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白銀の乙女が元いた場所に戻り、両足を垂らして水面に波紋をつくった。
ふらり、私は覚束ない足取りで白銀の乙女に近づき、揺れる水面を見下ろした。ああ・・・凄く情けない顔をしている。可愛くないな。
「逃げることが出来ないなら」
言葉が勝手に口からこぼれた。
「どうすれば、最良になりますか?」
「さぁ、それは神でも知らないことだから。成せば成るんじゃない?たぶん、きっと、おそらく。・・・そんな絶望したって顔しないでさ、足掻いてみたら?意外と――その時になったら何が最良か解るかもしれないし、その時まで精一杯に生きればいいよ」
「生きる・・・・・・・・・私、生きれますかね?」
「君次第じゃないのかな?・・・まぁ、私としても君に死なれたら困るんだよね。本当、あの馬鹿を見つけ」
ぴたり、と言葉が切れた。
え?な、何ですか?何かあるんですか?戦々恐々に白銀の乙女の視線の方を向くけれど、何もない。見えない何かがいるの・・・?
青ざめた顔で視線を戻せば、白銀の乙女がぽん、と手を叩いた。
は・・・?
「別に殺さなくても見つけてくれれば良い訳か」
「あの」
「そうね、そうよ。そうしよう。それなら万が一、取り逃がすこともないだろうし、確実に罰せるし・・・ああ、あの愉快犯にも協力させて罰しようかな!何でか解らないけど私、気に入られてるみたいだし。使えるモノは目上でも使おうべきよね!」
明るい顔でなんか怖いこと言ったよ。
「と、言うわけで殺さなくていいよ」
「あ、はい」
意味が解らないけど、神をこの手にかけなくていいらしい。ほっと安堵し、肩から力が抜けた。
「でも取り逃がすことがないよう、四肢をもいででも拘束してね。殺さない程度ならどんなことしてもいいから」
発言が怖いんですってば・・・!
これで無理だって首を横に振ったら・・・・・・どうなるんだろう。怖いから頷いておこう。長いものには巻かれろだ!この世は弱肉強食!
時の三神だか何だか知らないけれど、私は白銀の乙女に逆らいたくないから覚悟されよ!
「拳を握りしめて、何の意気込みだい。愛し子?」
「後ろから突然、現れないでくれませんか?!」
「愛し子が可愛らしいことしていたからつい」
「何も可愛らしいこと、してませんよね・・・?!」
「怒った顔も可愛いよ、愛し子」
「話を聞いてくれません?!」
「痴話喧嘩なら他所でやってくれないかな、本当」
呆れた声の白銀の乙女に物申す――――!
これのどこが痴話喧嘩に見える!眼科に行け、眼科にっ!!・・・・・・すいません、神相手に生意気なこと言いました。殺さないで。
「それより、早くここから出た方がいいよ。ここは時間の流れが違うから、うっかり100年とか経ってた。なんて笑えないよ?特に人間である・・・・・・名前、そういえば聞いてなかったね。何て言うの?」
うっかり100年って怖い・・・と戦慄しながら、「リィンです」と名前だけ答えた。もうさ、苗字名乗らなくてもいい気がしてきたんだよね。
名乗ったら白銀の乙女は眼を見開き、次いで楽し気に笑った。
「リィン、リィン・・・ねぇ」
意味深にオルフさんを見て、次いで私を見た。
「リインカーネーションには、ならないように」
「?・・・はあ、そうします?」
リインカーネーションとは何ぞ?首を傾げつつも忠告と受け取り、頷いてみたけど意味が解らない。オルフさんを伺えば、笑顔で私の頭を撫でていて・・・渾身の力でその手を叩いた私は悪くない。
まったくもう、何がしたいんだろうかこの人は!
