終わったあと
第77話 終わったあと
前書き
締め切りが近づくと、
人は未来を短く見る。
今日。
明日。
提出日。
本番。
そこまで辿り着けば、
全部終わるような気がする。
けれど。
本当は、
その次の日もある。
祭りの翌朝。
仕事の二日目。
展示が終わったあとの壁。
そして、
誰かに見てもらった物語にも、
その先がある。
文化展まで、あと三日。
第77話です。
⸻
午前六時五十三分。
高架下の事務所。
「ない」
レンが言った。
静かに。
しかし。
その声には。
嫌な種類の静けさがあった。
「何が」
藍。
「ない」
「だから何が」
「最終データ」
「……」
「え?」
カナコ。
「昨日の」
「展示用」
「ない」
ますみ。
鉛筆。
止まる。
「……」
「消えた?」
「分からん」
「分からんって何!?」
航平。
「昨日」
「保存した」
「どこ」
「ここ」
ノートパソコン。
フォルダ。
開く。
笑花_展示
笑花_展示_修正
笑花_展示_修正2
笑花_展示_修正2_最終
笑花_展示_修正2_最終_本当
笑花_展示_修正2_最終_本当2
敦。
「……」
「レンさん」
「何」
「これは」
「言うな」
「いや」
「分かりにく――」
「言うな!」
藍。
「一番下じゃないの?」
「開けた」
「違う」
「何が」
「昨日の夜」
「ますみの絵」
「差し替えた後のやつじゃない」
「……」
「じゃあ」
航平。
「どれが最終?」
「だから」
「分からん」
「終わった」
カナコ。
「終わってない!」
レン。
⸻
前原。
起きてくる。
「朝から何だ」
「データが」
「消えました!」
敦。
「消えてねぇ!」
レン。
「多分!」
「多分なの!?」
「うるせぇ!」
前原。
画面。
見る。
フォルダ名。
見る。
レン。
見る。
「お前」
「何」
「頭悪いのか」
「ヨシさんに言われたくない!」
「何だその名前」
「制作現場では普通!」
「嘘つけ」
「普通ではない」
藍。
「裏切るな!」
⸻
午前七時十二分。
捜索。
「これ」
航平。
「昨日の二十一時三十八分」
「開いて」
「違う」
「地図古い」
「こっち」
カナコ。
「二十二時十一分」
「音源リンク切れてる」
「これ」
藍。
「二十二時四十七分」
「……」
レン。
開く。
「……」
全員。
見る。
最後の笑花。
靴紐。
ほどけている。
説明文。
最新版。
地図。
戻る線。
QR。
「これだ!」
レン。
「あるじゃん!」
ますみ。
「何でないって言ったの!」
「ファイル名が」
print_test_B3_2
「……」
「何で?」
藍。
「知らん」
「お前が作ったんだろ!」
「昨日の俺に聞け!」
「いるだろ!」
「今の俺と昨日の俺は違う!」
前原。
「寝ろ」
⸻
朝七時半。
第一危機。
終了。
しかし。
「印刷」
レン。
「今日」
「行く」
「はい」
「全員来るな」
「何で」
ますみ。
「邪魔」
「私の絵」
「だからこそ」
「……」
「俺」
「藍」
「ますみ」
「三人」
「航平」
「地図」
「じゃあ四人」
「カナコ」
「音は印刷しない」
「……」
「寂しい」
「何で」
⸻
その時。
翔太。
制服。
バッグ。
玄関。
立っていた。
今日。
コンビニ。
初日。
「……」
敦が。
顔を見る。
「翔太」
「何ですか」
「大丈夫?」
「分かりません」
「ですよね」
「はい」
「朝飯」
「食いました」
「はい」
「書類」
「あります」
「はい」
「時間」
「間に合います」
「はい」
「……」
「じゃあ」
敦。
「行ってらっしゃい」
翔太。
少し。
止まる。
「それだけ?」
「何か」
「言った方がいいです?」
「いや」
「……」
「それでいいです」
靴。
履く。
「翔太」
和子。
「何」
「帰ってきたら」
「晩ご飯あるから」
「……はい」
「遅くなるなら」
「連絡」
「はい」
前原。
「客と喧嘩すんな」
「しませんよ!」
「店長とも」
「しません!」
「商品食うな」
「子どもじゃない!」
グエン。
