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WAY HOME ――行き場をなくした僕らの、小さな食卓――  作者: 和泉發仙


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34/105

泊まる場所

前書き


人が本当に困っている時、


案外、

助けを求める言葉は出てこない。


「助けて」


じゃない。


「泊まる場所がない」


だったり。


「金がない」


だったり。


「もう無理です」


だったりする。


第34話です。


⸻


第34話 泊まる場所


少年の名前は、


神谷翔太だった。


十七歳。


高校中退。


住所なし。


所持金三千二百円。


リュック一つ。


以上。


⸻


「終わってんな」


木戸が言った。


⸻


「やめろ」


敦が突っ込む。


⸻


翔太は苦笑いした。


⸻


笑った。


でも。


その顔はかなり疲れていた。


⸻


前原は煙草を咥えたまま聞く。


⸻


「飯は」


⸻


「昨日の夜」


⸻


「寝たのは」


⸻


「一昨日」


⸻


「風呂」


⸻


「覚えてないです」


⸻


木戸が言う。


⸻


「終わってた」


⸻


「だからやめろ」


⸻


⸻


翔太は小さく頭を下げた。


⸻


「すみません」


⸻


田中が反応する。


⸻


「謝る必要あります?」


⸻


翔太が少し驚く。


⸻


「え」


⸻


「いや本当に」


⸻


⸻


翔太は困った顔になる。


⸻


たぶん。


最近ずっと謝っていた。


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生きているだけで。


⸻


⸻


前原が立ち上がる。


⸻


「川本」


⸻


「はい」


⸻


「飯」


⸻


「了解」


⸻


⸻


グエンも立つ。


⸻


「ワタシモ!」


⸻


⸻


「お前は食う側だろ」


⸻


木戸が言う。


⸻


⸻


十分後。


⸻


机の上。


⸻


コンビニ飯。


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カップ麺。


⸻


おにぎり。


⸻


からあげ。


⸻


⸻


翔太は最初、


遠慮していた。


⸻


でも。


⸻


腹が減りすぎていた。


⸻


⸻


食う。


⸻


⸻


食う。


⸻


⸻


食う。


⸻


⸻


全員見ている。


⸻


⸻


木戸。


⸻


「すげぇ」


⸻


⸻


グエン。


⸻


「スゲェ」


⸻


⸻


藍。


⸻


「見てる方がお腹空く」


⸻


⸻


翔太は途中で気づく。


⸻


全員見てる。


⸻


⸻


「……」


⸻


⸻


「食え」


⸻


前原。


⸻


⸻


「はい」


⸻


⸻


また食う。


⸻


⸻


そして。


⸻


途中で。


⸻


少しだけ。


⸻


泣きそうな顔になった。


⸻


⸻


たぶん。


⸻


温かい飯を食うのが久しぶりだった。


⸻


⸻


⸻


食後。


⸻


前原が聞いた。


⸻


⸻


「で」


⸻


⸻


「何があった」


⸻


⸻


翔太は黙る。


⸻


⸻


かなり長く。


⸻


⸻


でも。


⸻


誰も急かさない。


⸻


⸻


そして。


⸻


小さく話し始めた。


⸻


⸻


父親は知らない。


⸻


⸻


母親はいた。


⸻


⸻


でも。


⸻


男が変わるたび。


⸻


家も変わった。


⸻


⸻


学校も変わった。


⸻


⸻


小学生で三回。


⸻


中学で二回。


⸻


⸻


高校に入った頃には。


⸻


もう疲れていた。


⸻


⸻


「別に虐待とかじゃないです」


⸻


⸻


翔太は言う。


⸻


⸻


「殴られてないし」


⸻


⸻


「飯も出てたし」


⸻


⸻


「でも」


⸻


⸻


少し沈黙。


⸻


⸻


「家じゃなかった」


⸻


⸻


部屋が静かになる。


⸻


⸻


翔太は続ける。


⸻


⸻


「いつも誰かの家だった」


⸻


⸻


「いつも誰かの機嫌だった」


⸻


⸻


「いつも」


⸻


⸻


「俺が邪魔だった」


⸻


⸻


誰も喋らない。


⸻


⸻


ますみだけが。


⸻


少し俯いていた。


⸻


⸻


分かる。


⸻


そんな顔だった。


⸻


⸻


翔太は笑う。


⸻


⸻


無理矢理。


⸻


⸻


「高校も辞めました」


⸻


⸻


「バイトも辞めました」


⸻


⸻


「何やっても続かなくて」


⸻


⸻


「母親にも」


⸻


⸻


「お前はダメだなって」


⸻


⸻


少し沈黙。


⸻


⸻


そして。


⸻


最後に言った。


⸻


⸻


「だから出ました」


⸻


⸻


静かになる。


⸻


⸻


前原は聞く。


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⸻


