↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
WAY HOME ――行き場をなくした僕らの、小さな食卓――  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
84/105

ヨシさんにも、帰れない場所がある

第84話 ヨシさんにも、帰れない場所がある


前書き


誰かに、


「帰ってきてもいい」


と言える人がいる。


けれど、その人自身にも、


帰れなかった場所があるかもしれない。


前原正義は、これまでほとんど自分のことを話してこなかった。


昔、何をしていたのか。


誰といたのか。


なぜ、今のようになったのか。


知っている者はいる。


川本。


黒岩。


そして、坂口正志。


だが――彼らの知っている前原にも、まだその前がある。


文化展が終わり、あさがおの問題も一つの区切りへ向かい始めた頃。


事務所に、一通の封筒が届く。


⸻


 午前九時十三分。


 高架下の事務所は、久しぶりに何の予定もない朝を迎えていた。


 隼人は三日目の倉庫勤務へ出かけ、翔太は午後からコンビニ。須賀は市の紹介で短期滞在先の内見へ行っている。ますみは「今日は絶対描かない」と宣言したわりに、十分前からスケッチブックを開いたまま鉛筆を握っていた。


「描いてるじゃん」


 藍が言う。


「描いてない」


「その線は?」


「考えてる」


「鉛筆で?」


「うん」


「紙に?」


「うん」


「それを普通は描いてるって言うんだよ」


「違う」


 そんなやり取りの横で、敦は郵便物を仕分けていた。


 請求書。


 地域の広報。


 保険関係。


 よく分からない営業の葉書。


 そして最後に、一通だけ、妙に古びた茶封筒が残った。


「ヨシさん」


「何だ」


「手紙です」


「そこ置いとけ」


「はい」


 敦は机へ置こうとして、手を止めた。


 宛名が少し変だった。


 住所は、この事務所。


 名前は。


前原正義 様


 その下に、小さく。


旧姓 木島


「……」


 敦は二度見した。


「ヨシさん」


「何だよ」


「これ」


「何だ」


「木島って」


 前原の動きが止まった。


 ほんの一瞬だった。


 だが、敦には分かった。


「……」


「ヨシさん?」


「貸せ」


 前原は封筒を取った。


 裏を見る。


 差出人。


 そこには個人名ではなく、


社会福祉法人 青葉園


 とだけ書かれていた。


⸻


「施設?」


 ますみが顔を上げる。


「お前は聞くな」


「聞いてない。見えた」


「同じだ」


 前原は封筒を開けない。


 机の端へ置く。


「開けないんですか」


 敦。


「後で」


「何で」


「今じゃねぇから」


「……」


 敦は、それ以上聞かなかった。


 少し前なら、何か重大な秘密だと思って追及したかもしれない。


 今は。


「分かりました」


 それだけ言って、残りの郵便物を片付けた。


⸻


 午前十時。


 川本が来た。


「おはよう」


「おはようございます」


「正義いる?」


「奥です」


「珍しいね。朝から静かだ」


「手紙来てから」


 敦がそこまで言うと、前原が奥から出てきた。


「余計なこと言うな」


「すみません」


 川本が机の茶封筒を見る。


 そして。


 表情が変わった。


「……青葉園?」


 前原。


「ああ」


「まだあったのか」


「知らん」


「開けた?」


「まだ」


「そう」


 川本は、それ以上何も言わずコーヒーを淹れた。


 敦は二人を見比べる。


「川本さん」


「うん?」


「知ってるんですか」


「少しね」


 前原。


「竜司」


「分かってるよ」


 川本は笑った。


「俺から話すことじゃない」


⸻


 ますみ。


 小声で藍へ。


「気になる」


「分かる」


「木島って誰」


「ヨシさんでしょ」


「何で前原?」


「知らない」


「養子?」


「知らない」


「結婚?」


「それは違うと思う」


「何で」


「何となく」


「二人とも」


 前原。


「聞こえてるぞ」


「ごめんなさい」


 二人同時。


⸻


 午前十一時二十分。