「プリン!」
「食べません!」
「イッテラッシャイ!」
「はい!」
翔太。
ドア。
開ける。
一度。
振り返る。
「行ってきます」
今度は。
誰も。
大げさに。
返さなかった。
「行ってらっしゃい」
「いってら」
「頑張って」
「無理すんな」
「プリン!」
「最後何!?」
翔太。
笑って。
出ていった。
⸻
午前九時二十分。
印刷店。
ますみ。
藍。
レン。
航平。
大判プリント。
確認。
「こちら」
店員。
「色味」
「このままで」
「よろしいですか」
ますみ。
見る。
「……」
画面。
笑花。
「ちょっと」
「黄色い」
レン。
「モニター差」
「実物」
「試し刷り」
「見ます?」
「はい」
小さな。
確認用。
出る。
ますみ。
持つ。
「……」
「違う」
「何が」
藍。
「顔」
「え」
「笑花の」
「顔が」
「暗い」
レン。
見る。
「黒つぶれ」
「少し」
「修正できる」
「どれくらい」
「十五分」
「やる」
「はい」
⸻
航平。
地図。
「俺の」
「道」
「細すぎない?」
「印刷したら」
「消えるかも」
レン。
「太くする」
「どれ」
「一段階」
「……」
「これ」
「変わる?」
「変わる」
「じゃあ」
「やる」
藍。
時計。
「間に合う?」
「間に合わせる」
「その言葉」
「怖い」
⸻
ますみ。
椅子。
座る。
試し刷り。
見る。
文化展。
あと三日。
こんな。
細かいこと。
誰が。
気づく。
笑花の目。
少し暗い。
地図の線。
少し細い。
展示に来る人。
そこまで。
見るだろうか。
「……」
「ますみ」
藍。
「何」
「疲れた?」
「ちょっと」
「やめる?」
「何を」
「修正」
「……」
「嫌」
「じゃあ」
「やる」
「うん」
単純。
でも。
今は。
それでいい。
⸻
午前十時。
事務所。
電話。
鳴る。
前原。
「はい」
『前原さんですか』
「そうだ」
『長谷川です』
「……」
前原。
一瞬。
顔。
変わる。
「どの長谷川だ」
『拓海です』
「……」
長谷川拓海。
翔太の。
先輩。
組織に。
救われた人。
そして。
森川と。
二人の子どもを。
見かけたことがある人。
最近。
施設側から。
「余計なことを言わなくていい」
と。
連絡された人。
『翔太から』
『番号聞きました』
「そうか」
『今日』
『少し』
『会えませんか』
前原。
時計。
「昼なら」
『行きます』
「一人で来るか」
『はい』
「分かった」
切る。
⸻
川本。
新聞。
「拓海か」
「ああ」
「来る?」
「昼」
「そうか」
「……」
前原。
コーヒー。
「竜司」
「何だ」
「お前」
「いる?」
「必要か」
「知らん」
「なら」
川本。
新聞。
「いる」
「……」
「何だよ」
「別に」
⸻
午前十一時。
コンビニ。
「いらっしゃいませ」
翔太。
声。
少し。
硬い。
「いらっしゃいませ!」
先輩スタッフ。
明るい。
翔太。
「いらっしゃいませ!」
少し。
大きすぎる。
「そんな大声じゃなくて大丈夫」
「あ」
「すみません」
「最初みんなそうなるから」
「……はい」
レジ。
まだ。
触らない。
品出し。
前出し。
飲料。
菓子。
棚。
「これ」
スタッフ。
「賞味期限」
「前」
「新しいの」
「後ろ」
「はい」
「分からなかったら」
「聞いて」
「はい」
「勝手に」
「何となくでやる方が」
「困るから」
「……」
翔太。
少し。
顔を上げる。
「分からなかったら」
「聞いていいんですか」
「当たり前じゃん」
「……」
「どうしたの」
「いや」
「何でもないです」
⸻
午前十一時四十分。
印刷。
完成。
大判。
一枚目。
出る。
ますみ。
息。
止める。
紙。
大きい。
スケッチブックとは。
全然違う。
笑花。
大きい。
「……」
藍。
「どう」
「怖い」
「何が」
「大きい」
「そりゃ」
「展示だから」
「こんな」
「大きく描いたつもり」
「なかった」
「……」
ますみ。
近づく。
目。
見る。
潰れていない。
泣きそう。
