第24話 谷底の戦い
細く荒れた道を谷底へ向けて降りていく、ハヤテは狼達が見事な身体能力で壁面の特記などを利用しながら谷底へと降りていくのを感心しながら眺めている。
「大人数出来たら、ここで襲われていたかもな……やっぱり一人できて正解だった」
壁面を自由自在に行き来できる狼と違って人間はこんなところから落ちたら転落死か大けがはまちがいない。ハヤテ自身であれば、たとえこの場から落とされようとも問題なく着地できる。
先ほどから何頭かハヤテにつっかけてきては返り討ちに遇い気絶させられていた。
それからは距離を取りながら並走するように谷底へとついてきている。
しばらく道を進んでいると平坦な道が続いて目的の場所から遠ざかりながら下っていく道になっていた。
「ふむ……白塊、暗視モード」
谷底を覗いていたハヤテの視界が急にはっきりする。マップと比較して目標の地点を視覚強化で捉えようとする。
「あった……なるほど、そりゃ狼たちは怒るな……」
救助艇から少し離れた場所に狼達が密集しており、子供も周囲をうろついている。
どうやら救助艇は偶然狼たちの巣の側に着陸してしまったようだった。
「できれば、回収だけして帰ってあげたいんだけど、ま、なんとかなるだろ」
ハヤテはまるでそこに床があるかのように細い道から谷へ向けて歩き出し落下する。
しばらくの自由落下、そして谷の底、ハヤテは普通の一歩を歩んだかのように静かに着地する。
突然のハヤテの落下に、狼達は虚を突かれたが、皆必死にハヤテの前に駆け下りてくる。
そして、巣を守るように唸りながらハヤテを囲い込んでいく。
「……俺は手前の救助艇を回収したいだけなんだけど……聞いてくれはしないよな……」
それでも、なんとなく出来る限り狼達を傷つけたくなかった。
ハヤテは走行ルートを反り立つ壁面に描いて狼達をパスする作戦を取るために壁に向かって走り出す。
そのまま壁面を走っていく、何が起きたのかわからない狼達も、ハヤテが急速に巣に向かっていくことを黙って見過ごすことは出来ない、一部の狼達がハヤテに飛び掛かってくる。
しかしハヤテはまるで壁面を地面のように自由自在に移動して次々に狼達を避けていく。
「見えた!」
飛空艇が視界にとらえられる。周囲には狼の気配はない。さらに加速して後方に狼を置いていき、飛空艇に向かって本来の地面を駆けていく。
「エマージェンシーコール緊急浮上! 上で俺を回収しろ!」
飛空艇周囲の空気がぶわっと震えて、飛空艇が空に浮かび上がっていく。
ハヤテは強く地面をけると飛空艇の上に飛び乗る。
それに合わせてコックピットの扉が開き、飛空艇に飛び込む。
「目視でしか確認できない、センサーオフで手動コントロールする。
谷から出たらすぐに着陸する」
コックピット内の計器がその声に反応するように周囲の景色を映し出す。
操縦かんを握りハヤテは救助艇を空に向けて発信させる。
「邪魔したな……」
横目で谷底の巣に挨拶をして、飛び立とうとしたその瞬間、谷の壁が爆発するように爆ぜた。
「なっ!?」
砂煙と一緒に人影が谷に飛び出していく。
異形の姿、パレス族だ。
「そうか、近くに巣があると言っていたな……クソッ……大丈夫だよな!?」
引き返すか、一瞬躊躇するが、ハヤテは逆に加速する。
あっという間に谷を抜けてすぐに近くに着陸する。
「封印解除! これには何が……よっしゃ! 黒塊!
