勝利条件の再設定と、視界の制圧(マップ・コントロール)
今回から幕を開ける【第三章】は、巨大な軍組織に対する『異端編成』の本格的な反逆・下剋上編となります!
旧市街の外れにある、打ち捨てられた地下鉄の廃駅。
埃と鉄錆の匂いが充満するその暗がりが、今の俺たち『異端編成』の仮の拠点だった。
「ふぁ……あ……。俺、どれくらい寝てた?」
コンクリートの床に敷かれた毛布の上で、ナギが気怠げに身を起こした。
「丸一日だ。お前の『時間超越』の反動で焼き切れた脳神経を、カイトがずっと最適化して繋ぎ止めてたんだぞ」
見張りに立っていたトーヤが、安堵したように息を吐く。
周囲では、メイが乾パンをかじり、シオンが黙々と愛銃の手入れをしている。
「……おはよう、ナギ。無事で何よりだ」
俺は携帯端末から目を離さずに声をかけた。
手元では、あの地下施設から持ち帰った軍の『真実』——物理ドライブの解析が、ようやく最終フェーズに入ろうとしていた。
「状況を整理するぞ」
俺の声に、部隊の全員が顔を上げた。
大剣を膝に置いて座っていたリンも、静かにこちらへ視線を向ける。
「現在、俺たち第十三部隊は、軍のデータベース上で『地下施設の崩落事故による作戦行動中のMIA(行方不明)』扱いになっている。だが、裏ではあの暗殺部隊の増援が、血眼になって俺たちを捜索しているはずだ」
「完全に指名手配犯ってわけね。……で、これからどうするのよ? 逃げ続けるにしても、物資にも限界があるわよ」
メイが不安げに眉をひそめた。
「逃げる? 冗談だろう」
俺は端末を操作し、空間にホログラムの戦術マップを展開した。
「相手は国家規模のリソースを持つ巨大組織だ。まともに正面衝突から削り合えば、確率は100%こちらが負ける。だが、どんな理不尽なゲームにも、必ずシステムの穴(勝ち筋)が存在する」
俺はマップの中心——防衛軍の総司令部が位置する『セントラルタワー』を赤くハイライトした。
「このゲームの『勝利条件』を再設定する。俺たちの目的は、軍の兵力を全滅させることじゃない。俺たちが持ち帰ったこの『プロジェクト・エクリプス』の生データを、軍のメインフレームの最深部に直接叩き込み、全世界のネットワークへ強制公開することだ」
化け物を自作自演で生み出し、訓練生を犠牲にしていた真実。
それが公になれば、システムは根底から崩壊し、軍の上層部は完全に失脚する。
「なるほど、敵の核だけをピンポイントで破壊するわけだ。……悪くない」
リンの唇に、凶戦士としての獰猛な笑みが戻っていた。
「だがカイト、司令部なんてエリート部隊の巣窟だぞ。今の俺たちじゃ、近づく前に蜂の巣だ」
トーヤの指摘はもっともだった。
「ああ。だからこそ、マクロ戦術の第一歩が必要になる。……リク、準備はいいか?」
「うん、いつでもいけるよ!」
隅で複数のモニターを並べていたリクが、力強く頷いた。
「少数精鋭のゲリラ戦において、最も重要なのは『視界の制圧』だ。敵の目を潰し、こちらの目だけを開かせる」
俺は自身のデバイスを、リクのコンソールへと接続した。
彼が持つ『広域探知』の能力は、本来「索敵」に使うものだ。だが、俺の『適性率0%(バグ・ゼロ)』による管理者権限を噛ませることで、その性質を反転させる。
「リクの探知範囲内にある、軍の監視カメラ、無人ドローン、索敵システムのすべての変数を計算し、俺たちの姿が『映らない』ようにリアルタイムで映像データを改ざんし続ける。名付けて『不可視の陣』だ」
「えっ……それってつまり、監視網をすり抜けて、軍の施設に堂々と侵入できるってこと?」
メイが目を丸くする。
「理論上はな。だが、それだけじゃない」
俺はキーボードを叩き、最後のリターンキーをターンッ、と押し込んだ。
瞬間、俺たちの目の前に展開されていたホログラムマップに、無数の「赤い光点」が点灯し始めた。
「軍の監視ネットワークを逆ハッキングした。これで、首都圏に展開している軍の全兵力、暗殺部隊の巡回ルート、警備の手薄な隙間——すべての敵の動き(視界)が、俺たちの手の中にある」
「……相変わらず、最高にイカれたバグ戦術だな」
リンが大剣を担ぎ上げて立ち上がった。
敵には俺たちが見えず、俺たちには敵のすべてが見えている。
圧倒的な戦力差を、情報という絶対的なアドバンテージでひっくり返す。戦術ゲームにおける「視界の掌握」を完了した瞬間だった。
「さて、反逆の準備は整った」
俺はホログラムマップの一点——防衛軍の物資管理施設を指し示した。
「まずは失った物資と装備の補給だ。俺たちの姿が見えないのをいいことに、エリート共の倉庫から、堂々と最高級の装備を『拝借』してやろう」
暗がりの中、落ちこぼれたちの瞳が、反撃の狼煙にギラリと光った。