少し。
怒っている。
「……」
「大丈夫」
小さく。
言う。
「何が」
レン。
「笑花」
「ちゃんといる」
レン。
少し。
笑う。
「じゃあ」
「次」
⸻
正午。
事務所。
長谷川拓海。
来る。
「……どうも」
前原。
ソファ。
「座れ」
「はい」
川本。
少し離れた。
敦は。
印刷組。
不在。
和子。
台所。
「飯」
「食べた?」
拓海。
「え」
「まだ?」
「……はい」
「じゃあ」
和子。
「食べな」
「いや」
「話」
「食べながらでいいでしょ」
「……」
前原。
「逆らうな」
「前原さんも?」
「俺も逆らわねぇ」
拓海。
少し。
戸惑う。
でも。
座る。
焼き魚。
ご飯。
味噌汁。
出る。
「いただきます」
⸻
しばらく。
食べる。
前原は。
急かさない。
拓海。
半分。
食べる。
「翔太から」
「聞きました」
「何を」
「……」
「前原さん」
「俺の話」
「聞いてくれるって」
「聞くだけなら」
「……」
「俺」
拓海。
箸。
置く。
「あそこに」
「助けられました」
「そうか」
「本当に」
「……」
「仕事」
「続かなくて」
「家とも」
「揉めて」
「金なくなって」
「友達の家」
「転々として」
「……」
「あそこなかったら」
「多分」
「俺」
「死んでました」
前原。
顔。
変えない。
「そうか」
「……」
「だから」
拓海。
「今」
「施設のこと」
「色々」
「調べられてるって」
「聞いて」
「……」
「最初」
「腹立ったんです」
「誰に」
「……」
「分かんないです」
「翔太にも」
「外の人にも」
「森川さんにも」
「……」
「何で」
「俺が助かった場所を」
「悪い場所みたいに」
「言うんだって」
前原。
「うん」
「……」
「でも」
「最近」
「施設から」
「連絡来て」
「余計なこと」
「言わなくていいって」
「……」
「その時」
「何か」
「変だなって」
⸻
「俺」
拓海。
「助かったって」
「何回も」
「話してきたんです」
「説明会とか」
「新しい人に」
「……」
「自分みたいになれるって」
「……」
「それ」
「嘘じゃないです」
「うん」
「でも」
「俺が助かったことを」
「全部正しかった証拠みたいに」
「使われてたら」
「……」
拓海。
拳。
少し。
握る。
「それは」
「違う」
前原。
「うん」
「……」
「前原さん」
「何だ」
「俺」
「助けられたって」
「言っちゃダメなんですか」
前原。
拓海を見る。
「誰が」
「そんなこと言った」
「……」
「でも」
「ユウって子」
「傷ついたんですよね」
「そうらしいな」
「じゃあ」
「俺が」
『あそこは良い場所だった』
「って言ったら」
「……」
「その子のこと」
「否定するみたいで」
前原。
少し。
息を吐く。
「お前」
「助かったんだろ」
「……はい」
「なら」
「助かった」
「それでいい」
「……」
「それは」
「誰にも」
「消せねぇ」
拓海。
顔。
上げる。
「でもな」
前原。
少し。
声。
低くなる。
「お前が助かったことは消えねぇ」
「……」
「だからって」
「傷ついた奴まで消すな」
拓海。
動かない。
⸻
長い。
沈黙。
「……両方」
拓海。
「本当で」
「いいんですか」
「人間の話だろ」
前原。
「そんな綺麗に」
「一個になるか」
「……」
「あそこが」
「お前を助けた」
「それは本当」
「……」
「あそこで」
「傷ついた奴がいた」
「それも本当」
「……」
「片方消さねぇと」
「困るのは」
「誰だ」
拓海。
何も。
答えない。
「施設?」
「……」
「かもしれません」
「じゃあ」
「お前が」
「困る必要ねぇだろ」
⸻
川本。
静かに。
コーヒー。
置く。
「拓海」
「はい」
「森川を見た時の話」
「……」
「覚えてる範囲で」
「もう一度」
「話せるか」
拓海。
頷く。
「二年くらい前」
「駅で」
「施設の人と」
「一緒にいた時です」
「……」
「森川さんが」
「子ども二人と」
「いました」
