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WAY HOME ――行き場をなくした僕らの、小さな食卓――  作者: 和泉發仙


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23/105

長澤ますみ

前書き


人が増えると、

だんだん変なことが起きる。


最初は、


「飯食う場所」


だった。


次は、


「帰りたくない時に来る場所」


になった。


そして今。


少しずつ、


「何かを持ち寄る場所」


になり始めている。


第23話です。


⸻


第23話 長澤ますみ


その子を最初に見つけたのは、

敦だった。


夜九時。


コンビニ。


雨上がり。


⸻


「あれ……」


⸻


見覚えがあった。


制服。


パーカー。


小柄。


傘を持っていない。


⸻


コンビニの雑誌コーナーで、

立ち読みしている。


⸻


長澤ますみ。


⸻


まだ話したことはない。


でも。


何度か見かけていた。


⸻


コンビニ。


公園。


駅前。


⸻


いつも一人だった。


⸻


そして。


いつも、


少しだけ帰りたくなさそうだった。


⸻


敦は缶コーヒーを持ったまま、

少し考える。


⸻


話しかける理由がない。


⸻


だから。


話しかけなかった。


⸻


そのままレジへ向かう。


⸻


しかし。


⸻


店を出た時。


⸻


ますみはまだいた。


⸻


コンビニの横。


⸻


しゃがみ込んでいる。


⸻


スマホを見ている。


⸻


でも。


見ているというより。


⸻


眺めている。


⸻


そんな感じだった。


⸻


「……帰んないの」


⸻


思わず声が出た。


⸻


ますみは驚いた。


⸻


警戒。


⸻


かなり。


⸻


敦は慌てた。


⸻


「いや、

 変な意味じゃなくて」


⸻


ますみは何も言わない。


⸻


数秒。


⸻


「……帰る」


⸻


小さい声。


⸻


でも。


帰る人の顔じゃなかった。


⸻


敦は少し考える。


⸻


それから。


⸻


「肉まん食う?」


⸻


ますみが固まった。


⸻


「は?」


⸻


「余ってる」


⸻


嘘だった。


今買った。


⸻


ますみは怪しい顔をする。


⸻


かなり。


⸻


正しい。


⸻


敦も怪しいと思った。


⸻


「いらない」


⸻


即答。


⸻


「だよな」


⸻


敦は苦笑いする。


⸻


そこで終わる。


⸻


終わるはずだった。


⸻


その時。


⸻


ますみのお腹が鳴った。


⸻


沈黙。


⸻


ますみ真っ赤。


⸻


敦は吹き出しそうになる。


⸻


耐える。


⸻


ギリギリ。


⸻


「……笑ったら殺す」


⸻


「いや殺されるほどじゃないだろ」


⸻


ますみは肉まんを奪った。


⸻


「買う」


⸻


「いやあげる」


⸻


「借りる」


⸻


「律儀か」


⸻


ますみは黙って食べた。


⸻


その顔。


⸻


藍と少し似ていた。


⸻


いや。


違う。


⸻


藍は怒っている子だった。


⸻


ますみは。


⸻


疲れている子だった。


⸻


中学生なのに。


⸻


妙に。


⸻


疲れている。


⸻


「学校は」


⸻


ますみが睨む。


⸻


「その質問嫌い」


⸻


敦は少し笑う。


⸻


「俺も嫌いだった」


⸻


ますみは少し止まった。


⸻


「……行ってない」


⸻


「そっか」


⸻


「怒んないの」


⸻


「なんで」


⸻


ますみは困った顔になる。


⸻


たぶん。


⸻


怒られ慣れている。


⸻


説明を求められ慣れている。


⸻


理由を聞かれ慣れている。


⸻


でも。


⸻


敦は聞かなかった。


⸻


すると。


⸻


ますみの方が困る。


⸻


「……聞かないの」


⸻


「聞いてほしいの?」


⸻


ますみは黙った。


⸻


たぶん。


⸻


自分でも分からない。


⸻


その時。


⸻


コンビニから。


⸻


木戸が出てきた。


⸻


「お前何やってんの」


⸻


「うわ」


⸻


ますみが警戒する。


⸻


木戸を見る。


⸻


さらに警戒する。


⸻


正しい。


⸻


木戸はどう見ても怪しかった。


⸻


「ガキじゃん」


⸻


「アンタも大人に見えない」


⸻


即答だった。


⸻


敦が吹き出す。


⸻


木戸も笑う。


⸻


「強ぇな」


⸻


ますみは少しだけムスッとしていた。


⸻


でも。


⸻


帰らない。


⸻


そこへ。


⸻


さらに。


⸻


グエン登場。


⸻


「オオ!」


⸻


ますみがびくっとする。


⸻


「ダレ!?」


⸻


「グエン」


⸻


「知らない!」


⸻


完全に正論だった。


⸻


グエンは笑顔。


⸻


「ハジメマシテ!」


⸻


ますみは少し困る。


⸻


でも。


⸻


グエンの笑顔は、

わりと無敵だった。


⸻


「……はじめまして」


⸻


小さく返した。


⸻


その時。


⸻


敦は気づいた。


⸻


ますみ。


⸻


久しぶりに、

少しだけ笑った。


⸻


ほんの少し。


⸻


でも確かに。


⸻


笑った。


⸻


そして。


⸻


高架下の事務所では。


⸻


藍がノートを広げ。


⸻


カナコが曲を作り。


⸻


航平が路線図を書き。


⸻


奈々恵が呆れながらまとめていた。


⸻


誰もまだ知らない。


⸻


この小さな出会いが。


⸻


後に。


⸻


この場所そのものを変えることになることを。


⸻


後書き


第23話でした。


ついに、


長澤ますみ


登場です。


藍が

「怒っている子」


なら、


ますみは


「何が苦しいのか自分でも分からない子」


です。


だから今はまだ、

問題も語りません。


語れません。


まず必要なのは、


解決ではなく、


コミュニケーション。


そして、


「また来てもいい」


と思える場所です。


ここから、

物語のもう一つの軸が動き始めます。

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