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WAY HOME ――行き場をなくした僕らの、小さな食卓――  作者: 和泉發仙


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37/105

消えた居場所

前書き


人には、


人生を変えた場所がある。


学校かもしれない。


職場かもしれない。


誰かの家かもしれない。


でも。


その場所が残るとは限らない。


第37話です。


⸻


第37話 消えた居場所


「これさ」


木戸が写真を見ながら言った。


⸻


「普通にヤバくね?」


⸻


誰も否定しなかった。


⸻


高架下の事務所。


夜。


⸻


机の上。


⸻


黒岩が持ってきた資料。


⸻


写真。


⸻


契約書。


⸻


求人広告。


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SNSの募集画面。


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どれも一見すると普通だった。


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むしろ。


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親切そうだった。


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⸻


『未経験歓迎』


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『住居完備』


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『仲間と夢を叶えよう』


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『人生をやり直せる場所』


⸻


⸻


藍が嫌そうな顔をする。


⸻


「なんか怖い」


⸻


⸻


奈々恵も頷いた。


⸻


「言葉は綺麗なんだけどね」


⸻


⸻


田中が資料をめくる。


⸻


⸻


「綺麗すぎるんですよ」


⸻


⸻


静かになる。


⸻


⸻


田中は続けた。


⸻


⸻


「人間って」


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「そんな簡単にやり直せないです」


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その言葉。


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妙に重かった。


⸻


⸻


⸻


翔太は写真を見ていた。


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一枚。


⸻


また一枚。


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⸻


そして。


⸻


ある写真で止まる。


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⸻


「……この人」


⸻


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全員見る。


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⸻


写真の端。


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若い男。


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笑っている。


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⸻


でも。


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目が笑っていない。


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⸻


翔太は小さく言った。


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⸻


「知ってる」


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⸻


空気が変わる。


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⸻


黒岩が聞く。


⸻


⸻


「先輩か」


⸻


⸻


翔太は頷いた。


⸻


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「高校辞めたあと」


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「急に金持ちみたいになった」


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「SNSで」


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「夢がどうとか」


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「仲間がどうとか」


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⸻


「人生変わったとか」


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⸻


少し沈黙。


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⸻


「みんな羨ましがってた」


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翔太は笑った。


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苦い笑い。


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⸻


「でも」


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「一年後には消えた」


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誰も喋らない。


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「連絡も取れなくなった」


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⸻


「地元にも帰ってない」


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窓の外。


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電車が通る。


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⸻


前原は煙草を咥えたまま聞いていた。


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⸻


表情は変わらない。


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⸻


でも。


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敦は知っていた。


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⸻


怒っている。


⸻


⸻


かなり。


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⸻


⸻


その頃。


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窓際。


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創作組。


⸻


⸻


藍。


⸻


ますみ。


⸻


航平。


⸻


レン。


⸻


⸻


実は。


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こっちも静かだった。


⸻


⸻


ますみが笑花を描いている。


⸻


⸻


藍は設定を書いている。


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⸻


でも。


⸻


耳は向こうの話を聞いていた。


⸻


⸻


ますみがぽつりと言う。


⸻


⸻


「居場所って」


⸻


⸻


「うん」


⸻


⸻


「怖いね」


⸻


⸻


藍が止まる。


⸻


⸻


ますみは続ける。


⸻


⸻


「だって」


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⸻


「信じたら無くなるかもしれない」


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静かになる。


⸻


⸻


航平も聞いていた。


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⸻


レンも。


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⸻


それは。


⸻


この部屋にいる人間の多くが思っていたことだった。


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⸻


藍は少し考える。


⸻


⸻


そして。


⸻


笑花の絵を見る。


⸻


⸻


「でもさ」


⸻


⸻


「うん」


⸻


⸻


「無くなるの怖いから作らないって」


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「もっと嫌じゃない?」


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⸻


ますみが止まる。


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⸻


藍は少し笑った。


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⸻


「私」


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⸻


「今の方が好き」


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「怖いけど」


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「前より」


⸻


⸻


その言葉。


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ますみは何も返せなかった。


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⸻


でも。


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スケッチブックへ視線を落とす。


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⸻


笑花。


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⸻


その横には。


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前より少し大きく。


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『友達』


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と書かれていた。


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⸻


⸻


夜十時。


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真由がやって来た。


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制服。


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コンビニ袋。


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⸻


「差し入れー」


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「何」


⸻


⸻


「肉まん」


⸻


⸻


木戸が反応する。


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⸻


「神か」


⸻


⸻


「お前じゃない」


⸻


⸻


真由が笑う。


⸻


⸻


でも。


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翔太を見る。


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⸻


少し止まる。


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⸻


「新入り?」


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「らしい」


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「ふーん」


⸻


⸻


真由は肉まんを一つ渡した。


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⸻


翔太が受け取る。


⸻


⸻


「ありがとうございます」


⸻


⸻


「別に」


⸻


⸻


どこか。


⸻


ますみと似ていた。


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ぶっきらぼうで。


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優しい。


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⸻


⸻


その時。


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黒岩が立ち上がる。


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⸻


「帰る」


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⸻


前原も立つ。


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⸻


「どこ行くんですか」


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敦が聞く。


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⸻


黒岩は笑う。


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「下見」


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「何の」


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「巣穴の」


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空気が少し張る。


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前原は振り返らない。


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⸻


川本だけが言った。


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「若い連中は手出すなよ」


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木戸。


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「フラグだな」


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「やめろ」


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久しぶりに。


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事務所に少し緊張が走った。


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でも。


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その緊張の中で。


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ますみはペンを走らせる。


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笑花。


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その隣。


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新しい人物。


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少し不器用そうな少年。


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名前はまだ無い。


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でも。


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どこか翔太に似ていた。


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物語の中でも。


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現実の中でも。


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人は少しずつ増えていく。


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そして。


⸻


誰かの居場所は。


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誰かが守ろうとした時から、


本当の意味で始まるのかもしれなかった。


⸻


後書き


第37話でした。


今回は静かな繋ぎ回ですが、


かなり重要な回です。


* 翔太の過去とシェアハウス問題が本格接続

* ますみが「居場所が消える怖さ」を言語化

* 真由が少しずつレギュラー化

* 笑花の世界に新キャラ誕生


そして次回から、


前原・黒岩・川本が動き始めます。


ただしこの作品なので、


殴り込みではありません。


もっと地味で、


もっと現実的で、


だからこそ厄介な戦いになります。

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