「美月とユウか」
「多分」
「でも」
「名前は」
「その時」
「知りませんでした」
「うん」
「俺を見た時」
「森川さんの顔」
「変わった」
「どんな」
「……」
「怖がった」
「ように」
「見えました」
「ように」
「です」
川本。
小さく。
頷く。
「それで」
「施設へ」
「言った」
「はい」
「誰に」
「職員」
「名前」
「……」
拓海。
考える。
「松井さん」
「だったと思います」
「思う?」
「すみません」
「二年前なので」
「謝るな」
前原。
「分かんねぇなら」
「分かんねぇでいい」
拓海。
少し。
前原を見る。
「……はい」
⸻
「その人が」
『上に伝える』
「って」
「言いました」
「それだけ?」
「はい」
「その後」
「何か」
「聞いたか」
「聞いてません」
「……」
「最近の連絡は」
川本。
「別の人?」
「はい」
「誰」
「施設の事務の人」
「名前」
「分かります」
拓海。
スマートフォン。
履歴。
「この人です」
川本。
見る。
「この人から」
「何て」
「……」
「外から」
「昔のこと聞かれるかもしれない」
「でも」
「自分が知らないことまで」
「話す必要はない」
「って」
「……」
「それだけなら」
「普通にも聞こえる」
川本。
「はい」
「そのあと」
『余計なことは言わなくていい』
「って」
「……」
「それが」
「引っ掛かった?」
「はい」
⸻
前原。
「拓海」
「はい」
「お前」
「見たこと」
「聞いたこと」
「それだけ」
「話せ」
「……」
「どういう意味ですか」
「森川が」
「何でそこにいたか」
「知らねぇんだろ」
「はい」
「施設が」
「何考えてたか」
「知らねぇ」
「はい」
「なら」
「知らねぇでいい」
「……」
「お前が」
「施設を守る必要も」
「潰す必要もねぇ」
「……」
「見たもの」
「言われたこと」
「助かったこと」
「それだけ」
「……」
「それで」
「いいんですか」
「それ以上」
「何を作るんだ」
拓海。
少し。
笑った。
「俺」
「ずっと」
「どっちか」
「決めなきゃいけないと」
「思ってました」
「何を」
「良い場所だったか」
「悪い場所だったか」
「……」
「決めなくていいんですか」
前原。
「俺に聞くな」
「……」
「自分で考えろ」
「はい」
「でも」
「今日決める必要はねぇ」
「……はい」
⸻
「桜井さん」
川本。
「佐伯さん」
「話す?」
拓海。
少し。
怖そう。
「……」
「俺」
「何か」
「大事になります?」
「なるかもしれない」
川本。
「ならないかもしれない」
「……」
「そこは」
「俺らにも」
「分からない」
「……」
「でも」
前原。
「言うなら」
「盛るな」
「はい」
「減らすな」
「……」
「分からんことは」
「分からん」
「はい」
「それだけ」
拓海。
ゆっくり。
頷く。
「……話します」
⸻
和子。
台所。
「ご飯」
「おかわり」
拓海。
「え」
「食べる?」
「……」
少し。
笑う。
「お願いします」
「はい」
茶碗。
渡す。
前原。
「お前」
「結構食うな」
「すみません」
「謝るな」
「……」
「飯食って」
「何で謝る」
拓海。
「癖です」
「直せ」
和子。
「正義」
「何」
「そういうの」
「すぐ直せって言わない」
「……」
「はい」
拓海。
吹き出す。
⸻
午後一時四十分。
印刷組。
帰宅。
「できた!」
敦。
大判。
「触るな!」
レン。
「まだ乾燥」
「もう乾いてる!」
「気分!」
「何それ!」
ますみ。
作品。
机。
置く。
その時。
拓海。
いる。
「……」
翔太の先輩。
ますみは。
話だけ。
聞いている。
「こんにちは」
「どうも」
拓海。
壁。
白布。
「文化展?」
「うん」
「……」
ますみ。
少し。
迷う。
「見る?」
藍が。
ますみを見る。
ますみ自身が。
聞いた。
「いいの?」
「うん」
白布。
外す。
まだ。
仮展示。
拓海。
立つ。
最初。
笑花。
道端。
次。
優しい人。
