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WAY HOME ――行き場をなくした僕らの、小さな食卓――  作者: 和泉發仙


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22/105

岡山から来た男

前書き


人が増えると、

新しい風が入ってくる。


でも同時に、


外の世界の現実も、

少しずつ入ってくる。


第22話です。


⸻


第22話 岡山から来た男


雨だった。


高架下の事務所の窓を、

雨粒が叩いている。


木戸はソファで寝ている。


森下はコーヒーを飲んでいる。


藍はノート。


カナコはギター。


奈々恵はパソコン。


いつもの光景だった。


⸻


ガチャ。


扉が開く。


全員が見る。


知らない男だった。


二十代前半。


細身。


少し日焼け。


大きなリュック。


そして。


妙な訛り。


⸻


「……ここで合っとる?」


静かになる。


木戸が起きる。


「誰」


男は少し困った顔をした。


「前原さん?」


前原が煙草を咥えたまま答える。


「俺だ」


男は少し安心した顔をした。


⸻


名前は


佐伯航平


二十四歳。


岡山出身。


⸻


木戸が言う。


「桃太郎だ」


「違います」


即答だった。


⸻


話を聞くと。


高校卒業。


地元工場。


退職。


コンビニ。


退職。


営業。


退職。


警備。


退職。


⸻


木戸が聞く。


「続かなすぎだろ」


航平は苦笑いした。


「自分でも思う」


⸻


敦は少し気になった。


「なんで東京へ?」


航平は少し考える。


それから。


「逃げたかった」


と答えた。


⸻


部屋が少し静かになる。


航平は続けた。


「田舎ってさ」


「良いとこもあるんよ」


「でも」


窓を見る。


雨。


高架。


古いビル。


⸻


「一回失敗すると、

 ずっと同じこと言われるんよ」


⸻


「また辞めたんか」


「根性ないな」


「同級生は結婚したぞ」


「お前どうするんじゃ」


⸻


航平は笑った。


でも。


その笑いは少し苦かった。


⸻


「悪気ないんよ」


「みんな」


「でも」


⸻


「息苦しかった」


⸻


森下が小さく頷く。


田中も。


敦も。


少しだけ分かった。


⸻


その時。


木戸が言った。


「じゃあ東京来てどうだった」


航平は即答した。


⸻


「東京もしんどかった」


⸻


全員吹き出した。


⸻


「なんだそれ」


藍が笑う。


⸻


航平も笑った。


少しだけ。


本当に少しだけ。


⸻


「東京来たら人生変わる思うたんよ」


「でも」


「普通に家賃高いし」


「普通に仕事しんどいし」


「普通に孤独だった」


⸻


奈々恵が笑う。


⸻


「夢も希望もないな」


⸻


「でも」


航平は少し周囲を見る。


⸻


「ここ来て初めて、

 地元の友達以外と普通に話した」


⸻


静かになる。


⸻


前原は煙草を咥えたまま言う。


「ならしばらく居ろ」


⸻


航平は少し驚いた。


⸻


「え?」


⸻


「来るなら鍵閉めろ」


⸻


木戸が吹き出す。


⸻


「出た」


⸻


その時だった。


⸻


グエンが突然立ち上がる。


⸻


「オカヤマ!」


⸻


航平が驚く。


⸻


「え?」


⸻


「モモタロウ!」


⸻


「だから違うんですって!」


⸻


大爆笑だった。


⸻


しばらくして。


夜。


⸻


航平は藍のノートを見ていた。


⸻


「これ全部描いたん?」


⸻


「うん」


⸻


「すげぇな」


⸻


藍が少し照れる。


⸻


航平はページをめくる。


⸻


「俺こういうの出来んからなぁ」


⸻


藍が聞く。


⸻


「なんか好きなことないの?」


⸻


航平は少し考える。


⸻


かなり考える。


⸻


それから。


⸻


「……地図」


⸻


全員:


「は?」


⸻


航平は焦った。


⸻


「いや違う違う」


⸻


「なんか」


⸻


「地図見るの好きなんよ」


⸻


木戸が爆笑した。


⸻


「渋すぎるだろ」


⸻


でも。


航平は真面目だった。


⸻


「知らん道とか」


「知らん町とか」


「見てると落ち着く」


⸻


藍が少し反応した。


⸻


「それさ」


⸻


「うん」


⸻


「私の街、

 路線図まだ作ってない」


⸻


航平が止まる。


⸻


奈々恵がニヤッとする。


⸻


「終わった」


⸻


木戸も笑う。


⸻


「また仲間増えた」


⸻


航平はまだ状況を理解していない。


⸻


でも。


藍はもうノートを開いていた。


⸻


「見て」


⸻


「ここが上層」


⸻


「ここが下層」


⸻


「で、

 この列車が――」


⸻


航平は少しずつ話に引き込まれていく。


⸻


敦はその様子を見ながら思った。


⸻


誰かが絵を描く。


誰かが歌を作る。


誰かが整理する。


誰かが地図を描く。


⸻


ここへ来る人は、

みんな何か欠けている。


⸻


でも。


だからこそ。


⸻


誰かの好きなものを、

笑わない。


⸻


外では雨が降り続いていた。


高架下の小さな事務所には、

また一人、

居場所を見つけた人間が増えていた。


⸻


後書き


第22話でした。


新メンバー


佐伯航平(24)


* 岡山出身

* 仕事が続かず上京

* 地図好き

* 人付き合い苦手

* 悪人ではないが自己評価が低い


を投入しました。


そして面白いのは、


藍 → 世界観

カナコ → 音楽

田中 → 整理

奈々恵 → 経験者

航平 → 地図・交通


と、


少しずつ「創作チーム」っぽくなってきたことです。


ただし本人たちはまだ、

その自覚がありません。

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