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書いてて恋愛ってなんだろう?な心境になってしまった。念仏のように恋愛、恋愛、恋愛と唱えたのが悪かったんだろうか?夢見もちょっと悪いので、ほどほどに恋愛、恋愛と意識してみようと思ったり。
魔王とは――魔族の王にして魔界を統べる者。
命あるすべての敵であり、世界に害をなす存在。と、教えられたのは何歳頃だっただろうか。ついつい過去に逃避し、真剣に考えてしまうほどに、私は眼の前の光景が信じられなかった。いっそ、幻覚か夢であって欲しい。そう願うほどに――――現実逃避をしていた。
「なんでこうなった」
一緒に寝る発言が嘘ではなかったようで、ボロボロのエステルと肌艶のいいルキと夕食を済ませたらどこからともなくライさんが現れ、逃走も抵抗も出来ず、荷物のように脇に抱えられてライさんの寝室へ。
喚く私に素敵な、そう、どんな美女ですら落ちるであろう笑みを向けて石化させ、ベッドに押し倒してそのまま――就寝。
R指定のことは何一つ、ありませんでしたよ。あってたまるか!
・・・と、叫びたいけど。
「何で、上半身裸?」
彫刻のように美しく、鍛え抜かれた上半身に赤面してしまう。
おかしいな。石化する前に見たライさんは、確かに服を着ていたはずなのに。そして私もネグリジェじゃなくて、ちゃんとしっかり、服を着ていたような・・・誰だ着替えさせたの!!
ライさんでないことを切に、切に祈るっ。
しかし・・・うう、足がスース―する。お色気なタイプじゃないことを喜びたいけど、足がスース―して喜べない。私、パジャマはズボンが欲しいタイプです。
そして、そしてね。
出来れば気づきたくなかったんだけど、その・・・下着も、変わってたんですよ。本当、何で?そして誰がセクシー路線の下着に着替えさせた。ユフィーリアさんかな?ユフィーリアさんだよね。間違ってもルシルフルじゃないよね。・・・いや、そうじゃなくて。
「おはよう、リィン」
「――――――っ!」
ぐるん、と視界が回ったと思ったらライさんの顔があって・・・どうやら私、押し倒されているようです。助けて。
驚愕と羞恥から赤くなる顔で文句を言おうと思うのに、言葉が何も出てこない。それはきっと、間違いなく、ライさんの色気のせいだー―――――!
寝起き特有の掠れた声とか、駄目。本当、駄目。身体に力、はいんなくなる・・・っ。
「顔真っ赤。リィンって男に免疫ねぇだろうってか、処女だろ」
ほっといてくれませんか!?
ライさんの腹部を容赦なく膝蹴りした私は、悪くない・・・!
痛みに悶えるライさんの下から抜け出し、ベッドから飛び降りる。服、私の服はどこ!?きょろきょろと辺りを見渡すけど影も形もない。ベッドの下にもない。どこにいった、私の服!!「服、服どこ~」と情けない声を出す私の耳に、ぎしりと軋む音が聞こえた。ここで軋むと言えば、床か天井・・・なんて落ちを、私は望みます。
「服ならあるけど」
「どこに?!」
案の定、振り返った先でベッドから降りたライさんが楽し気に笑って私を見下ろしている。床に四つん這いな私と、仁王立ちするライさん。なにこの構図。
ただの笑顔が怖く感じてしまう。
・・・嫌な予感がするから余計に、そう思うのかもしれない。たぶん。
「好きな服をどーぞ」
どこから取り出したのか叫びたいけど、ベッドの上に広げられた色とりどりの服の数。・・・私の服じゃないです。ぶんぶんと首を横に振り、着ないと意思表示をしたにも拘わらずライさんは服を進めてくる・・・ってぅおい!そんな高そうな服を私に勧めないで!
スカートは嫌です、動きづらい・・・って、スカート系しかない、だと!
