岡山から来た男
前書き
人が増えると、
新しい風が入ってくる。
でも同時に、
外の世界の現実も、
少しずつ入ってくる。
第22話です。
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第22話 岡山から来た男
雨だった。
高架下の事務所の窓を、
雨粒が叩いている。
木戸はソファで寝ている。
森下はコーヒーを飲んでいる。
藍はノート。
カナコはギター。
奈々恵はパソコン。
いつもの光景だった。
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ガチャ。
扉が開く。
全員が見る。
知らない男だった。
二十代前半。
細身。
少し日焼け。
大きなリュック。
そして。
妙な訛り。
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「……ここで合っとる?」
静かになる。
木戸が起きる。
「誰」
男は少し困った顔をした。
「前原さん?」
前原が煙草を咥えたまま答える。
「俺だ」
男は少し安心した顔をした。
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名前は
佐伯航平
二十四歳。
岡山出身。
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木戸が言う。
「桃太郎だ」
「違います」
即答だった。
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話を聞くと。
高校卒業。
地元工場。
退職。
コンビニ。
退職。
営業。
退職。
警備。
退職。
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木戸が聞く。
「続かなすぎだろ」
航平は苦笑いした。
「自分でも思う」
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敦は少し気になった。
「なんで東京へ?」
航平は少し考える。
それから。
「逃げたかった」
と答えた。
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部屋が少し静かになる。
航平は続けた。
「田舎ってさ」
「良いとこもあるんよ」
「でも」
窓を見る。
雨。
高架。
古いビル。
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「一回失敗すると、
ずっと同じこと言われるんよ」
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「また辞めたんか」
「根性ないな」
「同級生は結婚したぞ」
「お前どうするんじゃ」
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航平は笑った。
でも。
その笑いは少し苦かった。
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「悪気ないんよ」
「みんな」
「でも」
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「息苦しかった」
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森下が小さく頷く。
田中も。
敦も。
少しだけ分かった。
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その時。
木戸が言った。
「じゃあ東京来てどうだった」
航平は即答した。
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「東京もしんどかった」
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全員吹き出した。
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「なんだそれ」
藍が笑う。
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航平も笑った。
少しだけ。
本当に少しだけ。
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「東京来たら人生変わる思うたんよ」
「でも」
「普通に家賃高いし」
「普通に仕事しんどいし」
「普通に孤独だった」
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奈々恵が笑う。
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「夢も希望もないな」
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「でも」
航平は少し周囲を見る。
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「ここ来て初めて、
地元の友達以外と普通に話した」
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静かになる。
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前原は煙草を咥えたまま言う。
「ならしばらく居ろ」
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航平は少し驚いた。
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「え?」
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「来るなら鍵閉めろ」
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木戸が吹き出す。
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「出た」
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その時だった。
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グエンが突然立ち上がる。
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「オカヤマ!」
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航平が驚く。
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「え?」
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「モモタロウ!」
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「だから違うんですって!」
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大爆笑だった。
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しばらくして。
夜。
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航平は藍のノートを見ていた。
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「これ全部描いたん?」
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「うん」
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「すげぇな」
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藍が少し照れる。
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航平はページをめくる。
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「俺こういうの出来んからなぁ」
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藍が聞く。
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「なんか好きなことないの?」
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航平は少し考える。
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かなり考える。
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それから。
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「……地図」
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全員:
「は?」
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航平は焦った。
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「いや違う違う」
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「なんか」
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「地図見るの好きなんよ」
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木戸が爆笑した。
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「渋すぎるだろ」
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でも。
航平は真面目だった。
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「知らん道とか」
「知らん町とか」
「見てると落ち着く」
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藍が少し反応した。
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「それさ」
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「うん」
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「私の街、
路線図まだ作ってない」
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航平が止まる。
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奈々恵がニヤッとする。
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「終わった」
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木戸も笑う。
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「また仲間増えた」
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航平はまだ状況を理解していない。
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でも。
藍はもうノートを開いていた。
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「見て」
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「ここが上層」
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「ここが下層」
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「で、
この列車が――」
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航平は少しずつ話に引き込まれていく。
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敦はその様子を見ながら思った。
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誰かが絵を描く。
誰かが歌を作る。
誰かが整理する。
誰かが地図を描く。
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ここへ来る人は、
みんな何か欠けている。
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でも。
だからこそ。
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誰かの好きなものを、
笑わない。
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外では雨が降り続いていた。
高架下の小さな事務所には、
また一人、
居場所を見つけた人間が増えていた。
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後書き
第22話でした。
新メンバー
佐伯航平(24)
* 岡山出身
* 仕事が続かず上京
* 地図好き
* 人付き合い苦手
* 悪人ではないが自己評価が低い
を投入しました。
そして面白いのは、
藍 → 世界観
カナコ → 音楽
田中 → 整理
奈々恵 → 経験者
航平 → 地図・交通
と、
少しずつ「創作チーム」っぽくなってきたことです。
ただし本人たちはまだ、
その自覚がありません。




