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WAY HOME ――行き場をなくした僕らの、小さな食卓――  作者: 和泉發仙


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35/105

似ているふたり

前書き


似ている人間同士が、

仲良くなるとは限らない。


むしろ。


似ているからこそ、

見たくない部分が見えてしまうこともある。


第35話です。


⸻


第35話 似ている二人


翔太が事務所へ来て、

三日が過ぎた。


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まだいた。


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木戸が言う。


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「住み着いたな」


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翔太が即答する。


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「違います」


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「住み着いた奴みんなそう言う」


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「説得力あるのやめて下さい」


⸻


⸻


少しずつ。


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翔太も馴染み始めていた。


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⸻


飯を食う。


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笑う。


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たまに手伝う。


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でも。


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一人だけ。


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ほとんど話さない相手がいた。


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⸻


長澤ますみ。


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別に仲が悪いわけじゃない。


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ただ。


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距離がある。


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妙に。


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その理由を。


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奈々恵だけは何となく分かっていた。


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⸻


似ているのだ。


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この二人。


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⸻


「居場所がない」


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その感覚が。


⸻


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だから逆に。


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近づきづらい。


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⸻


⸻


その日。


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ますみは窓際で絵を描いていた。


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翔太は反対側。


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スマホ。


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何をするでもなく。


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眺めている。


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木戸が言う。


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「暇そう」


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「暇です」


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「働け」


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「十七です」


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「強い」


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事務所爆笑。


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その時。


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翔太のスマホが鳴る。


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全員気づく。


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⸻


画面。


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⸻


『母』


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翔太が固まる。


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完全に。


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着信は続く。


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一回。


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二回。


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三回。


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切れた。


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静かになる。


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翔太は何も言わない。


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スマホを伏せる。


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そして。


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笑う。


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「腹減った」


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木戸が言う。


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「下手」


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翔太が止まる。


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木戸は珍しく真面目だった。


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「誤魔化すの下手」


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沈黙。


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翔太は少し俯く。


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その時。


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ますみが立ち上がる。


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全員見る。


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ますみは何も言わず。


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自販機へ向かう。


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五分後。


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戻る。


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⸻


缶ココア。


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翔太の前へ置く。


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「え」


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「甘いの飲め」


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翔太が固まる。


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⸻


ますみはもう戻っている。


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⸻


スケッチブック。


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何事もなかったように。


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⸻


翔太が缶を見る。


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⸻


そして。


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少し笑う。


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⸻


「ありがとう」


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ますみは振り向かない。


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「別に」


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でも。


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耳が赤かった。


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藍がニヤニヤしている。


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⸻


奈々恵も。


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⸻


木戸も。


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⸻


全員見ていた。


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⸻


「なに」


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⸻


ますみが睨む。


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「何でもない」


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全員同時。


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怪しかった。


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かなり。


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⸻


夜。


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少し人が減る。


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⸻


ますみは一人で絵を描いていた。


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翔太も残っていた。


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珍しい。


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しばらく沈黙。


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そして。


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翔太が言う。


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「その子」


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ますみが顔を上げる。


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「ん?」


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「ずっと描いてるよね」


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少女の絵。


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あの。


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泣きそうで笑う少女。


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⸻


ますみは少し黙る。


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「うん」


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翔太は少し考える。


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そして。


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「名前あるの?」


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⸻


ますみが止まる。


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⸻


完全に。


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⸻


今まで誰も聞かなかった。


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キャラクターだと思っていなかったから。


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⸻


ますみはスケッチブックを見る。


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長い時間。


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⸻


小学生から描いていた。


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⸻


中学生になっても。


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⸻


何度も描いた。


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ずっと。


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⸻


そして。


⸻


小さく言う。


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⸻


「……ない」


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⸻


「そうなんだ」


⸻


⸻


「うん」


⸻


⸻


翔太は少し笑う。


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⸻


「じゃあ」


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⸻


「うん」


⸻


⸻


「今度考えよう」


⸻


⸻


ますみが止まる。


⸻


⸻


「え」


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「名前」


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⸻


ますみは何も言えない。


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⸻


その発想が無かった。


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⸻


ずっと。


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自分の中にいたから。


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名前を付けるという発想が。


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⸻


その時。


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藍が横から現れる。


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「それいい」


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「うわっ」


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「会議しよう」


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「何の」


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「名前会議」


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ますみが頭を抱えた。


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始まった。


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いつものやつだ。


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でも。


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少しだけ。


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嬉しかった。


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キャラクターじゃなかった存在が。


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誰かに見えるものになり始めている。


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その頃。


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前原は窓際で煙草を吸っていた。


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川本が来る。


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「ヨシさん」


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「なんだ」


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「黒岩さんの件」


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前原は返事をしない。


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川本は続ける。


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「あのガキ」


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「放っとけないですよね」


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少し沈黙。


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⸻


電車が通る。


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夜の高架。


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前原は小さく言った。


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「知るか」


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川本は笑った。


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知っていた。


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⸻


その返事の時。


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もう前原は動く気になっている。


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昔から。


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そういう男だった。


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⸻


後書き


第35話でした。


今回は、


ますみと翔太。


似ているけど違う二人の距離が少し縮まった回です。


そして重要なのは、


「泣きそうで笑う少女」に名前を付ける


という流れ。


これは実は、


ますみ自身が自分を客観視し始める第一歩でもあります。


そして裏では、


前原・黒岩ルートも少しずつ動き始めています。


次回は、


創作組の名前会議で大騒ぎしつつ、


前原がついに重い腰を上げます。

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