高架下の事務所
前書き
秘密基地って、
たぶん場所そのものじゃない。
「ここに来てもいい」
と思える空気のことなんだと思う。
第17話です。
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第17話 高架下の事務所
「うわ……」
藍が言った。
高架下近く。
古い雑居ビルの三階。
前原が言っていた“空いてる事務所”は、
想像以上にボロかった。
鉄の階段。
薄暗い廊下。
剥がれた塗装。
そして。
埃。
めちゃくちゃ埃。
木戸が即言った。
「帰ろう」
「お前掃除前提で来ただろ」
川本が突っ込む。
グエンは妙にテンション高かった。
「ヒロイ!」
「感覚どうなってんだよ」
敦は苦笑いした。
でも。
嫌いじゃなかった。
窓が大きい。
高架線が見える。
電車が通るたび、
少しガラスが震える。
藍は部屋を見回していた。
「……なんか、
本当に秘密基地っぽい」
カナコも小さく頷く。
「音、
いいかも」
「え?」
「電車の音」
藍が少し笑う。
「また始まった」
奈々恵は壁を見ていた。
古い画鋲跡。
色褪せたテープ跡。
「……前ここ、
事務所だけじゃないね」
前原が煙草を咥える。
「昔バンドいた」
カナコが反応する。
「マジで?」
「長続きしなかったけどな」
木戸が笑う。
「縁起悪っ」
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掃除は地獄だった。
段ボール。
壊れた棚。
謎の雑誌。
木戸がソファを持ち上げる。
「重っ!!」
グエンが手伝う。
「オオーー!」
「押せ押せ!」
完全に部活だった。
敦は少し驚いていた。
こんなふうに、
誰かと一緒に何かやるの、
いつぶりだろうと思った。
田中は几帳面に整理している。
「これは燃えるゴミ、
これは資源」
木戸が言う。
「田中、
こういう時だけ有能すぎる」
「だけってなんですか」
藍は窓を開けた。
風が入る。
高架下の音。
街の匂い。
遠くのサイレン。
藍は少し目を細めた。
「……いいかも」
その時。
カナコが、
壁際で何かを見つけた。
「……あ」
古い落書き。
マジックで書かれている。
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『売れなくても、
俺たちは最高だった』
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少し沈黙。
木戸が小さく言う。
「重」
前原は煙を吐いた。
「昔いた連中だ」
奈々恵がぼそっと言う。
「たぶん本気だったんだろうね」
藍はその文字を見つめていた。
カナコも。
敦はなんとなく思った。
ここにも、
誰かの“好きだった時間”が残ってるんだなと。
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夕方頃。
ようやく少し片付いた。
床が見える。
ソファ置ける。
窓も開く。
木戸が床へ倒れ込む。
「無理……
働いた……」
「掃除でそこまでなる?」
藍が笑う。
グエンは満足そうだった。
「キレイデース!!」
「お前、
一番楽しそうだったな」
川本が言う。
田中はホワイトボードを立てていた。
「これ使えそうですね」
藍が反応する。
「え、
設定書きたい」
「もう始まってる」
敦は少し笑った。
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その時。
前原が部屋の真ん中を見る。
「……まぁ、
悪くねぇな」
かなり珍しかった。
前原が、
ちょっと嬉しそうだった。
木戸が言う。
「名前どうすんの」
「まだ言ってんのか」
「必要だろこういうの」
藍がふざけて言う。
「“秘密基地”でいいじゃん」
木戸が即答。
「ダサい」
「じゃあ案出せよ」
「……」
「ないんかい」
グエンが突然言った。
「トモダチノヘヤ!」
全員:
「長ぇ」
グエンは不満そうだった。
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カナコが窓際でギターを鳴らす。
小さいフレーズ。
電車の音と混ざる。
藍がノートを開く。
奈々恵が後ろから覗く。
田中は机を整理している。
木戸は床で寝てる。
川本はコーヒー飲んでる。
前原は煙草。
敦は、
その光景をぼんやり見ていた。
なんだこれ、
と思った。
でも。
嫌じゃなかった。
むしろ。
少しだけ、
失くしたくないと思ってしまった。
その時。
藍が突然言った。
「……ここさ」
全員が見る。
藍は少し照れくさそうだった。
「ちゃんと、
“来る理由”
ある場所になりそう」
部屋が少し静かになる。
前原は煙草を灰皿へ押しつけた。
「なら、
鍵無くすなよ」
木戸が吹き出す。
「結局それかよ」
でも。
みんな少し笑っていた。
窓の外を、
電車が走り抜けていく。
高架下の古い事務所は、
少しずつ、
“誰かの居場所”になり始めていた。
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後書き
第17話でした。
今回は、
“空間”が出来る回でした。
この作品では、
社会から零れた人たちの、
夜の居場所として描いていきたいと思っています。