「リィン、君には期待しているからね」
「へ?」
「それじゃあ、また縁が合ったら・・・ね」
白銀の乙女が指を鳴らした。
パチン、たった1つの音で世界にひびが入り、硝子のように崩れた。足元が砂となり、足場が消える。悲鳴を上げた。身体が落下し、壊れる世界で美しく笑う白銀の乙女を見た。
白銀の乙女がいる世界樹の周りだけ、切り取った絵画のように不変だ。
ならば私が、私達がいた場所だけが――――?
いや、もしかしてこれも泡沫の夢なのかもしれない。だから、あんなふうにあっさりと世界が壊れた。そう考えたら、気持ちが落ち着いた。なら、大丈夫。
死の恐怖に怯えることはない。
だってこれは・・・・・・・・・夢だから。
夢は、覚めるモノだから――――。
「!?」
ぱちりと眼を開ければ、オルフさんと出逢ったエリューズ渓谷だった。
ああ、なんだ。やっぱり夢だった。安堵の息をついて、地面に寝そべる身体をゆっくりと起こす。うぁ、木漏れ日が眼にしみる。
「いたい」
身体がすっごく、痛い。
寝ていた場所が悪いからか、バキバキと不吉な音が身体から聞こえる。お・・・おおぅ!ちょっと動いただけで激痛が・・・っ!!
痛みに悶えることおよそ30分――。
私は漸く、ようやく・・・立ち上がることができた!生まれたての小鹿のように足が震え、何度も膝折れして倒れる・・・を繰り返したことか。
ちょっと感動していたりする。
「もしもーし、オルフさーん!」
気が付いたらいないオルフさんの名前を呼んでみたけど、返事がない。代わりに風が吹いて、木の葉が揺れた。うん、そっちの返事はいらない。
・・・は!も、もしかしてオルフさんと言うのは、私の夢が生み出した架空の人物なのではないだろうか?!
うわ・・・そんなのを生み出すほど、私の精神って弱ってたの?惰弱だったの?えー・・・ないわ。ない。首を振って即否定!
「オ・ルフさーん!!おーい、オルフさーんっ!」
何度か名前を呼んでみる。
反応はない。さっきと同じ結果だ。
「お・・・オルフさーん!いじわるしないで、出てきてくださいよー!!本当、私の精神がいろいろとヤバい、って結論つけて医者に行く羽目になるんで後生ですから出てきてー!!」
切実に叫んだけど、木の葉が揺れるだけでオルフさんが現れる気配がない。
・・・・・・精神科、行った方がいいのかな?確かに最近、いろいろとあったし。精神的にキテるのかもしれない。遠い眼をし、真剣に精神科行きを考えてしまう。
「オルフさ~ん・・・」
情けない声で、諦め悪く呼んでみたけど・・・結果は変わらない。
むなしい・・・。
足を動かし、息を吐き出した。・・・1人で旅に出ようとしたんだから、寂しいなんて思うのが間違いなんだ!これが普通なんだ、普通。と、強がってみたけど寂しいものは寂しい。
旅に出て速攻でライさんと知り合い、ライさんとはぐれたと思ったらオルフさんと知り合って・・・寂しい、なんて感じることなかったからなぁ。
1人には慣れてるはずなのに、隣に誰もいなくて寒い。はぁ・・・やっぱり精神科行きかな?
・・・・・・ライさんに逢いたいな。オルフさんでも可。
誰かに、傍にいてほしいな・・・。
「恋しいのかい、愛し子」
「恋しいより寂しいか・・・・・・・・・ん゛?お、オルフさん!?」
架空の人物じゃなかった!
声がした方を振り向き、オルフさんの名を呼ぶ。うわーい、孤独じゃなくなったよ!!
「・・・・・・・・・・・・幻聴?」
はて、誰もいない。
やっぱり架空の人物。幻聴が聞こえるなんて、これはいよいよ精神科行きかもしれない。
「ここだ、愛し子」
「ここって・・・・・・上か!?」
「あ、ちょっと右。もうちょっと・・・・・・そうそう、そこらへんをよぉく見てみるといい」
そこらへんってどこよ?もっと具体的に!
