秘密と深夜
後で来るように伝えて置きます。と緑竜は言っていたけれど、結局その日は黄竜が私の部屋に訪れなか……
コンコンコン!
誰だろう……? 今は夜です。当然、ヴァシュアも下がり、私はベットの中でなかなか寝付けなくてゴロンゴロンしている。
ど、どうしよう。夜に来るってなんか不審だし、放って置くのが正解だよね?
そう思った私は、ふかふかの毛布を肩まで被って何事もなかったように目を瞑る。
ドンドンドンドン!!!
……。誰なのよ! 私の安眠を妨げるのは!?
「もうっ、誰でーすーかー! 今はー、夜でーすーよー」
苛立ったのもあり、大きな声で答える。きっと、これだけ大きな声だったら扉まで届くだろう。
「間抜け白竜っ! 私よ、開けなさいよね!」
聞こえた声に思わず飛び上がる。この声は、間違えてなければ……いや、考えるより行動あるのみ!
寝間着のまま急いで扉に向かって走ると、苛立っているのだろう……足をトントンと揺する音がした。
恐る恐る扉を開けると、そこには不機嫌なオーラを発している美少女黄竜が枕を抱えて立っている。
「私に大声を出させた癖に開けるのが遅いわよ! しかも貴方、1回目は知らない振りをしたでしょう? 信じられないっ」
……。黄竜は容姿だけなら本当に可憐な美少女だ。蜂蜜色のふんわりとした緩いウェーブのかかった髪からはキツイ香水の香りではなく、石鹸の香りがする。琥珀色の瞳は黄竜の可憐な雰囲気とは違い、意思の強い、力強い瞳だ。けれど、そんな力強い瞳がまた彼女の魅力を上げていると思う。肌は白く、化粧を施しているわけでもないのにほんのりと頬が赤く染まっている所も、可愛らしい。
「で? いつまで私を扉に立たせてるつもり? 早く中に入れなさいよっ」
……。まぁ、この口調じゃなければ、ほんとに可憐な美少女なのに。ほんと、残念で仕方がない。
「ごめん、入って。でも、どうしたの? こんな夜に」
多分、緑竜に頼まれて来てくれたのだろうと思ったけれど、ソファに案内しつつ聞いてみる。
「公開式の話をしに来たに決まってるでしょ。貴方、何も決めてないのでしょ?」
「決めてないけど、大丈夫だよ。手持ちのドレスで行く。装飾品はないから、多少買わなきゃいけないけど……。あ、黄竜の貸してくれる? そしたら買わないで良いもんね」
余計な所にお金を掛けるのは好きじゃないので、つい名案だとばかりに提案してみるが、即却下されてしまった。
「あのねぇ、緑竜、青竜に何を聞いたの?! ちゃんと説明してもらった? 貴方、王竜なのよ。私達竜に恥をかかせる気!?」
「に、人間は知らないって青竜が言ってたような気がする……」
「それでも却下よ!」
……。砂糖菓子みたいな黄竜は見た目に反してやっぱし、厳しい。
「わかったよ……。けど、私の白髪ストレートロングって、なんか冷たく見えるんだよね。ゴテゴテ装飾したら余計冷たくならない?」
私が唇を尖らせながら抗議すると、一瞬だけ呆れた顔になった黄竜は呆れ果てたような溜息を吐いた。
「それは、飾り方が悪いのよ。貴方は嫌かもしれないけど、少し髪を編込んで可愛らしい花を一輪添えるだけでだいぶ違うはずよ」
言われた事を想像してみるけれど、美的センスがゼロに近い私では余り良い想像が出来ない。
確かに、今の私は白髪に深い赤い瞳。自分で言うのもなんだけど、前世の姿を思うと今は美少女になった方だと思う。
けど、上には上がいるもので、隣に座っている黄竜が良い例だ。
彼女を見てると、自分はこの世界でも平凡なんだな……。なんて思ってしまうくらいだ。
つまり、何が言いたいのかと言うと……いくら可愛いように飾り立てても平凡な事には変わりがない、という事だ。
「う~ん……」
「はぁ、駄目ね。貴方にいくら話しても絶対納得してくれないわね。良いわ、勝手に貴方の侍女と相談して決めるわ」
「え、えぇ!?」
「あら?貴方に拒否権はないわよ? 仕方がないわよね、貴方の意見を聞いてたらいつまで経っても決まらないわ。それに、私は王竜である貴方を綺麗にドレスアップさせないといけないの」
……。
まぁ、私の趣味も兼ねてるけどね。と黄竜が呟いたのは聞こえなかった事にしよう。
「ねぇ、黄竜。迷惑、じゃない? 貴方も公開式の準備とかあるでしょ?」
全てを任せるのは楽だけど、黄竜だって契約がかかっている公開式の準備は念入りにしたいだろう。
それなのに、私の準備もあって思うように出来なかった―――となってしまったら忍びない。
