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WAY HOME ――行き場をなくした僕らの、小さな食卓――  作者: 和泉發仙


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39/105

見学会

⸻


前書き


悪い奴というのは、


怒鳴らない。


殴らない。


笑う。


丁寧に名刺を渡して、


「応援します」


と言う。


だから見分けにくい。


第39話です。


⸻


第39話 見学会


午後一時。


高架下の事務所。


「今日さ」


真壁陸が言った。


「見に行かね?」


全員が見る。


「何を」


敦が聞く。


陸はポケットから白い名刺を取り出した。


例の会社だった。


「説明会」


「……」


「潜入?」


木戸が目を輝かせる。


「楽しそう」


「お前は楽しむな」


田中が呆れる。


奈々恵は真顔だった。


「危ないよ」


陸は肩をすくめる。


「だから見るだけ」


「入らない」


「話聞くだけ」


静かになる。


⸻


その頃。


喫茶店。


桜井が資料を広げる。


「会社名は三回変わってる」


黒岩が頷く。


「代表も違う」


「実際は同じ連中だ」


前原は資料をめくる。


「被害届は」


「少ない」


「みんな自分を責めるからな」


桜井が苦い顔をした。


「騙された、じゃない」


「自分が失敗したと思い込まされる」


前原は煙草を咥えた。


その顔は、

いつもより険しかった。


⸻


一方その頃。


創作組。


藍はホワイトボードに大きく書く。


【笑花 設定会議】


「また始まった……」


ますみが頭を抱える。


「主人公なんだから設定いるでしょ」


「まだ主人公じゃない」


「主人公です」


「誰が決めたの」


「私」


「だから独裁!」


木戸が笑う。


「王様だ」


航平も頷く。


「王都だから」


「もうそのネタ飽きた!」


事務所は笑い声に包まれる。


⸻


その時。


ガチャ。


扉が開いた。


「こんにちは」


全員が振り向く。


そこにいたのは、

二十代後半くらいの女性だった。


ショートカット。


ジーンズ。


リュック。


首から一眼レフカメラを下げている。


「……えっと」


少し照れながら笑う。


「黒岩さんに紹介されました」


木戸が小声で言う。


「また増えた」


⸻


名前は


高城詩織(たかぎ しおり)


二十九歳。


フリーカメラマン。


元新聞社勤務。


⸻


「新聞?」


敦が驚く。


詩織は苦笑した。


「三年で辞めました」


「向いてなくて」


「写真は好きだったんですけど」


「会社が向いてなかった」


奈々恵が笑う。


「ここ、そういう人しか来ないよ」


「ですよね」


詩織も笑った。


⸻


藍が興味津々で聞く。


「写真見せてもらっていいですか?」


詩織は少し迷ってから、

カメラを差し出した。


液晶には、


雨の日の高架下。


古びた商店街。


終電後のホーム。


閉店間際の町中華。


工場地帯の煙突。


誰も気に留めない景色が並んでいた。


ますみが思わず呟く。


「……きれい」


詩織は少し嬉しそうに笑う。


「派手な景色より、

こういう方が好きなんです」


藍は画面を見つめたまま言う。


「私の街みたい」


詩織が振り向く。


「街?」


藍はノートを開いた。


雨の街。


高架線。


駅。


笑花。


詩織はページを一枚一枚めくる。


「……すごい」


「え?」


「この世界、

写真みたい」


藍が驚く。


初めて言われた言葉だった。


⸻


その頃。


前原たちは、

例のビルの前に立っていた。


新しく建った十階建て。


ガラス張り。


入口には笑顔の若者。


「こんにちは!」


「見学ですか?」


桜井は遠くから様子を見ている。


黒岩は帽子を深く被る。


前原は煙草を消した。


「ヨシ」


黒岩が言う。


「まだ何もするな」


前原は頷く。


「分かってる」


そう言ったものの、


視線だけは建物から動かなかった。


その目は、

昔を知る川本だけが見たことのある目だった。


「……怒ってるな」


川本が小さく呟く。


前原は何も答えない。


ただ静かに、


ビルの出入り口を見つめ続けていた。


⸻


夜。


高架下の事務所。


ますみは笑花の横に、

新しいキャラクターを描いていた。


カメラを持った女性。


少し猫背で、


街ばかり撮っている人。


藍が覗き込む。


「新キャラ?」


ますみは少し照れながら頷く。


「……うん」


「名前は?」


「まだない」


「じゃあ会議だ」


「やらない!」


また笑い声が響く。


少しずつ。


現実で出会った人たちが、


笑花の世界にも住み始めていた。


⸻


後書き


第39話でした。


今回は新キャラクターとして、


高城詩織(29)


* 元新聞社カメラマン

* 現在はフリーの写真家

* 「何気ない街の風景」を撮るのが好き

* 創作組のビジュアル面に刺激を与える存在


を登場させました。


そして次回からは、物語が少し動きます。


* 前原・黒岩・桜井は、例の「シェアハウス」の実態へ。

* 敦は「自分も一歩間違えればあちら側だった」と向き合うことに。

* 創作組は、笑花の世界を「作品」として外へ出す準備を始めます。


ここからは日常だけでなく、「外の世界」との衝突も少しずつ描いていきます。これがこの物語の中盤の大きな山場になっていきます。

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