第7章ー16
「少し策が上手く行きすぎたかな」
「勝ちは精々、7分が最上と言いたいところですな。勝ちすぎると慢心してしまいます」
「しかし、ビルマ王国軍が動きが完全に鈍った今、挑発すれば、恐らくビルマ王国軍は喜んで決戦に応じてくれるだろう。そこを叩ける限り叩けば、シャム王国は当分の間、ビルマ王国の脅威を無視できるようになり、国王の成長を安心して待てるようになる」
畑中健作少佐以下、日本軍の幹部は、進軍が遅々としたものになったビルマ王国軍の様子を見て、そんな会話を交わしていた。
ビルマ王国軍の迎撃に対して、シャム王国軍が安心して差し向けられる兵力と言えるのは、約2000といったところだった。
何しろ軍の最高司令官であるウォーラウォンサー将軍を暗殺し、その側近の軍幹部の多くを投獄等して粛清したのだ。
軍が弱体化するのは止むを得ない話だった。
かつて、輜重も併せれば1万余りの兵を、優に集めることができたシャム王国軍は完全に弱体化しており、首都アユタヤの治安維持等のための後方兵力も残さねばらない以上、シャム王国軍がビルマ王国軍に向けられる前線兵力として計算できるのは、この時は約2000というのが辛い現実だった。
だが、ポルトガル人の銃兵から没収した銃を装備することで、その内の400は銃兵として計算できるようになっており、質は一応は向上している。
こうしたことから、日本軍の前線兵力約400というのは、極めてシャム王国軍にしてみれば心強い存在であり、日本流にいえばシャム王国軍の軍配が実質は畑中少佐に預けられているというのが現状だった。
とはいえ、畑中少佐にしても、この時代の実際の戦術等にそんなに強い訳ではない。
だから、戸次鑑連大尉等、この時代の元武将(?)の軍人の知恵を活用して戦うことになっていた。
「そうなると、決戦に相応しい土地がいるな。どこがいい」
畑中少佐の問いに、戸次鑑連大尉は絵地図を示しながら、自分の考えを話した。
「相手は戦象を切り札として使いたいでしょう。そうなるとアユタヤ西方のこの辺りの開けた平野に誘い込むのが良いかと」
「成程、戦象を展開するとなると平野で戦いたいだろうな」
畑中少佐は、その意見に同意した。
なお、シャム王国軍は、今回は戦象を随伴していない。
前からいたシャム王国軍の象使いの多くが、ウォーラウォンサー将軍寄りの幹部の下にいたこともあり、政治的に信頼できなかったのだ。
ビルマ王国軍が、その情報を察知していないとは考えにくい。
だから、平野で戦象の優位を活用して戦えるとなれば、決戦に応じたくなるだろう。
だが、それが罠ならば。
「私が囮役になりましょうか」
鬼庭良直大尉が、提案した。
「やってくれるか」
「私の中隊が、疎林を活用して一斉射撃を浴びせ、撤退します。ビルマ王国軍は追撃に掛かるでしょうが、罠を警戒して、それは遅々としたものになる。私の中隊は、鎧を着ていない軽装ですから、まず逃げるのに成功するでしょう。それを繰り返して、平野に誘い込むのです」
畑中少佐に、鬼庭大尉は更に進言し、周囲は唸った。
「よし、それでいこう」
畑中少佐は決断した。
バインナウン将軍の内心は疲労しきっていた。
何しろ、日本軍が臨時に編制した竜騎兵の遊撃戦により、象が傷ついていき、更に思うように動かないことから、ビルマ王国軍の進軍がままならないのだ。
だから、鬼庭大尉の露骨な挑発戦術に思わず掛かってしまった。
「撃て」
鬼庭大尉の銃兵は、火縄銃である。
だから、それなりに接近しないと射撃できない。
従って、日本軍はビルマ王国に姿をさらし、更に逃げることになった。
「何としても追いかけろ」
バインナウン将軍は思わず追撃を開始した。
ご感想等をお待ちしています。




