見学会
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前書き
悪い奴というのは、
怒鳴らない。
殴らない。
笑う。
丁寧に名刺を渡して、
「応援します」
と言う。
だから見分けにくい。
第39話です。
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第39話 見学会
午後一時。
高架下の事務所。
「今日さ」
真壁陸が言った。
「見に行かね?」
全員が見る。
「何を」
敦が聞く。
陸はポケットから白い名刺を取り出した。
例の会社だった。
「説明会」
「……」
「潜入?」
木戸が目を輝かせる。
「楽しそう」
「お前は楽しむな」
田中が呆れる。
奈々恵は真顔だった。
「危ないよ」
陸は肩をすくめる。
「だから見るだけ」
「入らない」
「話聞くだけ」
静かになる。
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その頃。
喫茶店。
桜井が資料を広げる。
「会社名は三回変わってる」
黒岩が頷く。
「代表も違う」
「実際は同じ連中だ」
前原は資料をめくる。
「被害届は」
「少ない」
「みんな自分を責めるからな」
桜井が苦い顔をした。
「騙された、じゃない」
「自分が失敗したと思い込まされる」
前原は煙草を咥えた。
その顔は、
いつもより険しかった。
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一方その頃。
創作組。
藍はホワイトボードに大きく書く。
【笑花 設定会議】
「また始まった……」
ますみが頭を抱える。
「主人公なんだから設定いるでしょ」
「まだ主人公じゃない」
「主人公です」
「誰が決めたの」
「私」
「だから独裁!」
木戸が笑う。
「王様だ」
航平も頷く。
「王都だから」
「もうそのネタ飽きた!」
事務所は笑い声に包まれる。
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その時。
ガチャ。
扉が開いた。
「こんにちは」
全員が振り向く。
そこにいたのは、
二十代後半くらいの女性だった。
ショートカット。
ジーンズ。
リュック。
首から一眼レフカメラを下げている。
「……えっと」
少し照れながら笑う。
「黒岩さんに紹介されました」
木戸が小声で言う。
「また増えた」
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名前は
高城詩織
二十九歳。
フリーカメラマン。
元新聞社勤務。
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「新聞?」
敦が驚く。
詩織は苦笑した。
「三年で辞めました」
「向いてなくて」
「写真は好きだったんですけど」
「会社が向いてなかった」
奈々恵が笑う。
「ここ、そういう人しか来ないよ」
「ですよね」
詩織も笑った。
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藍が興味津々で聞く。
「写真見せてもらっていいですか?」
詩織は少し迷ってから、
カメラを差し出した。
液晶には、
雨の日の高架下。
古びた商店街。
終電後のホーム。
閉店間際の町中華。
工場地帯の煙突。
誰も気に留めない景色が並んでいた。
ますみが思わず呟く。
「……きれい」
詩織は少し嬉しそうに笑う。
「派手な景色より、
こういう方が好きなんです」
藍は画面を見つめたまま言う。
「私の街みたい」
詩織が振り向く。
「街?」
藍はノートを開いた。
雨の街。
高架線。
駅。
笑花。
詩織はページを一枚一枚めくる。
「……すごい」
「え?」
「この世界、
写真みたい」
藍が驚く。
初めて言われた言葉だった。
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その頃。
前原たちは、
例のビルの前に立っていた。
新しく建った十階建て。
ガラス張り。
入口には笑顔の若者。
「こんにちは!」
「見学ですか?」
桜井は遠くから様子を見ている。
黒岩は帽子を深く被る。
前原は煙草を消した。
「ヨシ」
黒岩が言う。
「まだ何もするな」
前原は頷く。
「分かってる」
そう言ったものの、
視線だけは建物から動かなかった。
その目は、
昔を知る川本だけが見たことのある目だった。
「……怒ってるな」
川本が小さく呟く。
前原は何も答えない。
ただ静かに、
ビルの出入り口を見つめ続けていた。
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夜。
高架下の事務所。
ますみは笑花の横に、
新しいキャラクターを描いていた。
カメラを持った女性。
少し猫背で、
街ばかり撮っている人。
藍が覗き込む。
「新キャラ?」
ますみは少し照れながら頷く。
「……うん」
「名前は?」
「まだない」
「じゃあ会議だ」
「やらない!」
また笑い声が響く。
少しずつ。
現実で出会った人たちが、
笑花の世界にも住み始めていた。
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後書き
第39話でした。
今回は新キャラクターとして、
高城詩織(29)
* 元新聞社カメラマン
* 現在はフリーの写真家
* 「何気ない街の風景」を撮るのが好き
* 創作組のビジュアル面に刺激を与える存在
を登場させました。
そして次回からは、物語が少し動きます。
* 前原・黒岩・桜井は、例の「シェアハウス」の実態へ。
* 敦は「自分も一歩間違えればあちら側だった」と向き合うことに。
* 創作組は、笑花の世界を「作品」として外へ出す準備を始めます。
ここからは日常だけでなく、「外の世界」との衝突も少しずつ描いていきます。これがこの物語の中盤の大きな山場になっていきます。




