4
ミスに気づき、訂正しました。まだあるかもしれない恐怖に震えてます。
私は今、四肢を拘束されて身動き一つ取れない状況下にいる。何故こうなったのか、考えるとライさんのスキンシップから逃げて、獣人になったからか上がった運動神経を駆使し、人気のない裏庭?らしきところに来たのが原因だと思う。むしろそれしかない。
おそらく双眸は動揺に揺れ、指先はわなわなと現状に震えているだろう。だって小刻みに動く指が見えるからね。ああ、しかしどうして――――。
戦慄く口で、私は呟いた。
「もっふもふ天国」
ねこあつめをした訳ではないのに、集まってきた大量の猫達によって私は動けない。でも幸せだから問題はなにもないです。
「今なら死ねる・・・!」
肩に、頭に、座り込んだ膝に、背中に、私の傍に寄り添うように集まった猫に恍惚とした表情を浮かべ、私は今にも昇天しそうな空気を出しているだろう。ああ、久しぶりの猫!本物の小動物!アイラブ猫!大好き猫!ふわふわ天国万歳!猫は尊い!!
猫の獣人になったままだけど、それすらどーでもいいとすら思える程だ。今なら別に猫の獣人のまま・・・は、やっぱり嫌だ。早く人間の姿になる擬態、と言うのを教わらなければっ!・・・・・・でも今は、猫が優先。ああ、猫は素晴らしい。
「何してんだ、リィン」
「癒されてるぅ」
「・・・へぇ」
だからルシルフルを伴って現れたライさんが、冷ややかな眼を向けても気にしない!・・・いや、猫に向けてるから気にはするけど、まさか猫に嫉妬とかしないでしょう。猫に。
愛玩動物相手に嫉妬する魔王陛下ってどうよ。しかも怠惰の魔王が。
嫉妬の魔王ならともかくとして、怠惰の魔王が猫にまで嫉妬するなんて笑えるんですけど。
「俺を見ろ」
とか、馬鹿なことを考えていたら顎を掴まれ強制的に視線を合わせられる。
え?もしかしてさっきの阿呆な考え、あながち外れてない?いやいやい、そんな・・・え゛?
「俺から逃げる程、猫が好きなのか」
熱を帯びた瞳に見つめられ、身体が硬直した。
それは、深読みすれば「俺よりも猫が好きなのか?」と言うことでしょうか?勘違いとか思い違いじゃなくて、本気で私に言って、猫に・・・嫉妬した?
ぼっと沸騰したと錯覚する程に身体が熱くなった。
腕に力を入れすぎたのか、抱いていた猫が抗議の声を上げた。口が酸欠の魚のように動く。何か言いたいのに、声が出てこない。何一つ、言葉が思い浮かばない。
冗談でしょう――――はぐらかす言葉すら、喉から音になって表れなかった。
「逃がすつもりはない」と言われたから3日。まさか猫相手に嫉妬して、そんな台詞を私の人生で聞くことになるとは思わなかった。照れや恥ずかしさもあるけど驚きもあり、何だか胸が痛い。
ライさんのような絶世の、がつくイケメンにそんな言葉を言われるなんて心臓に悪い。この動機はそのせいだ。私が心臓発作で死んだら、どうしてくれるのかな。
「ぁ・・・のライ、さん」
動揺して声が震える。
「そんな猫より、俺だけを見てろ。いいな、リィン」
有無を言わせぬその台詞に、反射的に首肯してしまった。
と言うよりも、近すぎる距離に耐え切れずに頷いてしまった。が、正しいかもしれない。
「良い子だ――――リィン」
子供に言うような台詞を、甘く切ない声で言わないで欲しい。
胸が締め付けられて、苦しくなる。こんなの私、知らない。グレンといた時は気恥ずかしい思いが先にあっただけで、こんな・・・胸に何かを感じることなんてなかった。
唖然と、間の抜けた顔でライさんを見つめる。
・・・・・・随分と、距離が近いような気がするのは私の自意識過剰だろうか?