そこから。
出る。
戻る。
食べる。
泣く。
また。
出る。
誰かと。
並んで歩く。
地図。
町。
最後。
灯り。
ほどけた靴紐。
「……」
拓海。
長く。
見る。
ますみ。
少し。
緊張。
「どう?」
「……」
「俺」
拓海。
最後。
笑花を見る。
「この」
「戻るところ」
「嫌いです」
ますみ。
少し。
固まる。
「……」
「何で」
「自分で」
「出たのに」
「戻るから」
「うん」
「……」
「なんか」
「腹立つ」
「……」
「でも」
拓海。
少し。
笑う。
「一番」
「分かります」
ますみ。
顔。
上げる。
「俺も」
「施設」
「出た後」
「何回か」
「電話したことあるんです」
「……」
「どうしていいか」
「分かんなくて」
「……」
「だから」
「嫌い」
「でも」
「分かる」
ますみ。
少し。
笑う。
「それ」
「昨日」
「私も」
「似たこと言った」
「そうなんですか」
「うん」
「笑花」
「ちょっと面倒」
「……」
「でも」
「前より好き」
拓海。
「変な作品ですね」
「褒めてる?」
「多分」
「じゃあ」
「ありがとう」
⸻
拓海は。
説明文。
見る。
特定の人物の体験を再現したものではありません。
そこ。
少し。
長く。
読む。
でも。
何も。
言わない。
そして。
「文化展」
「いつですか」
ますみ。
「三日後」
「……」
「来る?」
拓海。
少し。
考える。
「分かりません」
「うん」
ますみ。
「来なくてもいい」
「……」
「でも」
「来たかったら」
「来て」
拓海。
少し。
目を細める。
「はい」
⸻
午後三時。
第二危機。
「音」
カナコ。
「鳴らない」
「何で!?」
藍。
「QR」
「読み込める」
「ページ」
「開く」
「再生」
「……」
押す。
無音。
「終わった」
「終わってない!」
今度は。
カナコが。
レンを見る。
「何とかして」
「俺!?」
「デジタル!」
「全部俺に振るな!」
航平。
「ファイル形式?」
「昨日まで鳴った!」
「スマホ?」
「三台試した!」
「……」
敦。
「ネット」
「あります?」
「ある!」
「音量」
「上げた?」
「子どもじゃない!」
敦。
「すみません!」
⸻
四十分後。
原因。
「公開設定」
レン。
「非公開になってる」
「……」
カナコ。
「何で」
「昨日」
「差し替えた時」
「新しいファイル」
「非公開」
「……」
「押す」
「公開」
「……」
音。
流れる。
町。
足音。
小さな。
旋律。
「……」
カナコ。
机。
突っ伏す。
「もう嫌」
藍。
「あと三日」
「言わないで」
「ごめん」
⸻
夕方。
翔太。
帰る。
「ただいま」
玄関。
一瞬。
静か。
そして。
「おかえり」
和子。
「どうだった」
隼人。
「疲れた」
「失敗した?」
「した」
「何」
「ペットボトル」
「並べる場所」
「間違えた」
「それだけ?」
「俺には大事件です」
「怒られた?」
「いや」
『そこじゃないよ』
「って」
「……」
「それだけ?」
「はい」
隼人。
「世の中」
「意外と」
「普通だな」
「何ですかそれ」
「俺も」
「面接で思った」
翔太。
靴。
脱ぐ。
「あと」
「レジ」
「明日から」
「怖い」
「じゃあ」
敦。
「明日終わったら」
「また考えましょう」
「はい」
翔太。
少し。
笑う。
「岡野さん」
「何」
「それ」
「便利ですね」
「何が」
「また考えましょう」
「高瀬さんも」
「最近言ってるらしいぞ」
前原。
「え」
「流行ってる!?」
⸻
夕食。
今日。
拓海も。
残った。
翔太。
少し。
驚いた。
「先輩」
「おう」
「ヨシさんと」
「話した?」
「話した」
「……」
「どうだった」
拓海。
前原を見る。
前原。
飯。
「怖かった」
「おい」
全員。
笑う。
「でも」
拓海。
「来てよかった」
「……」
「そっか」
翔太。
それ以上。
聞かない。
⸻
食後。
拓海。
翔太。
外。
自販機。
「翔太」
「はい」
「俺」
「桜井さんって人に」
