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WAY HOME ――行き場をなくした僕らの、小さな食卓――  作者: 和泉發仙


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46/105

説明会

⸻


前書き


怖い場所には、


「危険」


とは書いてありません。


「安心」


「応援」


「夢」


そんな言葉が並んでいます。


だから、


人は自分から入ってしまうのです。


第46話です。


⸻


第46話 説明会


土曜日。


午後一時。


駅前。


人で賑わうロータリー。


待ち合わせ場所には、


敦。


翔太。


陸。


三人が集まっていた。


⸻


陸は新品みたいなシャツを着ている。


髪まで整えてきた。


木戸なら絶対言う。


「デートか」


と。


⸻


翔太は少し緊張していた。


何度もスマホを見る。


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敦は腕時計を見た。


午後一時十五分。


⸻


そこへ。


前原が歩いてきた。


煙草。


缶コーヒー。


いつもの格好。


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「緊張してるか。」


前原が聞く。


⸻


陸が笑う。


「めっちゃ。」


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翔太は正直だった。


「怖いです。」


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敦は少し考えた。


「……半分。」


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前原は頷いた。


⸻


「それでいい。」


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「怖くなくなったら終わりだ。」


⸻


その言葉だけ残し、


前原は踵を返す。


⸻


「ヨシさん。」


敦が呼ぶ。


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前原は振り向かない。


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「なんだ。」


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「もし何かあったら。」


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前原は鼻で笑った。


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「電話しろ。」


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「三回鳴らせ。」


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「出なかったら。」


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少しだけ笑う。


⸻


「四回目で出る。」


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陸が吹き出した。


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「なんすかそれ。」


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「寝てる。」


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全員笑った。


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少しだけ緊張がほどけた。


⸻


⸻


午後一時三十分。


ガラス張りのビル。


受付。


白い床。


アロマの匂い。


若いスタッフ。


笑顔。


⸻


「こんにちは!」


女性スタッフが迎える。


昨日見た人だった。


⸻


「説明会ですね?」


⸻


陸が笑顔で答える。


「はい。」


⸻


「ありがとうございます!」


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「こちらへどうぞ!」


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敦は思った。


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普通だ。


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あまりにも普通。


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会社というより。


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美容室。


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カフェ。


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そんな雰囲気だった。


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受付では、


コーヒーまで出てくる。


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「どうぞ。」


⸻


「ありがとうございます。」


⸻


翔太の声が少し震えていた。


⸻


その様子を見た女性スタッフが、


優しく笑う。


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「緊張しますよね。」


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「でも大丈夫ですよ。」


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「皆さん最初はそうですから。」


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その一言。


⸻


翔太は少し安心した顔をした。


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敦は横で見ていた。


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これだ。


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責めない。


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否定しない。


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受け入れる。


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だから、


弱っている人ほど安心する。


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会場。


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二十人ほど。


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大学生くらい。


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フリーター。


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スーツ姿。


⸻


外国人もいる。


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みんな少し不安そう。


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でも。


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希望も持っている。


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そこが辛かった。


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⸻


壇上へ、


スーツ姿の男が現れる。


⸻


三十八歳。


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笑顔。


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穏やかな話し方。


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白石の写真に写っていた男。


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天野 恒一。


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「皆さん。」


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「本日はありがとうございます。」


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拍手。


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「まず。」


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「安心してください。」


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「ここには。」


⸻


「皆さんを否定する人はいません。」


⸻


翔太が少し俯く。


⸻


「仕事が続かなかった人。」


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「学校へ行けなかった人。」


⸻


「家族とうまくいかなかった人。」


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「全部大丈夫です。」


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会場の空気が少し緩む。


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天野は笑う。


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「過去は関係ありません。」


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「今日から人生をやり直しましょう。」


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敦は手を握っていた。


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言葉だけ聞けば、


間違っていない。


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だから怖い。


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⸻


その頃。


⸻


駅前の喫茶店。


⸻


前原。


⸻


川本。


⸻


黒岩。


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桜井。


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四人は窓際に座っていた。


⸻


店からビルが見える。


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黒岩が腕時計を見る。


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「始まったな。」


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前原は窓の外を見る。


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「……。」


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桜井がコーヒーを飲む。


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「ヨシ。」


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「なんだ。」


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「飛び込むなよ。」


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前原は苦笑した。


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「ガキじゃねぇ。」


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川本が小さく笑う。


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「昔なら飛び込んでましたよ。」


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「昔はな。」


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短い返事。


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でも。


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敦なら気付いただろう。


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前原の右手。


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無意識に拳を握っていた。


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⸻


説明会は続く。


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天野が言う。


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「皆さん。」


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「夢はありますか?」


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一人が頷く。


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「あります。」


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「素晴らしい。」


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また拍手。


⸻


天野は続ける。


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「夢がない人も大丈夫。」


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「ここで見つかります。」


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陸が小さく呟く。


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「……うまい。」


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敦も頷いた。


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上手い。


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希望を否定しない。


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不安も否定しない。


⸻


全部包み込む。


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だから、


信用してしまう。


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その時だった。


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天野の視線が、


敦たちへ向く。


⸻


ほんの一瞬。


⸻


目が合った。


⸻


笑顔。


⸻


でも。


⸻


その奥にある鋭さを、


敦だけは見逃さなかった。


⸻


(……気付かれた?)


⸻


天野はすぐに笑顔へ戻る。


⸻


「それでは。」


⸻


「休憩を挟みまして。」


⸻


「個別相談へ入ります。」


⸻


会場がざわつく。


⸻


敦はゆっくり息を吐いた。


⸻


本番は、


ここからだった。


⸻


後書き


第46話でした。


今回はあえて「何も起こらない怖さ」を描きました。


この会社は、暴力で人を支配するのではありません。


安心感で人を囲い込む。


だからこそ、多くの人が自ら扉を開けてしまいます。


そしてラストで、天野が敦たちを一瞬見ました。


まだ敵意ではありません。


ですが、「何か違う」と感じ始めています。


次回は個別相談。


そこで翔太が、かつて自分を勧誘した人物と再会することになります。そこから、静かだった空気が少しずつ張り詰めていきます。

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