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夕凪 幽奈の欠陥推理  作者: tapioka
夕凪 幽柰の欠陥推理
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4/10

夕凪 夕奈の欠陥推理Ⅲ

「昨日のはお前たちの仕業か?」


「こられました?それはよかった。親友であるというので、いち早く教えてあげる必要があるかと思いまして」


「それぞれの家庭、交友関係の事情があるだろうが!!!」


リビングの隅から熊谷の怒号が響く。

大柄の男性が本気で怒りを露わにすると中々のものだ。

いつも接している警察関係者でさえも身震いしてしまう程の怒号を一身に、正確には二人に向けているのでニ身なのだが幽奈は右から左へ聞き流しながら部屋を見て回り、時は目を合わせているようで心ここにあらずの様子だ。


それに対してもストレスが溜まり、今にも大噴火を起こしてしまいそうではあるが、何事もなかったように澄んだ声が尋ねる。


「何か捜査に進展はありましたか?」


「てめえは多少なりとも反省しろよ」


「特にありませんね。依然として聞き込みは行っていますけど、目撃者の一人も出てきません」


飄々とした態度の幽柰に呆れ返る熊谷をよそに、師子堂が聞き込みの成果を言う。

熊谷は何の躊躇いもなしに情報を渡した師子堂を見るが、上からの指示なのでというように目を伏せて知らないふりをする。


警察の守秘義務はどこにいったのかといったところだが、そもそも目の前にいる探偵もどきが既に公開前の情報を伝えてしまっているので今さら感も否めない。


「守秘義務なんて、面目が丸つぶれるよりはましでしょう」


「いらねぇ混乱を起こすことになる可能性だってあるだろうが」


「今日の朝には全国ニュースですよ」


大差ない話であるとでも言わんばかりにのらりくらりと躱す。


幽柰はリビングに置いてあるカウンターキャビネット上の写真を一つ一つ確かめる。

既に故人となった郭さんと、妻である不和さんが仲良く並んで写っているものから、地質学者であるためどこかの岩場で撮った写真まで全部で18点程存在している。

右に10、左に8


「18ですか...。何かここから鑑識さんに渡したりしました?」


「そこは何も動かしていないはずですけど」


「...そうですか。これは確かに、簡単な依頼ではあったかもしれませんね」


と、幽柰は突然キビキビと動きだし、空き巣も目を見開く程早く棚という棚を開けていく。

突然の奇行に反応が遅れた熊谷だったが、すぐに止めようと一歩を踏み出した瞬間に、自分よりも小柄な時に腕を捕まれ動けなくなる。


「止めないであげてください。ほら、一応手袋もつけてますし」


にこやかな笑顔を浮かべながら易々と止められた衝撃は心にくるものがあったが、それでも現場を荒らされるという最悪の結果を防ぐほうが優先だ。

時を引きずってでも前に進もうとするがどれだけ前に行こうとしても進まない。


その細腕のどこに止めるだけの力があるのだと問いたくなるが、現場の人間が一人も動かない。

周りに指示をだそうと熊谷が息を吸い込んだと同時に幽奈が左手を振り上げる。


「ありましたー!」


歓声にも近いその声で勢いよく立ち上がる。

掴んでいたのは一枚の写真だ。

小走りで時の眼前にそれを、子供が自分の作った物を自慢するかのように見せつける。

それに対して掴んだ手の力を緩めずにうなり声をあげたが、その後小さくため息をついて顎で鑑識を指す。


「俺には何がなんだかさっぱりだよ。古そうな写真ってこと以外は分からん」


「ダメですね~。思考を停止しているじゃないですか」


「自分より大柄な男の静止に労力を割いているものでね」


先程までの丁寧な喋り口調はどこへいったのか、こちらが素なのか。

昨日現れた謎の美少女に加えて、今日はこの謎の青年に関しても謎が深まっていくばかりだ。


幽奈は鑑識に写真を手渡しした後、手を壁にして耳打ちをして玄関の方へと向かっていく。

滞在時間的には1時間と少し程と昨日よりも随分早い帰宅だ。

それに合わせて時も熊谷の拘束した右腕を離して軽くお辞儀をし幽奈の後ろにつく。


「あ、それと。明日には不和さんにお話しを伺えるようにしてください。弱っているとか関係なく、それで終わりです」


後ろを目の端で見るようにして明日の予定を話す。

被害者の妻である不破はショックによってまともな聴取ができないと伝えていたが、帰り際の彼女の視線は昨日からの子供ではなく、ツララのように鋭く冷たいものであった。


もっとも彼女にそんな感想を言えば、そんなに生ぬるいものに見えましたか?などと茶化してきそうではあるが。










-----------------------------------------------------------------------------------------------


