個別相談
前書き
人は、
嘘だけでは騙されない。
本当のことの中に、
少しだけ都合のいい話を混ぜる。
それが一番信じてしまう。
第47話です。
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第47話 個別相談
「それでは」
天野が笑顔で言った。
「個別相談へご案内します。」
スタッフが動き始める。
会場は自然に小グループへ分かれていく。
誰も急かさない。
誰も命令しない。
だから、
誰も警戒しない。
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敦たち三人にも、
若い男性スタッフが近づいてきた。
二十代後半。
爽やかな笑顔。
スーツ姿。
名札には、
「高瀬 健」
と書かれていた。
「今日は来てくださってありがとうございます。」
名刺を差し出す。
丁寧。
腰も低い。
「こちらへどうぞ。」
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小さな面談室。
丸テーブル。
ソファ。
観葉植物。
おしゃれな照明。
会社というより、
カフェだった。
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高瀬はコーヒーを三人へ渡す。
「緊張しますよね。」
陸が笑う。
「まぁ。」
「僕も最初そうでした。」
「え?」
敦が聞く。
「高瀬さんも?」
高瀬は笑顔のまま頷く。
「元々フリーターでした。」
「仕事も続かなくて。」
「親とも喧嘩して。」
「人生終わったなって思ってました。」
翔太が顔を上げる。
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「でも。」
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「ここに来て変わったんです。」
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敦は心の中で呟く。
(体験談……)
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高瀬は続ける。
「皆さんも。」
「頑張ってきましたよね。」
翔太が小さく頷く。
「はい……」
「分かります。」
「頑張る人ほど疲れるんですよ。」
翔太の肩が少し下がる。
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その様子を見て、
敦は鳥肌が立った。
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責めない。
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肯定する。
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全部受け止める。
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だから、
心が開いてしまう。
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高瀬は敦を見る。
「岡野さんは?」
敦は少し考えた。
「派遣です。」
「なるほど。」
「大変ですよね。」
「夜勤とか?」
「あります。」
「ですよね。」
「僕もやってました。」
また共感だった。
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その頃。
翔太は部屋を見回していた。
視線が止まる。
壁。
写真。
社員旅行。
バーベキュー。
誕生日。
笑顔。
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その写真の中に。
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いた。
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「……。」
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翔太の顔色が変わる。
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高瀬が気づく。
「どうしました?」
翔太は写真を指差した。
「あの人……」
高瀬が振り返る。
「あぁ。」
「先輩です。」
「今は別部署ですよ。」
翔太は何も言わなかった。
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同じ高校だった先輩。
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突然羽振りが良くなった。
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その人だった。
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もう後戻りできない。
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そう思った。
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高瀬は話題を変える。
「夢ってありますか?」
陸が笑う。
「ありません。」
「それでもいいんです。」
高瀬は即答した。
「ここで見つければいい。」
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その言葉を聞いた瞬間。
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敦は思った。
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(全部正しい。)
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だから怖い。
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一方。
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駅前の喫茶店。
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黒岩が窓の外を見る。
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「まだ出てこねぇな。」
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桜井は腕時計を見る。
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「面談中だろ。」
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川本が前原を見る。
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前原は黙ったままだった。
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煙草にも火を付けていない。
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珍しい。
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桜井が笑う。
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「落ち着かねぇか。」
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前原は短く答える。
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「当たり前だ。」
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「ガキ預けてんだ。」
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川本は少し驚いた。
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ヨシさんが、
そんな言い方をするのは珍しかった。
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黒岩も少し笑う。
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「親父みてぇだな。」
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前原は睨む。
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「誰がだ。」
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「全員だよ。」
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喫茶店に小さな笑いが生まれた。
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説明会会場。
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高瀬は最後に、
一枚のパンフレットを差し出した。
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「今日決めなくても大丈夫です。」
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「また来てください。」
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「考えてください。」
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「焦らなくて大丈夫です。」
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陸が受け取る。
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敦も。
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翔太も。
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帰らせる。
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それも計算だった。
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追いかけない。
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だから、
「また来ようかな」
と思ってしまう。
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三人は部屋を出る。
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廊下。
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その時だった。
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「翔太?」
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後ろから声がした。
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翔太が止まる。
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ゆっくり振り返る。
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立っていたのは、
写真の中の青年。
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笑顔。
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スーツ姿。
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「久しぶりじゃん。」
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翔太の喉が鳴る。
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高校の先輩。
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長谷川拓海。
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「あの時、
来なかったから心配してたんだよ。」
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敦と陸は顔を見合わせる。
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ここからだ。
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本当の話は。
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後書き
第47話でした。
今回は「囲い込む技術」を描きました。
高瀬は悪人ではありません。
むしろ本人も「ここで救われた」と信じています。
だからこそ、言葉に嘘がありません。
一方で、ラストには翔太の高校時代の先輩・長谷川拓海が登場しました。
彼は敵というより、「あちら側へ行ってしまった先輩」です。
次回は翔太と拓海の再会を通して、「人はどうやって少しずつ居場所を失っていくのか」を描いていきます。ここは派手な対決ではなく、静かな会話だからこそ緊張感のある回にしたいですね。