「ふふ、お馬鹿ね。けど、心配してくれてありがとう。私は大丈夫よ、いつ言われても良いように念入りに準備してあるわ」
「おぉ、流石」
私の言葉に、黄竜は「貴方がトロイのよ。まぁ、そこが可愛らしいわ」と、その砂糖菓子のような可愛らしい顔で微笑んだ。
***
「で!? もっと詳しく聞かせなさいよっ」
……なんでこんな事になっているんだろう? とちらりと窓の外を見る。
今は夜、というより深夜なのだろう。黄竜が訪れた時よりもより一層闇が深いなぁと思った。
「えっと。勝手に話したら青竜が可哀想じゃない?」
「あら? これは女同士の秘密よ?」
……。女の子は″秘密″という言葉が大好きだ。
「絶対に、青竜には話さないでよ?」
「ええ、約束するわっ」
勿論、私も例外じゃない。
「私ね、つい聞き流しちゃったんだけど……。青竜に『君が望むなら、生涯のパートナーになっても良いかなって思うよ』って言われたんだよね」
そう、図書室で青竜がやけに上から目線な癖に優しく微笑みながら言ってくれたのを覚えている。
あの時は王竜という事に戸惑い、それ所じゃなかったからつい聞き流してしまったんだけど……。
今思うと顔が赤くなってしまう。
「へぇ~。そんな事があったの。ふぅん。あの青竜が、ねぇ」
「う、うん。私、つい聞き流しちゃったんだけど……良いのかな?」
青竜から特に返事を求めるような事は言われてないけど、やっぱり気になってしまう。
「放っておいて良いと思うわ。いい加減な気持ちで言ったわけじゃないとは思うけど……」
「いい加減って?」
私の疑問に、黄竜は出来の悪い生徒でも見るような目で溜息を吐いた。
……? 私、何かしたっけ?
「そうね、貴方は気が付いてなかったみたいだし、この際だから教えてあげるわ。あのね、青竜は幼い頃から貴方の事を大好きだったのよ。まさか、今でも好きだとは思わなかったけど……。貴方が赤竜にベッタリなのを、いつも面白くなさそうな顔で見ていたもの」
「えっええ??」
「緑竜と私はそれを見守ってる感じだったわね。だから、何かあったら私か緑竜に相談するのを勧めるわよ。あ、一応聞くけど、緑竜にはなんか言われた?」
混乱している私を他所に黄竜はテキパキと確認をしていく。
あの、イケメン青竜にそんな風に思われてたなんて……。な、なにかの間違いじゃないの!?
「……? 白竜、ちょっと、大丈夫? 落ち着きなさい」
「え、あっ。う、うん!あ、えっと、緑竜には、パートナーになりたいとは思っていないって、右腕になりたいって言われた」
なら、緑竜の事も安心して良いわよ。と黄竜は笑顔で答えた。
あ、安心て、どういう事!?
いや、けど、竜同士では禁忌だし、手を出されるとかそんな変な意味じゃないと思うけど……
「良い事? 青竜の気持ちに答える気がないなら、二人っきりになんて間違えてもなっちゃだめよ? 雄竜は思いを寄せる相手には直球だからね」
直球って、どういう意味でしょうかーっ!
慌てふためく私を見て、黄竜はその可愛らしい顔でくすくす笑っている。
……笑いごとじゃないのにっ!
「ふふっ、脅かし過ぎたかしら? 貴方は王竜だし、青竜も変に手は出してこないわよ」
「も、もうっ。ビックリさせないでよ」
「ごめんなさい。貴方の反応が面白かったんだもの」
そう言って黄竜が笑う姿はほんとに可憐だ。黄竜の後ろにお花畑が見えてきそうなほどの錯覚を受ける。
「けど、気を付けるに越した事はないのよ。覚えておいてね?」
先ほどまで笑っていた姿を引っ込めて、少し落とされた声のトーンは本気で心配している声だ。
きっと、真面目に聞いたら話しにくいからと黄竜なりに気を使って明るく話していてくれたんだと気づかされた。
黄竜は、本気で心配してくれ、そして私に話させる事で息抜きをさせてくれている。
「ふふふ、ありがとう。黄竜」
「あら? 急にお礼なんて、どうしたの?」
「ううん。なんでもない」
恥ずかしいので、それ以上は言ってあげない。
少し脅かされたのだし、小さな仕返しだ。
「そう。公開式が楽しみね」
「うん。けど、私ね、普通の竜が産まれた時から持ってる知識が全くなくて……。何も知らないの。教えてくれる?」
少し不安に思いながらの告白だった。
けど、不安に思った事が馬鹿みたいな程、黄竜は優しい声で答えてくれた。
「ええ。明日色々教えてあげるわ。私は手厳しいわよ?」
「うん、よろしくお願いします」
そう答えながら、私は自分の枕で。黄竜は持って来たマイ枕で。毛布は半分こして床に就いた。