「皆目、この事件の解決の糸口が一つも掴めないな」


「あの後も考えていてくれたんですか?それは殊勝な心掛けですね」


「まあ。あんな自信満々に言ってたら、解決も近いんだろうし、自分で考えることはしないとこの先で行き詰まりそうだ」


これからやろうとしていること自体、皆目どころか未だに手も足も出ないっていうのに。

日傘をご機嫌に回しながら軽い足取りで進む彼女の隣で、顎を抑えながら如何にも自身が名探偵であるかのように思考を巡らせる。

今向かっているのは、昨日も訪れたばかりの小洒落た喫茶店だ。

唐突の知人の死で動転していることは間違いないが、それでも彼女の撒いた布石を拾いに行かなければいけない。


もっとも、本日休業の看板があれば拾うどころか目的地にも行くことができないが。


曇り空で過ごしやすい気温である道を歩いていけば、コーヒーの香りと暖かな木の建物が見えてくる。

店内の明かりはしっかりと点いており、本日休業の心配は大方なさそうだ。

もちろんのことではあるが、二人にメンタルケアなどはできない。

時は心理学や福祉学などの講義は落とす以前に取っていないし、幽奈は人間性が少し欠落している。

サイコパスとは言い難いが、健常者とも言い難い。

なんとも度し難い哀れな生物だ。


扉を静かに奥に押し店内に一歩踏み入れれば、カウンターの向こう側には好印象の、しかして見るからに元気のない紳士がシンクやカップの掃除をしている。


ドアベルのささやかな音色とともにゆっくりと顔をあげ幽奈や時と目を合わせて静かに微笑む。


今日は二人横並びでカウンター席に座りコーヒーと紅茶、それにロールケーキを注文する。


「先生のことはお聞きしました。なんと言っていいのやら」


「ええ。長い付き合いですからね。堪えるものがありましたよ」


人前で見せる優等生モードに入った幽奈に合わせながら軽い会釈や表情を作る。

こんな探偵まがいの事をしていなければ、今頃は演劇の道に進む可能性さへあったのではないかと、ありもしない平行線を妄想しつつ時は耳を傾ける。


「こんなことを聞くのもあれかもしれませんが、最近先生に何か変わったことはありましたか?大学ではそんな素振りはなかったので」


香りよく紅茶をいれる手を止めずにマスターは目を伏せる。

考え込んでいるというよりも、何か言うのを(はばか)っているような印象を受ける。

ティーポッドとカップを静かに差し出しながらも小さく口を開く。


「郭さん――先生に何かあったとかはなかった気がしますが、奥さんには少し気になることがありましたね」


「奥さん。不和さんで間違いないですか?」


「ええ。先日、何やら見知らぬ男性と仲睦まじげに歩いていらしたので」


なるほど。

マスターが言い出しづらそうにしていたのも頷けるような内容だ。

他人に、ましてや一介の学生に対して話すようなことでもないのだ。

もっとも、被害者の郭さんとはある種最も縁遠い人物が聞いているわけではあるが。


しばらくするとコーヒーも差し出され、白い湯気が揺らいでいる熱いうちに一口つける。


「あれはどなただったのでしょうか。兄妹にしては似ていないというか――」


「不倫。でしょうかね」


「まさか!たまに夫婦揃って来店していただけますが、本当にピッタリの夫婦といった感じで」


不倫という不穏なワードに覆いかぶせるようにして否定する。

マスター自身も頭の片隅に浮かんでしまった言葉ではあろうが、信じたくないといった様子だ。

しかし、話を聞く探偵もどき達はすでに郭さんが亡くなられた理由に関しては十中八九それであろうと認識する。

幽奈は既にそこまで推理できていたのかもしれないが。


ティーカップをカチンとわざとらしく音を立てて置き、マスターの目線を自身の目に合わせる。

さも獲物を見つけた肉食獣かのようであるが、小柄な彼女ではせいぜい多少不気味なモルモットにしか見えない。


「そうですね。お二人は仲睦まじい方々でした。ところで、その別の仲睦まじいお二人が向かった先はあちらの方でしょうか」


そう言った幽奈は白く細い指を今自分たちが来た方向へと向ける。

マスターは静かに小さく顎を引き同意の仕草をする。

頭の片隅にでもあるのであろうその疑念を肯定しないためにも、押し黙って頷くという行為のみを行ったのであろうが、幽奈と時からすれば当然その可能性は考慮していた。