「それで」


⸻


⸻


「どうするつもりだった」


⸻


⸻


翔太は答えられない。


⸻


⸻


本当に。


⸻


何も考えてなかった。


⸻


⸻


出たかっただけ。


⸻


⸻


逃げたかっただけ。


⸻


⸻


それだけだった。


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⸻


木戸がぼそっと言う。


⸻


⸻


「まぁ」


⸻


⸻


「十七ならそんなもんだろ」


⸻


⸻


翔太が少し驚く。


⸻


⸻


責められると思っていた。


⸻


⸻


でも。


⸻


誰も責めない。


⸻


⸻


田中が言う。


⸻


⸻


「自分も似たようなもんでしたし」


⸻


⸻


森下。


⸻


「俺も」


⸻


⸻


奈々恵。


⸻


「私も」


⸻


⸻


藍。


⸻


「私も」


⸻


⸻


ますみ。


⸻


小さく。


⸻


「……私も」


⸻


⸻


翔太が止まる。


⸻


⸻


見渡す。


⸻


⸻


元ヤクザ。


⸻


派遣。


⸻


引きこもり。


⸻


創作オタク。


⸻


外国人。


⸻


不登校。


⸻


⸻


終わってる集団だった。


⸻


かなり。


⸻


⸻


でも。


⸻


みんな。


⸻


少しずつ生きている。


⸻


⸻


その事実だけが。


⸻


翔太には少し眩しかった。


⸻


⸻


その夜。


⸻


創作組は創作組で騒いでいた。


⸻


⸻


藍。


⸻


「だからここ王都!」


⸻


⸻


航平。


⸻


「物流!」


⸻


⸻


「うるさい物流!」


⸻


⸻


レン爆笑。


⸻


⸻


カナコギター。


⸻


⸻


ますみスケッチ。


⸻


⸻


翔太は少し離れた場所から見ていた。


⸻


⸻


なんだろう。


⸻


この場所。


⸻


⸻


変だ。


⸻


⸻


めちゃくちゃ変だ。


⸻


⸻


でも。


⸻


少しだけ。


⸻


⸻


羨ましかった。


⸻


⸻


その時。


⸻


ますみが来る。


⸻


⸻


スケッチブックを差し出す。


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⸻


翔太が見る。


⸻


⸻


少女の絵。


⸻


⸻


街の絵。


⸻


⸻


電車。


⸻


⸻


雨。


⸻


⸻


「すごい」


⸻


⸻


翔太が言う。


⸻


⸻


ますみは少し照れる。


⸻


⸻


「まだ途中」


⸻


⸻


「それでも」


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⸻


翔太は本気だった。


⸻


⸻


そして。


⸻


少し考えてから言う。


⸻


⸻


「俺」


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⸻


「絵とか分かんないけど」


⸻


⸻


「この街」


⸻


⸻


「住んでみたい」


⸻


⸻


ますみが止まる。


⸻


⸻


完全に。


⸻


⸻


藍も聞いていた。


⸻


⸻


奈々恵も。


⸻


⸻


そして。


⸻


藍が笑った。


⸻


⸻


「じゃあ住民第一号だ」


⸻


⸻


翔太は少し笑う。


⸻


⸻


本当に少しだけ。


⸻


⸻


でも。


⸻


この数日で初めて。


⸻


安心した笑顔だった。


⸻


⸻


深夜。


⸻


みんなが帰る。


⸻


⸻


翔太だけ残った。


⸻


⸻


前原が毛布を投げる。


⸻


⸻


「今日はそこ」


⸻


⸻


ソファ。


⸻


⸻


翔太が受け取る。


⸻


⸻


「……ありがとうございます」


⸻


⸻


前原は煙草を咥える。


⸻


⸻


「勘違いすんな」


⸻


⸻


「はい」


⸻


⸻


「助けてるわけじゃねぇ」


⸻


⸻


翔太が少し困る。


⸻


⸻


前原は窓の外を見る。


⸻


⸻


「ただ」


⸻


⸻


「雨の日に外へ放り出すほど」


⸻


⸻


「俺も落ちぶれてねぇ」


⸻


⸻


翔太は何も言えなかった。


⸻


⸻


そして。


⸻


その夜。


⸻


久しぶりに。


⸻


誰かがいる場所で眠った。


⸻


⸻


誰にも追い出されない場所で。


⸻


⸻


後書き


第34話でした。


今回は翔太加入回です。


翔太は、


「家庭崩壊」ではありません。


「虐待」でもありません。


むしろ、


もっと曖昧な傷です。


⸻


ずっと


“居候みたいに生きてきた子”


⸻


だから、


この事務所で初めて


「いてもいい」


を知ることになります。


そして次回。


ますみ編と翔太編が少し交差し始めます。


なぜならこの二人、


実はかなり似た場所にいるからです。

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