 前原は、ようやく封筒を開けた。


 誰も見ていない時に開けるつもりだったらしい。


 しかし、事務所には常に誰かいる。


 諦めたように封を切った。


 便箋。


 一枚。


 そして。


 小さな写真。


「……」


 前原の眉が動く。


 敦は見ない。


 見ないようにする。


 ただ、前原が長く黙っていることだけは分かった。


「何だった?」


 川本。


「……園」


「うん」


「閉めるらしい」


「そうか」


「来月」


「……」


「建物も」


「取り壊す」


 川本はコーヒーカップを置いた。


「それで」


「昔いた人に」


「連絡?」


「ああ」


「最後に見学できる日を作るって」


「……」


 前原。


 写真。


 机。


 置く。


⸻


 古い。


 集合写真だった。


 色褪せている。


 子ども。


 十数人。


 職員らしい大人。


 建物。


 その中。


 後ろ。


 端。


 一人。


 不機嫌そうな少年。


 髪。


 短い。


 腕。


 組んでいる。


「……」


 敦。


「ヨシさん?」


「見るな」


「もう見えました」


「忘れろ」


「無理です」


 ますみも近づく。


「ヨシさん?」


「お前も見るな!」


「え」


「可愛い」


「ぶん殴るぞ!」


「子どもに言ってる!」


「今のお前にだ!」


⸻


 写真の裏。


 鉛筆。


木島正義 十四歳


「十四」


 翔太はいない。


 隼人もいない。


 でも、敦は妙な感覚を覚えた。


 写真の少年は、今の前原とはまるで違う。


 なのに。


 目だけ。


 少し似ている。


 誰かに、


「こっちを見ろ」


 と言われても。


 絶対に見ないような目。


⸻


「児童養護施設?」


 敦が聞く。


「昔は」


 川本。


「呼び方も運用も、今とはかなり違ったけどね」


「ヨシさん」


「そこにいたんですか」


「……」


 前原。


 煙草。


 出す。


 和子。


 台所から。


「吸うなら外」


「まだ火つけてねぇ!」


「出した時点で言っとくの」


 前原は煙草を戻した。


「いた」


 短く。


 答えた。


「何歳から?」


「……十一」


「十四まで?」


「十五」


「その後?」


「……」


 前原は敦を見る。


「質問多くねぇか」


「すみません」


「まあ」


 川本。


「今日くらい」


「竜司」


「本人が聞きたくないならやめるけど」


 敦は前原を見る。


「……」


 前原。


 長く。


 息を吐く。


「別に」


「聞かれて困るような」


「立派な話じゃねぇ」


⸻


 前原は椅子へ座った。


「親父」


「いた」


「母親も」


「いた」


 敦。


 黙って聞く。


「親父が」


「酒飲むと」


「暴れる」


「……」


「母親」


「逃げた」


「俺置いて」


 ますみの鉛筆が止まる。


「親父」


「その後」


「捕まった」


「何で」


「いろいろだ」


「……」


「俺」


「親戚」


「回された」


「でも」


「長く置く家」


「なかった」


「……」


「それで」


「青葉園」


⸻


 敦は何か言おうとした。


 でも。


 言葉が出ない。


「可哀想とか」


「言うなよ」


 前原。


「言いません」


「本当か」


「……」


「今」


「ちょっと思いました」


「おい」


「でも」


 敦。


「言わない方がいいかなって」


「もう言ってんじゃねぇか」


 川本が笑う。


⸻


「青葉園」


 前原。


「嫌だった」


「……」


「何が」


 ますみ。


「全部」


「全部?」


「飯」


「まずかった」


「そこ?」


「大事だろ」


 和子。


「大事だね」


「だろ」


「でも」


 前原。


 少し。


 写真を見る。


「職員」


「嫌いだった」


「……」


「ルール」


「嫌いだった」


「消灯」


「外出」


「学校」


「全部」


「……」


「逃げた?」


 敦。


「何回も」


「……」


「戻った?」


「連れ戻された」


⸻


「じゃあ」