「・・・・・・もしかして、オルフさん?」
「その通りだ、愛し子」
「なんで・・・鳥?」
私の視界に映るのは、オルフさんの髪の色と同じ色合いをした――赤子ほどの大きさの鷹。
頬を引きつらせ、疑問を投げかければオルフさんは胸をはり、いや、鳥にはる胸はあるのかな?・・・と、とにかく、そんな様子で私に語った。
「我、愛し子の眷属になったから」
「は・・・?」
「白銀の乙女が気を利かせ、我がいつでも愛し子といられるように配慮してくれたらしい。今度、何かしら礼をしなければいけないな」
「・・・は?」
「どうだ、雄々しい我の姿は!惚れ惚れするだろう?撫でまわしたい羽毛だろう!!」
「・・・っは!」
鼻で笑ってやった。
「私は猫が大好きな猫派ですからね!鳥に惚れ惚れするなんてことはありませんよ!羽毛より猫の毛並みの方が素晴らしいですからねぇ!!肉球尊い、肉球最高!」
「な・・・なんだとっ」
「残念でしたね!」
ショックを受けて放心するオルフさんに、渾身のドヤ顔を決めてしまった。・・・恥ずかしい。
「ぐ・・・ぐぬぬ、空の聖女の眷属は鳥と決まっているから変えることは出来ない。愛し子に愛でられないのは悔しいが、涙を飲んで諦めよう。眷属になって愛し子と共にいられる、それだけでよかったと思うべきだ」
ぶつぶつと何か言っているようだけど、とりあえずいいですかね?
「ここから魔界に行くにはどう進むべきですかね?」
「無理だな」
即答だった。
「ここから魔界はかなり遠い上、人目を避けて行動すると食料調達が難しい。何より、王都・ヘルハイムを経由しなければ境界線に辿り着くことは出来ない。ここは・・・世界の端だからな」
「は・・・端?端っこ?なら・・・ぐるっと一周すれば魔界に行けるんじゃ・・・?」
「この渓谷を超えて?」
ちらり、視線を渓谷に向ける。
かなり険しく、向こう岸に渡る吊り橋はかなり古くて危ない。例え向こうに辿り着いたとしても、足の踏み場もないような荒れた獣道。
旅に慣れていない私が行けるはずがない。
無理だ、無理。
「じゃあ私、人界に永住?・・・や、やだ!人界なんていたくない!魔界に戻りたい!魔界にいたいっ!!」
サバイバル技術がない私が、人里に行かずに暮らしているはずがない。でも人がいる場所にいけば姉に見つかり、最悪、七聖女の1人とばれて幽閉・・・そんな未来しか脳裏に浮かんでこなくて恐怖が心を支配した。
両肩を抱きしめ、恐怖から逃れるようにぎゅっと眼を瞑った。
ああ・・・泣きそう。
「泣くな。・・・泣くな、愛し子」
ふわりとした感触を、右頬で感じた。
閉じていた眼を開ければ、大きな鷹が私の頬を羽で撫でている。慰められている、そう理解して、頬を伝う水に気づいた。いつの間にか、本当に泣いていたらしい。
震える手で眼元をこすり、嗚咽を堪える。
帰りたい。
ライさんが連れて行ってくれた魔界へ。
戻りたい。
ライさんがいる魔界へ。
人界には――1秒でもいたくない。
「愛し子・・・・・・っここからすぐに逃げるぞ!」
「なん、で?」
「いいから、早く!」
急かすように促され、意味が解らないままに立ち上がるとオルフさんに導かれるまま足を動かした。どこに・・・行くの?
眼の前を飛ぶオルフさんは何も言わない。
けれどその姿が焦っているように見えるのは、気のせいかな・・・?