「話すことにした」
「……」
「うん」
「お前」
「言わないの」
「何を」
『良かったですね』
「とか」
「……」
「先輩が」
「決めたから」
「……」
「怖い?」
「怖い」
「じゃあ」
翔太。
「怖いまま」
「行けばいいんじゃないですか」
拓海。
「お前」
「生意気になったな」
「先輩のおかげです」
「それ」
「褒めてねぇだろ」
「多分」
二人。
笑う。
⸻
夜。
創作組。
最終確認。
「印刷」
「OK」
「地図」
「OK」
「音」
「公開」
「OK」
「QR」
「三機種」
「OK」
「文章」
「OK」
「説明」
「OK」
「展示台」
「借りる」
「冊子」
「明日」
「……」
「冊子?」
レン。
止まる。
「……」
全員。
止まる。
「誰」
「入稿した?」
沈黙。
「……」
藍。
「レン?」
「俺じゃない」
「航平?」
「地図だけ」
「カナコ?」
「音」
「ますみ?」
「知らない」
「……」
「奈々恵」
「編集データ」
「渡した」
「……」
レン。
パソコン。
「入稿」
「してない」
「……」
全員。
「うわあああああ!」
前原。
「夜だ!」
⸻
午後九時十五分。
電話。
印刷所。
当然。
閉まっている。
「明日朝」
レン。
「最速」
「確認」
「間に合わなかったら」
「どうする」
ますみ。
「自宅プリント」
藍。
「ホチキス」
航平。
「手製」
カナコ。
「それ」
「むしろ」
「いいんじゃない?」
全員。
止まる。
「え」
「展示」
「手作り感あるし」
「……」
レン。
「印刷所」
「間に合っても」
「手製版」
「何冊か」
「ありかも」
「……」
ますみ。
「作る?」
「今から?」
藍。
「明日」
「今日は」
奈々恵。
「寝よう」
「正解」
全員。
即答。
⸻
ますみ。
片付け。
展示。
見る。
そして。
突然。
「ねえ」
「何」
藍。
「これ」
「文化展」
「終わったら」
「どうするの」
「……」
誰も。
答えない。
「どうするって」
航平。
「展示」
「終わる」
「うん」
「作品」
「持って帰る」
「うん」
「それから?」
「……」
ますみ。
笑花。
見る。
「終わり?」
カナコ。
「別に」
「終わりじゃ」
「ないんじゃない」
「でも」
「何する」
「……」
誰も。
考えていなかった。
文化展。
締め切り。
印刷。
展示。
そこまで。
「私」
ますみ。
「文化展に」
「出すために」
「笑花」
「作ってるみたいに」
「なってた」
「……」
藍。
「最初は」
「違ったね」
「うん」
「最初」
「ただ」
「描いてた」
「……」
「じゃあ」
奈々恵。
「終わったら」
「また」
「ただ描けば?」
ますみ。
顔。
上げる。
「え」
「展示」
「終わったら」
「締め切り」
「なくなる」
「……」
「好きな絵」
「描けるよ」
「削った橋も」
「市場も」
「……」
「笑花が」
「文化展で」
「終わらなくても」
「いい」
ますみ。
机の端。
文化展から。
外した。
橋の絵。
見る。
「……」
「それ」
「いい」
⸻
「じゃあ」
航平。
「町」
「広げる?」
「え」
「展示用」
「地図」
「小さくしたから」
「終わったら」
「外」
「作れる」
「川の向こう」
「駅の先」
「……」
カナコ。
「曲も」
「フル版」
「ある」
藍。
「市場」
「戻せる」
レン。
「冊子」
「ページ制限」
「なくなる」
「……」
「待って」
ますみ。
「増やしすぎ」
「昨日まで」
「削れって」
「言ってたのに!」
「展示は」
「展示」
レン。
「終わった後は」
「別」
「……」
ますみ。
笑う。
「勝手」
「創作なんて」
「そんなもん」
⸻
「でも」
藍。
「次」
「何にする」
「ネット?」
「本?」
「続編?」
「……」
ますみ。
少し。
考える。
「決めない」
「え」
「今は」
「決めない」
「……」
「文化展」
「終わって」
「その時」
「やりたかったら」
「やる」
「……」
「やりたくなかったら」
「休む」
