第25話 白塊黒塊の力
巨大なパラス族の得物は槍。
作りも荒い、ほとんど鉄の棒のようなやりだが、それでも剛力によって振るわれれば脅威以外の何物でもない。ハヤテが避けて背後の大木が粉々にへし折れていく様はなかなかの迫力だった。
「速さも段違いだが、何よりほかのパラス族を物のように使ってくるのはいかにもだな!」
ハヤテの足を止めるために味方をけしかけ、そして、味方ごと粉砕する。
何とも非道な戦い方だ。
さらにその機動力は巨大な狼によって強化されている。
普通の人間ならその巨体に引っかかっただけで吹き飛ばされるだろう。
その爪や牙による攻撃も鉄の盾でも防げるかどうか……直撃を受ければひしゃげることは疑いようもなかった。
「どう? 大体実力は把握できた?」
『ご足労をおかけします。目視下でのデータ収集は十分です』
「多脚のリーダーと比べてどうだ?」
『攻め方のパターンからも知性は遠く及びません。
武器など道具の扱いも含めて、まるで相手になり得ません。
身体能力はやや劣る程度ですが、使用している武器の世代が遥かに劣るため、敵ではありません』
「カフェルやマイアたちがこいつらと戦った場合はどうだ?」
『訓練次第ですが、マナを利用しない戦闘方法の場合、武具の近代化が必要になります』
「わかった。それじゃあ必要な情報は集まったのなら、終わらせよう」
嵐のような敵の攻撃を避けて受けて、一瞬でも気を抜けば危険な一撃を食らう可能性があるように見えて、まるで雑談のようにハヤテは白塊、黒塊と会話を重ねていた。
「わかっているな? あの使役虫も処理するぞ? 先に殺すなよ?」
『わかっておりますマスター、それでは、リーダー級を無力化します』
迫りくる槍を、いともたやすく片手で止める。
そのまま腕の根元を刀で切り捨てる、すぐに棒状に変化し、狼に跨っている両足を破壊する。
最後に残った腕も一刀の元に切り捨てる。
瞬きをする間に、それら全ての行動を終えて、リーダーを地面に叩き落す。
『無力化終了、使役虫処理に入ります』
何が起きたのか理解が出来ない周囲のパラス族、サラには巨大狼、しかしハヤテはそのへばりついているカタツムリのような虫体と甲殻部分に手をかざす。
『発火』
軟体部分にかざした手がいきなり燃えさかる。
軟体部分は身をこわばらせるように一瞬狼から虫体がはがれる。
次の瞬間、甲殻を握っていたもう片方の腕でその虫が狼の頭部から引きはがされた。
『焼却』
ぽいっと空中に虫体を投げるとかざした手から真っ白な光線が虫を包み込み、一瞬で蒸発させる。
『こちらも焼却』
最後に地面に横たわり、ようやく自分の体に起きた変化に気がついたであろうリーダーパラス族に向けて先ほどの光線を放つ。
一瞬で消し炭へと変わるパラス族……
目の前で起きた出来事が理解できずに立ち尽くすパラス族も多かったが、すぐに次の獲物が自分たちであることを思い出した。しかし、思い出すのが遅すぎた、ハヤテがその場を蹂躙するのに、大した時間は必要としなかった。
『周囲敵対勢力は排除されました。横穴の内部にも敵対勢力反応はありません』
「ご苦労様、白塊、自立モードになって周囲狼達を出来る範囲で治療、抵抗されるなら放置で構わない。頼んでいいか?」
『イエスマスター』
ハヤテの身に着けたボディーアーマーから白塊がずるりと落下し、自走する△コーンみたいに姿を変える。巨大なオオカミの頭部に触手のようなものを伸ばして状態を把握していく。
現状白塊が可能な治療を行って、その後もつぎつぎと狼を診療していく。
白塊内臓の治療方法によって可能な治療を処置していく。
パラス族に操られ乱暴に扱われた者、さらにはいたずれに乱暴されたものなど、怪我をした狼達は不思議とハヤテ達の治療を拒むことは無く、静かに巨大な狼を囲うように待っているかのように大人しくしていた。
『終わりました』
「そうか……白塊黒塊待機モード」
ハヤテのバトルスーツがシュルシュルと解かれ、二つの腕輪の姿に変形していく。
「あの大きな狼の状態はどうだった?」
『使役虫の触角は適正に排除され周囲への後遺症は最小限に食い止めてあります。
パラス族を退治後、急速にマナが集まって傷を治し始めていた可能性があります』
その報告に呼応するように、巨大な狼はゆっくりとその頭を上げて目を覚ます。
【ここは……】
「おお、話せるのか……」
声に反応してゆっくりと狼がハヤテの方を向き直る。
【獣人ではないようだな……どうやら世話になったみたいだ……】
「周りの狼も話せるのかい?」
【いや、私は多くのマナに好かれているのでそれを介して意思疎通が出来ている。
どうも記憶がはっきりとしない……私はどうしたのだ?】
「あまり細かいことはわからないので、わかることだけ……」
ハヤテはその狼がパラス族に操られていたことを中心に説明する。
【そうか……私も、そして仲間も大変世話になった……よっと……】
ややふらつきながらも狼は立ち上がる。
パラス族に操られていた時よりも威風堂々として迫力があるようにハヤテは感じた。
【マナの加護に感謝を……】
狼は祈るように目をつぶる。周囲では他の狼も同じように目をつぶっていた。
【汝の名はハヤテでいいのか?】
「ああ、だがどうして知っている」
【我らが大いなる父が、声に耳を傾けろと言っている】
「大いなる父……? 星のやつか? 声って……話しかけてくればいいのに、ってあっちのことか?」
ハヤテはタブレットを取り出す。
そのとたんにリアルタイムでメッセージが洪水のように流れ込んでくる。
読もうとすると新しいメッセージが入ることにイラつきながら、ハヤテは大量のスパムから重要な情報を探す苦行を強いられるのであった……