幽奈であれば最初から不倫によるものであろうと理解していたのかもしれない。


店内に静かなジャズの終わりがくる。

しばらくの間はフォークを皿にぶつける音とコーヒーを飲む音が響く。

正直言って気まずい。

時からしてみれば沈黙というのはどこか嫌悪感が積もってしまうものなので、どうにかしてこの空気を入れ替えたいものだが、空間を作り出した当の本人はロールケーキをおいしそうに頬張る。


逃げ出したいがためにコーヒーをいち早く飲み干して、先程の幽奈同様にわざとらしく音をたててカップを置く。

それに一瞬だけ肩をあげジトっと時を見つめる。


それでも律儀に紅茶を飲み切り立ち上がって帰りの支度を始める。


(そういうことではないんだけど)


心のうちで何故だか申し訳ないような気持ちになる時ではあったが、それでも彼女に合わせてスーツの上着を取る。

会計を終えて扉に向かおうと背を向けたそのとき、何かを思い出したかのように幽奈がマスターの近くへと向かっていく。


ポシェットの中からスマホを取り出し、手早く画面を操作した後にマスターに対して見やすいように画面を向ける。


「もしかしてなんですけど。奥さんと一緒に歩いていたのって、この方だったりしますか?」


その写真を一目見るや否や、優しく微笑みを浮かべていた紳士の表情が驚愕するように目を見開く。

それだけで、質問の答えが分かってしまうほどには動揺を隠せていない。


幽奈は口角を上げて笑みを隠そうともしない。

真実に近づいたのだろう。

確信に迫ったのかもしれない。

それの喜びによって笑みが止まらない様子だ。


いや、それは違うか。

彼女にとって真実などは大事ではあるが重要ではないのだ。

本気の歓喜を表情に浮かべるのは、彼女が彼女のために悪を殺した時なのだから。







-----------------------------------------------------------------------------------------------


「寄ってくか?」


「いえ。今回の事が全て終わってからで結構です」


スンと表情を落として答える。

能面の方がまだ表情豊かなように感じるほどに異質な真顔だ。

綺麗なのに怖さが勝る。


とはいっても、まだ昼前だ。

帰るにしても時間が余り過ぎて、この後何をするかも決めていない時は何も言わずにただ幽奈についていくしかない。

僅かな可能性を持っての問いだったが、結果的には彼女の高揚していた気分を高所から突き落としただけだった。

迷いない歩みで進む幽奈には何かしらの考えがあるからだろう。

しかしそれを聞けば教えてくれつつも小言を言われるに違いないので押し黙っている。


そういえばと、ポケットからスマホを取り出して通知を確認する。

コーヒーを飲んでいる最中にバイブレーションがあったので、確認しようと思った矢先に問答が始まり取り出せずにいたのを思い出したのだ。


一通のメール。


【件名:動向に関しての確認】

【差出人:久我羽場(くばうば) (がく)

【本文】

こんにちは。

今日も朝早くからお疲れ様です。

奈々様のご様子を伺いたくこちらから連絡させていただきました。

本メールを確認しだい返信していただければ幸いです。


妙に堅苦しい本文が端的に内容を伝えてくる。

スマホから視線を外し振り返ることなく歩き続ける背中を一瞥してから、フリック入力で簡単に返信を書き上げていく。


【本文】

お疲れ様です。

今日は特に激しく動くこともなかったので体調はよさそうに見えます。

依頼に関しても彼女の中で何か進展があったようなので、解決するのもあと少しかと。


時は敬語に慣れていなさすぎる。

部活動に入っていたのは遠い昔だったし、先輩とも基本的には敬語まがいのため口だった。

そのため毎度毎度あるこのやり取りですら苦痛だ。

何度も本人にメールを送ってくれないかと頼んでみたものの、幽奈自身がそれを拒否しているのでまともに取り合ってもらえない。


彼女の言い分としては「時君以外とはあまり連絡を取りたくない」という男としてはこの上ない幸福を感じる一言であったが、如何せん幽奈に対して恋慕がないので素直に不満しか残らなかった。