 ますみ。


「帰れる場所じゃ」


「なかった?」


 前原。


 少し。


 止まる。


「……」


「当時は」


「違った」


「……」


「じゃあ」


「今は?」


「知らん」


「行ってないから」


「……」


「何十年?」


「数えんな」


「でも」


「四十――」


「数えるな!」


⸻


 川本。


 写真。


 見る。


「正義」


「何だ」


「行く?」


「行かん」


 即答。


「そう」


「……」


「止めねぇのか」


「何で」


「普通」


『最後なんだから行ってこい』


「とか」


「俺が決めることじゃない」


「……」


 前原。


 少し。


 不満そう。


「何だよ」


「いや」


「お前」


「昔なら」


「行けって言った」


「昔はね」


「……」


「俺も」


「少しは変わったんだよ」


⸻


 正午。


 昼食。


 焼きそば。


 グエン。


 来る。


「オー!」


 写真。


 発見。


「チイサイヨシ!」


「見るな!」


「カワイイ!」


「お前まで言うな!」


「メガコワイ!」


「どっちだ!」


 写真。


 食卓。


 回る。


「返せ!」


 ますみ。


「髪ある」


「今もあるわ!」


「いや、今もあります」


 敦。


「フォローすんな!」


⸻


 笑いが起きる。


 でも。


 敦は。


 少し。


 気づく。


 前原。


 本当に。


 嫌なら。


 写真を。


 取り上げて。


 しまうはず。


 でも。


 そのまま。


 置いている。


⸻


 午後一時半。


 倉庫。


 隼人。


 三日目。


「坂口君」


「はい」


「これ」


 田辺。


 伝票。


「数」


「合わない」


「……」


 隼人。


 確認。


「俺ですか」


「まだ分からない」


「……」


「一緒に見よう」


 昨日までなら。


「すみません」


 と。


 先に言った。


 今日は。


 止まる。


「はい」


 二人。


 確認。


 原因。


 別工程。


 入力。


 違い。


「坂口君じゃなかった」


「……」


「良かった?」


 田辺。


「はい」


「でも」


 隼人。


 少し。


 考える。


「俺だったら」


「直せばいいんですよね」


「まあ」


「内容によるけど」


「今回はね」


「……はい」


⸻


 午後二時。


 事務所。


 須賀。


 帰る。


「ただいま」


「おかえり」


 敦。


 もう。


 誰も。


 止まらない。


「内見」


「どうでした」


「狭かった」


「はい」


「古い」


「はい」


「駅から」


「遠い」


「はい」


「……」


「嫌?」


「……」


 須賀。


 考える。


「でも」


「鍵」


「自分で持てる」


「……」


「門限」


「ない」


「はい」


「人呼ぶのは」


「ダメ」


「はい」


「三か月」


「……」


「どうします?」


「明日まで」


「考える」


「分かりました」


⸻


「前の寮より」


 敦。


「いい?」


 須賀。


「それ」


「比べないと」


「ダメですか」


「……」


 敦。


「あ」


「すみません」


「いや」


 須賀。


「俺も」


「比べてたんで」


「……」


「でも」


「前が悪いから」


「こっちが良い」


「じゃなくて」


「今の俺が」


「住めるか」


「考えたい」


 敦。


「……」


「そうですね」


 須賀。


「岡野さん」


「何」


「今」


「俺の方が」


「ちゃんとしてなかった?」


「ちょっと」


「やった」


「喜ぶとこですか」


⸻


 前原は、その会話を奥から聞いていた。


 鍵を。


 自分で持てる。


 門限がない。


 前原。


 少し。


 昔。


 思い出す。


⸻


 十四歳。


 青葉園。


「木島!」


 夜。


 玄関。


 職員。


 若い男。


「また抜けたな!」


 少年。


 前原。


「うるせぇ!」


「何時だと思ってる!」


「知らねぇ!」


