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WAY HOME ――行き場をなくした僕らの、小さな食卓――  作者: 和泉發仙


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19/105

昼の来訪者

前書き


「ここに来れば誰かいる」


それだけで、

人は少しだけ、

明日をやり過ごせたりする。


でも。


人が増えると、

外の世界も、

少しずつ近づいてくる。


第19話です。


⸻


第19話 昼の来訪者


昼だった。


かなり珍しく、

全員ちょっと眠そうだった。


高架下の事務所。


窓から、

白っぽい昼の光が入っている。


木戸はソファで死んでいた。


「昼無理……」


「吸血鬼かお前」


藍が笑う。


グエンは窓際でカップ焼きそばを食べていた。


「ニホンノヒル、

 マブシイ」


「人類みんなそうだよ」


敦はコーヒーを飲みながら、

少しぼんやりしていた。


最近。


この場所へ来るのが、

普通になっている。


それが少し怖くて、

少し嬉しかった。


⸻


藍はホワイトボードへ、

何か描いていた。


街の地図。


カナコがギターを鳴らす。


奈々恵はソファで、

古いノートPCを開いている。


田中は資料整理。


かなり“それっぽい空間”になってきていた。


木戸が半目で言う。


「マジでサークルじゃん……」


前原は煙草を咥える。


「今さらだろ」


その時。


コンコン。


全員が止まる。


扉。


昼にノック。


珍しかった。


前原が眉を動かす。


「誰だ」


敦が扉を開ける。


そこにいたのは――


スーツ姿の女性だった。


三十代後半くらい。


黒髪。


疲れた顔。


でも、

どこか気の強そうな目。


藍が固まる。


「……母さん」


空気が止まる。


木戸が一気に起きた。


「えっ」


藍の母親は、

部屋を見回した。


元ヤクザ。


外国人。


ギター。


落書き。


雑居ビル。


終わってる空間だった。


かなり。


母親は藍を見る。


「……ここなの」


藍は返事しない。


敦は少し緊張した。


でも前原は普通だった。


煙草を灰皿へ押しつける。


「入るなら鍵閉めろ」


木戸が小声で言う。


「万能かその台詞」


藍の母親は、

少し戸惑いながら中へ入った。


かなり警戒している。


当然だった。


藍は明らかに落ち着かない。


「……なんで来たの」


母親は少し黙った。


それから、

かなり疲れた声で言った。


「兄から聞いた」


藍が顔をしかめる。


「余計なこと……」


「心配するでしょ普通」


藍は目を逸らした。


空気が重い。


かなり。


グエンだけ状況分かってなかった。


「アイノ、オカアサン?」


藍が小さく言う。


「……うん」


グエンは笑顔になる。


「ハジメマシテ!」


空気読めなかった。


でも、

少しだけ空気が緩む。


⸻


母親は、

部屋の中を見ていた。


ホワイトボード。


ノート。


ギター。


散らかった机。


そして。


藍の描いた街の設定。


母親は少し驚いた顔をする。


「……これ、

 藍が描いたの?」


藍は少し警戒しながら頷く。


「……そうだけど」


母親は、

しばらく黙って見ていた。


藍は、

今にも否定されると思っている顔だった。


敦には分かった。


たぶん今まで、

そういう流れだったんだ。


「そんなの意味あるの?」


「勉強は?」


「現実見なさい」


でも。


母親は、

予想外のことを言った。


「……こんなの描けたんだ」


藍が止まる。


完全に。


母親は、

少しだけ困った顔で笑った。


「小さい頃、

 ずっと描いてたもんね」


藍は何も言えない。


母親は続ける。


「でも、

 いつの間にか見せなくなったから」


藍の目が少し揺れる。


奈々恵が静かに見ていた。


前原も。


⸻


藍が小さく言う。


「……だって」


「どうせまた、

 勉強しろって言うし」


母親が止まる。


藍は続ける。


「普通になれって言うし」


「将来どうすんのって」


「だからもう、

 見せなくていいやって」


母親は、

少し俯いた。


その顔は、

藍と少し似ていた。


敦は思った。


この人も、

分からなかったんだろうな。


どう接したらいいか。


⸻


母親が小さく言う。


「……ごめん」


藍が顔を上げる。


たぶん。


藍、

母親に謝られたこと、

ほとんど無かった。


母親は続ける。


「心配で、

 ちゃんとしなきゃって、

 そればっかで」


「でも、

 藍が何好きなのか、

 ちゃんと見てなかったかも」


部屋が静かになる。


木戸ですら黙っていた。


グエンだけ、

なぜか泣きそうだった。


「イイハナシ……」


「お前早いんだよ」


川本が突っ込む。


少し笑いが起きる。


藍は、

かなり複雑な顔をしていた。


怒り。


困惑。


嬉しさ。


全部混ざってる。


それから、

かなり小さく言った。


「……別に、

 まだムカついてるし」


母親は少し笑った。


「うん」


「すぐ許さないし」


「うん」


「でも……」


藍は少しだけ、

この部屋を見た。


敦たちを見る。


奈々恵。


カナコ。


前原。


それから。


「……ここ、

 嫌いじゃない」


と言った。


母親は、

少しだけ安心した顔をした。


⸻


帰り際。


母親は前原へ頭を下げた。


「……ありがとうございます」


前原は即答する。


「別に何もしてねぇ」


木戸がぼそっと言う。


「してるんだよなぁ」


前原は煙草を咥え直す。


「来るなら鍵閉めろって言っただけだ」


藍が少し吹き出した。


その笑い方は、

最初よりずっと自然だった。


高架下を、

昼の電車が通り過ぎていく。


その音を聞きながら敦は思った。


この場所、

本当に“居場所”になり始めてるんだなと。


⸻


後書き


第19話でした。


今回は、

「親もまた分からない側」

という話でした。


この作品では、

単純な悪人を作るより、


「どう接したらいいか分からなかった人」

を描いていきたいと思っています。

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