「なぁ、リィン」
互いの額が重なり、視界がぶれる程まで近づいた距離。自意識過剰じゃなかった。近い、近すぎて唇がくっつきそうっ。と言うより、くっつく距離!
え?何?私、キスされるの・・・?
これ以上無理、と言うほど高くなった熱がさらに上がった気がする。
「ちょっと痛いけど我慢しろよ?」
「ふぉ?」
予想と違う言葉に変な声が出た。
衝撃が走った。
煌びやかな星が目の前を舞い、ちかちかと光っている。そして痛い。物凄く痛い。おでこが割れるんじゃないか、と思うほどに痛い。――――頭突きされるなんて、予想してませんでしたよ、ライさん!
いや、別にキスを望んでませんよ。あの体制ならキスされるのかなー、とか思ってませんし、またライさんとキスするのかとか考えてませんからね!・・・・・・少しは考えたけど、頭突きで吹っ飛びました。やっぱり私を好きなの、冗談か何かですよ。じゃなきゃ頭突きなんてするはずないですしね!・・・あれ、何だか視界が霞む。頭突きのせいかな?
「はい、これで人間の時の姿に戻ったからな」
「は?」
頭突きをして謝罪もなしに何を言うのか、この魔族は。
そもそも人間の時の姿に戻ったって何を言って・・・・・・・・・・・・あ、尻尾がない。視界の端に映っていた尻尾が、確かにない。あれ?お尻を触ってみたけど尻尾の感触はない。ん?頭を触ってみる。何もない。髪も、見覚えのある慣れ親しんだ色で・・・そんな。
「・・・喜びで崩れ落ちたのか?」
違う、それは違うからルシルフル。
頭突きで戻った事実に衝撃を受け、膝から力が抜けただけです。え、てか・・・えー。噓でしょ。こんな方法で人間に擬態って、えー・・・ないわ。
もっとこう、魔法とか不思議な力とか、魔族だからこそ!的なモノを想像してたのに頭突き。現実は頭突きで人間に擬態。・・・何それ、悲しいし夢も希望もない。何だかしょっぱい気持ちになっちゃう。
「ちなみにこの方法、非常時に有効なだけであんまり使うなよ」
「今って非常時?!」
「まぁ・・・ある意味、非常時だな」
淡々と告げるルシルフルの台詞にどこが!と叫びたいけどライさんに左腕を引っ張られ、無理矢理に立たせられて文句も言えない。・・・ライさん、流石に頭突きは酷いです。
と言うより、どういう原理?
「本来は人間時の自分の姿を想像し、魔力を纏うことで擬態できる」
「それを先にいってくれませんか!」
情報が遅いんだけど、ルシルフル!!!
何、私の恨みでもあるの?・・・あ、冤罪をかぶせた恨みならあるか。ならこれ、その仕返し?でもあれはライさんが・・・いや、ライさんも悪いけど私も悪いな。うん、ごめんなさい。あとでちゃんと謝ろう。
「それであの・・・非常事態?って何か起きたんですか」
今はぎゅうぎゅうと私を抱きしめるライさんの拘束から、どうやって逃げるかを考えよう。絞殺される。
「オルデゥアが妻子持ちを捕らえた」
「おる・・・?」
「東を守護する憤怒の王だ、覚えてないのか」
「もしかして、オズ・・・暴食の魔王と大食い勝負をしていた魔王?」
「その認識の仕方はやめろ」
でも否定はしないんですね、ライさん。
そっか、華国ってオルデゥアが守護してたんだー。へー、ほー、凄い魔族だったんだ。オズさんにツッコんで、キレて、何でか大食い勝負してたから変人としか認識してなかったけど。
「って、妻子持ちってオルディのことですか!?と、ととととと捕らえられたってどぶっ」
強制的にアヒル口にしないでください。何がしたいんですか、ライさん!・・・と、私の口を撮むライさんの手から視線を上げ、睨みつければどうしてだろう。物凄く、不機嫌そうな顔で私を見下ろしている。
ライさんが解らないよ・・・っ!