唖然、と開いた口が塞がらない。
え、冗談抜きでこれを着るんですか?こんなおしゃれな服を私が?着る人を選ぶような服を、私が・・・?似合わないって、いや本当。・・・猫耳と尻尾がある時点で、変な感じには似合うかもしれないけど。
「ぅ・・・ぅぅぅ」
渋々、渋々と、一番地味そうな、黒いゴシック調の服を手に取った。赤いリボンがワンポイントですね。死んだ眼で服を見下ろす私に、ライさんが満足気に笑う。
「あの・・・・・・着替えたいんですけど」
「着替えれば」
「・・・」
「俺が見たって別に問題ないと思うけど?」
問題はあると思いますが・・・!と、言いたいけどもうね、私の疲労が酷いからくるりとライさんに背を向け、出来るだけ裸が見られない場所を探すことにしました。返答が面倒くさいです。怠惰の魔王のせいで。
「これは苦行、これは苦行、これは苦行、これは苦行」
ぶつぶつと呟きながらベッドの影で服を着替える。
・・・じゃないと耳に届く、私のじゃない服が擦れる音に意識が向いてしまう。これ、振り返ったらライさんが着替えてる、って言うありきたりな落ちですよね。そうですよね!振り返るな、気にするな、気にかけるなー、私。
「飯でも食べに行くか」
「そーですね」
起きて早々、げっそりと気力と体力と精神力が底をついた。朝なのに。まだ朝なのに。
「じゃ、こっち」
ライさんに手を引かれるてそのまま、重い足取りで・・・・・・どこへ向かうんですか?食堂とは違う方向へ足を進めるライさんに、首を傾げた。もしもしライさん、どちらへ行かれるのですか?食堂はこっちじゃないですよね?何で中庭に向かってるんです。・・・中庭で優雅に朝食タイム?どこの貴族王族ですか!あ、魔王陛下って一応、王族か。
・・・王族、なのか?
どうにも魔王陛下、と言うの役職名であるらしく、血に連なる者が統べる訳ではないらしい。オルフさんとライさんの顔が似てないことと、迂闊に「血縁ですか?」とこぼしたら全力で否定し、互いに貶し始めたので確かだろう。人界とは違うシステムらしい。
魔王陛下、と言う役職は魔族の中で膨大な魔力と優れた能力を生まれながらに持ち、その中から歴代魔王陛下の並外れた知識と経験を受け継ぐことの出来る器の持ち主がなれるらしい。死ぬ危険性がほぼ100%のため、生き残りは問答無用で魔王陛下、となる。とライさんが物凄く、ものすっご~く嫌な顔で教えてくれた。
そんなに嫌なのか、魔王陛下と言う役職。
ちなみに魔王は魔王陛下に次ぐ能力を持った者がなるらしい。こちらも血統関係なく、強い者がなるそうだ。そこは魔界らしいな、と納得した。
「リィンはここ」
「膝以外の選択肢は!?」
「ない」
中庭についたと思ったら、長椅子に座ったライさんがぽんぽんと自身の膝を叩いて手招く。嫌ですよそんな羞恥プレイ!全力で拒否するのに笑顔で切り捨てられた。ああ、無情。
逃げる、と言うコマンドを使うより早くライさんと繋いだままの手が引っ張られ、あ~れ~な感じでぽすり、膝の上に。泣きたい。
当たり前だけど女と違う身体の作りに緊張し、わたわたと膝の上から逃げようとすれば両腕が腹部に回ってぎゅっと抱きしめられた。む、胸板がっ!!固くがっしりとした胸板がっっっ。恥ずかしくて泣きたい。
すりすりと猫のように首筋にすり寄ってくるライさんに、本気で泣きたくなった。羞恥で死ねる!!こんな、こんなところを誰かに見られたら本気で死ねるっ。
「おはようございます、魔王陛下、リィン様。本日の朝食をお運びいたしました」
・・・自分でフラグ呼んだ気がしてならない。堪らず両手で顔を隠した。
穴を掘って埋まりたい気分です。恥ずかしい。こんな所を見られるなんて恥ずかしい。恥ずかしすぎて爆発する。いろいろと爆発して死にそう。むしろ死ぬ。
顔だけじゃなく、全身が熱くなって頭から湯気が出ている気がしてならない。
ああ、恥ずかしいっ!
