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WAY HOME ――行き場をなくした僕らの、小さな食卓――  作者: 和泉發仙


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27/105

来なかった日

前書き


人は、


「助けて」


よりも、


「放っといて」


の方が先に出ることがある。


本当に苦しい時ほど。


第27話です。


⸻


第27話 来なかった日


「今日、

 ますみ来てないな」


木戸が言った。


⸻


事務所。


夜。


⸻


藍が顔を上げる。


⸻


「そういえば」


⸻


敦も気づいていた。


⸻


最近。


⸻


ほぼ毎日来ていた。


⸻


短くても。


⸻


顔だけでも。


⸻


でも今日は来ていない。


⸻


⸻


グエンが窓を見る。


⸻


「アメ」


⸻


外は雨だった。


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かなり強い。


⸻


⸻


カナコはギターを触りながら言う。


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「別に用事じゃない」


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「来ない日もあるだろ」


⸻


それはそうだった。


⸻


でも。


⸻


なんとなく。


⸻


みんな少し気になっていた。


⸻


⸻


藍がスマホを見る。


⸻


少し迷う。


⸻


メッセージ画面。


⸻


ますみ。


⸻


既読なし。


⸻


⸻


「……寝てるだけかな」


⸻


「かもな」


⸻


敦が言う。


⸻


でも。


⸻


藍は少し嫌な顔をした。


⸻


⸻


その時。


⸻


コンコン。


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扉。


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全員見る。


⸻


⸻


真由だった。


⸻


藍の同級生。


⸻


でも。


⸻


様子がおかしい。


⸻


かなり。


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⸻


「藍」


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「ん?」


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「ますみ知らない?」


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部屋が静かになる。


⸻


⸻


藍が立ち上がる。


⸻


「え?」


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「学校来てない」


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「それはいつもじゃ」


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「昨日から連絡つかない」


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沈黙。


⸻


⸻


敦は少し嫌な予感がした。


⸻


⸻


真由は続ける。


⸻


「母親が探してる」


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「警察行くか迷ってるって」


⸻


⸻


藍の顔色が変わる。


⸻


⸻


木戸も起きた。


⸻


「マジか」


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⸻


前原だけが煙草を咥えている。


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無言。


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⸻


藍がスマホを触る。


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電話。


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呼び出し。


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出ない。


⸻


⸻


もう一回。


⸻


出ない。


⸻


⸻


三回。


⸻


出ない。


⸻


⸻


藍が少し焦る。


⸻


「なんで出ないのよ」


⸻


⸻


奈々恵が静かに言う。


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「落ち着きな」


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⸻


でも。


⸻


藍も分かっていた。


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これは。


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少し違う。


⸻


⸻


その時だった。


⸻


敦のスマホが震える。


⸻


全員見る。


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知らない番号。


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⸻


出る。


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⸻


数秒。


⸻


⸻


敦の顔が変わる。


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⸻


「……ますみ?」


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静かになる。


⸻


⸻


電話の向こう。


⸻


風の音。


⸻


電車の音。


⸻


⸻


ますみの声。


⸻


かなり小さい。


⸻


⸻


「……ごめん」


⸻


⸻


「どこ?」


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⸻


返事がない。


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⸻


「ますみ」


⸻


⸻


少し沈黙。


⸻


⸻


それから。


⸻


「来ない方がいい」


⸻


⸻


敦は目を閉じた。


⸻


一番来てほしい時に言うやつだ。


⸻


⸻


「どこ」


⸻


⸻


「……」


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⸻


「ますみ」


⸻


⸻


また沈黙。


⸻


⸻


そして。


⸻


小さく。


⸻


本当に小さく。


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⸻


「駅」


⸻


⸻


電話が切れる。


⸻


⸻


事務所が静まり返る。


⸻


⸻


藍が立ち上がる。


⸻


「行く」


⸻


⸻


「待て」


⸻


前原だった。


⸻


⸻


全員が見る。


⸻


⸻


前原は煙草を灰皿へ押し付ける。


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⸻


「敦」


⸻


⸻


「はい」


⸻


⸻


「お前行け」


⸻


⸻


藍が反応する。


⸻


「なんで!?」


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⸻


前原は静かだった。


⸻


⸻


「今のますみは」


⸻


⸻


「大勢来ると逃げる」


⸻


⸻


部屋が静かになる。


⸻


⸻


前原は続ける。


⸻


⸻


「追い詰められた奴はな」


⸻


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「説得されたくねぇんだよ」


⸻


⸻


敦は少し息を吐いた。


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分かる気がした。


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⸻


ますみが欲しいのは。


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答えじゃない。


⸻


⸻


たぶん今は。


⸻


誰か一人。


⸻


⸻


「……行ってきます」


⸻


⸻


敦は立ち上がる。


⸻


⸻


外は雨だった。


⸻


かなり強い。


⸻


⸻


高架下を抜ける。


⸻


駅へ向かう。


⸻


⸻


その頃。


⸻


ますみは一人だった。


⸻


ホームの端。


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濡れたベンチ。


⸻


スケッチブックを抱えたまま。


⸻


⸻


そして。


⸻


初めて。


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誰にも見せたことのないページを開いていた。


⸻


⸻


そのページには。


⸻


何度も何度も描き直された。


⸻


ひとりの少女がいた。


⸻


泣きそうな顔で。


⸻


笑っている少女が。


⸻


⸻


後書き


第27話でした。


ここから


ますみ編


に入ります。


ただし今回は、


事件ではありません。


家出でもありません。


非行でもありません。


⸻


もっと厄介なやつです。


⸻


「本人も何が苦しいのか分からない」


⸻


だから説明できない。


だから周囲も分からない。


⸻


そして敦は初めて、


誰かを追いかける側になります。

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