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WAY HOME ――行き場をなくした僕らの、小さな食卓――  作者: 和泉發仙


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51/105

消えた住所

前書き


地図の上では、


世界は正確だ。


でも、


人が生きているのは、


地図の中じゃない。


だから、


自分の目で見ることには意味がある。


⸻


第51話 消えた住所


翌朝。


事務所には珍しく全員が集まっていた。


テーブルの中央には、一枚の住宅地図。


その上に、赤い丸が三つ付けられている。


佐伯が地図を指さした。


「関連法人の住所です。」


「一つは説明会をやっていたビル。」


「一つは清掃会社。」


「そして、ここ。」


少し郊外の住宅街。


「シェアハウス《あさがお》。」


⸻


木戸が地図をのぞき込む。


「名前は可愛いな。」


「だから余計に違和感があります。」


佐伯は静かに言った。


「登記もあります。」


「営業許可もあります。」


「行政への届け出も問題ありません。」


敦が尋ねる。


「何がおかしいんです?」


佐伯は少し困ったように笑う。


「昨日、郵便物が返送されてきたんです。」


「宛先不明で。」


⸻


桜井が腕を組む。


「住所が違う?」


「可能性があります。」


黒岩は立ち上がった。


「行くか。」


⸻


前原は短く答えた。


「俺も行く。」


⸻


「俺も!」


翔太が手を挙げる。


しかし前原は首を横に振った。


「今回は留守番だ。」


「なんでですか。」


「顔を覚えられてる。」


翔太は悔しそうに唇を噛む。


それは事実だった。


⸻


結局、


現地へ向かうのは四人。


前原。


黒岩。


桜井。


佐伯。


敦は事務所に残ることになった。


⸻


昼前。


古いワゴン車が住宅街へ入る。


静かな街だった。


公園。


クリーニング店。


小さな八百屋。


犬を散歩させる老人。


どこにでもある風景。


佐伯が地図を見る。


「この先です。」


車を降りる。


住所は確かに存在した。


だが──


「あれ?」


黒岩が立ち止まる。


そこに建っていたのは、


新しい二階建ての一軒家だった。


表札には、


「中村」。


「あさがお」の看板はない。


シェアハウスらしき建物もない。


⸻


桜井が住所をもう一度確認する。


番地は合っている。


地図も合っている。


「……おかしいな。」


その時、


庭で花に水をやっていた女性が四人に気づいた。


五十代くらい。


エプロン姿の穏やかな人だった。


「何か御用ですか?」


佐伯が一歩前へ出る。


「突然すみません。」


「こちらは以前、別の建物でしたか?」


女性は少し考えた。


「ああ……。」


「昔は古いアパートでしたよ。」


全員の視線が集まる。


⸻


「五、六年前だったかしら。」


「取り壊して、この家を建てたんです。」


「じゃあ、『あさがお』というシェアハウスは……?」


女性は首を傾げた。


「聞いたことないですね。」


⸻


黒岩と桜井は目を合わせる。


「住所だけが残ってるのか。」


⸻


その頃、事務所では。


木戸がトランプを広げていた。


「ババ抜きしようぜ。」


「いやです。」


翔太は即答する。


「なんで?」


「木戸さん、絶対ズルするから。」


「人聞き悪いな!」


「前もジョーカー袖に隠してました。」


「バレてたのか。」


藍とますみが思わず笑う。


重たい調査とは対照的に、


事務所にはいつもの空気が流れていた。


⸻


住宅街。


前原は古い電柱に貼られた色褪せた不動産会社のステッカーを見つめていた。


その下には、剥がされた跡がある。


何かの案内板があった形跡。


「……桜井。」


「なんだ。」


「この土地。」


「昔の登記も調べろ。」


桜井は頷く。


「建物だけじゃなく、所有者もか。」


「そうだ。」


前原は静かに言う。


「建物は壊せる。」


「でも、人の繋がりは簡単には消えねぇ。」


⸻


帰り道。


佐伯がぽつりと漏らした。


「違法じゃないかもしれない。」


「でも……。」


前原が続きを引き取る。


「ああ。」


「誰かが、跡を消そうとしてる。」


ワゴン車はゆっくりと住宅街を後にした。


彼らはまだ、事件の全体像を知らない。


だが確かに一つだけ分かった。


違和感は、偶然ではなかった。


⸻


次回予告


第52話 「残された隣人」


桜井は古い住宅地図を手に、かつてアパートがあった頃から住み続ける近所の人を訪ねる。


そこで語られるのは、「あさがお」という名前ではなく、夕方になると若者たちが笑いながら出入りしていた、見慣れた古い建物の記憶だった。


事件ではなく、人の記憶から少しずつ真実が浮かび上がり始める。

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