似ているふたり
前書き
似ている人間同士が、
仲良くなるとは限らない。
むしろ。
似ているからこそ、
見たくない部分が見えてしまうこともある。
第35話です。
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第35話 似ている二人
翔太が事務所へ来て、
三日が過ぎた。
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まだいた。
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木戸が言う。
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「住み着いたな」
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翔太が即答する。
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「違います」
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「住み着いた奴みんなそう言う」
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「説得力あるのやめて下さい」
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少しずつ。
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翔太も馴染み始めていた。
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飯を食う。
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笑う。
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たまに手伝う。
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でも。
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一人だけ。
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ほとんど話さない相手がいた。
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長澤ますみ。
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別に仲が悪いわけじゃない。
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ただ。
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距離がある。
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妙に。
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その理由を。
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奈々恵だけは何となく分かっていた。
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似ているのだ。
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この二人。
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「居場所がない」
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その感覚が。
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だから逆に。
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近づきづらい。
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その日。
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ますみは窓際で絵を描いていた。
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翔太は反対側。
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スマホ。
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何をするでもなく。
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眺めている。
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木戸が言う。
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「暇そう」
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「暇です」
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「働け」
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「十七です」
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「強い」
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事務所爆笑。
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その時。
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翔太のスマホが鳴る。
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全員気づく。
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画面。
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『母』
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翔太が固まる。
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完全に。
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着信は続く。
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一回。
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二回。
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三回。
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切れた。
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静かになる。
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翔太は何も言わない。
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スマホを伏せる。
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そして。
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笑う。
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「腹減った」
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木戸が言う。
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「下手」
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翔太が止まる。
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木戸は珍しく真面目だった。
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「誤魔化すの下手」
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沈黙。
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翔太は少し俯く。
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その時。
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ますみが立ち上がる。
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全員見る。
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ますみは何も言わず。
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自販機へ向かう。
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五分後。
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戻る。
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缶ココア。
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翔太の前へ置く。
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「え」
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「甘いの飲め」
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翔太が固まる。
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ますみはもう戻っている。
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スケッチブック。
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何事もなかったように。
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翔太が缶を見る。
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そして。
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少し笑う。
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「ありがとう」
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ますみは振り向かない。
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「別に」
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でも。
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耳が赤かった。
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藍がニヤニヤしている。
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奈々恵も。
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木戸も。
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全員見ていた。
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「なに」
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ますみが睨む。
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「何でもない」
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全員同時。
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怪しかった。
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かなり。
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夜。
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少し人が減る。
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ますみは一人で絵を描いていた。
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翔太も残っていた。
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珍しい。
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しばらく沈黙。
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そして。
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翔太が言う。
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「その子」
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ますみが顔を上げる。
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「ん?」
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「ずっと描いてるよね」
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少女の絵。
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あの。
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泣きそうで笑う少女。
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ますみは少し黙る。
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「うん」
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翔太は少し考える。
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そして。
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「名前あるの?」
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ますみが止まる。
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完全に。
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今まで誰も聞かなかった。
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キャラクターだと思っていなかったから。
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ますみはスケッチブックを見る。
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長い時間。
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小学生から描いていた。
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中学生になっても。
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何度も描いた。
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ずっと。
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そして。
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小さく言う。
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「……ない」
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「そうなんだ」
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「うん」
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翔太は少し笑う。
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「じゃあ」
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「うん」
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「今度考えよう」
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ますみが止まる。
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「え」
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「名前」
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ますみは何も言えない。
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その発想が無かった。
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ずっと。
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自分の中にいたから。
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名前を付けるという発想が。
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その時。
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藍が横から現れる。
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「それいい」
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「うわっ」
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「会議しよう」
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「何の」
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「名前会議」
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ますみが頭を抱えた。
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始まった。
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いつものやつだ。
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でも。
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少しだけ。
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嬉しかった。
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キャラクターじゃなかった存在が。
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誰かに見えるものになり始めている。
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その頃。
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前原は窓際で煙草を吸っていた。
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川本が来る。
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「ヨシさん」
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「なんだ」
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「黒岩さんの件」
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前原は返事をしない。
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川本は続ける。
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「あのガキ」
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「放っとけないですよね」
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少し沈黙。
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電車が通る。
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夜の高架。
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前原は小さく言った。
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「知るか」
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川本は笑った。
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知っていた。
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その返事の時。
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もう前原は動く気になっている。
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昔から。
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そういう男だった。
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後書き
第35話でした。
今回は、
ますみと翔太。
似ているけど違う二人の距離が少し縮まった回です。
そして重要なのは、
「泣きそうで笑う少女」に名前を付ける
という流れ。
これは実は、
ますみ自身が自分を客観視し始める第一歩でもあります。
そして裏では、
前原・黒岩ルートも少しずつ動き始めています。
次回は、
創作組の名前会議で大騒ぎしつつ、
前原がついに重い腰を上げます。