「みんな心配したんだぞ!」


「頼んでねぇ!」


「そういう問題じゃない!」


「俺の勝手だろ!」


「十四歳に」


「全部勝手にさせられるか!」


「……」


「中入れ!」


「嫌だ!」


⸻


 雨。


 少年。


 濡れている。


 腹。


 減っている。


 でも。


 中。


 入りたくない。


「帰れ」


 と言われる。


 帰る場所。


 ここ。


 しか。


 ない。


 だから。


 余計。


 入りたくない。


⸻


「木島」


 別の声。


 女性。


 年配。


 厨房。


 担当。


「何」


「ご飯」


「いらねぇ」


「そう」


「……」


「じゃあ」


「そこ置いとく」


「……」


 おにぎり。


 二つ。


 玄関。


 脇。


「食べたくなったら」


「食べな」


「……」


「説教しねぇの」


「私」


「職員じゃないから」


「……」


「厨房のおばちゃんだから」


⸻


 少年。


 前原。


 十分後。


 おにぎり。


 一個。


 食う。


 もう一個。


 食う。


 年配女性。


 何も。


 言わない。


⸻


「ヨシさん?」


 敦。


 声。


 現在。


 前原。


 顔。


 上げる。


「何だ」


「ぼーっとしてた」


「してねぇ」


「してました」


「してねぇ!」


⸻


「青葉園」


 須賀。


 写真。


 見る。


「前原さん」


「施設にいたんですか」


「そうだ」


「……」


「意外」


「何が」


「ずっと」


「こういう人だと」


「どういう人だ!」


「最初から」


「前原さん」


「意味分かんねぇよ!」


⸻


 須賀。


 少し。


 写真。


 見る。


「戻りたいですか」


「戻らん」


「……」


「じゃあ」


「行かない?」


「行かん」


「……」


「俺」


 須賀。


「前の寮」


「戻らないって」


「決めました」


「ああ」


「でも」


「建物」


「なくなるって」


「言われたら」


「……」


 前原。


 須賀を見る。


「行くかも?」


「分かんない」


「だろ」


「……」


「俺も」


「分からん」


⸻


 午後四時。


 翔太。


 仕事へ。


 出る前。


 写真。


 発見。


「誰」


「ヨシさん」


「嘘」


「本当」


「……」


 翔太。


 前原。


 見る。


 写真。


 見る。


「昔」


「子どもだったんですね」


「当たり前だろ!」


「想像したことなかった」


「俺を何だと思ってんだ!」


「ヨシさん」


「答えになってねぇ!」


⸻


 翔太。


 靴。


 履く。


「今日」


「レジ」


「はい」


「怖い?」


「昨日より」


「ちょっとマシ」


「そうか」


「でも」


「怖い」


「そうか」


「……」


 前原。


「行ってらっしゃい」


 翔太。


 少し。


 止まる。


「行ってきます」


⸻


 夕方。


 隼人。


「ただいま」


「おかえり」


 三日目。


 今日は。


 それだけ。


 誰も。


「続いたな」


 と。


 言わない。


 隼人も。


 報告。


 しない。


 弁当箱。


 台所。


「全部食べた」


 和子。


「そう」


「明日も」


「同じくらい」


「分かった」


 それだけ。


⸻


 夜。


 夕食後。


 川本。


 まだ。


 いる。


 前原。


 封筒。


 また。


 見る。


「竜司」


「うん」


「青葉園」


「……」


「行ったら」


「何になる」


 川本。


 少し。


 考える。


「知らない」


「……」


「行かなかったら?」


「それも」


「何にもならないかもしれない」


「……」


「役に立たねぇな」


「答え欲しいなら」


「別の人に聞きな」


「誰だよ」


「自分」


「一番役に立たねぇ」


 川本。


 笑う。


⸻


「正義」


「何だ」


「行くことが」


「前へ進むことだとは」


「思わないよ」


「……」


「行かないことが」