どう言うことかとルシルフルを見るも、額に手を当て「あちゃー」と言った表情をしている。え?私が悪いの、私のせいなのなんで?!解せないんですけどっ。
「リィン」
ひぃ、ドズの利いた声っ!
「なんで俺じゃなくてルシルフルに聞く」
不機嫌な理由はそれですか・・・!
「ぶ・・・っは!だって目の前にいたから聞いただけで別にライさんを無視したとか、ライさんを放っておいたとかじゃないですよ・・・?」
冷ややかな眼で睨まれ、語尾が小さくなる。
うう・・・なんで私がこんな眼に。これも嫉妬なら簡便して欲しい。切実に。心のそこから。神様にお願いするほどにっ。・・・助けて白銀の乙女!
――――がんばれ。
棒読みの応援が直接脳内から聞こえた!酷いっ。
「そ、そうですオルディ!オルディは今どこに・・・?私の大切な猫友は無事ですか?」
話題をそらして逃げよう。
「・・・リィンの猫友なら、アウルが連行中だ。空間魔法を使っての移動をするから、すぐに逢えるぞ。よかったな」
「無事、なんですか?」
「リィンの大切な猫友を害するな、と命じたからな。他は知らねぇし、むしろ死ねばいい。特に勇者」
魔王に相応しい悪役の顔ですね。凶悪ぅ・・・!
「出来れば殺さないで人界に返して欲しいんですけど」
この顔は、無理だな。早々に諦めた。
ごめん、自力で助かって。特に姉。
「オルディを助けてくれてありがとうございます。オルディの奥さんは姉のように優しくて厳しいけど、温かい女性で、子供も私を姉のように慕って懐いてくれたんです。2人を悲しませる結果にならなくて、本当によかった」
心から、そう思う。
「でも、どうしてオルディが捕まったんです?力の差は歴然でしょうけど、一応、騎士だからそれなりに強いはずですよ?」
勇者一行のメンバーに選ばれるくらいだから、国一番のはずだ。・・・幼馴染がメンバー入りしている時点でたぶん、と確信がもてないんだけど。
こてりと首を傾げた私に、ライさんは視線をルシルフルに向けた。ん?ルシルフルが知ってるの?私も同じように視線を向ける。
ライさんが私から身体を放し、腕を掴んだまま背を向けた。
「人間が魔族に、魔王に勝てると思ってるのか」
疑問形ではないそれに、「無理ですね」と即答した。
「無謀にも挑んだ勇者達を逃がすため、囮になったらしい。オルデゥアが腰抜け勇者の仲間の割に、度胸があったと褒めていたな、そう言えば」
「はぁ・・・」
「まぁ、その後に不思議なことに猫の獣人について文句を言っていたらしいが・・・・・・流石は、リィンの猫友だな」
「?」
「『どうせ猫耳はやすなら猫化した方がいい!!』――だったっけ?同じこと、言ったらしいぜ」
「!」
な・・・なんと、言うこと。
流石は猫友!解っているじゃないか!そう、猫は猫だから可愛いのであって、決して猫耳をはやした者が可愛いのではない!猫耳よりも猫化した方がいいじゃないか!!ああっ、猫について熱く語った日々が懐かしいよ・・・オルディ。
脳裏に浮かぶのは野良猫が集う場所で初めて出逢った日から、今までの猫について語りあった過去。ストレスもなく、劣等感に苛まれることもない・・・至福で有意義な時間でした。
「・・・なんでうっとりした顔してんだよ」
「え?猫を思い出して?」
「・・・」
なんかまた機嫌が悪くなった!え、何で、えー?
「本当、色々と話し合う必要があるな」
「え、な・・・なんで?」
「逃げるなよ、絶対に」
・・・何故だろう。寒気がした。
ライさんに腕を引かれ、向かう先は・・・・・・どこですかね?首を傾げて先を歩くライさんの背中と、3歩後ろを歩くルシルフルを見た。無言ですか、そうですか。
溜息が出た。
大人しく、着いていくしかないようだけど・・・・・・何で私を連れて行ってくれるんだろう?解らなくてまた、首を傾げた。
やってきたのは何だか懐かしい、とさえ思える玉座の間。
そしてそこに集うのは、やはりと言うか当たり前と言うか・・・この前の魔族達。ブラスαでエステルやルキがいる。あ、オルフさんがいない。あの人、じゃなくて魔族、私の眷属だって言う割にふらふら~とどこかに行くんだけど、それでいいのかな?