「生憎、どこぞかの大食い共のせいで食料が不足しておりまして、申し訳ありませんが軽食を提供させていただきます。文句は阿呆みたいに食う大食いと、馬鹿なのか競争をした愚者に申してください。わたくしどもは止めました」
せめてもの救いは、この服に対してのコメントがないこと・・・かな。
「マニアックな衣装がお似合いですね、リィン様」
地雷を自分でセットして踏んだ気分だよ。
「ですが猫耳にはやはり、メイド服が一番似合うと思われます。ですので是非、是非ともこちらを」
「どこから取り出したんですか嫌ですよ!着ませんからね!!」
「えー、着ればいいじゃん」
「嫌ですってばっ!」
「需要がありますし、喜ばれますよ」
「何の?!誰に!?」
身を乗り出してツッコめば、ライさんが落ち着け、と言うように頭を撫でた。思わず、その手に嚙みついてやろうか。なんて不穏なことを真剣に、半ば本気で考えてしまう。やった後が怖い、と冷静な部分が指摘したから考えるだけに留めた。
「・・・サンドウィッチ、食べていいですか」
「どうぞ。コンソメスープもご一緒にいかがですか。食後のデザートにリンゴのコンポートアイス添えもございます」
「いただきます」
軽食、と言うだけあって手軽な料理だ。あ・・・卵サンド美味しい。ツナサンドは塩加減がいいですね。美味しいけど、感情を表すようにぴこぴこ動く尻尾が憎らしい。
「俺にも頂戴」
「この手を放して食べたらいいと思います」
「食べさせてくれねぇの?」
「むしろなんで食べさせる必要があるんですか?」
解せん。
まったくもって解せん。
私の腹部に回す手を放せば、好きなだけ食べられると言うのにどうして、私が、食べさせなきゃいけないの?解せん。
ひな鳥のように口を開けているライさんと、無言で私を見つめるユフィーリアさん。無視して食べ進めちゃ駄目だろうか・・・。駄目だよね。ユフィーリアさんの眼が「魔王陛下の機嫌をとってください」と語っているから、やらないと駄目なのか。
「・・・どうぞ」
「ん、あんがと」
覚悟を決めて行ったとは言え、恥ずかしい。キャラじゃない、こんなの私のキャラじゃない!え・・・?猫耳生やした少女がやったら何でも似合う?口パクで何言ってんですかユフィーリアさん!
こう言うのは、姉のような美女かそれに匹敵する美少女がやってこそ意味があるんですよ!
そして私に猫耳と尻尾は似合わない!・・・もいでやろうか。
「こんな所にいたのね探したわよ!このアタシに探させるなんてなんて罪なことをするのかしら!いい運動になったから問題はないんだけどね!」
見た目だけならルキが該当するだろう。
見た目だけなら。
「あら?あらあらあら、こんな花もない木と雑草ばかりの中庭で仲良く朝食?どうせご飯を食べるならアタシみたいに華やかな場所でするべきよ!いいえ、そうするべきだったのよ!」
「うるさい」
「っぐぅ!?・・・ちょっと、舌を噛んで危うく間抜けな死に方をする所だったわ。何をするのよ!」
「うるさい」
「ぎゃん!また頭を叩いたわね!・・・ちょ、ぎゃ!」
ゴスゴスゴスゴスゴスゴス、と音を立てて容赦なくルキの頭を叩くエステルの眼は、死んだ魚のように濁っていた。・・・な、何があったんだろう。怖くて聞けない。
「もう本当、死んで。死んでくれ。俺のために死んでくれ」
本当、何があったんだろう・・・・・・?頬を引きつらせながら一方的な暴力を見ていたら、茂みの向こうから見覚えのある魔族が現れた。
1人は鋭く射貫くような眼で私を睨み、もう1人は微笑ましそうに私とライさんを見て・・・見て?――――っは!ライさんの膝に座ったままだった!!
