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暴かれた真実(ブラックボックス)と、最悪の『変数』

旧地下施設の最深部。

エクリプスの残骸を踏み越えた先に、分厚い特殊合金で造られた巨大な隔壁が立ち塞がっていた。

「ここがサーバー区画の入り口だ。だが、軍の物理プロテクトが掛かっている。パスコードの総当たりでも解除に数時間はかかるな」

俺がコンソールのパネルを叩きながら言うと、隣に立ったリンが呆れたように鼻を鳴らした。

「数時間も待てるか。パスコードが分からないなら、ドアごと消し飛ばせばいい」

リンが巨大な大剣を構える。

俺は彼女の精神デバイスに接続し、その暴走しがちなエネルギー出力を瞬時に最適化(オプティマイズ)した。

「出力80%で十分だ。反動は俺が殺す。……やれ、リン」

「——『過剰励起(オーバードライブ)』!」

圧縮された純白の光刃が、分厚い合金の隔壁に一閃される。

轟音と共に、核シェルター並みの強度を誇る扉が飴細工のように溶け落ち、奥へと続く道が開かれた。最強の矛(アタッカー)による、物理的なハッキングだ。

熱気の立ち込める通路を抜け、俺たちはついにサーバー区画の中枢へと足を踏み入れた。

そこは、無数のケーブルが這い回る巨大な円筒形の空間だった。

中央には、青白い光を放つ旧式のメインフレームが鎮座している。それだけではない。壁沿いには、人間の背丈ほどある不気味な培養カプセルがいくつも並んでいた。

「……なんだ、ここは。病院か……?」

トーヤが周囲を見回し、嫌悪感に顔を歪める。

「カイト……」

リンの声が震えていた。彼女は培養カプセルの一つを見つめ、大剣を握る手を白くなるほど強く握りしめている。

カプセルの中は空だったが、内側には生々しい爪痕がびっしりと刻まれていた。

「リン、警戒を怠るな。俺はデータを引き抜く」

俺は中央のメインフレームに自身のデバイスを物理接続した。

俺の『適性率0%(バグ・ゼロ)』による管理者権限が、軍の旧式ファイアウォールを次々と食い破っていく。

数秒後、モニターに膨大なテキストと映像データが溢れ出した。

そこに記されていたのは、『プロジェクト・エクリプス』という名の、おぞましい実験の全貌だった。

「……やっぱりな」

俺は表示された報告書を読み上げ、吐き捨てるように言った。

「エクリプスは、宇宙から来た侵略者でも、突然変異の化け物でもない。……全部『人間』だ」

「人間……!? 嘘でしょ、さっき私たちが戦ったアレが……!?」

メイが悲鳴のような声を上げる。

「『ソウル・レゾナンス』の適合実験で精神負荷(オーバーヒート)を起こし、自我を崩壊させた防衛軍の訓練生たち。軍は彼らを治療するどころか、この地下施設に隔離し、さらに過剰な魔力を注ぎ込んで意図的に暴走させた」

モニターには、かつて人間だった者たちが、理性を失い、異形の化け物——エクリプスへと変貌していく凄惨な記録映像が流れていた。

「自作自演だ。軍は兵器開発の予算と権力を維持するために、自らの手で『敵』を生産していた。この地下施設は、化け物の養殖場(ファクトリー)だったんだ」

「……あ、ああ……」

リンが頭を抱え、その場に膝をついた。

彼女の視線の先、モニターに映し出された実験の犠牲者リストに、見覚えのある名前があったのだ。

「隊長……セツナ、先輩……。みんな、死んだんじゃ、なかったのか……っ」

かつてリンが所属し、彼女の暴走によって壊滅したとされていた部隊の仲間たち。

彼らは死んでいなかった。ここで、化け物に作り変えられていたのだ。

「カ、カイト! マズい、リクから通信だ!」

周囲を警戒していたトーヤが、血相を変えて叫んだ。

『カイト、逃げて!! その部屋の真下から、信じられない質量の動体反応が急浮上して——』

リクの悲鳴が途切れた瞬間。

俺たちの足元の床が、爆発したように吹き飛んだ。

「チィッ……!」

俺は咄嗟にリンの腕を掴み、後方へ跳躍する。

もうもうと舞い上がる土煙の中から、これまでのエクリプスとは比較にならない、圧倒的な魔力の奔流が吹き荒れた。

「……シオン、トーヤ! 構えろ!」

俺が叫ぶが、二人の顔は絶望に染まっていた。

「ダメだ、さっきの連続使用でデバイスが焼き切れる寸前だ……!」

「私も……引き金が、重い……」

先ほどの300体相手の戦闘で、ナギの『時間超越(オーバークロック)』による強制リセットを受けたツケが回ってきていた。

後方で気絶しているナギはもう使えない。俺たちの無敵のコンボは、現在完全に沈黙している。

土煙が晴れたそこに立っていたのは、二メートルを超える漆黒の装甲を纏った、人型のエクリプスだった。

その右腕は、異様に巨大化した大剣のような形状にねじ曲がっている。

そして、その胸元には——防衛軍の認識票(ドッグタグ)が、深々と埋め込まれていた。

「……セツナ、先輩……?」

リンが、呆然と呟く。

漆黒のエクリプスは、かつての部下であったリンの声に反応するように、首をゴキリと傾げた。

『ア……ァァ…………リ……ン…………』

ノイズ混じりの、呪いのような声。

それは間違いなく、軍に葬られた真実——かつての仲間が変貌した、最強にして最悪の『変数』だった。

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