第7章ー15
「ポルトガル人の銃兵を馬に乗せれば何とかならないか」
日本軍の下馬騎兵の一撃離脱戦法に苦しめられる余り、タビンシュエーティー国王が行った提案を、義兄のバインナウン将軍は、無言で退けざるを得なかった。
自分でも非礼であるとは分かっている。
とはいえ、それで済むのなら物事は苦労しない。
「何故だ。日本軍は出来ているのだろう」
「日本軍もやっていない。日本軍は、下馬して銃撃を浴びせ、銃撃を浴びせ次第、乗馬して逃げている」
「それなら、日本軍と同様の方法をやれば」
「ポルトガル人の銃兵は、馬に乗ることに慣れていない。騎兵にするのも一苦労だ。更に、日本軍と我々の銃の性能が全く違う。日本軍の銃の方が射程が長く、発射速度も同等以上だ。どうにもならない」
タビンシュエーティー国王とバインナウン将軍は、喧嘩に近い口論をする羽目に陥った。
そう、武田晴信少尉が提案し、更に日本軍が採用したのは、乗馬騎兵ではなく竜騎兵として、ライフル銃兵を活用するという方法だった。
正直に言って、この頃の日本軍の前装式ライフル銃は、完全に歩兵銃として採用された代物であり、乗馬して射撃するのは難しかった。
だが、日本軍の歩兵の多く、元足軽達は騎馬武者に憧れていたものが多く、それなりに馬に慣れていた。
だから、彼らを単に竜騎兵として活用するのなら問題は少ないし、ある程度、距離を置いて、散開して射撃を浴びせるという方法を活用すれば、日本軍を狩ろうと追いかけてくるビルマ軍の少数の騎兵を逆に伏撃することは困難でないどころか、痛撃を与えることも多かった。
そうしたことから。
「伊達家にこの戦法を教えてやりたいな。馬と銃をこのように組み合わせるとは」
「これは武田家の戦法です。伊達家に教えるのは慎んでいただきたい」
「オイオイ、これは日本軍の戦法だ。武田家、伊達家もないモノだ」
鬼庭良直大尉と武田少尉が軽い口喧嘩をし、戸次鑑連大尉が仲裁し、それを見た畑中健作少佐が苦笑いする事態が起きてしまった。
だが、この戦法の被害に遭うビルマ王国軍にしてみれば堪ったものではない。
実際に武田少尉の指揮下にある部隊は50人程だったし、バインナウン将軍ら、ビルマ王国軍の幹部も同様に見立てはしたが、ビルマ王国軍は対処に苦慮する羽目になった。
何しろ、ビルマ王国軍の戦車と言える象が、日本軍の襲撃の前に相次いで倒されていくのだ。
ビルマ王国軍の兵の士気は徐々に低下するようになった。
更に補給の問題も起きた。
象は確かに大量に食糧がいるとはいえ、その一方で大量の荷物を運べるという利点もある。
だからこそ、ビルマ王国軍は補給(及び予備の戦象)用として、約60頭の象を使ったのだが。
それらを武田少尉らは狙い撃ちにした。
これは戦象を狙うよりも、そういった象を狙った方が、銃撃に怯えやすいだろう、という日本軍の発想からだったのだが、実際に効果的で、補給用の象が4日目になると完全に怯えるようになってしまった。
こうなると補給部隊が前に進まなくなり、戦闘部隊も前進に苦労するようになる。
「補給用の象をビルマ本国に送り返してしまうか」
「しかし、その象の護衛をどうする。それに象が運んできた補給物資をどうする」
「まさか、象が重荷になるとは」
ビルマ王国軍上層部は頭を痛めることになった。
象が簡単に戦場以外で、行軍する際に倒される事態が多発するとは。
象が無敵の存在ではないことは、ビルマ王国軍とて熟知している。
しかし、実際問題として、これまで象は極めて対処が困難な存在であり、だからこそインドや東南アジア等で象は戦場に君臨する存在だったのだ。
それが、逆に足を引っ張る事態が発生するとは想定外だったのだ。
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