「・・・」
後ろを振り返る。誰もいない。
「オルフさ・・・!」
上空から無数の炎の矢が落ちてきた。
それが火属性の攻撃魔法【Frecce di fuoco】だと解ったのは、幼馴染が好んで火属性の魔法を使っていたせいだろう。ああ、思い出すのも腹立たしい。
魔法が使えない私にアイツ、「死ぬ気になれば魔法が使えるだろう」とか訳の解らないことを言って容赦なく魔法を放ってくれたものだ。一歩間違えれば死ぬって、てか死にかけたよ!――実はアイツ、私を殺そうと思ってるんじゃないか。と思うほどに容赦なかった。
「ぅひ!?」
頭上に迫る【Frecce di fuoco】に身体が硬直し、動いてくれない。ああ、止まっていたら格好の的だと言うのに恐怖から足が動いてくれない。なんてこった!
「眼を閉じて、愛し子」
場違いに落ち着いた声に無意識化で従ってしまった。
何も見えない状況で視覚以外の感覚が敏感になり、聴覚が風の唸るような小さい音を拾った。ついで肌を刺す冷たい冷気。鼻につく火が燃えた臭い。い、いったい何が・・・?
困惑のまま恐る恐る眼を開けて、ぱちりと瞬いた。
頭上には何もなく、代わりに左右の木々が赤く燃えている。熱いと思ったらこれが原因か。呑気に理解して、はっとした。山火事になるよこれ!駄目じゃない?駄目だよねこれ!!
「お・・・おる、おるるるるるるるるオルフさん?!なにやっちゃってくれてんですか!?火事!燃え・・・・・・焼死するっ!!」
「落ち着け、愛し子。ほら、深呼吸」
「落ち着けるか!」
火、火がせま・・・迫ってるんですよ?前も後ろも炎でふさがれそうなんですよ?!逃げ道がなくなるんですよ!冷静でいられるはずがないっ。
「大丈夫、大丈夫。ほら、上を見てみるといい」
「だから・・・上?」
「火の次は水だから、この火事も消える。安心したかい?」
「あ、確かに水属性の魔法なら火も消せますね・・・・・・って、言うと思いますか!?」
第二破が来たんですよ!何に安心しろと?!
空気中の水分でも集めているのか、頭上に大きな透き通る氷の槍が現れた。わぁ、物騒。あれに攻撃されたら即死は間違いない。逃げても風圧で死ぬかもしれない。
「あ、死んだこれ。今度こそ死ぬ。私、ここで死ぬんだ」
「本当にそうか、愛し子」
「魔法を使えない私があれをどうにかできると思いますか?オルフさんがやってくださいよ、さっきみたいに!」
「この姿になりたてで巧く魔法が使えないらしくてな、あの様だ」
成程。あの火事は魔法を制御しきれなかったから起きたのか。・・・え、マジですか。
確認するようにオルフさんを見ると、実に嘆かわしいと己が手・・・?いや、羽を見て溜息をついていた。これは・・・期待できない、頼れない。
つんだ。
死亡フラグが眼の前に見える。
あー・・・人生終了の鐘の音が聞こえてくるようだよ。
「空の聖女の力、使ってみたらどうだ。愛し子」
「は・・・い?」
「ただ黙って死ぬつもりかい?」
オルフさんの言葉に、瞠目する。
だって・・・空の聖女の力は制御できなくて、ライさんがいないと暴走する可能性が高くて・・・正直、使うのが怖い。
眼を閉じ、息を吐き出す。何度か深呼吸をして、ばくばくと煩い心臓部分に手をあてる。ああ、心臓が痛い。口から飛び出さないといいな、なんて馬鹿なことを考えて失笑。
脳裏に蘇るのは「死ぬなら、後悔しないように」と、言う世話を焼いてくれた老夫婦の言葉。確かにそうだ。
力を使わなければ待つのは死で、力を使って暴走した先にも死。
どちらを選べと言われたら、巻き添え上等。死なば諸共、道ずれにしてやろうじゃないか!・・・でもできれば成功して生きたいな。うん、この命を天に任せよう。
神様、神様、白銀の乙女よ。
どうか私に生きる未来をください――――っと!