一気に顔が赤くなり、羞恥から身体を小さくさせる。穴を掘って埋まりたい。
「ご報告がございます、陛下」
と、言ったのはルナディア。
相変わらず、私に対して敵意と憎悪と嫌悪を向けてくる。これ、ライさんも気づいていると思うんだけど。だってほら、ライさんの眼がわずかに不愉快そうに歪められてるもん。
声を殺して笑っている・・・確か、ヴェルクは性格悪いな。溜息が出た。
「怠惰の王、魔王陛下にご報告いたします」
でも目上の者に対して、しっかり礼儀を通しているからなぁ。この魔族、絶対性質が悪い。
「勇者と思わしき人間が、1人の女によってパーティ全滅の危機です」
「は・・・?」
「勇者一行の邪魔をしたいのか、行く先々で面倒を引き起こし、自分は悪くないと非を認めずただひたすらに『妹のためよ!』と叫んでいるきちが・・・頭のおかしい女がいるようで、偵察の魔族が勇者に同情していました」
ヴェルクの言葉に、頭が痛くなってきた。
その頭のおかしい女って、考えたくないけど姉・・・なんだろうか?いや、でも私が知っている姉はそんな・・・こと、は・・・・・・しない。と、はっきり言いきれないのが悲しい。だって私の元彼を寝取った前科があるからね。
と言うよりも、何で姉がグレンと一緒に?
戦う力も何もない、美貌だけの一般市民が何故?
・・・あ、寝取った相手が自分から離れないようにするためか。だったら納得できる。寝取るほどに好きなら、依存度が高い姉ならする。好きなモノに対しての執着が酷いからね、あの人。
それよりも・・・、勇者一行って他に誰がいるの?
「そのまま全滅してくれたら、手間が省けていんだけどなぁ。全滅の危機ってことは、まだ全滅してねぇんだろう?」
「残念ながら、騎士が勇者と魔法使い、女の間を何とか取り持っている状態です。しかし、それも時間の問題でしょう」
どうしてルナディアは私を見て、嘲笑するんだろうか?もしかしてあんな姉で可哀そう、と思っているんだろうか?残念ながら、その程度で傷つくような精神はしていません。昔からされていることに比べたら可愛いものだよ。差別されてきた過去を舐めるなよ!・・・威張れない。
「騎士に、魔法使い・・・」
しかし、どうしてだろう。
勇者がグレンシードで、おかしな女が姉だとしたら騎士は猫友で魔法使いが幼馴染な気がしてしょうがない。むしろそんな気がする。
「リィンの知り合いか?」
「たぶん・・・顔を見たら断言できるとは思いますけど、おそらくは」
「自信がないなら黙っていろ」
「話を聞いただけで判る訳ないでしょう。まったく・・・ああ、そうよ。見て確かめたらいいのよね!アタシ、拘束・空間支配が得意だし、光魔法を使えるから見せられるわ」
「な・・・っ!魔王陛下にだけ見せればいいだろう!この人間が見たとしても、嘘をつく可能性がある!勝手なことを話すなっ!!」
うわー、気づいていたけどルナディアって私のこと、本当に嫌いだよね。毛嫌いを通り越して存在していることに憎悪している感じかな。ルシルフルだって最近は怒りながらも気遣うような台詞を言うようになったのに、この魔族だけは相変わらず出逢った時のままだ。
あ、そんなに時間は経ってないから相変わらず、って言うのはおかしいか。
「ヴェルク」
喚くルナディアを黙らせるのは、やはり魔王陛下たるライさんだ。
「見せろ」
「怠惰の王の意のままに」
そう言って両手を胸の前に出し、天に向けるように掌を動かす。無数の蛍火がヴェルクの掌に集まって、巨大な円を描く。蛍火で輝く部分が、ノイズがかかったようにモノクロになった。と、思えば色彩豊かな景色が映し出され・・・まるで動く写真みたい。間抜けな表情をし、首を傾げた。
これってどう言う魔法なんだろう?
