駅のベンチ
前書き
人は、
「助けて」
と言えない時がある。
じゃあ、
その時どうするのか。
たぶん。
誰かが隣に座るしかない。
第28話です。
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第28話 駅のベンチ
雨だった。
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かなり。
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敦は駅へ向かっていた。
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夜。
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傘。
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濡れたアスファルト。
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人は少ない。
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終電前。
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中途半端な時間。
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ますみがいる駅は、
そう遠くなかった。
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改札。
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ホーム。
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ベンチ。
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いた。
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長澤ますみ。
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一人。
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スケッチブックを抱えて。
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俯いていた。
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敦は少し安心した。
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とりあえず。
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無事だった。
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でも。
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声はすぐかけなかった。
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少し離れたベンチへ座る。
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雨音。
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電車の音。
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沈黙。
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ますみが先に気づいた。
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「……来たんだ」
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「来た」
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「来ないでって言ったのに」
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「言われたな」
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沈黙。
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ますみは怒らない。
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怒る元気も無さそうだった。
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敦は缶コーヒーを差し出す。
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「飲む?」
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「いらない」
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即答。
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数秒後。
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「……甘いやつ?」
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「甘いやつ」
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受け取った。
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人間そんなもんだった。
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しばらく何も話さない。
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ますみは缶を握っていた。
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温かい。
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それだけで少し落ち着く。
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敦が言う。
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「何かあった?」
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ますみは笑った。
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少しだけ。
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「それ聞く?」
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「聞く」
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「別に」
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「うん」
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「別に何もない」
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敦は頷く。
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「そっか」
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ますみが少し苛立つ。
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「信じてないでしょ」
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「信じてる」
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「嘘」
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「本当に何もないのかもしれないし」
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ますみは黙る。
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そこなんだ。
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何もない。
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でも苦しい。
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それが一番説明できない。
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ますみは俯いた。
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「なんかさ」
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「うん」
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「みんな理由探すじゃん」
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敦は黙って聞く。
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「学校行けない理由」
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「元気ない理由」
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「家に帰りたくない理由」
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「でも」
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ますみはベンチを見る。
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「私、
本当に分かんない」
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風が吹く。
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「いじめられてない」
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「親も普通」
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「友達もいる」
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「ご飯も食べてる」
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「なのに」
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声が少し震える。
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「朝になると無理なの」
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敦は何も言わない。
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ますみは続けた。
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「起きるだけで疲れる」
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「学校行く想像だけで疲れる」
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「みんな見てるだけで疲れる」
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「喋るのも疲れる」
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少し沈黙。
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ますみは笑った。
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無理矢理。
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「意味分かんないでしょ」
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敦は首を振った。
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「分かるよ」
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ますみが見る。
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「え」
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「俺もあった」
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本当だった。
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工場。
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営業。
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新聞。
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色んな時代。
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理由なんか説明できなかった。
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ただ。
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起きるのがしんどかった。
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それだけ。
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ますみは少し止まる。
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「……本当に?」
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「本当に」
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また沈黙。
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ホームへ電車が入ってくる。
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風。
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音。
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光。
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でも。
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二人とも乗らない。
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ますみはスケッチブックを見る。
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少し迷う。
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かなり迷う。
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それから。
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開く。
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敦へ向ける。
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例の少女だった。
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泣きそうで。
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笑っている少女。
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でも。
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今回は違った。
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後ろに街があった。
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細かい。
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窓。
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看板。
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電柱。
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雨。
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敦は息を呑む。
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「……すごい」
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ますみは俯く。
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「違う」
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「何が」
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「その子」
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指差す。
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少女。
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「ずっと描いてる」
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敦は黙る。
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ますみは続ける。
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「小学生の時から」
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「何回も描いてる」
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「何年も」
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「顔だけ変わる」
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少し沈黙。
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「でも」
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「消えない」
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敦はその絵を見る。
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たぶん。
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それはキャラクターじゃない。
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ますみ自身だ。
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本人も気づいているか、
気づいていないか。
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その途中。
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敦は小さく言った。
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「じゃあ」
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「うん」
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「その子、
まだ描いてていいんじゃない」
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ますみが止まる。
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「え」
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「消そうとしてないなら」
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「ずっといるなら」
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「いてもいいんじゃない」
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雨音。
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ますみは何も言えなかった。
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ただ。
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少しだけ。
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肩の力が抜けた。
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その時。
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スマホが震える。
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母親。
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ますみは画面を見る。
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長い沈黙。
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そして。
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小さく出る。
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「……もしもし」
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敦は何も言わない。
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ただ隣に座っていた。
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それだけだった。
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後書き
第28話でした。
ますみ編の核心は、
「理由がない苦しさ」
です。
いじめでもない。
家庭崩壊でもない。
非行でもない。
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でも苦しい。
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だから本人も説明できない。
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そして今回。
初めて、
ますみの中にいる
「泣きそうで笑う少女」
が登場しました。
この子は今後、
かなり重要な存在になっていきます。




