↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
WAY HOME ――行き場をなくした僕らの、小さな食卓――  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/105

最初の1ページ

前書き


夢というのは、


最初から大きい必要はない。


本屋に一冊並ぶ。


誰かが読んでくれる。


「面白かった」


そう言ってもらえる。


それだけで、


人生は少し変わることがある。


第43話です。


⸻


第43話 最初の一ページ


「文化祭?」


藍が聞き返した。


⸻


「そう」


真由が頷く。


昼休み。


高架下の事務所。


学校帰りのますみと真由が顔を出していた。


⸻


「今年さ」


「作品展示あるんだよ」


⸻


「美術部だけじゃなくて」


「個人参加もできる」


⸻


ますみが止まる。


⸻


「……へぇ」


⸻


真由はジュースを飲みながら続ける。


⸻


「漫画でも」


「イラストでも」


「写真でも」


「小説でもいいって」


⸻


藍とますみが顔を見合わせる。


⸻


その空気を見逃さなかったのは、


奈々恵だった。


⸻


「出してみたら?」


⸻


ますみ。


⸻


「無理」


⸻


即答。


⸻


藍。


⸻


「私も無理」


⸻


即答。


⸻


木戸。


⸻


「じゃあ決定」


⸻


「なんで!?」


⸻


「多数決」


⸻


「二人しか反対してない!」


⸻


「負けだ」


⸻


「民主主義がおかしい!」


⸻


事務所が笑いに包まれる。


⸻


⸻


その頃。


⸻


前原たちは、


白石から渡されたメモを見ていた。


⸻


住所。


⸻


名前。


⸻


電話番号。


⸻


そして。


⸻


一人の男。


⸻


「こいつが」


桜井が写真を置く。


⸻


三十代後半。


⸻


スーツ。


⸻


営業スマイル。


⸻


「説明会の司会役です」


⸻


黒岩が頷く。


⸻


「表にはいつもコイツが立つ」


⸻


前原は写真をじっと見つめる。


⸻


「……若いな」


⸻


「三十八」


⸻


「俺より下か」


⸻


「そうだ」


⸻


前原は煙草を一本取り出した。


⸻


「こういう奴が一番厄介だ」


⸻


「悪いことしてる顔をしてねぇ」


⸻


⸻


一方。


⸻


事務所では、


創作会議が始まっていた。


⸻


ホワイトボード。


⸻


藍が書く。


⸻


【展示候補】


⸻


① 笑花


② 雨の街


③ 路線図


④ 写真


⑤ 曲


⸻


ますみ。


⸻


「ちょっと待って」


⸻


「なんで全部あるの」


⸻


藍が笑う。


⸻


「うちチームだから」


⸻


レンも頷く。


⸻


「ロゴも作る」


⸻


航平。


⸻


「路線図は任せろ」


⸻


カナコ。


⸻


「テーマ曲作る?」


⸻


「作る!」


⸻


「誰も止めないの!?」


⸻


奈々恵が笑う。


⸻


「面白くなってきたね」


⸻


⸻


その時だった。


⸻


ガチャ。


⸻


扉が開く。


⸻


「失礼します」


⸻


知らない青年だった。


⸻


二十四、五歳。


⸻


眼鏡。


⸻


細身。


⸻


スーツ姿。


⸻


どこか疲れている。


⸻


「ここ……」


⸻


「前原さんの事務所ですか?」


⸻


全員が前原を見る。


⸻


前原は煙草をくわえたまま答えた。


⸻


「そうだ」


⸻


青年は名刺を差し出した。


⸻


「佐伯(さえき) 悠人(ゆうと)」


⸻


市役所勤務。


⸻


福祉課。


⸻


部屋が少し静かになる。


⸻


木戸が小声で敦に言う。


⸻


「役所の人?」


⸻


「みたい」


⸻


佐伯は少し緊張しながら話し始めた。


⸻


「黒岩さんから聞きました」


⸻


「……若い人たちの相談に乗っている場所があると」


⸻


前原は黙って聞いている。


⸻


佐伯は続けた。


⸻


「実は最近」


⸻


「家にも学校にも帰れない子が増えていて……」


⸻


「行政だけでは追いつかないんです」


⸻


「もし」


⸻


「力を貸していただけたら」


⸻


静かになる。


⸻


敦は少し驚いていた。


⸻


今まで。


⸻


前原たちは、


社会の外側にいる人たちだと思っていた。


⸻


でも違う。


⸻


社会の中にも、


同じことを考えている人がいた。


⸻


しかも。


⸻


市役所の人間が、


頭を下げに来た。


⸻


前原はしばらく黙っていた。


⸻


そして。


⸻


煙草を灰皿へ置く。


⸻


「貸さねぇ」


⸻


佐伯が固まる。


⸻


「……え?」


⸻


前原は椅子にもたれた。


⸻


「力なんかねぇよ」


⸻


少し間を置いて。


⸻


「でも」


⸻


「飯くらいなら食わせられる」


⸻


「話くらいなら聞ける」


⸻


「それでいいなら」


⸻


佐伯の表情が少し緩む。


⸻


「……ありがとうございます」


⸻


前原はぶっきらぼうに言う。


⸻


「礼は早ぇ」


⸻


「まだ何もしてねぇ」


⸻


⸻


その光景を見ながら、


ますみは静かにスケッチブックを開いていた。


⸻


笑花。


⸻


その後ろに。


⸻


新しい大人を描き始める。


⸻


少し怖そうで。


⸻


少し不器用で。


⸻


でも。


⸻


困っている人を見ると、


放っておけない大人。


⸻


藍が覗き込む。


⸻


「新キャラ?」


⸻


ますみは少し笑う。


⸻


「……うん」


⸻


「名前は?」


⸻


ますみは前原を見る。


⸻


そして。


⸻


少し考えてから、


鉛筆を走らせた。


⸻


まだ名前はない。


⸻


でも。


⸻


物語の中でも。


⸻


現実の中でも。


⸻


少しずつ。


⸻


「大人」が増え始めていた。


⸻


後書き


第43話でした。


今回は新キャラクターを二人追加しました。


佐伯悠人(28)


* 市役所・福祉課勤務

* 真面目で誠実

* 現場と制度の間で悩んでいる若手公務員

* 前原たちと行政をつなぐ橋渡し役


そして名前だけ登場した、


説明会の司会役(38)。


この人物は今後、シェアハウス問題の重要人物になっていきます。


一方、創作組には「文化祭で展示する」という新たな目標が生まれました。


物語としても、「誰かを助ける話」と「何かを作る話」が、少しずつ同じ方向へ向かい始めています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。