「空間を支配することによってここではない、別の空間の映像を見せることが出来る光属性の空間魔法だ。魔法名は――別に知らなくてもいいだろう?」
首を傾げた私にライさんがそっと、秘め事を語るように耳元で話す。ぞわぞわするからやめて。
「勇者一行はどこにいるんだ」
「ニブル帝国にはまだ時間がかかりそうですが、東の農村に滞在しています。しかし東の王城・・・華国・アールヴに辿りつくのも時間の問題かと」
「場所は見れば判る。俺が言いたいのは、どこに勇者がいるのかってことだ。・・・リィン、どいつが勇者だ?」
嬉々として答えたら、ライさんの知りたかったことと違うことを話して歓喜の表情から絶望に変わったルナディアって、判りやすい。判り易くライさんに好意を抱いている。尊敬とか憧れとかの好意ではなく、異性としての好意なのが丸わかりだ。それでよく、四将軍の地位にまでなれたなぁ。
・・・殺気がダダ漏れで隠せてないよ?
刺すような空気に身体を震わせる私を抱きしめ、頭を撫でるライさんの手は暖かいけれど・・・今それ、逆効果だから。もしかしてルナディアの好意を知っててやってる?無言で「お前は眼中にない」ってアピール?
やめて、私を巻き込まないで!
女関係の面倒は姉さんだけでお腹一杯だから!
でも撫でる手はそのままにしてください。誰かに頭を撫でてもらえる機会、少なかったので好きなんですよ。・・・だが尻尾、感情を表すように揺れるなっ。頑張ってなんでもない表情をしているのに、バレるじゃないか!
「で、どれ?」
ライさんがにやにや笑ってるから、バレてる!
「えっと・・・あ、アレです。白銀の髪をしたのが勇者のグレンシード=アインで、隣にいる黒髪の魔法使いが幼馴染のエニマ=ンフィル。・・・何で言い合いしてんだろう?」
農村の住人が迷惑そうな顔をして、遠巻きに見ているのに気づいていないのかな?
「・・・あ、で、その2人の間にいる騎士がオルディ=ピュアム、私の大切な猫友です!」
長身巨躯で強面な顔は相変わらずだけど、今までの苦労と胃痛のせいか心なしか最後に見た時よりも瘦せている気がする。茶髪も艶がなく、人生に草臥れたように萎えているような。あれだけ騎士です!オーラを発していたのに、魔法越しに見る限りとても騎士には見えない。むしろ疲れた中年。
中間管理職は疲れるんだよ!と言う叫びが聞こえてきそうなほど、疲弊している。
そして先に告げた勇者と幼馴染。
艶のある白銀の髪は光に輝いてより一層美しく、碧眼とは違う海の青を埋め込んだような双眸は慈愛・・・とは真逆の憤怒に染まっている。すらりとした長身と細見の身体で気品もあり、見た目、本物の王子よりも王子らしいはずの勇者は、どうしてだろう。今、マフィアのボス!のような雰囲気を持っている。これならライさんの方が王子様っぽ・・・いや、この魔族は王様だ。魔王陛下だ。王子と比べたら駄目だ、うん。
で、幼馴染。
高そうな金の刺繍が施された黒いローブを着て、魔法使いです!と自己主張するような立派な杖を・・・鈍器の代わりに使用するのはいかがだろうか?いつも私を小馬鹿にする暁色の瞳は怒気に染まり、童顔を真っ赤に染めて勇者に何か喚いているようだけど生憎、読唇術の心得がないのでさっぱりだ。さらに幼馴染、無駄に魔力向上と魔法力上昇アイテムのアクセサリーをつけて完全武装。魔族と戦う気、満々ですね。
あ、前者2名も完全武装だった。
「じゃ、あの女は?」
「・・・・・・・・・・・・姉の、フィンです」
「ふぅん」
久しぶりに見る姉は、変わらず美しく見る者の眼を奪う魔性さを持っている。
農村で暮らす魔族?人間?どちらかもしれないけれど、はらはらと涙を流す姉を見て顔を紅潮させ、わたわたと手を動かしている。1人、ライさんに劣るがそれなりに整った・・・いや、人間と比べれば眼を向ける程度の美貌のエルフ?・・・エルフだよね、あの耳。とにかくエルフが姉に近づき、慰めている。
どこかで見た光景だなー、と考えたら勇者と姉が古木の下で行っていた光景だと思い出し、気持ちが沈んだ。あの時から、姉は勇者に恋心を持っていたのかもしれない。だから私から・・・。
「まぁ、確かに見た目はいいけど・・・気持ち悪い」
やっぱりそうで・・・・・・・・・は?
