↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
WAY HOME ――行き場をなくした僕らの、小さな食卓――  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/105

個別相談

前書き


人は、


嘘だけでは騙されない。


本当のことの中に、


少しだけ都合のいい話を混ぜる。


それが一番信じてしまう。


第47話です。


⸻


第47話 個別相談


「それでは」


天野が笑顔で言った。


「個別相談へご案内します。」


スタッフが動き始める。


会場は自然に小グループへ分かれていく。


誰も急かさない。


誰も命令しない。


だから、


誰も警戒しない。


⸻


敦たち三人にも、


若い男性スタッフが近づいてきた。


二十代後半。


爽やかな笑顔。


スーツ姿。


名札には、


「高瀬 健」


と書かれていた。


「今日は来てくださってありがとうございます。」


名刺を差し出す。


丁寧。


腰も低い。


「こちらへどうぞ。」


⸻


小さな面談室。


丸テーブル。


ソファ。


観葉植物。


おしゃれな照明。


会社というより、


カフェだった。


⸻


高瀬はコーヒーを三人へ渡す。


「緊張しますよね。」


陸が笑う。


「まぁ。」


「僕も最初そうでした。」


「え?」


敦が聞く。


「高瀬さんも?」


高瀬は笑顔のまま頷く。


「元々フリーターでした。」


「仕事も続かなくて。」


「親とも喧嘩して。」


「人生終わったなって思ってました。」


翔太が顔を上げる。


⸻


「でも。」


⸻


「ここに来て変わったんです。」


⸻


敦は心の中で呟く。


(体験談……)


⸻


高瀬は続ける。


「皆さんも。」


「頑張ってきましたよね。」


翔太が小さく頷く。


「はい……」


「分かります。」


「頑張る人ほど疲れるんですよ。」


翔太の肩が少し下がる。


⸻


その様子を見て、


敦は鳥肌が立った。


⸻


責めない。


⸻


肯定する。


⸻


全部受け止める。


⸻


だから、


心が開いてしまう。


⸻


高瀬は敦を見る。


「岡野さんは?」


敦は少し考えた。


「派遣です。」


「なるほど。」


「大変ですよね。」


「夜勤とか?」


「あります。」


「ですよね。」


「僕もやってました。」


また共感だった。


⸻


その頃。


翔太は部屋を見回していた。


視線が止まる。


壁。


写真。


社員旅行。


バーベキュー。


誕生日。


笑顔。


⸻


その写真の中に。


⸻


いた。


⸻


「……。」


⸻


翔太の顔色が変わる。


⸻


高瀬が気づく。


「どうしました?」


翔太は写真を指差した。


「あの人……」


高瀬が振り返る。


「あぁ。」


「先輩です。」


「今は別部署ですよ。」


翔太は何も言わなかった。


⸻


同じ高校だった先輩。


⸻


突然羽振りが良くなった。


⸻


その人だった。


⸻


もう後戻りできない。


⸻


そう思った。


⸻


高瀬は話題を変える。


「夢ってありますか?」


陸が笑う。


「ありません。」


「それでもいいんです。」


高瀬は即答した。


「ここで見つければいい。」


⸻


その言葉を聞いた瞬間。


⸻


敦は思った。


⸻


(全部正しい。)


⸻


だから怖い。


⸻


⸻


一方。


⸻


駅前の喫茶店。


⸻


黒岩が窓の外を見る。


⸻


「まだ出てこねぇな。」


⸻


桜井は腕時計を見る。


⸻


「面談中だろ。」


⸻


川本が前原を見る。


⸻


前原は黙ったままだった。


⸻


煙草にも火を付けていない。


⸻


珍しい。


⸻


桜井が笑う。


⸻


「落ち着かねぇか。」


⸻


前原は短く答える。


⸻


「当たり前だ。」


⸻


「ガキ預けてんだ。」


⸻


川本は少し驚いた。


⸻


ヨシさんが、


そんな言い方をするのは珍しかった。


⸻


黒岩も少し笑う。


⸻


「親父みてぇだな。」


⸻


前原は睨む。


⸻


「誰がだ。」


⸻


「全員だよ。」


⸻


喫茶店に小さな笑いが生まれた。


⸻


⸻


説明会会場。


⸻


高瀬は最後に、


一枚のパンフレットを差し出した。


⸻


「今日決めなくても大丈夫です。」


⸻


「また来てください。」


⸻


「考えてください。」


⸻


「焦らなくて大丈夫です。」


⸻


陸が受け取る。


⸻


敦も。


⸻


翔太も。


⸻


帰らせる。


⸻


それも計算だった。


⸻


追いかけない。


⸻


だから、


「また来ようかな」


と思ってしまう。


⸻


三人は部屋を出る。


⸻


廊下。


⸻


その時だった。


⸻


「翔太?」


⸻


後ろから声がした。


⸻


翔太が止まる。


⸻


ゆっくり振り返る。


⸻


立っていたのは、


写真の中の青年。


⸻


笑顔。


⸻


スーツ姿。


⸻


「久しぶりじゃん。」


⸻


翔太の喉が鳴る。


⸻


高校の先輩。


⸻


長谷川拓海。


⸻


「あの時、

来なかったから心配してたんだよ。」


⸻


敦と陸は顔を見合わせる。


⸻


ここからだ。


⸻


本当の話は。


⸻


後書き


第47話でした。


今回は「囲い込む技術」を描きました。


高瀬は悪人ではありません。


むしろ本人も「ここで救われた」と信じています。


だからこそ、言葉に嘘がありません。


一方で、ラストには翔太の高校時代の先輩・長谷川拓海が登場しました。


彼は敵というより、「あちら側へ行ってしまった先輩」です。


次回は翔太と拓海の再会を通して、「人はどうやって少しずつ居場所を失っていくのか」を描いていきます。ここは派手な対決ではなく、静かな会話だからこそ緊張感のある回にしたいですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。