まぁ、四六時中傍にいられても困るし、ライさんとオルフさんの仲が良くないから一緒にいられると私の心臓が恐怖で破裂しそうだからいないほうが嬉しいんだけどね。これ、言ったら泣かれるだろーな。内心で苦笑した。
「ふん、漸く来たか。随分と遅かったな」
「もぉ、おるくんったらそんなえらそうにいったらだめだよ。らいくんにさからったら、ぼくたちなんてぶちゃ!ってころされちゃうんだからねぇ?あ、どーなっつたべる?」
「喋りながら話すな、いらねぇよ!」
・・・あの2人の関係が、良く解らない。
頬を引きつらせながら視線を動かし、中央に座る人物に眼を止めた。あれは・・・間違いなく!ライさんの腕を無理矢理に振りほどき、駆け出した。何だかルナディアが甲高く叫んでいるようだけど、知ったこっちゃない。
手枷をはめ、見覚えのある首輪をはめた――――ああ、懐かしい友よ!
「オルディ!!」
「!?」
勢いを殺さず、逞しい背中に突進した。ああ・・・鎧が痛い。
「オルディ、本当にオルディ!わぁ、凄く懐かしい気がする!」
「り・・・リィン!」
「うわ、傷だらけ・・・っ。鎧が壊れる程の攻撃を受けて、よく五体満足だね。その事実に私、かなり驚いてたりするんですけど」
「・・・相変わらずなようで安心したよ」
呆れられた。
背中から離れ、顔を合わせるように前に回り込む。おお・・・顔も傷だらけ。これ、奥さんが卒倒するかもしれない。どうしよう。どうしたら・・・・・・治らないかな?
「安心しろ、リィン。後でユフィが治療する」
おろおろしていた私に気づいてか、ライさんがそう言ってくれた。安堵に肩の力が抜ける・・・のは私だけらしく、オルディは石化したように固まった。
あれ・・・脂汗凄くない?驚愕に眼を見開き、何かに恐怖した顔をするオルディはライさんを見て・・・なんでライさんを絶望した眼で見てるんだろう?オルディの眼に、ライさんがどう言う風に映っているのか解らず眉を寄せた。
「・・・失禁しないだけ、度胸はあるようだな」
「ぅえ?!」
思わぬ言葉にオルディの股を見てしまったじゃないですか!もう、何を言うんですかライさん!!
恥ずかしさから傍に来たライさんの脇腹を渾身の力で殴れば、オルディが声にならない悲鳴を上げた。そしてルナディアが憤慨しているけど、知らない。他の魔王達が面白そうな眼や驚いた眼を私に向けるけど、知らない。
私は今、怒っているのですよ!
「おい・・・リィン。なんでお前、そんな平気で」
平気って・・・何に対しての平気?解らなくて首を傾げる私に、悠然と歩いてきたエステルが教えてくれた。背後でルキが高笑いしてるけど、放っておいていいの?
「・・・あのな、リィン。ルキのような空気を読まず、他人のことなんて眼中にない、世界は自分の者だと豪語出来るような自己中心的な極稀な存在ならともかく、魔族でも畏怖する魔王陛下――初代と当代は特にだけど、を人間が本能的に恐れ、その魔力の高さから心を蝕まれて精神が崩壊するんだ」
「そう、このアタシのような存在は稀なのよ!だからアタシはオンリーワン!それ故にアタシは絶対的存在!」
無駄に格好つけて言うルキは、貶されてることに気づいてない。むしろ嬉しそう。
・・・思わず、可哀そうな子を見る眼で見てしまった。
「各言う俺だって、魔王陛下は怖い。いくら七聖女の1人でも、本能的に恐怖を感じる。『コレと敵対してはいけない』――そう思う何かが魔王にはある。勇者は・・・最初の印象が最悪すぎて『死ねばいい』としか思ってない」
「それはアタシもね!女の敵は滅ぶべきだわ!!」
辛辣・・・!
