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WAY HOME ――行き場をなくした僕らの、小さな食卓――  作者: 和泉發仙


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41/105

休む練習

前書き


人は、


「頑張れ」


と言われるより、


「今日は休め」


と言われた日の方を、

覚えていることがある。


それくらい、


休むことは難しい。


第41話です。


⸻


第41話 休む練習


朝。


珍しく朝だった。


高架下の事務所。


窓から差し込む光に、

木戸が顔をしかめる。


「朝って毎日こんな眩しいの?」


敦がコーヒーを吹きそうになる。


「毎日ですよ」


「知らなかった」


「知れ」


木戸は毛布を頭まで被った。


「夜型人間に朝日は暴力だ」


「ドラキュラか」


翔太が初めて突っ込んだ。


部屋が少し笑いに包まれる。


⸻


ガチャ。


扉が開く。


「おはようございまーす!」


元気な声。


真壁陸だった。


両手いっぱいにコンビニ袋を持っている。


「パン半額だった!」


「お前どんだけ買ってきた」


木戸が袋を覗く。


メロンパン。


焼きそばパン。


あんパン。


カレーパン。


クリームパン。


「パン祭りか」


「祭りっす!」


陸は満面の笑みだった。


グエンも飛び跳ねる。


「パン!」


「お前は食い物なら全部テンション高いな」


⸻


その時。


ますみが入ってきた。


制服。


リュック。


少し眠そう。


藍も一緒だった。


「あ、おはよう」


敦が言う。


ますみは少し照れながら答える。


「……おはよう」


自然だった。


誰も気づかないくらい自然に。


前なら入口で立ち止まっていた。


今はもう、


靴を脱いで、


自分の席へ向かう。


それだけのことが、


少し嬉しかった。


⸻


「おっ」


木戸が気づく。


「制服じゃん」


ますみが頷く。


「今日は学校寄ってきた」


静かになる。


藍が笑った。


「二時間だけね」


「うん」


「疲れた」


「だろうね」


でも。


ますみの顔は少し明るかった。


全部じゃない。


一歩だけ。


それで十分だった。


⸻


奈々恵が静かに拍手する。


「偉いね」


ますみは困った顔をした。


「そんな大したことじゃないし」


前原が煙草を咥えながら言う。


「そういう時は」


全員見る。


「“ありがとう”でいい」


ますみは少し止まる。


それから。


「……ありがとう」


奈々恵は笑った。


「どういたしまして」


⸻


昼前。


藍は笑花の設定を書いていた。


「笑花ってさ」


「うん?」


「年齢どうする?」


ますみは考える。


「十六」


「なんで?」


「私より少し大人だから」


藍は笑う。


「じゃあ翔太みたいな子は?」


翔太が驚く。


「俺?」


「モデル」


「えぇ!?」


木戸が吹き出した。


「お前物語デビューじゃん」


翔太は真っ赤になる。


「やめてくださいよ!」


ますみはスケッチブックを開く。


新しいページ。


少し不器用そうな少年。


「まだ途中だけど」


翔太は黙って見つめる。


「……似てる?」


ますみは首を振る。


「ううん」


「でも」


「少し借りた」


翔太は照れくさそうに笑った。


「俺なんかでいいなら」


ますみは小さく答えた。


「ありがとう」


⸻


その頃。


別室。


前原。


川本。


黒岩。


桜井。


四人だけだった。


桜井が新しい資料を置く。


「一人見つかった」


写真。


二十三歳。


男性。


現在は実家。


うつ病。


「話は聞けそうだ」


黒岩が頷く。


「無理はさせるな」


桜井も頷く。


「分かってる」


前原だけは写真を見つめていた。


「……若いな」


「二十三だ」


「ガキじゃねぇか」


桜井は苦く笑う。


「俺らから見たらな」


前原は写真を机へ戻した。


「会う」


短く言う。


黒岩は聞く。


「説得するのか?」


前原は首を振る。


「違う」


「話を聞くだけだ」


その言葉に、


桜井が少し笑った。


「昔のお前なら」


「殴り込みだった」


川本も笑う。


「確かに」


前原は煙草に火をつける。


「歳だ」


「違う」


黒岩が言う。


「お前が変わっただけだ」


⸻


夕方。


事務所。


グエンがパンを頬張る。


陸が叫ぶ。


「誰だカレーパン食ったの!」


木戸が目を逸らす。


「知らん」


「口に付いてる!」


「証拠があるのか!」


「あります!」


大騒ぎ。


翔太が笑う。


ますみも笑う。


藍は呆れながら笑う。


敦はその光景を眺めていた。


ほんの数か月前。


この部屋には来たくなかった。


知らない人ばかりだった。


今は違う。


笑い声が聞こえると、


少し安心する。


帰る場所。


そんな言葉はまだ照れくさい。


でも。


この場所はもう、


“通り道”ではなくなっていた。


⸻


その日の帰り際。


ますみは笑花のページを開く。


その横に、


翔太をモデルにした少年。


さらにもう一人。


カメラを持った女性。


街を歩く青年。


ギターを背負う青年。


少しずつ。


笑花の世界に、


事務所のみんなが住み始めていた。


そしてその世界は、


ますみ一人のものではなく、


みんなで育てる世界へと変わり始めていた。


⸻


後書き


第41話でした。


今回は大事件ではなく、


「少し前へ進んだ日」


を描きました。


* ますみが学校へ二時間だけ行けたこと。

* 翔太が初めて笑顔で自分をモデルにしてもらえたこと。

* 前原が「助ける」のではなく「話を聞く」という姿勢を見せたこと。


そして、創作組にも変化が生まれます。


笑花の世界は、ますみ一人の物語ではなく、事務所のみんなが少しずつ生きる物語になっていきます。


次回はいよいよ、元刑事・桜井と前原が被害者の青年に会いに行くエピソードです。


一方で、創作組では「作品を誰かに見せる」という、新たな一歩が始まります。ここから物語はさらに深く、そして温かく広がっていきます。

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