4 星夜ユニ
「ごめんなさい。こんなことになって……うん。大丈夫。覚悟はしてたから」
また今度、と言って虚空に手を振ってから、星夜ユニは鈴華に向かって頭を下げた。
「すみません。助けていただいた上に、こちらの都合で待っていただいて」
「構わない。これ以上傷を広げないことの方が大事だ。それにたいした時間でもない」
鈴華が襲われているところを助けた被害者は、星夜ユニという名前で活動するアンダーストリーマー、つまり動画配信者だった。人のいない空き地にいたのも深部探索実況の前語りを行うのが目的で、トーク中に襲撃を受けたらしい。配信は継続されていたためユニは事態終息の対応を行う必要があり、少しの間鈴華は放置されていたのだ。
配信を閉じたユニは改めて自己紹介を行い、助けてもらったことへの感謝を述べる。
「たいしたことをしたわけじゃない。それに、相方は間に合わなかった」
「いえ、それは鴉さんのせいじゃありません。もっと、慎重になるべきでした。嫌なコメントとかする人は前からいましたけど、まさかこんなことになるなんて……」
後悔するように、ユニは首を振った。アンダーの世界に、国の法律や統治は届かない。アンダーで写し身がどうなろうと現実の肉体に影響があるわけでもなく、アンダーに潜るのは全てが自己責任と考えられているのだ。
「勘違いするな。悪いのは犯罪でないからと悪びれもせず人を襲う連中だ」
「そう、ですね。その通りです」
「襲ってきたのはやはり過激なアンチとかそういう類か?」
「いえ、たぶん、炎上系のアンダーストリーマーだと思います。あいつらも配信しているような言動をしていました」
「他人の配信に入り込んで目立とうとした、か。最近はその手の輩も多いな」
アンダーと現実世界とでリアルタイムに映像をやり取りする技術が確立したのはおよそ5年前。当時は随分と持ち上げられたが、今となっては昔の話だ。もともと個人での動画投稿自体は珍しいものではなかったし、アンダーストリーマーは1ジャンルとしての地位こそ築いたものの、すでに大量のコンテンツが視聴者を奪い合うレッドオーシャンとなっている。そのせいか、人に嫌われようと迷惑をかけようと目立てばそれでいいという考えで行動を起こすものも少なからず現れているのだ。きっと今回の件でもユニのファンが山ほど暴言を書き込みに行き、それが再生数のカウンターを回して広告収益を与える。荒れるもまた計算のうち。ほとんどのストリーマーは人の目に留まらず、何の話題にもならずに消えていくのだから。
その点、ユニはストリーマーとしてはかなり恵まれている。まず何よりも見た目がいい。写し身はほとんどが異形なので、姿形が人とほぼ変わらないのはそれだけで絵が映えるのだ。しかもユニの見た目は美少女で、同時に非現実的な美しさを兼ね備えている。特に長い黒髪はいくつもの光の粒を発しており、まるで夜空に輝く星々のようだった。
もちろんそれだけではないだろうが、ともかくユニはチャンスを掴み、配信者として成功していた。鈴華は具体的なチャンネル登録者数など知らないが、言動からして専業でやっていけるくらい稼いでいるようだし、それなり以上に有名なのだろう。
今後について相棒やスタッフと相談する、と言って去っていくのを見送ってから、鈴華もその場を後にする。この場にはもう手がかりはない。それでも残った戦いの痕跡が、アンダーに絶えない諍いの跡のひとつとして、世界に積もった。
次回投稿予定は明日12時です。
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