をつけ、無精髭を生やしたその男の姿に、将官たちが一斉に息を呑む。


「特務処刑隊、カグラ隊長……! なぜ貴様がここにいる!」


「『事故死』に見せかけた暗殺部隊(クリーナー)からの定時連絡が途絶えた。尻拭いをさせられる俺の身にもなってほしいものだな」


カグラと呼ばれた男は、円卓の中央に歩み寄り、ホログラムの戦術マップを無造作に操作した。


「監視カメラに映っていないなら、カメラの映像自体がハッキングされていると考えろ。センサーが反応しないなら、センサーの数値を上書きされているだけだ。敵の指揮官は、戦術盤面(マップ)そのものを支配している」


「盤面を支配だと? そんな神業ができる人間など……」

「一人だけいるだろう。『適性率0%』という、軍のシステムから完全に弾かれた規格外(バグ)が」


カグラは眼帯の奥にある鋭い隻眼を細めた。


「奴らの狙いは、地下施設から持ち出した『真実(ブラックボックス)』の公開だ。デジタルな監視網はすべて捨てろ。これより我が特務処刑隊は、目視と足跡、そして『勘』という完全なアナログ手法でネズミ狩りを開始する」


最悪の追撃者が、カイトたちのハッキング戦術の「外側」から動き出そうとしていた。


◆ ◇ ◆


同じ頃。廃地下鉄のセーフハウス。


「——というわけで、現在軍の司令部は大パニックだ。俺たちの生存がほぼ確定的になったことで、防衛軍の全部隊に第一種警戒態勢が敷かれた」


俺が端末から傍受した軍の通信記録を再生すると、トーヤが新調したガントレットを鳴らしながらニヤリと笑った。


「最高だな。俺たちを落ちこぼれ扱いしてたエリート共が、見えない敵に怯えて震え上がってるわけだ」

「で、カイト。次はどう動くの?」

メイが尋ねてくる。


俺は持ち帰った物理ドライブを指差した。


「軍のメインフレームから引き抜いた『プロジェクト・エクリプス』の生データ。こいつを世界中のネットワークに一斉送信(パブリッシュ)して、軍の真実を暴露する。だが、データ容量が膨大すぎる上に、軍の外部接続ファイアウォールが厚すぎて、このセーフハウスの回線からじゃ送信しきれない」


「じゃあ、どうするんだ?」

リンが、磨き上げられた大剣を傍らに置きながら問う。


「力技だ。セントラルタワーの足元、第1区画にある『中央通信ターミナル』を物理的に制圧(ジャック)する」


俺がホログラムマップに表示した『中央通信ターミナル』は、軍の司令部と直結している最重要インフラの一つだった。


「ターミナルのメインコンソールにこのドライブを直接ぶち込み、俺の『適性率0%(バグ・ゼロ)』で軍の通信網を強制ジャックする。送信に必要な時間は、およそ300秒(5分間)だ」


「つまり、軍の中枢に殴り込んで、5分間その場所を死守(ディフェンス)しなきゃいけないってことね。……また無茶苦茶な計算式だこと」

メイがため息をつくが、その顔に恐怖はない。


「リクの『広域探知(フルスキャン)』を使ったステルスで、ターミナル内部への潜入自体は可能だ。だが、メインコンソールを起動した瞬間、ステルスは強制解除され、周囲の全エリート部隊が俺たちを殺しに殺到してくる」


「5分間の拠点防衛戦、か」

リンが立ち上がり、新しいエネルギーコアが組み込まれた大剣を構えた。


「上等だ。新しくなった私の『過剰励起(オーバードライブ)』とシオンたちのスキルがあれば、エリートの一個大隊が来ようが制圧してみせる」


「……計算終了。5分間、誰もカイトには近づかせない」

シオンも対物狙撃銃(アンチマテリアル・ライフル)を撫でながら静かに同意した。


「頼りにしてるぞ、お前ら」


俺は戦術コンソールを閉じ、立ち上がった。

軍の隠蔽する『真実(ブラックボックス)』を暴き、狂ったシステムを破壊するための、最大のミッション。


「作戦開始(ミッション・スタート)だ。エリート共の盤面を、完全にひっくり返すぞ」


俺たち『異端編成(ディセンタービルド)』は、ついに反逆の最終段階(フェーズ)へと足を踏み入れた。

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