非対称の潜入戦と、盤面(マップ)の略奪
防衛軍・第3セクター総合補給基地。
首都圏の防衛を担う正規部隊の武器弾薬、および最新鋭の魔力デバイスが保管されているこの巨大な施設は、当然ながら厳重な警備網が敷かれていた。
赤外線レーザー、魔力感知センサー、そして24時間体制で巡回する重武装のエリート兵士たち。
だが、その鉄壁の要塞の正面ゲートを、俺たち『異端編成』の7人は、まるで散歩でもするかのように堂々と歩いていた。
「……信じられない。本当に私たち、見えてないのね」
メイが周囲を見回し、引きつった笑いを浮かべる。
数メートル先を警備兵の2人組が通り過ぎていくが、彼らは俺たちの存在にまったく気づくことなく、素通りしていった。
「当然だ。リクの『広域探知』が捉えた監視網のデータを、俺の『適性率0%(バグ・ゼロ)』でリアルタイムに書き換えている。カメラの映像も、魔力センサーの数値も、警備兵のデバイスに送られる視界情報すらも、すべて『異常なし』という虚偽のデータ(ノイズ)で上書き(オーバーライド)されている状態だ」
「マジで反則じゃねえか。泥棒が監視カメラの映像をループさせてるようなもんだろ」
トーヤが感心したように口笛を吹く。
「静かにしろ。音までは完全に消しきれない。……第1保管庫、到着だ。ピッキングするぞ」
俺は分厚い電子ロックの扉にデバイスを接続し、数秒で暗号を解除した。
重い音と共に扉が開くと、中には防衛軍が誇る最新鋭の兵器や装甲が所狭しと並んでいた。
「さあ、ボーナスタイムだ。各自、今の自分のスキル特性に合った装備に更新しろ。遠慮はいらない、エリート共のツケ払いだ」
俺の言葉に、メンバーの目の色が変わった。
彼らはこれまで、軍から支給された型落ちの「欠陥品用」の装備しか使わせてもらえなかったのだ。
「うおおっ、これ第一部隊の奴らが使ってた最新型の魔力ガントレットじゃねえか! これなら俺の『絶対停滞』の展開速度が0.5秒は縮まるぜ!」
トーヤが歓喜の声を上げ、腕の装備を換装する。
「……すごい。熱排気システム付きの、対物狙撃銃……」
無表情なシオンも、その瞳をキラキラと輝かせながら、自分より巨大な黒塗りの狙撃銃を抱き抱えていた。これで彼女の『遅延発火』の火力はさらに跳ね上がるだろう。
「メイは防御力重視のシールドと軽量ブーツ、ナギとリクは精神負荷を抑えるための冷却デバイスを持っていけ。リンは……」
俺が視線を向けると、リンはすでに部屋の奥で、美しい流線型のエネルギーコアを手に取っていた。
「私の大剣の規格に合う高出力コアだ。これなら、私の『過剰励起』の限界出力をさらに120%まで引き上げられる。……カイト、反動の処理は任せていいんだな?」
リンが、挑戦的な笑みを浮かべて俺を見る。
「ああ。俺の演算領域も、この最新型のハブデバイスで拡張した。お前の最強の矛、存分に振り回させてやる」
全員の装備更新が完了した、その時だった。
『——カイト、マズい! 予定外の変数が来た!』
通信越しにリクの焦った声が響く。
「どうした?」
『補給基地の部隊長クラスのエリート兵が5人、そっちの保管庫に向かってる! おそらく抜き打ちの備品チェックだ!』
「……なるほど。システムを騙せても、人間の気まぐれなスケジュールまでは計算しきれないか」
俺は新調したコンソールを起動し、即座に盤面を再計算する。
「隠れるの!? それとも逃げる!?」
メイが新調したシールドを構えながら慌てる。
「いや」
俺は薄く笑い、仲間たちを見回した。
「新しい装備を手に入れたばかりなんだ。実戦を兼ねて、エリート共を完璧に『処理』する」
数十秒後。
第1保管庫の扉が開き、傲慢な顔つきの部隊長と4人のエリート兵が入ってきた。
「チッ、なんで夜中に備品の確認なんか……。おい、異常はないだろうな」
「はっ! 監視システムはすべてグリーン、ネズミ一匹入った形跡は——」
兵士がそう報告しようとした瞬間。
彼らの背後に、完全に気配を消していた『異端編成』のメンバーが音もなく立ち塞がっていた。
「——なっ!?」
部隊長が驚愕に目を剥き、警報を鳴らそうとデバイスに手を伸ばす。
遅い。
「——トーヤ」
俺の静かな指示と同時。
「テスト一発目! 『絶対停滞』!!」
トーヤが地面を叩きつけた。新型ガントレットの恩恵により、発動までのタイムラグはほぼゼロ。
青白い結界が展開され、警報ボタンを押そうとしていた部隊長たち5人の動きが、一瞬にして空間ごと完全に凍結された。
彼らは目を見開いたまま、声を発することすらできない。
「シオン、リン。音を立てずに無力化しろ」
「……了解」
シオンが新型の巨大な狙撃銃の銃床を振り抜き、結界の中で硬直している兵士の後頭部を的確に打ち据える。
「手加減が難しそうだな」
リンは新調したコアの重みを確認するように、大剣の峰で残りの兵士たちを軽々と昏倒させていく。
「トーヤ、解除だ」
「オラァッ!」
結界が解かれた瞬間、5人のエリート兵たちは一言の悲鳴を上げることもなく、糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた。
警報も鳴らされず、血の一滴も流れない、完全な無音の制圧。
「……完璧なシナジーだ。装備の性能が上がったことで、戦術の精度が劇的に向上している」
俺は倒れたエリート兵たちを一瞥し、彼らの胸からアクセスキーや軍の認識票を次々と奪い取った。
「さて、物資も手に入れたし、エリート共の顔にも泥を塗った。長居は無用だ、撤収するぞ」
俺たちは気絶した兵士たちを保管庫の中に転がしたまま、再び『不可視の陣』を展開し、闇夜に紛れて補給基地を後にした。
翌朝、防衛軍の司令部が「監視カメラの記録には一切何も映っていないのに、最新鋭の装備だけが根こそぎ消え去り、エリート兵が気絶させられていた」という怪奇現象に大パニックを引き起こすのは、言うまでもない。
反撃の第一歩。
幽霊となった『異端編成』の恐怖が、軍の盤面を確実に侵食し始めていた。