藍。
少し。
笑う。
「うん」
「それがいい」
「でも」
ますみ。
橋の絵。
手に取る。
「これは」
「描き直したい」
「もう決まってるじゃん」
「それは別」
⸻
夜。
前原。
外。
拓海。
帰るところ。
「前原さん」
「何だ」
「今日」
「ありがとうございました」
「別に」
「……」
「俺」
「助かったって」
「言っていいんですよね」
前原。
拓海を見る。
「俺に」
「許可取るな」
「……」
「はい」
「お前の話だ」
「……」
「自分で言え」
「はい」
「でも」
拓海。
「傷ついた人のことも」
「消さない」
「……」
「それでいい?」
「知らん」
「またそれですか」
「自分で考えろ」
拓海。
少し。
笑う。
「分かりました」
「……」
「いや」
少し。
考え直す。
「まだ」
「分かりません」
前原。
口元。
少し。
「それでいい」
⸻
拓海。
帰る。
前原。
見送る。
そこへ。
敦。
ゴミ袋。
「ヨシさん」
「何だ」
「拓海さん」
「帰りました?」
「ああ」
「……」
「どうでした」
「本人に聞け」
「はい」
「……」
敦。
ゴミ。
出す。
「ヨシさん」
「何だよ」
「笑花」
「文化展終わったら」
「どうなると思います?」
「知らん」
「今日そればっか」
「じゃあ」
前原。
事務所。
見る。
中。
ますみ。
藍。
航平。
レン。
カナコ。
まだ。
何か。
話している。
「終わらせたくねぇ奴が」
「いりゃ」
「終わらねぇんじゃねぇか」
「……」
「そういうもんですか」
「知らん」
「また!」
⸻
文化展まで。
あと三日。
翔太は。
初めて。
「行ってきます」
と言って。
仕事へ行った。
隼人も。
数日後。
同じように。
出ていく。
拓海は。
自分が助かったことを。
否定しないまま。
傷ついた誰かの存在も。
否定しない道へ。
一歩。
踏み出した。
高瀬も。
誰かの会社の。
入口まで。
行く。
その先は。
本人に。
任せる。
そして。
笑花。
文化展。
終わったあと。
まだ。
どうなるか。
決まっていない。
でも。
それは。
悪いことではなかった。
終わったあとを。
今。
全部。
決めなくてもいい。
次の日。
また。
考えればいい。
帰ってきて。
飯を食って。
少し休んで。
それから。
続きを。
考えればいい。
⸻
後書き
第77話でした。
今回は二つの「終わったあと」を並べています。
一つは『笑花』。
文化展が近づき、みんな「本番に間に合わせること」だけを考えていました。
でも、ますみが初めて、
「文化展が終わったら、笑花はどうするの?」
と気づきます。
そこで「次は本にしよう」「ネット連載しよう」とすぐ決めないのも、このチームらしいところです。
終わってから考える。
続けたければ続ける。
休みたければ休む。
そして、展示のために削った橋や市場も、作品そのものから消えたわけではない。
文化展はゴールではなく、笑花が一度立ち寄る場所になりました。
もう一つは、長谷川拓海です。
ここで、以前から残していた前原の言葉をようやく入れました。
「お前が助かったことは消えねぇ。だからって、傷ついた奴まで消すな」
拓海が施設に救われたことは本当です。
ユウがそこで傷ついたことも本当。
どちらかを嘘にしないと成立しない話ではありません。
拓海は今後、桜井や佐伯に、自分が実際に見たこと・実際に言われたことだけを話すことになります。
施設を守るためでも、潰すためでもない。
「知らないことは知らない」と言える証言者になる。
ここで組織編も、いよいよ出口が見えてきました。
次回、第78話。
文化展前日です。
手作り冊子、搬入、展示位置、音源確認――当然のように問題が起きます。
そして夕方。
森川から前原へ一本の連絡が入ります。
美月が、
「高瀬さんに会ってみたい」
と自分から言い出します。
ただしユウは行きません。
誰かが会うことを選ぶのと、誰かが会わないことを選ぶこと。
その二つを同時に守る回へ進みます。