緊急解除、マスターコール起動!」
『マスターハヤテと確認。起動します』
封印された箱が開き、白塊と同じような腕輪が現れる。
ハヤテは急いでそれを身に着けると再び谷へと向き合う。
「一時封鎖、再び戻ってくるまでその場で待機」
救助艇の扉はすべて閉じられ再び沈黙する。
ハヤテは迷うことなく谷底へと身を躍らせる。
「黒塊、白塊、近接戦闘モード」
『イエスマスター、白塊より情報共有、現状に最適な形態をとります』
「狼は殺すな、敵は多脚族に似た虫人間だ」
『了解しました』
スーツの一部が黒塊と同化して黒塊が武器へと変化していく。
3メートルほどの棒状の武器へと姿を変える。
その変化と同時ぐらいに再び谷底へと着地する。
谷底は酷い有様だった。パラス族が狼たちの巣を荒らしてどうやら狼達を操作して跨っている。
そして子供の狼や雄であろう狼達と戦いながら、残虐に殺していた。
「見えたな? すぐに戦闘を開始する」
『バトルモードオン』
次の瞬間、ハヤテの姿がその場から消える。
同時に、狼に跨って子供の狼にこん棒を叩きつけようとしていたパレス族の頭が吹き飛ぶ。
「……多脚と一緒か……神経に侵入して操作……どうやらこの星に落ちた戦闘機は多脚もひっかけてきたみたいだな……どうやら俺にも戦う理由がはっきりしたな」
狼に突き刺さったパレス族の腕から伸びる針を静かに抜いていく。
この作業は非常に精密な操作を必要とするが、白塊、黒塊の補助を受けて、何事も無いように引き抜いていく。
その様子を見て怒り狂ったパレス族がハヤテに襲い掛かってくる。
「俺はやっぱりお前らが大っ嫌いだよ!」
狼に跨り、得物を振り回してくるパレス族は、自分が何をされたのかもわからずハヤテに蹂躙されていく、周囲のマナを食らい、強化を奪えば数で押し切っていた自分たちの戦闘が、まったく役に立たない。
そのことを自覚する間もなく一撃のもとに頭部を破壊され絶命していく。
適当に突っ込んできたパラス族を蹴散らしたハヤテは、狼に突き刺さったとげを丁寧に抜いていく。
「……運が良ければ助かる……」
谷の壁に開いた穴からは次から次へとパレス族が出てくる。
そして、周りの狼を探している。利用する物を探すようなそのそぶりにハヤテのイラつきがまた高まっていく。
「ほんっと、てめらはどこでも碌なことしねーなー……」
仲間の死体に針を刺して弄んでいた多脚族の記憶が、ハヤテの脳に怒りの火をつけて行く。
風のように敵の中へ駆けていく、ハヤテの心情を理解したように黒塊はその都度形態を変化させてパラス族を破壊していく。
状況を理解し始めたパレス族が穴から出てくる仲間をかき分けて逃げ出そうとする。
その結果穴の周囲に混乱が生じる。
「弱い物を弄んで、少し風向きが悪ければ脱兎のごとく逃げ回る。ほんっとにお前らは不愉快だ!」
狼を使役している奴らを倒し切った頃には、巣にいた狼で無事なものは周囲に離れてこちらの様子を見ている。
どうやらパレス族を敵とみなし、その敵と戦っているハヤテには襲い掛かるのを辞めたようだった。
穴の近くで混乱しているパレス族を切り刻むように退治していく。
ノイズのように【助けろ】【逃げろ】という声が聞こえてくる。
それもまた非常に不愉快であった。
ハヤテが一方的な虐殺をして、穴に攻め込もうとした時、穴から異形の生物が現れる。
その生物が現れると、周囲にいた狼達が一斉に唸り声をあげて怒りを露わにする。
「こいつは……」
体は巨大な狼、その頭部にはカタツムリのような甲虫がへばりついていた。
「なるほどな、主を使役虫で使っているのか……そりゃ狼は怒るよな」
その巨大な狼の背にひときわ大きなパレス族が乗っていた。
多脚族にもいるリーダーと呼ばれる特殊個体と似たようなものだとハヤテは理解していた。
リーダーは普通の個体よりも圧倒的な身体能力を有しており、特殊な能力を持っている場合も多い。
「注意しろよ白塊、黒塊」
『もちろんです』
頼もしい相棒の言葉にハヤテは口角を上げる。
「さぁ、いくぞ!」