「無理、生理的に無理。あの女、気持ち悪くて無理。なぁ、リィン。あれ、本当にリィンの姉・・・いや、姉じゃあないか。血の繋がりはもうないんだし。一緒に暮らした家族なのか?」
「え?は?あ・・・そうですけど」
「なんであんなのに魅了されんだか。人間も魅了にかかった魔族も馬鹿だろう」
「その通りでございます。あの程度、魔王陛下に比べれば月とすっぽん。比べることすらおこがましい存在です」
「おいおい、当たり前のことを言うなよ」
「それほどまで、あの女と魔王陛下は違うのですから言いたくもなります」
辛辣!
ユフィーリアさんが真顔で辛口コメントだ!
「と言うか、勇者も騎士もこの女に魅了されてないみたいだな」
「あら!ならこの2人はリィンに骨抜き!ってことよね!流石は2代そろって魔王陛下の心を射止めた空の聖女ってだけのことはあるわね!アタシにも伝授しなさい!!」
「それ関係あります?!・・・え、魅了されてない?え?」
ルキの言葉はともかく、エステルの言葉には吃驚した。
確かにオルディは姉を毛嫌いしていたし、グレンも姉と積極的に関わりたくない空気を出していた、ような。・・・・・・姉に好意を持っていたら、夜這いなんてされないか。でもならなんで夜這いを受け入れたんだろう?酒に酔っていたとしても、グレンなら姉を拒絶できたはず。なのにしないで・・・・・・・・・・・・わかんないよ。
複雑な顔をする私の頭から手を放し、ライさんが頬を撫でる。
「あれが、リィンの恋人だった男か」
「わ、過去形ですね。事実ですけど」
そもそも、恋慕も恋情も抱いていたかすら怪しい。
私を好きだと、何度も何度も、飽きることなく告げてくれたから私に関心を持ってくれることに驚いて、私に好意を抱いてくれたことが嬉しくて、何度目かの告白で頷いただけの関係。・・・これ、今思うと相手に失礼な対応だな。
「私、グレンのこと好きは好きでも愛してはなかったんでしょうね」
愛ではない好意を抱いていたのは判るけど、それがどんな感情かと言われれば悩んでしまう。・・・一番近いとすれば、親愛?
「それじゃ、殺しても大丈夫だな」
にやりと、満足気に笑ったライさんに首をかしげて困ったように笑う。
なんでそんな、嬉しそうな眼をしているんですかね。・・・恋愛してないって言ったから?たったそれだけで?・・・嬉しい、モノなのかな?エステルに聞いてみよう。
「出来れば無傷で人界に返してくれません?オルディは妻子持ちですから」
「妻子持ちだけ生かせばいいだろう」
・・・無傷は、無理なようです。




