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WAY HOME ――行き場をなくした僕らの、小さな食卓――  作者: 和泉發仙


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48/105

あの頃の先輩

前書き


人は、


過去に戻りたいわけじゃない。


でも、


過去の誰かに優しくされると、


少しだけ、


戻りたくなってしまう。


第48話です。


⸻


第48話 あの頃の先輩


「……翔太?」


青年は笑っていた。


高校時代と同じ笑顔。


少しだけ髪が短くなったくらい。


それ以外は変わっていない。


⸻


「拓海先輩……。」


翔太の声は小さかった。


⸻


長谷川拓海。


二十五歳。


サッカー部の先輩。


誰にでも優しかった。


後輩からも人気だった。


⸻


「久しぶりじゃん!」


拓海は自然に肩を叩く。


「元気だった?」


⸻


翔太は曖昧に笑う。


「まぁ……。」


⸻


「連絡しても返ってこないからさ。」


「心配してたんだよ。」


⸻


敦は黙って二人を見ていた。


心配。


その言葉に嘘は感じなかった。


⸻


拓海は敦たちにも頭を下げる。


「友達?」


⸻


陸が笑う。


「まぁそんな感じです。」


⸻


「そうなんだ。」


拓海は嬉しそうだった。


⸻


「翔太、高校の頃から人見知りだったから。」


⸻


翔太は苦笑いする。


「やめてくださいよ。」


⸻


「でも少し安心した。」


⸻


拓海は本当に安心したような顔をした。


⸻


「一人じゃなかったんだな。」


⸻


翔太は何も言えなかった。


⸻


その一言は、


少しだけ嬉しかった。


⸻


少しだけ。


⸻


⸻


拓海が言う。


「時間ある?」


⸻


「少しだけ話さない?」


⸻


敦と陸は顔を見合わせる。


⸻


翔太も迷っていた。


⸻


「俺たち外にいる。」


敦が静かに言う。


⸻


翔太は頷いた。


⸻


「十分だけ。」


⸻


⸻


一階のカフェ。


ガラス越しに街が見える。


⸻


拓海はコーヒーを二つ注文した。


⸻


「俺が奢る。」


⸻


「いや。」


⸻


「先輩だから。」


⸻


昔と同じだった。


⸻


翔太は少しだけ肩の力を抜いた。


⸻


「元気だった?」


⸻


「まぁ。」


⸻


「お母さんは?」


⸻


翔太は少し黙る。


⸻


「出ました。」


⸻


拓海は驚かなかった。


⸻


「そうか。」


⸻


「……。」


⸻


「辛かったな。」


⸻


その一言だけだった。


⸻


翔太は俯く。


⸻


誰にも言えなかった。


⸻


でも。


⸻


先輩は、


何も聞かない。


⸻


責めない。


⸻


ただ、


「辛かったな。」


⸻


それだけ。


⸻


翔太は少し目が熱くなった。


⸻


⸻


拓海が笑う。


「俺もさ。」


⸻


「ここに来る前はボロボロだった。」


⸻


「仕事も辞めて。」


⸻


「親とも揉めて。」


⸻


「毎日酒飲んで寝てた。」


⸻


「でも。」


⸻


「ここが拾ってくれた。」


⸻


翔太は静かに聞いていた。


⸻


拓海は続ける。


⸻


「飯食わせてくれて。」


⸻


「住む所も貸してくれて。」


⸻


「仕事も紹介してくれて。」


⸻


「俺、本当に助かった。」


⸻


翔太は顔を上げる。


⸻


その目は真っ直ぐだった。


⸻


嘘をついているようには見えない。


⸻


⸻


「だから。」


⸻


拓海は微笑む。


⸻


「翔太も困ってるなら。」


⸻


「ここ、悪くないぞ。」


⸻


静かになる。


⸻


翔太の心が揺れる。


⸻


目の前にいるのは、


詐欺師じゃない。


⸻


高校の頃、


自分を可愛がってくれた先輩だ。


⸻


その先輩が、


「助かった」


と言っている。


⸻


⸻


一方。


⸻


外。


⸻


敦と陸はベンチに座っていた。


⸻


陸が缶コーヒーを開ける。


⸻


「どう思う?」


⸻


敦は少し考えた。


⸻


「……分からない。」


⸻


「俺も。」


⸻


陸は苦笑した。


⸻


「怖いよな。」


⸻


「うん。」


⸻


「悪い人に見えない。」


⸻


「そう。」


⸻


「だから。」


⸻


「判断できない。」


⸻


⸻


その時。


⸻


ビルの向かい側。


⸻


喫茶店の窓際。


⸻


前原は黙ってその様子を見ていた。


⸻


黒岩が聞く。


⸻


「止めるか?」


⸻


前原は首を振る。


⸻


「止めねぇ。」


⸻


「なんで。」


⸻


「翔太が決める。」


⸻


川本は静かに頷く。


⸻


「自分で決めないと。」


⸻


「また誰かの人生になる。」


⸻


桜井はその言葉を聞いて、


少しだけ目を細めた。


⸻


この人たちは、


救うんじゃない。


⸻


選ばせる。


⸻


そこが、


他とは違う。


⸻


⸻


十分後。


⸻


翔太が店から出てきた。


⸻


表情は複雑だった。


⸻


拓海は最後まで笑顔だった。


⸻


「また飯でも行こう。」


⸻


「いつでも連絡して。」


⸻


「待ってる。」


⸻


翔太は小さく頷いた。


⸻


「……はい。」


⸻


拓海はビルへ戻っていく。


⸻


敦は何も聞かなかった。


⸻


陸も。


⸻


三人は無言のまま駅へ向かう。


⸻


改札の前。


⸻


翔太がようやく口を開いた。


⸻


「……あの人。」


⸻


「うん。」


⸻


「悪い人じゃないんです。」


⸻


敦は頷いた。


⸻


「そう思う。」


⸻


翔太は空を見上げた。


⸻


「だから。」


⸻


「余計に分かんなくなった。」


⸻


夕焼けが、


ガラス張りのビルを赤く染めていた。


⸻


後書き


第48話でした。


今回は、「敵」ではなく「向こう側にも人間がいる」という回です。


長谷川拓海は悪意で翔太を誘っているわけではありません。


彼自身も「救われた」と信じています。


だからこそ、翔太は揺れます。


そして前原は、あえて止めません。


「正しい答え」を押し付けるのではなく、自分で考えて選ぶことを大切にしているからです。


次回は事務所へ戻り、それぞれが感じたことを話し合う回になります。そこで前原が、自身の過去を少しだけ語り始めます。これは前原という人物を理解する、大きな転機になるエピソードです。

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