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WAY HOME ――行き場をなくした僕らの、小さな食卓――  作者: 和泉發仙


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31/105

ヨシさんの昔

前書き


昔の知り合いというのは厄介だ。


今の自分を知っている人じゃない。


昔の自分を知っている。


忘れたかったことも。


見なかったことにしたかったことも。


全部知っている。


第31話です。


⸻


第31話 ヨシさんの昔


黒岩誠司は、

勝手に椅子へ座った。


⸻


「相変わらず狭ぇな」


⸻


前原は煙草を咥える。


⸻


「帰れ」


⸻


即答だった。


⸻


黒岩は笑う。


⸻


「冷てぇなぁ」


⸻


川本が頭を掻く。


⸻


「兄貴、

 連絡くらいして下さいよ」


⸻


「面倒臭ぇ」


⸻


「その理屈で来るな」


⸻


⸻


藍たちは完全に置いていかれていた。


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ますみが小声。


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「誰」


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敦も小声。


⸻


「たぶん昔の知り合い」


⸻


⸻


黒岩は部屋を見回す。


⸻


ホワイトボード。


⸻


地図。


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ギター。


⸻


絵。


⸻


若い連中。


⸻


⸻


「面白ぇ場所だな」


⸻


⸻


前原は無言。


⸻


⸻


黒岩は煙草を取り出す。


⸻


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「吸うぞ」


⸻


⸻


「勝手にしろ」


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「許可取った」


⸻


⸻


木戸が吹き出した。


⸻


⸻


⸻


しばらくして。


⸻


自然と。


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若い組と大人組に分かれた。


⸻


⸻


藍。


⸻


「絶対ヤバい人だよね」


⸻


⸻


カナコ。


⸻


「絶対ヤバい人だな」


⸻


⸻


ますみ。


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「怖い」


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⸻


グエン。


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「コワイ!」


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⸻


全員一致だった。


⸻


⸻


一方。


⸻


窓際。


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前原。


⸻


川本。


⸻


黒岩。


⸻


⸻


空気が違う。


⸻


⸻


黒岩が言う。


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「何年だ」


⸻


⸻


「知らん」


⸻


⸻


「嘘つけ」


⸻


⸻


前原は煙を吐く。


⸻


⸻


「十五年くらいだろ」


⸻


⸻


川本が苦笑する。


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「もっとじゃないですか」


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⸻


「どうでもいい」


⸻


⸻


黒岩は少し笑った。


⸻


⸻


「相変わらずだな」


⸻


⸻


少し沈黙。


⸻


⸻


黒岩が部屋を見る。


⸻


⸻


「ヨシ」


⸻


⸻


「なんだ」


⸻


⸻


「楽しそうじゃねぇか」


⸻


⸻


前原は返事をしない。


⸻


⸻


でも。


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否定もしない。


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⸻


⸻


その時。


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ますみが敦へ聞く。


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「前原さんって」


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⸻


「うん」


⸻


⸻


「何してた人なの」


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敦は少し困った。


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知らない。


⸻


⸻


本当に。


⸻


⸻


ただ。


⸻


前原本人は語らない。


⸻


⸻


川本も語らない。


⸻


⸻


だから。


⸻


聞いてはいけない気がしていた。


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⸻


しかし。


⸻


木戸が行く。


⸻


⸻


「ヨシさん」


⸻


⸻


全員。


⸻


(行った)


⸻


⸻


前原が見る。


⸻


⸻


「なんだ」


⸻


⸻


「昔何してたんすか」


⸻


⸻


ど直球。


⸻


⸻


川本が吹き出す。


⸻


⸻


黒岩が笑う。


⸻


⸻


前原だけ無表情。


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「バカやってた」


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⸻


終わり。


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「いや雑」


⸻


⸻


木戸が抗議する。


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⸻


前原は煙草を咥える。


⸻


⸻


「お前らもそのうち分かる」


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⸻


「何が」


⸻


⸻


「若い頃の自分思い出したくねぇ気持ち」


⸻


⸻


事務所が静かになる。


⸻


⸻


意外だった。


⸻


⸻


前原らしくない。


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⸻


少しだけ。


⸻


本音だった。


⸻


⸻


⸻


黒岩がぼそっと言う。


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⸻


「昔はもっと暴れてたぞ」


⸻


⸻


前原。


⸻


「うるせぇ」


⸻


⸻


「カー坊なんか泣かされてた」


⸻


⸻


川本。


⸻


「言うなって」


⸻


⸻


全員爆笑。


⸻


⸻


「え!?」


⸻


⸻


木戸。


⸻


「川本さん泣くの!?」


⸻


⸻


「泣かねぇよ!」


⸻


⸻


「泣いてた」


⸻


⸻


「兄貴!」


⸻


⸻


大混乱。


⸻


⸻


グエン大喜び。


⸻


⸻


「カー坊!」


⸻


⸻


「やめろ!」


⸻


⸻


事務所が笑いに包まれる。


⸻


⸻


ますみも笑っていた。


⸻


⸻


藍も。


⸻


⸻


敦も。


⸻


⸻


そして。


⸻


その光景を見ながら。


⸻


黒岩は少しだけ目を細めた。


⸻


⸻


昔。


⸻


こんな場所は無かった。


⸻


⸻


居場所なんて無かった。


⸻


⸻


飯を食う場所はあった。


⸻


⸻


寝る場所もあった。


⸻


⸻


でも。


⸻


こんな風に。


⸻


何もしなくても来ていい場所は無かった。


⸻


⸻


黒岩は小さく言った。


⸻


⸻


「良いことしてんじゃねぇか」


⸻


⸻


前原は鼻で笑う。


⸻


⸻


「してねぇよ」


⸻


⸻


「してる」


⸻


⸻


少し沈黙。


⸻


⸻


黒岩は窓の外を見る。


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⸻


高架線。


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電車。


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夜の街。


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⸻


そして。


⸻


最後に。


⸻


小さく言った。


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⸻


「だからこそ、

 面倒な話持ってきたくなかったんだけどな」


⸻


⸻


前原の目が変わる。


⸻


⸻


川本も。


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⸻


空気が少し変わる。


⸻


⸻


若い連中は気づいていない。


⸻


⸻


でも。


⸻


敦だけは感じた。


⸻


⸻


何か来る。


⸻


⸻


たぶん。


⸻


前原たちの過去から。


⸻


⸻


後書き


第31話でした。


今回は前原編の導入。


黒岩は単なる元組関係ではありません。


実は、


前原と川本が今も生きている理由の一つでもあります。


そして次回。


黒岩が持ってきた


「面倒な話」


が少しずつ明らかになります。


ただし。


この物語なので、


抗争ではありません。


もっと現実的で、

もっと厄介な話です。

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