そんなこんなでやってきたのは、事件現場から2キロ程離れた商店街だ。

ガラスでできた屋根に、様々な種類の食べ物、衣服、雑貨の匂いが混ざり、人々の喧騒が絶えない。

近くにショッピングモールや、もう少し行けばそれなりに発展したビル群に向かうが未だにこの商店街は活気がある。


「不倫調査のためにここに来たのか?だとしても、商店街ってことはないだろ」


「まぁ、不倫調査というのは半分正解みたいなものですけど。別にデートスポットから洗い出そうとしていうわけじゃないです」


「んじゃまた何でここに?」


と、尋ねたところで幽奈は近くにあった婦人服を置く店に立ち寄った。

店員は茶髪にパーマの恰幅のいいおばちゃんだ。

こんなにもドラマやアニメで出てくるおばちゃんがいるものなんだなと、しみじみ時が思っていると幽奈はスマホを見せて先ほどのマスターのように問答を始める。


「すみませんお姉さま。こちらのお二人に見覚えはありますか?」


「あっら、お姉さまだなんて。どれどれ――ああ!小波さんの!ええ、ええ知ってるわよ。ここらじゃ有名なおしどり夫婦ってやつですもの!」


それはビックリだ。

不倫関係を作るほどに溝ができていた夫婦が、近所では評判のおしどり夫婦とは。

風見鶏もどちらにつけばいいか分からずビックリ仰天だ。


「お姉さま」という単語にまんざらでもない表情をした店員はペラペラと語りだす。


「たまに二人で買い物をしに来たりするわよ~、いつもニコニコしながらお喋りしてるんですもの」


「たまに、ですか。確かに教授もお忙しい職業ですからね。では、こちらの男性に見覚えは?」


「さあ~。ん?でも、一回だけここら辺で見た気がするわね。朝早くに、ゴミ出しの時だったから6時くらいだったかしら」


まじまじと画面を見つめ唸りながらも回答する。

それを受けて幽奈は「わかりました。ありがとうございます」とだけ言いまたも歩き始める。


その後も商店街の端まで同じような問答を繰り返しながら行脚する。

しかし、どの店も同じように「仲のいい夫婦である」、「ここら辺では見たことがない」という回答が返ってくる。

こんなもので収穫があったのか気になり時は幽奈の顔を見るが、表情は落胆など一切なくむしろ微笑みを浮かべている程だ。


聞き込みを終えて商店街入り口の端の方によってスマホに何か打ち込みながら幽奈は時に話す。


「明日で依頼は全て達成できますかね。特に問題もありませんでしたし、難題でもありませんでした」


「想像通りだったってことか?」


「想定通りですね。事がうまく運んだのは間違いないですけど、やっぱり急ごしらえの人はこんなものですよ」


そう言いつつ幽奈は肉屋を指さす。

あそこの店長も中々の大男であったが、随分と繊細そうな人だった。


「今日はメンチカツがいいです」


何を言い出すかと身構えていた時には、その一言に随分と苛立ちを覚えた。










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「さて、本日は本当にいい日ですね」


ダイニングテーブルを挟みにこやかに話し始める。

精神的に弱っているという情報もあったので務めて明るく接しているのであろう。


向かいに座っているのは今回の事件の被害者の妻、小波 不和だ。

絶賛不倫の嫌疑が探偵もどきの二人からかけられているが、肩を小さく震わせて目を合わせようとしない

配置的には小波 不和が1人で座り、その斜め後ろに警官が二人。

対してこちらは幽奈と時が横並びで、後ろには熊谷警部と獅子堂警部補が立ちこちらに睨みをきかせている。

昨日の事を根に持っているのか、二人への不信感か。

どちらにしてもかなり根深そうな問題であるので、要求を全面的に飲みこの配置となった。


幽奈的には不和と時の三者のみでの対話を望んでいたようだが、かなわずだ。


「それではお話を始めましょうか。はじめまして、小波 不和さん」


「弱っているところを追い詰めるんだったら摘まみだしてやるからな」