「逃げだとも」


「思わない」


「……」


「じゃあ」


「何で迷う」


「知らない」


「お前今日」


「そればっかだな」


「最近」


「周りから移った」


⸻


 川本。


 帰る。


 夜。


 十一時。


 事務所。


 静か。


 前原。


 一人。


 茶封筒。


 写真。


 そして。


 案内。


青葉園 閉園に伴う旧園舎開放日


 日時。


 来週。


 土曜日。


 午前十時から。


 午後三時。


 予約。


 不要。


⸻


 前原は。


 紙を。


 裏返す。


 捨てる。


 ことも。


 できる。


 行かない。


 と。


 決めることも。


 できる。


「……」


 でも。


 もう一度。


 表。


 見る。


⸻


 十一歳。


 初めて。


 青葉園。


 連れてこられた日。


 少年。


 前原。


 玄関。


 立つ。


「入りたくねぇ」


 誰か。


「今日から」


「ここが家だから」


「家じゃねぇ」


「……」


「俺の家じゃねぇ」


⸻


 十五歳。


 出ていく日。


「二度と」


「戻らねぇ」


 少年。


 言う。


 本当に。


 戻らなかった。


⸻


 何十年。


 経った。


 今。


 自分は。


 人に。


「戻ってもいい」


 と。


 言っている。


「出てもいい」


 と。


 言っている。


「飯食え」


 と。


 言っている。


 どこで。


 覚えた。


⸻


 前原。


 写真。


 見る。


 端。


 十四歳。


 自分。


 そして。


 後ろ。


 厨房。


 窓。


 小さく。


 写る。


 年配女性。


 顔。


 ぼやけている。


「……」


 名前。


 何だった。


⸻


 翌朝。


 午前六時。


 和子。


 台所。


 朝食。


 準備。


 前原。


 来る。


「和子」


「何」


「来週」


「土曜」


「俺」


「いねぇ」


「そう」


「……」


「何」


「聞かねぇのか」


「聞いてほしいの?」


「いや」


「じゃあ聞かない」


「……」


 前原。


 腹立たしそう。


「青葉園」


「行く」


 和子。


 味噌汁。


 混ぜる。


「そう」


「……」


「それだけか」


「何て言ってほしいの」


「知らん」


「じゃあ」


 和子。


 味見。


「朝ご飯」


「食べてから行きな」


「……」


 前原。


 少し。


 笑う。


「おう」


⸻


 その朝。


 前原正義は。


 四十年以上。


 帰らなかった場所へ。


 行くことを。


 決めた。


 仲直りを。


 するためではない。


 過去を。


 許すためでもない。


 自分が。


 変わったことを。


 証明するためでもない。


 ただ。


 なくなる。


 と。


 聞いた。


 それで。


 少し。


 気になった。


 理由は。


 それだけでも。


 よかった。


⸻


後書き


第84話でした。


ここから前原自身の章へ入ります。


今回初めて出てきたのが、前原の旧姓「木島」と、十一歳から十五歳まで暮らした青葉園です。前原が後年なぜ「まず飯を食わせる」にこだわるようになったのか、その原点らしいものも少しだけ見えてきました。


ただし、青葉園を「実は素晴らしい施設だった」という話にはしません。前原は当時、本当に嫌だった。何度も逃げたし、「家じゃない」と思っていた。それも消しません。一方で、説教せずにおにぎりだけ置いてくれた厨房の女性もいた。


そして重要なのは、青葉園へ行くことを「成長」、行かないことを「逃げ」と評価しないことです。前原自身も、なぜ行くのかまだよく分かっていません。


ただ、四十年以上前に「二度と戻らない」と言った少年が、今は人に「戻ってもいい」と言う側にいる。


次回は、閉園前の青葉園へ。


前原、川本、そして意外な人物も同行することになります。そこで前原は、記憶の中とはずいぶん小さくなった建物と、ずっと忘れていた一人の名前に再会します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。