「覚悟を決めたようだね、愛し子」
オルフさんが優しく眼を細めた。
こくりと頷いて、私は眼を閉じた。息を吐き出し、ゆっくりと眼をあけた。山一つ壊せるんじゃないか、と言うほどに大きくなった氷の槍を見上げ、右腕を上げる。
願おう。
乞おう。
求めよう。
頼もう。
私の精一杯のあがきを、生への願望を、叶えてくれるように――うたおう、神の詩を。
「悠久の果て、空の彼方に眠りし偉大なる汝に願う。我は空と風の寵愛を受けし者、汝らの子」
深緑色の魔力が私を囲うように現れ、足元に空の女神を意味する紋章が浮かぶ。どっと身体の中から魔力が消えるのが判った。これ、気を抜くと意識失うやつだ。
「我、空の女神に乞い願う」
頭が鈍器で殴られたように痛い。――私を囲う炎が唐突に消化された。
心臓が破裂しそうなほどに早鐘を打つ。――空から雲が消え、太陽がより一層に煌めく。
口の中が鉄っぽく、不快感を覚えた。――風が私の服をはためかせ、大地から天空へと昇っていく。まるで登り龍だ。
しゃんしゃんしゃんしゃん、複数の鈴の音色が聞こえる。
氷の刃がゆっくりと落下する。スローモーションにすら見えるその光景を睨み上げながら、私はただ脳裏に浮かぶ言葉を口にする。これが何を意味するのか解らない。解ることと言えば、前に口にした詩とは異なるモノだという事だけ。
・・・もしかしてこれ、結構ヤバい分類にはいるんじゃ?
「我、空の女神に乞い求む」
でも今更中止、なんて選択権は私にはないからそのまま言葉を続ける。
深緑色の魔力が星のような輝きを放った。それに呼応するように、天空へと昇った風が氷の刃に纏わりつく。あれでどうにかできると思わないが、私の頭が「大丈夫」と楽観に告げた。・・・うん、信じよう。
息を大きく吸い込み、吐き出すように告げる。
「どうか――――助けてください」
その言葉に応えるように、ひときわ大きく鈴の音が鳴った。
日光とは違う、眼を開けていられないほどに眩しい光が空から放たれ、風が轟っと唸りを鳴らす。
ゴゥン、ゴゥン・・・っと清浄な鐘の音が響き、心を浄化するような済んだ空気が周囲を包んだ。ゆっくりと眼を開け、空を見上げる。鐘の音はまだ響いている。
「あれ・・・は」
視界に映るのは巨大な氷の槍と、槍の半分ほどの大きさを持つ、長く美しい空色の髪をした双眸を閉ざす女性の姿。
凛とした空気を持つ女性は布地の少ない、まるで踊り子のような服を纏い、白く細い腕を空へと伸ばした。赤く色づいた唇が静かに何かを告げる。ゴゥンっと鐘が鳴った。
風が舞う。――女性が現在地より更に上に跳躍したからだ。
空が震えた。――女性が息を吐き出したせいだろう。
ふるり、女性のまつげが揺れ、緩慢な動作で双眸を開いた。金と緑が交じり合った、何とも不思議な色合いの瞳が見える。
「ほぉ、流石は愛し子。空の女神を召喚したか」
あ、やっぱり。
まさかと思ったけど、よもやそうだとは思わなかった。と言うか外れて欲しかった。遠い眼をしつつ空の女神を見つめる。丁度、空に伸ばしていた両手を振り下ろすところだった。固く握りしめた拳で氷の槍を粉砕し、空間の裂け目に破片を落とした。うわ、素晴らしき力業。
空にキラキラと舞う、氷の結晶。
空間の裂け目に落ちきらなかったそれは空気に溶け、水滴となって地上に落下した。雨の中、私は佇んで唖然と、呆けたように上空を見上げる。
不敵に笑い、長い髪を払う仕草はまるで女帝のように気高く凛々しい。
その姿に、眼が釘付けになってしまった。
それでも脳裏に浮かぶのは、どうして攻撃されたのかと言う疑問。
・・・なんでだろう?答えはでない。