「熊谷警部は相も変わらず元気ですねぇ。大丈夫ですよ、この事件の種明かしをするだけですから」


種明かしという言葉に「は?」と口を開けるが、そんな細事を気にすることなく話始める。

あくまでも淡々と粛々とやるというコンセプトだったはずなのに、幽奈の口角は僅かに上がっている。


「それでは、この度の事件は本当に残念でした。とでもいいましょうか?近所で評判のおしどり夫婦さん?もっとも、それすら欺瞞なんでしょうけれども」


「な、なんの話でしょう…」


「心当たりしかないと思いますけど。端的に言えば、小波夫婦というのは所謂【仮面夫婦】だったのでしょう?」


「そ、そんなことは、ありません。私は、夫の事を愛していました」


顔をこちらに向けそう言い切った不和だったが、すぐに肩を震わせて下を向く。

それに対して幽奈は頬杖をつき、笑みを浮かべたまま不和に詰め寄っていく。

無論、言葉でだが。


「そうですか。ではどのようなところが好きでした?」


「そ、それが、何か関係があるんですか」


「ただの恋バナじゃないですか。そう身構えなくても、愛していたなら好きなところの一つや二つ出てくるでしょう?」


その問いに、渋々といった感じでポツリポツリと言葉を出していく。

優しいところ、料理をおいしいと言っていつもたくさん食べてくれるところ。

正直言って吐き気を催してしまうくらい他人夫婦の惚気は時に対してよく聞いたが、幽奈はそうでもないらしい。

むしろ飽きているようだった。


「あ、もういいですよ。ありきたりな一般論しか並べないじゃないですか」


「そんなことは!」


「いや、いいと思いますよ?確かに優しいとかは大事な部分です。私も時君の優しさに惚れていますし。でもね、今並べられたのはどれもこれも不和さん自身が気持ちいいと感じるものじゃないですか。優しくしてくれる、おいしいと言ってくれる。郭さん自身の特徴に関して何一つ触れてない。まあ、こちらもそれだけでは足りないと思って色々聞いてきたんですけどね」


そういうと、昨日プリントしてきた聞き込みした人物や内容をまとめたものをテーブル上に広げる。

当然ではあるが、これでも不倫の決定的な証拠にはならないが有力な証拠になる。

明らかに動揺はしているが、そもそもの問題がこれではない。

幽奈たちへの依頼は殺人犯の特定なのだ。


「さて、ここで疑問が浮かぶかと思います。私たちはこの三日間を不倫調査に当てたのかと。いえいえいえ、全然違います。お気づきの方もおられるかもしれませんが、これは殺人の動機です」


そこで熊谷から声がかかる。


「つまり。不倫がバレたから被害者を殺害したってことか!」


「まぁそうとも言えますけど。殺人犯は不和さんじゃないですね」


熊谷の発言に対して目を丸くするほど見開き見上げてくる不和だったが、幽奈が熊谷の意見を真っ向から切る。


「まあ、見過ごしたり隠蔽を図っている時点で殺人犯の一人と言っても過言ではありませんけど、虚言を吐く実行犯よりかはマシでしょう」


そして肩を震わせる不和へと真っ直ぐに視線を向けてゆっくりと囁く。


「あなた、夫が殺された結果の精神的なものじゃないでしょう、その震えは。というか、起床後にし死体を発見したというのも嘘ですね?いい加減貴女の口から教えてほしいですよ。一体全体、貴女は何に怯えているのですか?」


その一言で不和はびくっと大きく動き、そのまま耳を塞ぐように蹲り始める。

嫌なものを見ないようにする子供のように、その姿は小さく見えた。


「ふふ。やっぱり子供みたいな人同士が引っ張られあうんですね。ねえ、熊谷警部」


背後の大男が反応をしめす。

静かに幽奈は背後を向き上から見下ろしてくる視線を挑発的に見返す。

人差し指を真っ直ぐにたて、爪の先を熊谷の心臓目掛けて突き出す。


「小波 郭さんを殺害したのは貴方ですよね?熊谷警部。よろしければ、そのまま自死していただけませんか?」

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