最初の勇者ってアレですよね。シビル・・・私の本当の母親に酷いことをしたアレですよね?アレのせいで次代の勇者の印象まで最悪なんだ。・・・いや、もしかしたら2代目勇者も最悪な男だったのかもしれない・・・っ!
だから第一印象が変わらず、現代まで抱いているのかもっ。
「なのにシビルも、君も・・・怖がっていない。どうしてかな?」
「どうしてって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・恩人、だから?」
それ以外の理由が思い当たらないんですけど。
「恩人に対して、恐怖を感じることはないですからね」
「ああ、確かに。あの時のリィンは死にかけてたからな」
しみじみと、思い出すように眼を閉じたライさんに遠い眼をした。いや、本当に死にかけてましたよ。・・・カエルにトラウマが出来ましたね。ふふ・・・カエルなんて滅べばいいのに。死滅しろ、カエルっ!
「それだけで、平気なのかよ・・・!」
脳内でカエル相手に暴虐の限りを尽くしていた私は唖然とした、驚いた声に意識がそちらへと向いた。・・・私、こんなデンジャーな性格だったっけ。脳内とは言え、恐ろしいことをさらりと考えていたわー。
信じられない!とばかりに私を見るオルディに眼をやり、呆れた眼を向けるエステルに視線を動かした。
「・・・空の聖女が例外なのか、2人が異常なのか」
失礼な。
「まぁ、とにかく!・・・普通、魔王陛下を見たらあの男みたいな反応になるのが普通なんだ。判ったか?!」
怒鳴られた理由が判らないけれど、頷いておく。
それで、余談はこれで終わりだろうか?終わりなら、本題に入りません?
私、何でここに連れてこられたのかさっぱりなんですけど。オルディに会わせるため?ライさんを見れば、何でか頭を撫でられた。そしてデコピン・・・酷い!
「コレがいればリィンも嬉しいだろう」
「は・・・?」
待って、意味が解らない。
「え・・・と?」
助けを求めて周りを見るけど、高笑いしながら同意するルキ以外が驚愕の表情をしている。え?皆さん、初耳?ライさんの独断?え・・・捕まえたオルデゥアの意見は?
あ、殺すのはなしでお願いします。
「だから、リィンの猫友が魔界で暮らせばリィンは嬉しいだろう。だから殺すなと命じたんだよ、俺は」
「・・・亡命目的ではない捕虜を、魔界で暮らさせるつもりか!」
吠えたのはたぶん、イシェス。
「勇者の仲間を生かして捕らえたこと自体、愚かしい!お前は魔王陛下だと言う自覚がないのかっ!!」
叫ぶたびに空気が震え、音波のような物が発しているのか壁や柱、床に亀裂が出来る。・・・耳、痛い。
「あらあら、傲慢の君が本気でお怒りだわ。でも――あたくしも同意かしら。勇者の仲間ならば殺してしまった方がいいと思うのだけれど」
「色狂いと同意見なのは癪だが、その通りだ。どう言うつもりだ」
オルディを生かすことに否定的なのは、この3人。
残りの3人は・・・バルバゼスは「面倒ごとばかり」と呟くだけで否定はせず。オズは食べることに夢中で話を聞いていない。いいのか、それで。オルディを捕らえたオルデゥアは・・・憤怒の王と言う割に、ライさんに怒りを抱くことも傲慢の王達のように「殺せ」と言うこともなく、腕を組んで静かにしている。
はて?首を傾げた。
憤怒の王なのだから、傲慢の王のように憤慨すると思ったのだけど・・・どうやら違うらしい。何でだろう。
「やかましいわ!」
疑問は解けた。
「魔王陛下の言に従えぬならばこの場から去れ。そして魔王の地位を返上し――――反逆者として死ね」
魔王陛下としてのライさんの力に畏怖し、魔王でありながら忠誠を誓っているからだ。
意外だ。
てっきり、魔王はライさんの地位を虎視眈々と狙っている者だと思ったし、忠誠なんて誓うはずがないとばかり考えていた。予想外すぎて、開いた口が塞がらないよ。だって、あの日・・・ライさんのこと「ラインハルト」って名前呼びだったのに今、「魔王陛下」って呼んだんだよ。
・・・と、言うことは否定的ではない残り2人も、ライさんに少なからず忠誠を誓っている――――と?
