泊まる場所
前書き
人が本当に困っている時、
案外、
助けを求める言葉は出てこない。
「助けて」
じゃない。
「泊まる場所がない」
だったり。
「金がない」
だったり。
「もう無理です」
だったりする。
第34話です。
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第34話 泊まる場所
少年の名前は、
神谷翔太だった。
十七歳。
高校中退。
住所なし。
所持金三千二百円。
リュック一つ。
以上。
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「終わってんな」
木戸が言った。
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「やめろ」
敦が突っ込む。
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翔太は苦笑いした。
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笑った。
でも。
その顔はかなり疲れていた。
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前原は煙草を咥えたまま聞く。
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「飯は」
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「昨日の夜」
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「寝たのは」
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「一昨日」
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「風呂」
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「覚えてないです」
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木戸が言う。
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「終わってた」
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「だからやめろ」
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翔太は小さく頭を下げた。
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「すみません」
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田中が反応する。
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「謝る必要あります?」
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翔太が少し驚く。
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「え」
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「いや本当に」
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翔太は困った顔になる。
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たぶん。
最近ずっと謝っていた。
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生きているだけで。
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前原が立ち上がる。
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「川本」
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「はい」
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「飯」
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「了解」
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グエンも立つ。
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「ワタシモ!」
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「お前は食う側だろ」
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木戸が言う。
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十分後。
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机の上。
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コンビニ飯。
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カップ麺。
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おにぎり。
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からあげ。
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翔太は最初、
遠慮していた。
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でも。
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腹が減りすぎていた。
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食う。
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食う。
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食う。
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全員見ている。
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木戸。
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「すげぇ」
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グエン。
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「スゲェ」
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藍。
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「見てる方がお腹空く」
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翔太は途中で気づく。
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全員見てる。
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「……」
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「食え」
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前原。
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「はい」
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また食う。
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そして。
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途中で。
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少しだけ。
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泣きそうな顔になった。
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たぶん。
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温かい飯を食うのが久しぶりだった。
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食後。
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前原が聞いた。
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「で」
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「何があった」
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翔太は黙る。
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かなり長く。
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でも。
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誰も急かさない。
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そして。
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小さく話し始めた。
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父親は知らない。
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母親はいた。
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でも。
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男が変わるたび。
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家も変わった。
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学校も変わった。
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小学生で三回。
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中学で二回。
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高校に入った頃には。
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もう疲れていた。
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「別に虐待とかじゃないです」
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翔太は言う。
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「殴られてないし」
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「飯も出てたし」
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「でも」
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少し沈黙。
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「家じゃなかった」
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部屋が静かになる。
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翔太は続ける。
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「いつも誰かの家だった」
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「いつも誰かの機嫌だった」
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「いつも」
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「俺が邪魔だった」
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誰も喋らない。
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ますみだけが。
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少し俯いていた。
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分かる。
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そんな顔だった。
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翔太は笑う。
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無理矢理。
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「高校も辞めました」
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「バイトも辞めました」
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「何やっても続かなくて」
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「母親にも」
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「お前はダメだなって」
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少し沈黙。
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そして。
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最後に言った。
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「だから出ました」
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静かになる。
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前原は聞く。
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「それで」
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「どうするつもりだった」
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翔太は答えられない。
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本当に。
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何も考えてなかった。
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出たかっただけ。
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逃げたかっただけ。
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それだけだった。
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木戸がぼそっと言う。
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「まぁ」
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「十七ならそんなもんだろ」
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翔太が少し驚く。
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責められると思っていた。
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でも。
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誰も責めない。
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田中が言う。
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「自分も似たようなもんでしたし」
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森下。
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「俺も」
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奈々恵。
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「私も」
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藍。
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「私も」
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ますみ。
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小さく。
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「……私も」
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翔太が止まる。
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見渡す。
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元ヤクザ。
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派遣。
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引きこもり。
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創作オタク。
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外国人。
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不登校。
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終わってる集団だった。
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かなり。
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でも。
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みんな。
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少しずつ生きている。
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その事実だけが。
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翔太には少し眩しかった。
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その夜。
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創作組は創作組で騒いでいた。
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藍。
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「だからここ王都!」
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航平。
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「物流!」
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「うるさい物流!」
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レン爆笑。
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カナコギター。
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ますみスケッチ。
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翔太は少し離れた場所から見ていた。
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なんだろう。
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この場所。
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変だ。
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めちゃくちゃ変だ。
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でも。
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少しだけ。
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羨ましかった。
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その時。
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ますみが来る。
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スケッチブックを差し出す。
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翔太が見る。
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少女の絵。
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街の絵。
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電車。
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雨。
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「すごい」
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翔太が言う。
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ますみは少し照れる。
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「まだ途中」
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「それでも」
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翔太は本気だった。
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そして。
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少し考えてから言う。
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「俺」
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「絵とか分かんないけど」
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「この街」
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「住んでみたい」
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ますみが止まる。
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完全に。
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藍も聞いていた。
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奈々恵も。
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そして。
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藍が笑った。
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「じゃあ住民第一号だ」
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翔太は少し笑う。
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本当に少しだけ。
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でも。
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この数日で初めて。
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安心した笑顔だった。
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深夜。
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みんなが帰る。
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翔太だけ残った。
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前原が毛布を投げる。
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「今日はそこ」
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ソファ。
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翔太が受け取る。
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「……ありがとうございます」
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前原は煙草を咥える。
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「勘違いすんな」
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「はい」
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「助けてるわけじゃねぇ」
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翔太が少し困る。
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前原は窓の外を見る。
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「ただ」
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「雨の日に外へ放り出すほど」
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「俺も落ちぶれてねぇ」
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翔太は何も言えなかった。
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そして。
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その夜。
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久しぶりに。
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誰かがいる場所で眠った。
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誰にも追い出されない場所で。
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後書き
第34話でした。
今回は翔太加入回です。
翔太は、
「家庭崩壊」ではありません。
「虐待」でもありません。
むしろ、
もっと曖昧な傷です。
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ずっと
“居候みたいに生きてきた子”
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だから、
この事務所で初めて
「いてもいい」
を知ることになります。
そして次回。
ますみ編と翔太編が少し交差し始めます。
なぜならこの二人、
実はかなり似た場所にいるからです。




