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WAY HOME ――行き場をなくした僕らの、小さな食卓――  作者: 和泉發仙


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6/105

深夜のドライブ

前書き


人間って、

「仲良くなる」

より先に、


「また会ったな」


から始まるのかもしれません。


第6話です。


⸻


第6話 深夜のドライブ


「おい敦」


前原正義が煙草を咥えながら言った。


「暇か」


岡野敦はソファでスマホを見ていた。


「……まぁ」


「じゃあカー坊手伝ってこい」


川本竜司が顔をしかめる。


「なんで俺が」


「お前しか車出せねぇだろ」


「ヨシさん免許あるでしょ」


「今飲んでる」


机には缶ビール。


完全にアウトだった。


敦は少し笑った。


川本は面倒くさそうに立ち上がる。


「……ったく」


「何するんですか」


敦が聞くと、

前原は灰皿へ煙草を押しつけた。


「荷物運び」


嫌な予感しかしなかった。


敦の顔を見て、

前原が笑う。


「安心しろ。

 今回はちゃんとしてる」


“今回は”が怖い。


十分怖い。


外へ出ると、

古いハイエースが停まっていた。


敦は思わず固まった。


川本が笑う。


「トラウマか?」


「ちょっと」


「安心しろ。

 攫わねぇよ」


「信用ができない」


「失礼な奴だな」


でも敦は少し笑っていた。


前のハイエースとは違う。


こっちはボロい。


生活感がある。


コンビニ袋。

工具。

謎の毛布。


完全におっさんの車だった。


敦は助手席へ乗る。


車が動き出す。


深夜の街。


ネオン。

濡れた道路。

閉店したシャッター。

酔っ払い。


敦は窓の外を見ていた。


「……なんか変な感じですね」


「何が」


「こんな時間に、

 人と車乗ってるの」


川本は鼻で笑った。


「友達いなかったのか」


「うるさいですね」


「図星かよ」


敦は黙った。


図星だった。


川本は片手でハンドルを回した。


「まぁ俺もだけどな」


「え?」


「こんな歳になると、

 深夜つるむ相手なんか、

 碌なの残んねぇよ」


敦は少し笑った。


その時だった。


川本のスマホが鳴る。


「……あ?」


通話に出る。


「おう」


数秒後、

川本が顔をしかめた。


「はぁ!?」


敦がびくっとする。


川本は舌打ちした。


「またかよお前!」


電話の向こうから、

怒鳴り声が聞こえてくる。


敦にも少し聞こえた。


若い男の声。


川本は頭を抱える。


「だから言ったろ!

 そんな飲み方すんなって!」


さらに怒鳴り声。


川本はため息をついた。


「……どこだ今」


沈黙。


「は?」


さらに沈黙。


「お前マジか……」


通話が切れる。


川本はハンドルへ額をぶつけた。


「どうしたんですか」


「……木戸」


敦は嫌な予感がした。


十分嫌な予感だった。


「また揉めた」


「また?」


「アイツ、

 酒入るとめんどくせぇんだよ」


敦は少し納得した。


かなり納得した。


川本は方向を変えた。


車が裏道へ入る。


しばらく進むと、

路地の奥に人だかりが見えた。


「あー……」


川本が心底嫌そうな顔をした。


木戸がいた。


Tシャツ姿。


顔真っ赤。


コンビニ前で誰かと揉めている。


「だから俺は悪くねぇって!」


「お前さっきからそればっかだな!」


相手は二十代くらいの男。


どう見ても酔っていた。


木戸も酔っていた。


周囲は半笑い。


完全に面倒な空気だった。


敦は頭を抱えた。


「うわぁ……」


川本は車を降りる。


「おーい木戸」


木戸が振り向く。


「あ」


その瞬間、

少し安心した顔になった。


「カー坊!」


「カー坊言うな」


木戸はフラフラ近づいてくる。


「聞いてくれよ!

 コイツがよぉ!」


「どうせお前も悪い」


「なんで!?」


「顔」


「理不尽だろ!」


敦は少し吹き出した。


木戸は敦を見る。


「笑うな岡野!」


「いや無理ですよその顔」


「どんな顔だよ!」


木戸は完全に酔っ払いだった。


川本は相手側に頭を下げる。


「すんません。

 連れて帰ります」


相手も疲れた顔をした。


「ちゃんと見といてくださいよマジで」


「努力します」


川本は木戸の首根っこを掴む。


「帰るぞ」


「俺はまだ戦える!!」


「何とだよ」


「世の中と」


「めんどくせぇなほんと」


敦は笑いを堪えていた。


木戸はハイエースへ押し込まれる。


「うわっ!!

 ハイエース!!」


「お前がビビる側かよ」


敦が言うと、

木戸は真顔になった。


「……それはちょっと嫌な思い出ある」


「あるんかい」


三人とも少し笑った。


車が走り出す。


木戸は後部座席でぶつぶつ言っていた。


「だいたいよぉ……」


「うん」


「なんで大人って、

 “普通”押し付けてくんだよ……」


敦は少し黙った。


木戸は窓の外を見ていた。


「空気読めとか、

 礼儀とか、

 協調性とか……」


「まぁ……」


「俺、

 昔から全部苦手なんだよ」


車内が少し静かになる。


川本は運転しながら言った。


「お前、

 思ったこと全部口に出すからだろ」


「だって思うじゃん」


「思っても言わねぇんだよ普通は」


「意味分かんねぇ」


木戸は本気で言っていた。


敦は少しだけ、

胸が苦しくなった。


木戸って、

悪い人ではない。


でも、

たぶん昔から色んな場所で怒られてきた。


空気を読め。


黙れ。


合わせろ。


そう言われ続けてきた顔だった。


木戸はシートへ頭を預ける。


「……疲れた」


その一言だけ、

妙に子どもみたいだった。


事務所へ戻ると、

前原がソファで煙草を吸っていた。


木戸を見る。


数秒沈黙。


「……またか」


木戸はふてくされた顔をした。


「今回は俺悪くねぇし」


「毎回そう言う」


「マジだって!」


前原はため息をついた。


「座れ」


木戸はソファへ沈む。


前原は冷蔵庫から麦茶を出した。


「ほら」


「……ありがと」


木戸は麦茶を飲む。


少し静かになる。


敦はぼんやりその様子を見ていた。


不思議だった。


この場所には、

色んな人間が来る。


疲れた人。

逃げた人。

怒られた人。

帰れない人。


でも前原は、

とりあえず座らせる。


まず、

そこから始める。


木戸はぼそっと言った。


「……ヨシさん」


「なんだ」


「俺、

 やっぱ普通になれねぇわ」


前原は煙草を咥えたまま答える。


「別にいいんじゃねぇか」


木戸が顔を上げる。


前原は続けた。


「普通になろうとして、

 壊れる奴いっぱい見てきた」


部屋が静かになる。


「お前はお前でいいから、

 とりあえず人に迷惑かける時だけ気をつけろ」


「そこ一番難しいんだよ……」


木戸が頭を抱える。


敦は吹き出した。


川本も笑う。


前原まで少し笑っていた。


夜はまだ長かった。


でもその夜、

敦は少しだけ思った。


人間って、

ちゃんとしてる人だけで出来てるわけじゃない。


むしろ、

上手く出来ない人間同士の方が、

こうして笑えたりするのかもしれなかった。


⸻


後書き


第6話でした。


木戸、

かなり“生きづらいタイプ”です。


でも、

悪人ではない。


この作品は、

そういう「ズレた人たち」が、

少しずつ居場所を作っていく話になっていきます。

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