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WAY HOME ――行き場をなくした僕らの、小さな食卓――  作者: 和泉發仙


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21/105

変な奴らが集まる場所

前書き


居場所が出来ると、

不思議なことが起きる。


最初は数人だったはずなのに、


誰かが誰かを連れてきて、

また別の誰かがふらっと現れて、


気がつくと、

知らない顔が増えている。


第21話です。


⸻


第21話 変な奴らが集まる場所


「誰だよ」


木戸が言った。


昼過ぎ。


高架下の事務所。


入口に知らない男が立っていた。


作業着。


二十代後半くらい。


背は高い。


髪はボサボサ。


目つき悪い。


そして。


めちゃくちゃ疲れていた。


男は室内を見渡す。


藍。


カナコ。


奈々恵。


グエン。


田中。


敦。


木戸。


前原。


完全に怪しい集団だった。


男は小さく言った。


「……やっぱ帰ります」


踵を返す。


前原が言う。


「待て」


男が止まる。


「誰の紹介だ」


「川本さん」


全員が川本を見る。


川本は缶コーヒーを飲みながら言った。


「あー」


絶対忘れてた。


⸻


男の名前は


森下拓也


二十七歳。


倉庫勤務。


だった。


過去形。


⸻


「辞めたの?」


敦が聞く。


森下は少し黙った。


「……飛んだ」


木戸が頷く。


「仲間だな」


「お前と一緒にすんな」


森下は少しムッとした。


意外と元気だった。


⸻


話を聞くと。


高校卒業。


物流倉庫。


夜勤。


昼勤。


夜勤。


昼勤。


夜勤。


昼勤。


五年。


そして。


ある日。


起きれなくなった。


⸻


「身体動かなかった」


森下は言った。


「マジで」


「起きなきゃって思うのに」


「動かなかった」


田中が黙る。


かなり分かる顔だった。


⸻


森下は頭を掻く。


「親にはサボりって言われるし」


「上司には甘えって言われるし」


「俺も最初そう思ったし」


少し沈黙。


前原が言う。


「病院は」


「行った」


「で?」


「休めって」


木戸が笑う。


「医者まともじゃん」


⸻


森下は苦笑いした。


でも。


その笑い方は少し苦かった。


⸻


その時。


藍が小さく言った。


「……寝れない?」


森下が見る。


「え?」


「私ちょっと分かる」


森下は少し驚いた。


藍は続ける。


「寝れないし」


「寝ても疲れるし」


「起きるの嫌だし」


森下は小さく頷いた。


初めてだった。


説明しなくても、

少し通じた感じがした。


⸻


その日の夕方。


さらに。


もう一人来た。


⸻


「失礼します」


女性だった。


四十代前半。


メガネ。


地味。


スーパーの袋を持っている。


⸻


木戸が言う。


「誰」


女性は少し困った顔をした。


「白石さんに聞いて……」


奈々恵が顔を上げる。


「あ」


知り合いらしい。


⸻


名前は


小坂美鈴


四十二歳。


パート勤務。


独身。


母親介護。


元同人オタク。


⸻


奈々恵が言う。


「昔、

 一緒にイベント出てた」


木戸が驚く。


「マジで?」


「二十年前」


「古代文明じゃん」


「殴るよ」


⸻


美鈴は少し笑った。


でも。


どこか疲れていた。


⸻


「母が施設入って」


「時間が出来たんです」


美鈴は言った。


「そしたら」


少し黙る。


「何していいか分からなくて」


奈々恵が静かに聞いていた。


たぶん。


分かるんだろう。


その感覚。


⸻


ずっと誰かのために生きていた人が、


急に自分の時間を持った時の怖さ。


⸻


その日の事務所は少し賑やかだった。


森下。


美鈴。


藍。


カナコ。


グエン。


田中。


木戸。


奈々恵。


敦。


前原。


川本。


⸻


人数が増えている。


確実に。


⸻


木戸がソファに寝転がりながら言う。


「変な奴しか来ねぇなここ」


森下が即答した。


「お前に言われたくねぇ」


初めて笑いが起きる。


⸻


敦は少し離れた場所から、

その光景を見ていた。


少し前まで。


自分は一人だった。


仕事。


家。


コンビニ。


仕事。


家。


コンビニ。


それだけだった。


⸻


でも今。


気づけば。


誰かが話していて。


誰かが笑っていて。


誰かがノートを描いていて。


誰かが曲を作っていて。


⸻


前原が煙草を咥えながら言う。


「そのうち収拾つかなくなるな」


川本が笑う。


「もうなってる」


⸻


窓の外。


電車が走る。


夕陽が高架の隙間から差し込む。


古い事務所。


ボロい机。


寄せ集めの人間たち。


⸻


でも。


誰も追い出されない。


それだけは、

最初から変わらなかった。


⸻


後書き


第21話でした。


今回は新メンバー追加回です。


* 森下拓也(27)

 元物流倉庫勤務。燃え尽き系。

* 小坂美鈴(42)

 元同人オタク。介護明け。


この物語は、

「社会から少し外れた人たち」がテーマです。


なので今後も、


* 岡山から出てきた青年

* アイルランド人オタク

* ウクライナ系留学生

* 長澤ますみ


など、


少しずつ輪が広がっていく予定です。


そして敦はまだ気づいていません。


この場所が、

自分にとってどれほど大事なものになり始めているかを。

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