仕事を押し付けられるバルバゼスも・・・?
「それとも俺様達と争うか?たかだが――――人間1人の生死を巡って、世界を崩壊させるつもりか?あぁ゛」
・・・魔王って恐ろしい。
魔界じゃなくて、世界を崩壊させる争いって何。怖い。怖すぎてライさんが本気で暴れたらどうなるのかなー、なんて考えてしまった。・・・恐ろしい結末しか出てこないんですけど。
「ねぇ、ねぇばるくん。そのおれたちって、ぼくもはいってるのかなー?はいってたらぼく、がんばってらいくんのてきをはいじょしよ~かなぁ。まおうへいかにしたがえないなら、まおうとしてしねばいいとおもうんだよねぇ」
「七罪の中から選ばれた魔王陛下に従いぃ、忠誠を誓うことを初代から定められた事柄ぁ。それに逆らい、魔王陛下の言すら否定し拒絶するならばぁ・・・殺してしまった方がいいだろうなぁ」
笑顔で恐ろしいことを言うオズと、にたりと悪役も真っ青なまさしく魔族!な顔をしたバルバゼスに唖然。君達もちゃんと忠誠、誓ってたんだ。
「やめろ」
一色触発の空気を壊すように、底冷えする殺気が辺りを包む。
「リィンがいる世界を壊すなら――――俺がお前らを殺すからな」
ライさんは冷ややかな声で、まったく笑っていない眼を6人の魔王に向けて言う。
お・・・おおぅ、世界を救う理由が私ですか。重い。けど世界はこれで救われた・・・のかな?ライさんの殺気を受け、大人しくなった6人と余波を受けたこの場にいた私以外の存在。騒いでいた6人はともかく、巻き添えを食らった方々はご愁傷様。
何故か平気そうなルキが奇妙な存在に思えて来たよ・・・って、顔面蒼白のエステルを指さして笑わない。後で殴られるよ?
「文句があるなら、魔王陛下になれなかった自分に言えよ」
吐き捨てるように告げて、ライさんは私の手を引いて王座に向かっていく。
「俺はソイツを殺すなとは言っただけだ。他は辱めるなり殺すなり、好きにしろ。ソイツ以外、元から生かすつもりはねぇんだから」
声が出ない。
唖然とライさんを見つめれば、王座にいるライさんに手を引かれて膝の上に座らせられた。近い距離。見上げた双眸は初めて見た時と変わらず、怠惰を宿しているけれど・・・。奥に潜む、揺らめく炎は何を意味しているの?解らなくて身体が震えた。
冷たい手が私の頬を撫でる。肩がはねた。
眼を細めたライさんが、耳元に唇を近づけ笑う。
「ソイツ以外は不要だろう?」
何を・・・言っているんだろう。
肩に顎を預けた体勢で、ライさんが告げた。
「俺は勇者と、それに関わる全ての者を――――殺すなとは言っていない」
それは人界を滅ぼすことを意味していて。
「リィンと仲のいい者以外は好きに扱え」
オルディ以外が、歓喜に声を震わせた。
ああ・・・これで人界、終わったな。他人事のように考える私の中に、明日の天気を告げるように滅ぼすことを宣言したライさんへの恐怖はない。・・・怒らせて怖い、と言う思い以外の恐怖ってないなー、とぼんやりと考えた。
う~ん、やっぱりエステルが言うような恐怖はないな。じっとライさんを見つめれば、思い出したようにライさんから言われた。
「まぁ、そう言う輩は早々に魔界に連行したけどな」
「いつの間に!」




