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WAY HOME ――行き場をなくした僕らの、小さな食卓――  作者: 和泉發仙


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20/105

ここに居てもいい

前書き


人って、

少し安心すると、

今度は“未来”が怖くなる。


この場所は、

いつまで続くんだろう。


自分は、

ここに居ていいんだろうか。


そんなことを、

考え始めてしまうから。


第20話です。


⸻


第20話 ここに居てもいい


夜。


高架下の事務所。


電車の振動で、

窓ガラスが小さく揺れていた。


藍は床へ座り込み、

ノートを開いていた。


カナコはギター。


田中はパソコン。


奈々恵はソファ。


木戸は寝てる。


いつもの光景。


でも、

少し前とは違う。


ちゃんと、

“集まる理由”

が出来始めていた。


⸻


「なぁ」


木戸が突然言った。


半分寝ながら。


「この街の設定さ」


藍が顔を上げる。


「ん?」


「なんで上層だけ晴れてんの」


藍は少し考えた。


「……見えないから」


「え?」


「下の人間、

 上の空知らないの」


部屋が少し静かになる。


カナコが小さくギターを鳴らした。


低い音。


雨っぽい。


藍は続ける。


「下の人たちって、

 ずっと雨の中で生きてるから」


「それが普通になってる」


敦はなんとなく、

この街の話なのに、

現実の話みたいだと思った。


⸻


田中がノートPCを見ながら言う。


「……これ、

 世界観資料にまとめません?」


藍が反応する。


「え」


「設定、

 かなり増えてるし」


「整理した方が、

 後で絶対楽です」


奈々恵が頷く。


「田中そういうの向いてる」


木戸が笑う。


「元社畜の力出てる」


「言い方」


でも田中は、

少し嬉しそうだった。


“ちゃんとしてたこと”

が、

初めて誰かの役に立ってる感じがした。


⸻


その時。


カナコがぼそっと言う。


「……イベントとか出る?」


藍が止まる。


「イベント?」


「同人とか、

 展示とか、

 ネットでもいいけど」


藍はかなり戸惑った。


「いや無理無理」


即答。


木戸が笑う。


「始まった」


藍はノートを抱えた。


「だって怖いし」


「誰も見ないかもだし」


「変って言われるかもだし」


奈々恵が小さく笑う。


「創作あるある」


藍はむすっとする。


「奈々恵さんは慣れてるから言えるんだよ」


奈々恵は少し黙った。


それから。


「……いや、

 今でも怖いよ」


藍が止まる。


奈々恵は、

眠そうな目のまま言う。


「“好き”って、

 見せるの怖い」


「笑われると普通に傷つくし」


「数字とか反応とか、

 気にし始めると止まらないし」


「だからみんな、

 途中で黙る」


部屋が静かになる。


敦も、

なんとなく分かった。


たぶん。


この場所にいる人たち、

みんな一回、

“黙った側”

なんだ。


⸻


その時。


前原が急に言った。


「だったら、

 小さいのでいい」


全員が見る。


前原は煙草を咥えている。


「最初からデカいことやるから、

 だいたい折れる」


木戸が頷く。


「それはそう」


前原は続ける。


「内輪でもいい」


「一枚でもいい」


「一曲でもいい」


「作って、

 出して、

 また作れ」


藍は静かに聞いていた。


前原は、

創作のこと詳しいわけじゃない。


でも。


“続けられなくなる人”

を、

たぶんいっぱい見てきた。


だから言葉が妙に重かった。


⸻


グエンが突然手を挙げる。


「ワタシ、

 ミタイ!」


藍が少し笑う。


「なにを」


「アイノセカイ!」


カナコも小さく言う。


「……俺も」


田中が頷く。


「普通に続き気になります」


木戸が寝転がったまま言う。


「ドラゴンどうなんの」


「お前そこしか見てないだろ」


少し笑いが起きる。


藍は、

ノートを見下ろした。


描きかけの街。


雨の都市。


空の見えない下層。


そして。


まだ名前のない主人公。


藍は小さく呟く。


「……変じゃない?」


敦が聞き返す。


「なにが」


「こういうの」


少し沈黙。


その時。


カナコが即答した。


「変でいいじゃん」


藍が止まる。


カナコは視線を逸らしたまま続ける。


「普通だけで生きれたら、

 俺ここ来てないし」


部屋が静かになる。


木戸が笑った。


「それは名言っぽい」


「うるさい」


でも藍は、

少しだけ笑っていた。


前より、

ちゃんと。


⸻


夜が更ける。


電車の音。


蛍光灯。


缶コーヒー。


誰かのギター。


誰かのノート。


誰かの居場所。


敦は、

その光景をぼんやり見ながら思った。


ここにいる人たち、

たぶんまだ、

全然うまく生きれてない。


社会的には、

ちゃんとしてない。


でも。


だからこそ、

誰かの“好き”を、

笑わないんだろうなと。


その時。


藍が小さく言った。


「……なんか、

 ここにいると」


「うん」


「ちょっとだけ、

 自分のままでいていい気がする」


誰もすぐには返事しなかった。


でも。


その空気だけで、

十分だった。


⸻


後書き


第20話でした。


この作品は、

「成功物語」

ではありません。


まずは、


“自分の好きなものを、

 好きって言える”


そこへ戻っていく話なんだと思っています。

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